MRコンテンツの"懐かしい未来"感で、人の心を刺激する。最新技術で拡張される、未来の視聴体験

2019.03.19 10:00

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(左から)藤井彩人氏、須田和博氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

「拡張される未来の視聴体験」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、須田和博氏(株式会社博報堂)と、藤井彩人氏(日本テレビ放送網株式会社)だ。

全3回にわたってお届けする最終回の前半では、藤井氏の信念「分かりやすい・効果的・特徴的のすべてを満たせ!」をもとに、トークが展開。長年に渡り、テレビ番組に関わるデザインを手がけてきた藤井氏が、大勢の人に好まれるデザインのあり方を明かす。須田氏は「テレビ業界も広告業界も、情報を分かりやすく伝えることが得意」だと話し、メディア業界におけるMR活用に期待を寄せた。

後半は、須田氏が「さっぽろ雪まつり」で手がけたARコンテンツを紹介しながら、屋外でのAR活用の効果を説明した。雪まつり版の初音ミクこと「雪ミク」のARライブを鑑賞した落合は「懐かしい未来感がある」と絶賛。さらに多くの人間の心を動かす「ノスタルジー」についても議論が展開。最新技術でノスタルジーを引き起こす、次世代メディアのあり方を探る。

ハイコンテクストに語られがちなMRの技術は、テレビをどう変えるのか。ゲスト、MC の議論には、そのヒントが隠されていた。

テレビ業界の使命は、難しいテクノロジーを分かりやすくすること

草野絵美(以下、草野):続いては、藤井さんの信念「分かりやすい・効果的・特徴的のすべてを満たせ!」について伺っていきたいと思います。

藤井彩人氏(以下、藤井):テレビ番組に関するデザインをずっとやらせていただいているのですが、これまでずっと「多くの人に受け入れられる"いいデザイン"ってなんだろう」と考えてきました。

そこで見出した答えが「分かりやすい・効果的・特徴的」であることなんですよね。この3つのうち、どれか1つでも欠けているとダメなんです。それはデザインだけではなく、プロダクトやコンテンツにおいても言えること。つまり「シンプルで、世の中の役に立ち、なおかつオリジナリティがある」ものは、大勢の人に注目されるんですよね。

草野:すべてのクリエイターにとって、参考になりそうな理論ですね。

落合陽一(以下、落合):一時期、テロップのデザインがコンピューターライクになったじゃないですか。でも今は60年代によく使われていたような、フラットデザインが多用されていると感じます。テレビで使うデザインには流行があるのかなと思ったのですが、意識的に行なっているのですか?

藤井:基本的にテレビ番組で使用するデザインは、番組のディレクターさんの意向によって変わります。

落合:では、世間の空気に合わせてディレクターさんが決めることが多いんですね。

藤井:そうですね。もちろんデザイナーとしていくつか案は出しますが、最終的に流行り物に寄っていく傾向はあると思います。MRを使うことも、その延長線上にあって。「流行り物のMRを使うことで、もっとテレビを分かりやすくすることができるのではないか」といった発想のもと、研究を重ねています。

テレビって「大きさ」を伝えることを非常に苦手としているメディアなんですよ。ご家庭によってテレビの画面サイズも違いますから。しかしMRを使えば、人物や物体を実寸大で伝えることができるんです。さらに「360度どこからでも見れる」ことも可能になりますよね。だからMRの研究開発は、テレビを拡張するために行なっていることなんです。

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齋藤精一(以下、齋藤):藤井さんの仰る「分かりやすい・効果的・特徴的」というのは、テレビならではの考えですね。たとえばSENSORSは、僕と落合君が話している専門的なことを視聴者に分かりやすく伝えてくれているじゃないですか。基本的にMRのような新しい技術って比較的ハイコンテクストなので、アート作品としてアウトプットされることが多いんです。

だからこそ、テレビ業界の方が「分かりやすさ」を拡張するために最新技術に目を向けることには非常に意味があると思いますね。そうしていかなければ、メディアとして時代に取り残されてしまいます。博報堂さんのような広告代理店にとっても、テレビの進化は重要なことですよね。

須田和博(以下、須田):広告業界もテレビ業界も「ベタにすること」が得意なんですよね。だから、難しいテクノロジーを「ベタに」わかりやすくすることが、我々のやるべきことなのだ!と思っています。

齋藤:MRコンテンツも、ゆくゆくは文化として自然に浸透させなければいけないものだと思います。そうしないと一過性のものになってしまう。

落合:「あの頃、あんなのあったね」みたいにね。5G時代が訪れたら、テレビの優位性が急に低くなると思うんですよね。「同時多数接続×高解像度×高品質×大画面」がテレビの売りじゃないですか。でもいずれMRデバイスの方が解像度も高くなるし、速度も高速になりますよね。そうした時に必要とされるのは、MRデバイスなしでも楽しめるような解像度が高いテレビなんだと思います。

先ほどMRCMを観ていた時も「テレビ画面って、解像度高いな」と感じました。やっぱり4Kモニターの解像度は非常に高い。一方でCG映像はピクセルが分散するので解像度が低いんですよ。「どちらがいい」とは思いませんが、将来的にはどちらかだけが選ばれていきそうですよね。

齋藤:テレビは、放送局がレンダリングしたデータを電波に乗せて配信しているじゃないですか。一方でHoloLensの場合は、デバイスの中でレンダリングが行われている。僕は、そこにも電波が使えるんじゃないかと思うんです。

落合:仰る通りですね。5G時代になったら、レンダリングプロセスをクラウド上で走らせても、ほぼ遅延がないので。

須田:それは、すごく面白いですね!!

齋藤:5G時代になったら、メディアの在り方がだいぶ変わりそうですね。

落合:恐らくコードに対してレトロな愛着が湧くようになると思うんですよ。コードに接続する行為がすごくレトロに感じるようになる。今はBluetoothイヤフォンが普及しているので、有線のイヤフォンをしている人を見ると懐かしい気分になるじゃないですか。あらゆるデバイスがコードレスになったら、コード接続を懐かしむようになると思います。

須田:先ほど藤井さんが「二次元のテレビは、実寸大を伝えることができない」と仰っていましたが、MRを使えば現実空間の中に実寸大の物体を置くことが可能です。そしてそれはすごく原始的なことでもある。だからMRとテレビの掛け合わせには、すごく可能性があると思うんですよね。

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草野:MRの進化に合わせて、テレビの形が変わる可能性もあるのでしょうか?

須田:今回のMR CMを制作する上で一番迷ったのが、最後の商品カットの「大きさ」でした。実寸大だと視界の中であまりにも小さく見えてしまうので、結果的には実際よりもかなり大きくしました。実寸大の商品がMRで見れるようになると、商品広告の可能性が拡がると思います。視聴者が「あー、このぐらいの大きさなのね」と把握できるようにできれば、MR CMの価値は高まると思います。

藤井:僕は、MRだけをみて未来のコンテンツを考えることはしたくないと思っています。5Gなど、他の技術との掛け合わせで何ができるかが重要ですから。VTuberをMRで出力することもできますし、音声ガイダンスと掛け合わせることで便利な世の中になるとも思います。今回観ていただいたMR CMは「テレビを拡張する」ものでしたが、今後MRはスマホのように、様々なことを便利にするデバイスとして普及していくんじゃないかなと思います。

ARやMRは、「わざわざ行きたくなる場所」をつくるためにある

齋藤:須田さんは屋外でもARを使った取り組みをされているんですよね?

須田:先日、札幌で行われた「さっぽろ雪まつり」で屋外ARに挑戦しました。位置情報と雪像にひもづけながら、会場の空間全体を活用して、雪まつり版の初音ミクこと「雪ミク」のARライブを行いました。来場者は専用のアプリを通じて、空中で「雪ミク」が歌い踊りながら飛び回るのを鑑賞できる。これは、スマホやタブレットPCのGPS位置情報とジャイロセンサーを組み合わせることで楽しめるコンテンツです。

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草野:これはどの角度から観ても、同じように見えるんですか?

須田:最初にデバイスに雪像の位置を認識させることで、ユーザーが立っているどの角度からも、それぞれ立体的な見え方でコンテンツを楽しむことができます。

落合:すげぇ"懐かしい未来"感がありますね。

草野:懐かしい未来感とは?

落合:10年後に見たら「初音ミクって札幌にもいたよね」と言われるような...。時代性を感じさせるところが、すごくいいですね。

齋藤:初音ミクのあり方っていうのもすごいですよね。

須田:実在しないけど、みんなが「いる」と思って楽しんでいる存在ですよね。

落合:初音ミクが登場したのって12年くらい前だよね。彼女がオンラインで流行していくのを見てきて、さらに今はARで再現されている。いわゆるインターネットのミーム的存在ですよね。だから、なんだかほっこりします。

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齋藤:このプロジェクトのように、屋外のARコンテンツは広告にもなりえますよね。屋外看板のような...。

須田:いずれ、街全体にARコンテンツが溢れかえると思います。

齋藤:僕は「都市のメディア化」を目指しています。都市の中にはもちろんリアルであるべきものもありますが、ARやMRで表現すべきものもある。そしてどこの都市でも同じことをするのではなく、地域性を少しずつ分けていくことも大事だと思うんですよ。ここ数年、オフラインにおける人間同士の繋がる価値が見直されているじゃないですか。今回の「雪ミク」のARライブも、北海道に足を運ぶからこそ楽しめるものですよね。だからARやMRの普及によって、オフラインの価値が見直されていくのではないかと思います。

須田:その場所に「行く理由」をつくりたかったんですよね。面白そうなARやMRのコンテンツがあれば、わざわざ行ってみたくなるじゃないですか。VRでは、それが実現できないんですよね。

落合:北海道は寒いけど、「雪ミク」の衣装はすごく軽やかじゃないですか。データ上には「温度」の概念がないということも面白いですよね。あとリアルな場所に足を運んだ思い出って、忘れないんですよね。「ポケモンGO」が流行った時に妻と一日中歩き回ったことは、多分一生忘れないだろうし。

雪像もARも、そのライブが終わればなくなってしまうけど、その場所には「楽しかったな」という記憶が残る。その絶妙なバランスが面白いと感じました。懐かしい未来感。

齋藤:最近は、昔あった場所をVRで再現したコンテンツもありますね。昔「ぼくのなつやすみ」というゲームがあったじゃないですか。それの現代版みたいなイメージです。単線の駅をVRで再現したりして。人間ってどこかでノスタルジーを求めているんですよね。みんなが共通して「懐かしい」と思うことってあるんでしょうね。

草野:齋藤さんが関わられている「1964 TOKYO VR」のプロジェクトも、ノスタルジーを刺激するものですよね。

齋藤:そうですね。1964年の東京で撮影された写真を集めて、三次元データを生成しているんですよ。面白いのは、素材となる写真が少ない時。三次元データがうまく生成できず、データがぼやけてしまうんです。それもまた人間の記憶のようで...。こういうメディアの使い方もありかなと思いますね。

須田:面白いですね!「ここだけは思い出せない」という記憶ってありますもんね。

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齋藤:そうなんですよ。大勢の人が撮影している場所は、はっきりと再現できるのですが、そうでない場所はぼやけてしまう。まさに人の記憶のようですよね。

落合:あの時代に撮影されたカラーフィルムの映像って、最近撮影されたもののようなんですよね。白黒で観るとすごく古く感じるけど、カラーで観ると意外に普通なんですよ。

草野:ホームビデオってテレビで流れる映像よりも感情移入しやすいですよね。

藤井:高校生の頃、8ミリフィルムで映像制作していたんですけど、それを今観ると最近の出来事が記録されている感覚に陥るんですよね。

齋藤:今の時代、人の目よりも高い解像度を持つ8Kのテレビもありますが、Instagramのエフェクトを使って8mmフィルムのような映像を撮影することもできますよね。色々なメディア表現があって、好きなものを選択できる。その中から何が面白いのかを考えて使い分けることも大事だと思います。MR CMのように、メディアの上にメディアを重ねることもできますし。そうすると、新しい表現が生まれていくのかもしれないですね。

MRやARといったワードを聞き、映画「ブレードランナー」に登場するような、退廃的で無機質な未来都市を創造する人もいるかもしれない。しかしどんなに技術が進化し、便利な世の中になったとしても、そこで暮らす人びとの根源的な欲求は変わらない。他者との繋がり、過去への懐古、新しい情報の享受...。いつの時代にあっても、人はそうした欲求を求め、日々を生きている。MRやARで実現する「仮想現実」は、人と人を繋ぎ、記憶を可視化し、情報を分かりやすく伝達するものだ。変化の激しい時代、より人間らしい生活を送るための「テクノロジーとの共存」が求められているのだ。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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