「N高」では実際にどんなことが学べるんですか? 現役学生と運営に聞いてみた

2016.07.26 16:00

VR入学式、ウイイレ部、ドラクエ遠足といった取り組みの一つひとつが話題を集めてきた「N高等学校」。今回は、特徴的なイベントだけではなくN高が日々どのように運営されているのかといった「N高の日常」に注目。世界ハッカーコンテスト第3位の実力を持つエンジニアN高生である清水郁実さんと、N高入学広報部長の上木原孝伸さんに、N高の授業のこと、slackを使った生徒同士のコミュニケーション、そして運営における課題について話を伺った。

【左より】上木原孝伸(N高入学広報部長)、清水郁実(N高生)

■生徒のほとんどがスマホで授業を受けている

「ネットとリアルの融合」をテーマとして、ニコニコ動画を中心に様々なサービスを運営してきたドワンゴ。2015年7月に教育事業参入を発表し、2016年4月に「N高等学校」が開校した。沖縄県うるま市に校舎を置いた通信制高校で、現在は約1,500名の生徒が在籍している。ネット関連では、「ウイイレ部やドラクエ遠足がある」「生徒間のコミュニケーションにはslackが使われる」「ドワンゴの資産を使って文芸小説創作やプログラミングについて学べる」といった取り組みがある。リアルの場という視点からは「ニコニコ超会議・闘会議・ニコニコ町会議への出展」「自治体と提携した職業体験」「沖縄伊計本校でのスクーリング」といった取り組みを行っている。

最初に紹介したいのは、N高にはどのような授業があるかについて。プログラミング、文芸小説創作といったドワンゴの資産を活用した授業が注目されがちだが、N高には他の通信制高校と同じように高卒資格取得のための授業も存在する。

上木原:
N高特有の課外授業は「N予備校」と呼んでいて、リアルタイムで視聴しながらニコニコ動画のようにコメントすることも、アーカイブを後から視聴することもできます。特に人気の授業は、大学受験コースとプログラミング講座ですね。プログラミングは、まだ6月なので初心者向けの講座しか開講していないのですが、今後上級者向けのものも追加していく予定です。

特徴的なのは、生徒のほとんどがスマホのアプリで授業を受けていること。例えばプログラミングの授業では、スマホで授業映像をみながら手元にあるパソコンで実際にコーディングを行っている生徒が多いですね。

■N高ではマイノリティな趣味がマジョリティになる

授業以外の部分で特徴的なのは、コミュニケーションツール「slack」を導入していること。実際にslackの画面を見せてもらうと、全生徒1,500人がグループ上に存在し、自由にチャンネルをつくっていた。生徒は70〜80人規模のクラスに入り、そこでは担任がモデレーターをつとめながら生徒と交流する。1クラスの人数が多そうに見えるが、授業は他の先生が担当するためクラス担任は保護者や生徒とのコミュニケーション、メンタル面のフォロー、レポート提出のサポート、大学受験の進路指導といった部分のみを担当するため80人をカバーできるそう。各クラスで毎日ホームルームが行われているが、ログが残るので必ずしも画面の前にいる必要はない。クラス分けの方法にも「リアルとネットの融合」の工夫が隠されている。

上木原:
生徒同士の交流を促すために、同じ地域に住む生徒同士を一緒のクラスにしています。N高には日本全国に住む生徒がいるため、遠くに住んでいるとどうしてもリアルでは会いにくい。実際に、もう生徒同士でオフ会をしているようなクラスもありますね。

slackのグループ上では、クラスの他に部活や有志で立ち上がったグループがいくつも存在する。サッカー部が大きく話題になったが、他にもボカロ同好会やマインクラフト同好会など趣味の合う仲間でグループがつくられている。

上木原:
生徒主導の同好会で盛り上がっているのは、絵描き同好会ですね。絵描き同好会ではみんなでお題を出しあって、絵を描いています。あとはテレビ実況をslackでやるチャンネルがあって、サッカーだったりハリー・ポッターだったり様々な番組を生徒が自由に実況しています(笑)。
13664756_1050040411753530_2084627396_n.jpg

(slack上での絵描き同好会の活動)

こういった生徒主導の同好会には、雑談チャンネルで盛り上がった話題から立ち上がったグループが多いとのこと。では、このような部活動や同好会以外に生徒はどのようにして同じ趣味の仲間を見つけているのだろうか。

上木原:
slackの検索機能を使って、同じ趣味の子を探す生徒がいますね。例えば「ボカロ」と検索して、プロフィールにボカロと書いてある子にチャットを飛ばしてみたりする。一般の学校ではマイノリティな趣味だった「プログラミング」や「DTM」が、N高ではマジョリティの趣味になる。趣味がきっかけで友だちをつくりやすいんですよ。親御さんからは「ネットからこういう形で友だちができるのは、想像できなかった」という声をいただいています。

■N高にとっての文化祭「ニコニコ超会議」

「ニコニコ超会議」でのバンド演奏の様子

他の学校と同じように、N高にも文化祭が存在する。N高にとっての文化祭は「ニコニコ超会議」で、今年のニコニコ超会議2016でもN高バンドが演奏を披露したり、ホットドッグやパンケーキを屋台ブースで売ったりしていた。

上木原:
今年は願書を早めに出していた子からバンドメンバーを募集して、実際にバンド演奏を披露してもらいました。生徒に動画を送ってもらってオーディションをして、バンドを結成。住んでいる場所が東京の子もいれば、岐阜の子もいたりして皆ばらばらです。

今年は学校設立の直後に「ニコニコ超会議2016」が開催されたこともあり、比較的小規模で行われたが来年以降は、生徒主導でブースの出展なども計画中とのこと。

■世界ハッカーコンテスト3位のエンジニアがN高に通う理由

続いて、そんなN高に通う清水郁実さんに話を伺っていく。清水さんは世界ハッカーコンテスト3位の実力を持つエンジニア。現在はN高に通いながら、週に3日程度ドワンゴでアルバイトをしている。将来的には海外の大学院進学を検討していて、その後は情報系の研究者かエンジニアを目指している。

清水さんは中高一貫校に通っていたため、そのまま高校に進学することができたのに、あえてN高を選んだ。「自分のやりたいことに興味が赴くままに挑戦してみたい」そう考えていても、週に5日通わなければいけない今の学校は、拘束時間がかなり長い。でも、通信制高校なら自由に時間を使うことができるのが大きなメリットとなる。

清水:
僕は数学好きが高じて中1の夏にプログラミングを始めました。情報セキュリティのコンテスト出場を目指すようになった頃には、週に5日学校に通いながら平日の夜中や休日にプログラミングをする日々を送っていて、自分の興味があることに集中するために通信制高校を選びました。

N高は仕事終わりの夜や休日に1日2時間程度学ぶだけで、高校卒業程度の色んな科目に関する知識を見につけることができる。量もそこまで多くないので負担にはならないですね。

清水さんのようにきちんと授業をこなせる生徒はいいが、オンライン学習特有の生徒が離脱してしまう問題は抱えていないのだろうか。

上木原:
高校卒業資格のための授業は担任がしっかりサポートするので、レポートの提出が遅れていると保護者の方に連絡が届く仕組みになっています。放っておくと課題を溜めてしまう生徒もいるので、そこは対策しないといけません。

課外授業については、生徒全員にN予備校のスマホアプリを入れてもらって、受講している授業が始まりそうになると、「◯◯先生の◯◯が始まります」といったようにプッシュ通知が届く仕組みの導入です。

■N高ならではの「ネット・コミュニティ開発部」とは?

最後に伺ったのは「N高を運営する際の課題」と「今後の展望」について。N高の運営にはニコニコ動画でのノウハウがかなり活きているという。

上木原:
ネットでのコミュニケーションって相手の表情がわからないので、言葉だけでニュアンスが伝わらないことがあるんですね。会って話せば分かり合えることでも、ネット上だと喧嘩になってしまう。N高にはネットコミュニティ開発部があります。生徒同士のコミュニケーションを促進するために発足し、万が一生徒同士のトラブルがあった場合には、この部が解決をしています。もともとニコニコ動画でCSとしてネット炎上対策を行っていた人たちが集っていて、炎上をどう沈めるかを熟知している。「スルースキルを身につけるべき」といったことは教育業界にいた人にはわからないので、非常に助けられています(笑)。

今後の展望については、引き続き、IT化、グローバル化の時代にふさわしい様々な授業やカリキュラムで進学・就職を支援し、デジタルネイティブ世代の教育やコミュニケーションのモデルケースを示すことができるよう努めていきたいと考えています。

取材を通じて感じたのは、N高が従来までの「学び」を再定義する場所であることだ。必ずしも学校に通うことや教室内で行われることが「学び」の本質ではなく、slack上でのコミュニケーションや、N高に通うことで生まれる時間的余裕を課外活動に費やすことも「学び」である。デジタルネイティブにとっての新しい学びの場は、教育をどう変えていくのか。

関連記事
■HoloLens日本初登場、ドローン・VR・AIも豊富「ニコニコ超会議2016」速報レポート
■ニコニコ超会議で初披露「超歌舞伎」--伝統芸能とテクノロジーをどのように融合させたか
■勢いを増すゲーム実況やe-sportsの動向は?「闘会議2016」ドグマ風見に直撃インタビュー
■「情報格差」から「体験格差」の時代へ 地方の魅力を引き出すイベントの仕掛け方
■『ゲームは刺身のつま』ドワンゴ会長が語る「闘会議2015」の狙い ~川上量生氏インタビュー #1/3

取材・構成:岡田弘太郎

1994年生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。慶應義塾大学在籍中で、大学ではデザイン思考を専攻。主な取材領域は、音楽、デザイン、編集、スタートアップなど。趣味は音楽鑑賞とDJ。

最新記事