累計DL700万超の『ナナメウエ』が仕掛ける動画時代の"個人の居場所"

2015.04.02 12:00

2014年は「動画元年」と呼ばれた。中高校生などの若い世代を中心に、ユーチューバーという存在が世間に広く認知され、VineやMixChannelなど動画共有を軸としたサービスも大きな盛り上がりをみせている。新しい動画メディアを仕掛け人たちは現在の潮流をどうみているのか。スマートフォンでの動画コミュニケーションアプリを展開する「ナナメウエ」を創業した若き起業家、瀧島篤志(たきしま あつし)氏/CEOと石濱嵩博(いしはま たかひろ)氏/COOに訪ねた。


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左が瀧島氏、右が石濱氏。両氏とも25歳。


ナナメウエは2013年の創業以来、数々のアプリを手がけてきた。彼らがリリースしたアプリの累計DL数は700万以上にも及ぶ。中でも、自分の好きな写真と動画を組み合わせて32秒のショートムービーを作成することができる「Slide Sroty」は100万DLを突破し、昨年末には誰でも手軽に動画を通じたコミュニケーションを楽しんでもらえることを目的にした「Lily」をリリースした。DL数だけを見れば「Slide Story」は一見順調そうに伺えるが、なぜ彼らは新しく「Lily」の開発に踏み切ったのだろうか。


■二極化の波。大衆向けにリッチ化されたコンテンツと、個人の思い出に寄り添ったコンテンツ。


「Lily」では、ユーザーが2~5秒というショートレンジの動画を撮影してアプリ内で他のユーザーと共有し合うことができる。撮影した動画には多彩なフィルタをつけることもでき、とにかくユーザーにとっての"手軽さ"を追求したプロダクト。「Lily」開発の背景には"動画コンテンツの二極化"があると瀧島氏、石濱氏は指摘する。


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Lilyの画面。https://lily.st/


石濱: 動画メディア全体として、視聴者が求める「面白さ」のハードルが段々と上がっていると思います。ちょっと前まではメントスをコーラに入れて噴出す映像が面白がられたけど、今はそんなの全然面白くないじゃないですか。視聴者は一度観たもの以上のレベルを、次回作に期待してしまいます。動画投稿者もそれに応えるために、Vineの6秒の動画撮影に数時間を費やすような人が増えてきました。つまり普通の人たちが何気なく撮った動画を、気軽にYoutubeやVineに投稿するってことが出来なくなってきてると思うんですよ。


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石濱氏の作業風景。スタンディングデスクでの作業。奥にはギターの姿も...。


瀧島: 「Slide Story」でつくられていた動画もどんどんリッチなものになり、日常というよりもライフイベントで使われることが多くなってきた。その結果、個人の思い出に寄り添ったものと、視聴者を意識して制作しているものと、そのどっちにも振り切られていない中途半端な動画が一番多く制作されているのが今の状態です。僕らは「どちらかに振り切るべきじゃないか」「スマホ動画のあるべき姿ってなんなんだろう?」と考えました。そこで私たちが選択したのは、個人の思い出共有に振り切った、日常的に使われるサービスを新たに作ることでした。つまり「Slide Story」を入口として、個人の思い出共有に振り切った動画コミュニケーションのサービス「Lily」を開発したわけです。


既存のプラットフォームは、現在気軽には投稿できない空気感がある。ネット動画といえども、視聴者の期待値は一昔と比較してかなり上昇している。もっとユーザーが好き勝手に動画をあげることができる場所があってもいい。動画コンテンツのリッチ化の反動として、普通のユーザーが必要とする場所はどういうものか。そんな問題意識から「Lily」は誕生したようだ。


■思い出は尽きることはない。日常で手軽に使われる動画メディアを目指して。


瀧島氏と石濱氏はもともとは大学のゼミの同級生。学生時代、瀧島氏はバンド活動に勤しみ、石濱氏はシリコンバレーでインターン等で働いていた経験を持つ。彼らはこれまでに、撮影した写真になぜがケンタウロスが映り込りこんでしまう「Kenstagram」や、風景と音楽を組合わせて写真を加工することができる「InstaMusic」などを手掛けてきた。いずれも遊び心がありながら、撮影したものを後から見てどこかほっこりとさせるようなプロダクトだ。


過去に撮ったものを後から振り返る「思い出」は人間にとって普遍的な価値がある。瀧島氏、石濱氏は思い出と動画を組み合わせることで、個人に寄り添う新しい「思い出共有」の体験を構築することへの意気込みを語る。


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瀧島氏の作業風景。オフィスは渋谷道玄坂に構える。


石濱: 動画というのは本当に優秀なメディアです。その場の雰囲気を一発で伝えます。しかし現在、面白い動画を作らなければならないという固定概念が生まれてきているような気がする。でも本当は、何気ない風景や、何気ない音を、簡単に伝えることができるメディアに価値がある。「面白い」や「楽しい」を突き詰めていくと段々とネタがつきるてくるし、見る方も飽きてしまいます。でも、個人の思い出はどんどん蓄積されていくし、年月が経つほどその価値は増していきます。


瀧島: 現段階で「Lily」は最小限の機能だけを持たせてリリースしていますが、ユーザーの反応を見ながら改善や機能追加をしていきます。僕らはスマートフォンが好きで、これまでスマホ向けのたくさんのアプリを作ってきました。蓄積してきたたサービスの設計やクリエイティブのノウハウを活用して、「Lily」をもっと多くの人に使われるサービスに成長させていきたいです。


両氏の言うことには動画時代のネットの居場所の築き方への示唆があるように思う。SENSORSの「論」ではpixivの永田氏がネットの居場所に必要なものは「中立」と「寛容」と語っていた。一般の投稿者からすれば、今の動画プラットフォームは、徐々に寛容さが失われているのではないか。これからの時代は「Lily」のような個人に寛容なプラットフォームが必要になってくるのかもしれない。


(SENSORS編集部 取材:石塚たけろう)

石塚たけろう:ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、広告会社にてスタートアップと大企業の共同事業開発モデルであるコーポレート・アクセラレーターの運営に携わる。フロントエンドエンジニア。@takerou_ishi


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