宇宙飛行士・山崎直子に聞く--宇宙での任務中に大切にしたことと、試験・訓練での心構え

2016.07.25 12:15

中学生の頃NASAを訪れたことをきっかけに宇宙の魅力に惹かれ、宇宙のことを学ぶためには不可欠な物理を学ぶべく、大学では理学部物理学科に進学。大学在学時から現在まで、"宇宙の魅力を発信する"という立場から活動。宇宙飛行士を目指すタレント・黒田有彩による連載。宇宙をとりまくエンターテインメント・テクノロジーを中心に、様々な角度から宇宙の魅力を伝えていく。
今回は、イベント「ELLE WOMEN in SOCIETY 2016」に登壇した宇宙飛行士・山崎直子さんへの取材の模様をお届け。

黒田有彩です。ハースト婦人画報社『エル・ジャポン』主催で、"すべての働く女性たちへ"として行われた(6月18日)イベント「ELLE WOMEN in SOCIETY 2016」。今回のテーマは「~サステナブルワーク~ 人を幸せにする仕事」。
自己実現だけでなく、まわりの人のため、社会のためにどんなふうに働くことができるのか。第一線で活躍されているスピーカーの方々のお一人が、私が尊敬する宇宙飛行士の山崎直子さん。宇宙飛行士を目指そうと思ったのも、この連載が始まったのも、山崎さんの一言があったからでした。イベントで登壇された後、個別にインタビューもさせていただきました。お会いするのは昨年の夏以来、4回目。貴重なお話、伺ってきました。

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Photo by Tsukasa NAKAGAWA

■狭い宇宙船の中ではコミュニケーションが大切

イベントで登壇された山崎さんは、JAXAのブルースーツを思わせる綺麗なブルーのワンピース。「宇宙、人、夢をつなぐ」と題してお話されました。山崎さんにとっての"サステナブルワーク"とは。

【宇宙飛行士として】
狭い宇宙船の中で、国籍も文化も年齢も全く違う人と一緒に共同生活をする宇宙飛行士という仕事。大切なのはコミュニケーションです。プライバシーもそんなにはない中では、スマートな部分だけではなく、人と人との人間臭い関係、ある意味泥臭い関係が、実は大切なんですね。
無重力の宇宙船の中では、上も下もありません。頭が向いているところが上、足がある方が下、と宇宙飛行士は適応していきます。人によって上下向いている方向がバラバラなので、会話をするときは「あなたの上を見てください」とか「あなたの下のものを取ってください」というように、相手の立場に立たないと通じなくなってしまいます。よくコミュニケーションは相手の立場に立つことが大切だと言われますが、それが極限になったような環境なんですね。

【女性として】
宇宙船の中には自然も緑もなく、無機質で殺風景です。ですがそういう中で、口紅を塗ったり華やかな色の服を着たりすると、自分自身も気持ちが明るくなるし、周りも雰囲気が変わるんですね。ある意味極限の中だからこそ、色々なファッション、お化粧がもつ力はすごいなと再認識しました。宇宙のことをコスモスと言いますよね。お化粧のコスメティクスという言葉は、宇宙のコスモスが語源です。コスメティクスがもつ力は、宇宙に繋がるものがあるのではないかなと感じるんです。

【宇宙へ飛び立って】
11年の訓練の後、いざ宇宙へ飛び立つときがやってきました。宇宙空間に着いてふわっと身体が浮いたとき、やっと来たんだという実感だけでなく、どこか懐かしいなという感覚がありました。それは水の中にいるような、母親の胎内にいるような感覚に近いのかもしれません。私たちの身体は、元々は宇宙のカケラ、星のカケラで出来ています。だから、宇宙は遠いところなのではなくて、私たちのふるさとなのだと感じました。
宇宙から地球を見たとき、地球が頭上に見えたことには驚きました。宇宙というと、空を眺めてその先にあるもので、仰ぎ見るものというように思っていましたが、むしろ宇宙から見ると、地球の方が仰ぎ見る存在なのかもしれませんね。
宇宙から見る地球ももちろん綺麗でしたが、地球に戻ってきたときにふわっと風が吹いてきて、周りの草や木の香りが漂ってくるんです。それを嗅いだときにすごくいいなと感じました。普段見慣れている日常の景色、それが何よりいとおしくて、その中に物事の本質や色々な幸せが隠されているんだろうなと、そうしたことにいかに気づけるかが大事なのかなと感じました。

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Photo by Hisai KOBAYASHI

■宇宙飛行士の試験はどんなもの?

10年に一度のペースで実施されているJAXA宇宙飛行士に応募し、見事その難関を突破し、実際に宇宙まで行かれた山崎さん。私も実際に一度願書を出したこともあり、宇宙飛行士を目指している一人として、宇宙飛行士の試験を実際に受けるとき、どんなことを感じ、どんな準備をしてきたのか。イベント終了後にお話を伺うことにしました。

--改めて、宇宙飛行士の試験は、どのようなものなんでしょうか?

山崎:
私が受験したときのお話としてお伝えしますね。最初に筆記試験があります。センター試験のような問題、英語の試験や、一般教養を問われるものもありました。印象に残っているのは、一般教養の問題で文学の作品名と作者名を線で結ぶというもの。その中で吉本ばななさんの「キッチン」が出題されたんですね。決して硬派なものだけでなく、ポップカルチャーのようなものも出題されたのが印象深かったです。
その後、医学検査があります。健康面・体力面を検査されます。そこを過ぎてしまえば、形式的なものはなく、過去の試験情報もあまりなかったため、対策のとりようがなかったですね。面接の準備はしました。どうして自分は宇宙へ行きたいのか、宇宙に行って何をしたいのか、自分の中で何度も考えました。
子供の時からの宇宙への憧れがある一方、教師になりたいと思っていました。そんな中、チャレンジャー号爆発事故で犠牲になった乗組員の一人、クリスタ・マコーリフさんが教師だったことを知ります。教師と宇宙が結びつくことに驚き、自分自身も宇宙で授業がしたいと感じたんですね。また、エンジニアとしての観点で、宇宙ステーションでいろんな想いで作られたものを実際に動かして、そこから得られたものを次の日本の宇宙開発に活かしたいと考えていました。

--宇宙飛行士の試験は、難しいと感じていらっしゃいましたか?

山崎:
絵を描くものもありましたし、3つの与えられたキーワード、例えば「うさぎ」「黄色」「ビル」を使って物語を作りなさいというものもありました。答えのないものだったので、逆に難しいなと感じましたね。

WOMEN in SOCIETYで登壇された宇宙飛行士の山崎直子さんと。 私の憧れの方です。 #ellewisjp

黒田有彩さん(@arisakuroda)が投稿した写真 -


--ところで、山崎さんはいつお会いしても、どんなときでも凛としていらっしゃる姿が印象的です。私が考えるに、宇宙飛行士の訓練や活動は自分を律し続けるものだから、それが身体に擦り込まれているのでしょうか。

山崎:
そうですね、でも宇宙に行くと、姿勢がゾンビみたいになるんですよ。(笑)手が自然と浮くので、手を前にゾンビのようにしている姿勢が一番安定するんですね。
私も決して最初からタフだったわけではなくて、訓練の中で鍛えられたり身についていったりしたものもあります。また、仲間の宇宙飛行士から刺激を受けますし、宇宙開発に携わるいろんな方にお会いする中で、「ちゃんとしなきゃな」と考える部分もありました。実際に宇宙へ行くのは乗組員ですが、宇宙船に搭載している装置ひとつひとつを作っている方、実験を考えている方、たくさんの想いが宇宙船に凝縮されています。夢を託されている部分もあるし、がんばろうという気になりますね。

--今後の日本の宇宙飛行士の可能性は?

山崎:
2024年まで、ISS国際宇宙ステーションの運用を延長することがアメリカから提案され、日本も参加を決定しました。でも実はその後のことは決まっていません。例えばNASAは火星に人類を送る計画を発表していますし、これからも宇宙飛行士の存在は必要ですが、地球から遠くに行こうとすると人数が絞られてしまう現実があるんです。
そんな中、民間の独自の宇宙旅行・宇宙開発が伸びてきます。実際にアメリカでは民間の宇宙飛行士募集もされています。これからは国と民間、両方の可能性があると思います。
私自身も日本の宇宙飛行士の間口を広げたいという使命感を持って活動しています。たくさんの方に宇宙に興味を持ってもらい、可能性を広げていきたい。広げますので、黒田さんも、ぜひ頑張ってください。

--光栄です。ありがとうございます。最後に、私に「これからは"伝える人"が宇宙に行くことで、多くの方が宇宙を身近に感じて興味を持つと思いますよ」とおっしゃってくださったのはなぜなのでしょうか。

山崎:
宇宙飛行士も宇宙開発もチームで行います。ですから、今の我々に足りないところはどこか、というのを常に考えなければいけないんですね。昔は研究者やエンジニアが多く、最近はパイロットが増えてきました。理系ですと研究をすることは得意、ですがうまく伝えること、表現の仕方というのは苦手だったりするんです。
選抜の際も、どういう人を選べばいいかという答えがあるわけではありません。宇宙開発がこんなふうになればいいなとか、こういう人だったら一緒に成長していけるなとか、受ける方と選抜側とで一緒に話し合いながら、お互いが成長していくことが大切なんです。 今の私たちに足りないところを、ぜひ黒田さんの力でよりパワーアップさせていただければなと思っています。

私自身にもですが、どういう仕事をしている人にも宇宙への間口は広がっていて、可能性はあるんだという勇気づけられるお話を伺うことができました。宇宙飛行士試験の本質的な部分は人間力だと感じました。もちろん筆記試験などを突破することは必要ですが、何を積み重ねて日々を過ごしているかが問われているのだと思います。
山崎さんにお話を伺うかけがえのない時間。私も宇宙への想いを自分の中で膨らませて、自分の言葉で伝え、毎日を有意義に過ごしていきたい、と改めて感じた時間でした。

文:黒田有彩

タレント。1987年生・お茶の水女子大学理学部物理学科卒。
中学時代のNASA訪問をきっかけに宇宙に魅せられ、宇宙飛行士になることを目標とする"宇宙女子"。数々の宇宙に関連する番組への出演や、NHK教育「高校講座 物理基礎」MC、読売テレビ「ハッカテン」(ハッカソン番組)ゲストなど、研究や教育に関するメディアへの出演も。「宇宙女子」(2015年・集英社インターナショナル)共著。
Twitter:@KUROARI_RTTS
Instagram:@arisakuroda

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