シリコンバレーならぬ"シリコンアレー"?相性のいい業種は?ニューヨークのスタートアップ事情

2016.06.16 11:30

福岡市天神にあるクリエイティブセンター福岡にて開催されたイベント「NewYork Tech Startups x Future of Healthcare」。金融やメディア事業の印象が強いが、スタートアップの分野でも盛り上がりを見せているというニューヨーク。ニューヨーク発の医療系スタートアップに勤務し、自らも起業家として、かつ現地で起業支援を行う奥西正人氏によってこのイベントで語られた現地スタートアップ事情をお届けする。

今回のイベントでは奥西氏によるトークと、奥西氏と九州医療センターの医師の方々によるヘルステック分野における現状と課題についてのクロストークが行われた。本記事では、奥西氏によるニューヨークのスタートアップのリアルな潮流が語られた模様をレポート。

奥西氏は大阪生まれ、1997年に語学留学生としてアメリカ南部に渡米し、その後現地の大学へ進学。大学卒業後、西海岸にてエンジニア並びにマネージャーとして勤務したのちに、2004年にはニューヨークへと移住。その後、同地区の医療系スタートアップにジョインし現在に至る。日本とニューヨークのテクノロジーを支援する「Japan NYC Startups」グループでも活動中。

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奥西正人氏

■シリコンアレーと呼ばれる由来

奥西氏がスライドに映し出したのは、「Kickstarter」「tumbler」「Esty」 「Foursquare」などのロゴマーク。これらの共通点はひとつ、ニューヨーク発のスタートアップだ。昨今、ニューヨークのスタートアップ情勢が盛り上がっている背景と歴史について、奥西氏はこう語る。

奥西:
ニューヨークというと、金融、不動産、メディアなどを想像されると思います。スライドに映したニューヨーク発スタートアップを見てもわかるように、今シリコンバレーだけでなく、ニューヨークでもテクノロジーの分野が盛んになってきています。最近では、カリフォルニア州の盆地地帯(Valley)「シリコンバレー」に対して、ニューヨークの路地(Alley)を意味する「シリコンアレー」というあだ名もつくようになりました。具体的にはニューヨーク州マンハッタンを中心に、テック系企業が集まる場所を指します。通常、ニューヨークの企業はミッドタウンやダウンタウンに多いのですが、テック系企業に関しては、観光客が集まる場所に位置しています。
例えば、今現地で話題になっているのは「WeWork」です。コワーキングスペースをベースに始まった不動産とインテリアが合体したようなスタートアップと言われています。「Blue Apron」はデリバリー。実際に自分が作る料理のための素材をデリバリーしてきてくれて、それをそのまま料理するという、いわば買い物が簡単になったようなサービスです。

■「DoubleClick」からはじまったNYスタートアップの歴史

奥西:
NYのスタートアップのはしりとなったのが、当時バナー広告の配信とアドテックの運営を行っていた「DoubleClick」という会社です。1994年頃から2000年にかけて、少数のVCの登場により、業界にベンチャーキャピタル思想が生まれました。小さいながらもコミュニティの形成が始まったのもこの頃ですね。その後2000年のインターネットバブルの崩壊でたくさんのスタートアップが消失してしまいます。ですが、当時大成功を収めた「DoubleClick」の出身者や生き残った開発者たちがニューヨークを拠点として活動を再開します。実際にこれらの出身者から生まれたサービスも数多く残っていたり、シリコンバレーにおける"PayPalマフィア"に近い部分があるかもしれません。
そして2002年には、オフラインでリアルに出会うことを容易にする世界最大級のローカルプラットフォームサービス「Meetup」がニューヨークで誕生しました。そしてGoogleやFacebookといったIT企業がニューヨークにも拠点を置いたことで、優秀な人材が集まり、留まるという理想的なサイクルが構築されていきました。その後2008年のリーマンショックで、スタートアップ情勢は一時落ち込んでしまったものの、テクノロジー分野出身の市長、Michael Bloomberg氏がテック系の政策を高いプライオリティを持って実施し、情勢の活性化に注力してくれています。
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※写真はイメージ

■ニューヨークでスタートアップをするメリットや、相性の良い業種

会場からはニューヨークを拠点に活動することのメリットや将来性などについて、多くの質問が挙がった。

--ニューヨークでスタートアップをやるメリットと、デメリットについて感じていることはありますか?

奥西:
まず、メリットについて。人口が密集している都市なので、人種の多様性という面でもテスト環境としては恵まれていると思います。その結果、ニューヨークで創り上げたプロダクトは他の都市への拡大がし易いように感じます。
デメリットについては、やはり生活費が高い。サンフランシスコでも近年生活コストは上昇してきていますが、それでもニューヨークほどではありません。そういった資金面で言うと大変な部分もあると思います。それとよく聞く話が資金調達の難しさ。それを理由に西海岸を選ぶ人たちもいます。

--シリコンバレーは、幅広い分野のスタートアップが増え易い印象がありますが、ニューヨークで構築しやすい分野や、多く見かけるカテゴリーはありますか?

奥西:
成長度合いで言うと、シリコンバレーで成熟した大企業のようなスタートアップは、まだニューヨークでは出てきていない印象です。また、分野としてはニューヨークという都市の地域性に一番近い関係である、「Gilt Groupe」や「Betterment」といった金融やファッション系のスタートアップが多いですね。

--元々西海岸にもいらしたとのことですが、ニューヨークへ移住した理由と利点について教えてください。

奥西:
きっかけは当時の仕事です。ヘッドオフィスの拠点がニューヨークだったので。実際両方に住んでみて思うことは、ニューヨークに合う人、西海岸に合う人と分かれるだろうな、と。ニューヨークはテクノロジーだけの街ではないので、様々なジャンルの方々と接点を持ちやすい。対して、西海岸にはテック系の人々が集まっているので、他業種とのコミュニケーションを取りづらく感じます。

■ニューヨークスタートアップ界の今後

市も、スタートアップはもちろんニューヨークの産業を盛り上げるべく"NY発"の企業・ブランドを積極的に支援する動きを見せている。奥西氏が私たちに見せてくれたのは「Made in NY」というプロモーションムービーだった。

奥西:
Made in NYとは、スタートアップに限らず、ニューヨークにある映画や劇場などの産業を、ニューヨーク市がブランディングを兼ねて盛り上げるプロモーション戦略のひとつです。デジタルジョブマップを使って、スタートアップの求人募集をニューヨーク市のウェブサイトに掲載できたり、街中やメトロの広告を利用したキャンペーンの実施することができたりと、かなり強力なサポート体制が用意されています。さらに2013年には、ニューヨーク市長のMichael Bloomberg氏が「.nyc」という独自のトップレベルドメインを獲得しました。これによってニューヨークを拠点に活動する企業やスタートアップは、明確なニューヨークブランドの上でサービスを展開することができるようになりました。

最後に、ニューヨーク×スタートアップ界に今後どのような動きが有り得るのか予測を語ってくれた。

奥西:
テクノロジーのメッカであるシリコンバレーから、今後も大きな産業が生まれてくることは間違いないでしょう。それに対してニューヨークでは、金融や医療、メディア、ファッションといった既にある産業をサポートするハブになっていくのではないかなと。わざわざ西海岸のシリコンバレーにまで行かなくても、東海岸のニューヨークやボストンでスタートアップとして活動できるようになるのが今後の流れだと思います。

今回、ゲストとして登場した奥西氏は、4月11日、ニューヨーク・Microsoft Technology Centerにて「If Conference 2016 [Japan x Startup x NYC]」を開催。日本からは福岡に拠点を置くヌーラボ CEO橋本正徳氏もスピーカーとして登壇。帰国後の橋本氏にも、現地で感じたスタートアップ事情を伺った。

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「If Conference 2016 [Japan x Startup x NYC]」に登壇する橋本正徳氏

--ニューヨークはスタートアップにとって、どのような環境と感じましたか?

橋本:
ファッションやヘルスケア等、テクノロジーだけではなく「テクノロジー x なにか」のようなスタートアップを立ち上げるにはとてもよい環境だと思いました。西海岸に比べて移動が短距離で、人口も密集しているのでコミュニティーも発達しやすいでしょうね。

--他の世界各都市との比較しての特徴はありますか?

橋本:
ニューヨークはロンドンと同じように生活コストが高く、進出するにはそれなりの資本力が必要だと感じました。刺激的な街なので、資本力さえ伴えば楽しい街だと思います。それに、金融系のスタートアップに関して言えば、ニューヨークよりもロンドンの方が盛んなようです。

--現地で印象に残ったトレンドについて教えてください。

橋本:
「WeWork」というコワーキングオフィススペースが大変人気のようでした。長期期間に渡って賃貸契約が求められるオフィスレントの商習慣が関係しているようです。確かに、急成長を狙う場面で引っ越しすることができなかったり、成長後の広さのオフィスを初段階で借りられない可能性がどうしても生じます。スタートアップには長期レントは厳しく、いろいろと面倒な点はありそうです。しかし、そのルールのおかげで、コワーキングオフィススペースが盛り上がっているので良し悪しですね。

--実際にニューヨークに拠点を構える御社の実体験も含め、ニューヨークにオフィスを構える上で意識していることはありますか?

橋本:
距離もありますし、ワーキングタイムが異なります。もちろん習慣や文化も違うので、色々と気を付けるべきところはありますが、気を付けすぎても進むものが進まない、というバランスをいかにとるかが重要だと思います。ニューヨークだけの話ではありませんが、分散型の組織は信用第一で、互いに信用できなければチームワークが悪くなってしまいます。また、日本特有の「過剰な気遣い」などは、意外と足かせになるような気がしています。でも捨ててはいけない感覚なので。私自身もまだまだ勉強しているところです。

取材:小松里紗

Webメディアの立ち上げや運用に携わりながら福岡で会員制バー「Bar Sumica」を経営。MCやライターとしても活動。
Twitter:@komatsu_risa

構成:市來孝人

SENSORS Web副編集長
PR会社勤務を経てフリーランスのWebエディター・PRプランナー・ナレーターなどとして活動中。「音楽×テクノロジー」の分野は特に関心あり。1985年生まれ。
Twitter:@takato_ichiki / Instagram:@takatoichiki

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