IoTとアートを横断し、新たな表現を生む no new folk studio『Orphe』

2016.06.07 12:30

きゅんくんとのコラボや、イベント「テクノうどん」でのパフォーマンスなど、これまでも何度かSENSORS.jp内で紹介してきた光るスマートフットウェア『Orphe』が5月21日から9月25日まで、石川県の金沢21世紀美術館にて展示されている。いちIoTスタートアップの製品としてさまざまなクリエイターを巻き込んできたOrpheが、美術館というアートの最前線を司る場に収蔵されるに至った経緯とは。またIoTだからこそ生まれるアート表現とは一体どんなものなのか。製作者でno new folk studio CEOの菊川裕也氏にお話を伺った。

◼︎IoTスタートアップのプロダクトが、美術館に展示されるということ

Orphe本体のソール部分にLEDを内蔵。さまざまなパターンで光らせることができる。

スマートフットウェア『Orphe』は内部に加速度・角速度・地磁気の計9軸のセンサーを仕込み、履く人の動きに合わせてLEDの光り方が変わったり、靴が描いた軌跡を動きのデータとしてアプリケーションに送ることで動きに応じた音を鳴らすことができる。元はクラウドファンディングサイト「indiegogo」に掲載されたのち目標到達金額を達成、現在一般販売に向けて準備を進めている。そんな中で現代アートや先端の芸術表現を広く収蔵する金沢21世紀美術館で期間限定の展示を行うこととなった。

--今回の美術館での『Orphe』の展示について、どのような経緯があったのでしょうか。

菊川:
クラウドファンディングをしていた際に、21世紀美術館のキュレーターの方の目に留めていただき、今回はそれが達成できるタイミングでお声掛けいただいて、デザインギャラリーでの展示と、美術館のミュージアムショップでのOrphe本体の販売の両方を行うことになりました。 Orpheを履いたダンサーが、1世紀美術館の館内でダンスパフォーマンスをして、その動きをOrpheが記録したものを、ダンサーのいない空間でOrpheが映像に合わせて光ることで再現するというメディアアート的なインスタレーション展示になっています。
もう一つの特徴としてはそのようにアートとして展示されていた光る靴を、ほんの10数メートル離れた場所で実際に買うことができるということがあります。美術館で有名な画家の絵を見た後に、それがプリントされているクリアファイルやポストカードを買うことはあると思うのですが、実物をそのまま買うことはなかなかない。大量生産を前提としているIoTスタートアップならではの面白さだと思います。

no new folk studio代表の菊川氏

--美術館のキュレーターの人から見たときに、Orpheのどのような部分がアートとして認められたのでしょうか

菊川:
もともと僕たちが作る『Orphe』は、光る靴ということはもちろん、ダンスをすることで音楽を奏でることができる楽器というコンセプトで製作していました。いまダンスと聞いて一番最初に思い浮かべる光景といえば、音楽に合わせて体を動かし、その動きの精緻さやダイナミックさに見ている側が感動するというような、音楽が前提にある光景だと思います。
しかしOrpheはその逆。体を動かすことで音楽を奏でることができる。いわばダンスと音楽の主従関係を逆転させる試みを達成する手段として、早い段階からアート的な考えに基づいて制作していたんです。それはCEOである僕やメンバーがもともと芸術とテクノロジーの関係性を考える芸術工学を大学で学んでいたということがありましたが、そのことはno new folk studioとして前面に押し出してアピールしていたわけではなかったので、今回アートの領域の方から見出していただいて、お声掛けいただいたのはとても嬉しかったですね。

ただ、そういった音楽とダンスの関係性を更新する試みというのは、これまでもいくつもあって、僕たちもそういったものがたくさんあるということは大学で学ぶ中で知っていました。しかし、今回21世紀美術館の展示スペースをお借りしてアートとして展示させていただくにあたり、キュレーターの方から「Orpheを取り巻く現象がアートとして面白い」と言われたことが印象的でした。それは、メディアアートとして生まれた作品でありながら、大量生産を目指し多くの人の手に渡るつもりで作っているということ。そしてそのなかの手段として、これまでのお金の価値観を大きく変容させた仕組みであるクラウドファンディングを用いていたということ。また製作者である僕たちがno new folk studioというスタートアップとしてゼロからOrpheを作るために集まった人間であったということ。そしてOrpheが光る靴でありながら楽器であるがゆえに、きゅんくんや今回の展示のダンサーである浅沼さんなどジャンルを超えた様々なクリエイターを巻き込んでいるということなど、とにかく一言では言い表せない色々な潮流の結節点としてOrpheがあることが今回の展示に結びついたのかもしれません。

◼︎インターネットにつながった光る靴が拡張する人間の身体と、アートの領域

体の動きに合わせて光り音楽を奏でる靴は、ダンスなどに代表される人間の身体表現を豊かにし、私たち鑑賞者に驚きをもたらしてくれることは間違いない。しかし菊川氏によれば、それだけではない、IoT製品として作られているからこそできるアートを達成することがOrpheの究極の目標だという。

菊川:
ここまででOrpheは大量生産の基盤を整えて、クラウドファンディングで支援してくれた人たちはもちろん、ダンス、ファッションなどの自分の身体表現の一環として本当に欲しいと思ってくれる人たちの元に届ける準備ができました。展示期間中のミュージアムショップでの販売はもちろん、これからどんどん世の中のお店で販売していくことになります。そのうえで、Orpheを使って様々な人が表現をすることで集まるデータの総体が一つのアートになると考えています。
IoTというのは、情報を集約するのに非常に便利な仕組みです。例えばギターという楽器一つにしても、誕生してから現代までで様々な弾き方や表現手法は時間をかけて蓄積され、洗練されてきました。しかしその蓄積と洗練にかかる時間は、インターネットにつながることによって圧倒的に短くすることができます。あらゆる身体にかかわる表現とそれによって奏でられた音がネット上に集積される。それだけで一つの現象として面白いですし、そのデータたちを使ってこれまでに考えられなかったようなアート表現が生まれてくるかもしれない。製作者である僕たちの想像を超えて生まれてくるものが、まさにメディアアート的であり、楽しみなことでもあります。

そのためにOrpheはさまざまな人に使ってもらう必要があります。今はそのためのスタート地点に立っていると言えます。これからいろんな人の手に渡り、色々な表現が生まれる。メディアアートの領域というものは、これまで技術に縁のない人からするととっつきづらいものでした。しかしOrpheはその敷居をもっと低くすることができる。ダンサーの人でもテクノロジーを用いた表現を自分の手で生み出すことができるかもしれない。そうやって多くの人がOrpheをつかって自分の表現を豊かにしていくことと、それによって集積されるデータの総体は、これまで一人のアーティストだけでは表現されることのなかった、新しい時代のアート表現として認識されることになるんじゃないでしょうか。

Orpheがこの度21世紀美術館で展示されることで、アートの領域に進出していくことになるno new folk studioだが、活動をする上でIoTとアートは決して切り離されるものではないと菊川氏は語る。クラウドファンディングの資金はあらゆる国から集まっている。Orpheが世界中に広がり、これから日本に限らない身体表現の世界で使われていくことになる。展示の中で、一人のダンサーが21世紀美術館という場所だからこそできる身体表現をしている光景は、Orpheが新たなアート表現に向かっていくスタート地点に立っているということを象徴的に表している。メディアアートの領域を急速に進化させるかもしれないOrpheの取り組みを体験する場として、金沢21世紀美術館まで足を運んでみてはいかがだろうか。

展示期間の概要は以下のとおり

期間: 2016年5月21日(土) 〜2016年9月25日(日) 10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場: 金沢21世紀美術館 デザインギャラリー
休場日: 月曜日(ただし7/18、8/15、9/19は開場)、7/19、9/20
料金: 入場無料
お問い合わせ: 金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800
金沢21世紀美術館HPより

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。専らの興味は「メディアテクノロジーの進歩による人間の認知の更新」。SENSORSでは「VR」「ドローン」の記事を担当。
Twitter @do_do_tom

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