無味のとんかつに電流で味が!"電気味覚"を体験「No Salt Restaurant」

2016.05.04 16:00

3月某日、都内のレストランにて1日限りの"No Salt Restaurant"がオープンした。No Salt restaurantとは、その名の通り「無塩料理」を提供するレストラン。しかし、ただ味がしない料理を頂くのではない、このレストランで提供される料理の味付けはなんと「電気」だそうだ。 電気で人間の味覚を操作するとはどんな感覚なのだろうかー。体験レポートと、そして「テクノロジー」×「食分野」に挑戦する電気味覚開発者・中村裕美氏のインタビューをお届けする。

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■こちらのハイカロリー定食、なんと塩分ゼロ?!

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目の前に広がる、見るからにジューシーなとんかつ。いかにもハイカロリーで濃厚な味わい...のに見えるこちらの定食は、実は全く塩分を使っていないという。しかし、とんかつらしい味をしっかり味わえる。

その理由は、電流で人間の舌に刺激を与える「電気味覚」にある。舌に電気刺激が与えられたときに塩味、酸味、苦味などを感じられるので、その刺激と一緒に食べ物を食べることで、実際に調味料(塩分)を使っていない料理の味を濃く感じられるようになるそうだ。 また、この「電気味覚」は、食という分野で様々な健康上の問題を抱えている人に対して応用できるのではないか、と注目されている。

今回は、電流を舌先に与える特殊なフォークを使い「電気味覚」を体感。いわば電気を調味料として活用する料理の体験会に潜入した。

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こちらは、試食会に参加された「電機味覚フォーク」を持つモデルの方。

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今回使用したのがこちらの「電気味覚フォーク」。

まずはそのままフォークで刺してとんかつを口に運ぶ。
"NO SALT"の文字通り、肉の味しか感じられず物足りない。無塩の味である...。
が、筆者は、少しずつ無味無塩には感じなくなってきた。

感触としては、アルミホイルを少しかじったようなピリッとした刺激が塩分のように感じられるようになった。心なしか最初より肉も断然美味しく感じる!

■「電子味覚」×「食」が実現するためには?

このフォークを開発した理由は?技術開発者である、東京大学大学院情報学環 暦本研究室に在籍する中村裕美氏にお話を伺った。

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--まず、なぜ中村さんは電気味覚の研究に取り組むようになったのでしょうか。

中村:
元は、舌を使って操作するインターフェースを作ろうとしていました。その操作結果を舌へフィードバックする一例として電気味覚に着目し,たまたま舌に電気を与える際の電極として食材を使用したのです。その時、この電気味覚を調味料のように使用するほうが可能性が広がるのではないかと気づきました。そして、今までの調味料と違う特徴が、健康な生活を助けるエッセンスになるのではと思って、ここまで研究を進めてきました。

--「甘み」「苦味」「辛味」...などいろんな味がありますが、電気味覚によってどんな味でも感じることができるのでしょうか。

中村:
少なくとも現状では、「甘み」を出力するのは難しいです。逆に酸味、塩味、苦味などは感じやすいです。あとは、電気と一緒に口に含んでいる食材との『食べ合わせ』も影響します。 今回のメニューは、料理研究家の方と一緒に開発しましたが、電気味覚と比較的合いやすいレシピを考えていただけました。その上で、塩味を想像しやすい料理品目にもしてくださったとのことです。

--電気味覚と味の相性がいい食材、電気味覚フォークの仕組みと相性がいい食材、それぞれどのようなものがありますか。

中村:
 電気味覚の味と相性がいいのは、そうですね、一言で言えばお酒のおつまみになるようなものでしょうか。しょっぱい、酸っぱいものとは合うと思います。そういう意味では、大人の方の味覚かもしれません。ただ、今回のレシピに含まれているドライフルーツのケーキは、電気味覚フォークで食べると『甘さが増した様に感じた』というコメントがあったので、甘酸っぱいものとの組み合わせも今後もっと検討していきたいですね。
また、このフォークの仕組みと相性がいい食材は、今回のレシピだと特にカツやハンバーグでしょうか。ポテトチップなどは水分を含まないのでこのフォークでは効果が出ませんし、何よりフォークで食べませんね...。乾いたものも、口の中に入ってしまえば唾液と絡むので、口の中や歯に埋め込むデバイスを今後考えて対処していくべきかもしれません。

--「おいしい」や「まずい」は本当に人それぞれだと思います。この電気味覚を応用すれば、そういった言語化できない味覚を数値化したりして表したりすることもできるのでしょうか?

中村:
これは私の成果ではありませんが、すでに食材を分析して味の強度を数値化する装置などは提案されていたりしますよね。電気味覚は、出力した強度を記録として残すことは難しくないので、「おいしい」と感じていた時にどのぐらいの刺激が与えられていたかはすぐ数値化出来るとは思います。
ただ、電気の感じ方自体も、人によってばらつきがあります。適する強さも、人によって異なるので、電気味覚フォークには調整用のツマミがついています。食べながら調整する中で、その人にとっての「おいしい」を探してもらっています。
余談ですが、おいしい、まずいというのは人の嗜好や、周りからの情報からも影響を受けるので、舌から与える味だけで判断するよりも、普段どんなものが好きか?どんな人と一緒に食べているか?体調はどうか?などその人のいろんな情報を総合して求めるほうが、よりよいデータが得られるのではないかなと思います。

--「電気味覚」はいつごろまでに一般普及すると思いますか。

中村:
すぐには難しいのではないかなと思います。まず規格や技術上の制約をクリアしていく必要がありますから。そして、それらがクリアできても、利用する方の心理的なハードルも超えなければならないと思っています。食べることに対しては、安全・安心の意識が非常によく働きます。。食に関する技術は、気持ちの面でも許容してもらえるデザイン・出し方をすることが必要だなと感じています。
まずはこういったレストランイベントで体験していただいたり、存在を知ってもらうほか、そこから得られたフィードバックをいただき改良をして、いつか一般化していければよいなと思っています。

--「電気味覚」を応用した楽しみ方で想定していることがあればぜひ教えてください。

中村:
今回は非常にシンプルな電気刺激を使っていますが、刺激の種類によっては、食感を変えたりすることもできるんです。また、これはすでに提案していますが、電気味覚の刺激情報を"音のデータ"としてYouTubeやSoundCloudアップロードするというものです。そうすると、レシピのサイトなどに、この料理と相性のいいパターンはこちら!というようにリンクを貼る、といったこともできるかもしれません。

ー今回の「No Salt Restaurant」は体験会でしたが、実際にレストランがオープンしたり、「電気味覚フォーク」が実用化される計画などはありますか。

中村:
いつかは商品化して、病気などで塩分を控える必要がある方はもちろん、健康に気を使っている方々にも普段使いしてもらえるようになればと思います。そのために、今は草の根的に、一歩一歩技術が受け入れられるように努力をしている段階です。

食の新たな「アタリマエ」をデザインすることは、同時に新しい未来をつくるということでもある。技術が発展し、受け入れられれば、全く新しい食事方法や味覚が誕生したり、病気の人でも食事を楽しめたりなどの未来もそう遠くはないかもしれない。SFが大好きな筆者は、電気味覚のある未来を想像すると、ワクワクが止まらないのであった。

取材・文:菅間碧

1992年生まれ。幼少期を日本とマレーシアで過ごす。大学在学中に米国モンタナ大学に学部留学。帰国後、雑誌編集部でのインターンシップをきっかけにライター活動を開始。海外トレンドや、国内外問わずのヤングカルチャーに夢中! Twitter:@midori81

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