コンピュテーショナルデザインで、建築業界を改革するーー建築家 豊田啓介

2019.01.31 18:00

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(左から)豊田啓介氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

「コンピュテーショナルデザイン」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、建築家の豊田啓介氏(noiz共同主宰)だ。

全3回にわたってお届けする第1弾記事の前半では、豊田氏が提唱する「建築情報学」をテーマに展開されたトークの様子をお伝えする。「これまでとは違ったことをしないと、建築業界は改善しない」と話す豊田氏に、建築家出身の齋藤も深い共感を示した。

後半は、豊田氏が構想する物質世界とデジタル世界をつなぐプラットフォーム「コモン・グラウンド」をテーマにトークが展開。「スマートシティを実現する上で、アナログとデジタルをつなぐことが必要不可欠だ」と豊田氏の想いが語られた。さらに、建築家の教育についても話が及び、建築学科で教えるべきことについて議論が行われた。

建築、都市づくりに関わるMC陣、豊田氏との議論から、建築業界のあるべき姿を探っていく。

草野絵美(以下、草野):今回SENSORSが注目したテーマは、「コンピュテーショナルデザイン」。コンピューターが設計案などを割り出してクリエイトする、新しい概念です。本日は、いち早くコンピュテーショナルデザインを取り入れている建築家の豊田啓介さんをお招きし、お話ししていけたらと思います。

落合陽一(以下、落合):豊田さんとは、しょっちゅう一緒に仕事をしているんですよ。

草野:それはテレビで言えない仕事も含めてですか?

落合:まだ世に出ていない情報も多いですね。色々なところでご一緒させていただいています。

齋藤精一(以下、齋藤):僕は、コロンビア大学で教壇に立っていた頃に初めてお会いしているんです。そこから10年以上経っていますが、3日前に知り合ったような感覚ですね(笑)

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草野:お二人から見て、豊田さんはどんな印象ですか?

落合:一緒におでんを食べに行きたい(笑)。一緒にいると楽しい人です。

齋藤:一般的な建築家とは違う思考を持っていらっしゃいますね。一貫してコンピュテーショナルデザインに取り組まれている方は、なかなかいないので。

落合:ラボで研究している人はいるけれど、実践している人はなかなかいないですよね。

草野:そんなコンピュテーショナルデザインの第一人者、豊田さんとのトークセッションを始めましょう。

日本の建築業界は閉鎖的。実践と議論を繰り返さなければ、コンピュテーショナルデザインは普及しない

草野:今回のゲストは、建築家の豊田啓介さんです。豊田さんは、東京大学工学部建築学科を卒業後、安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学大学院の修士課程を修了。その後ニューヨークのSHoP Architectsで経験を積み、日本および台湾を拠点とする建築設計事務所noizを二人のパートナーとともに主宰。現在は、主に建築の分野でコンピュテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・制作・コンサルティングに取り組まれています。齋藤さんは同時期にコロンビア大学大学院にいらっしゃったとのことですが、交流はあったんですか?

齋藤:豊田さんは、僕がTA(ティーチングアシスタント)を担当していた講義を受けていたんですよね。

草野:齋藤さんは、豊田さんの先輩なんですね。

齋藤:英語はできませんでしたが、CGに関してはそれなりに勉強していましたからね(笑)。

豊田啓介(以下、豊田):「あいつすげえ!日本人だぞ?」と噂になっていました(笑)。

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草野:それでは、3つのキーワードをもとに、豊田さんの思想を深掘りしていきたいと思います。今回ディスカッションを行うキーワードは、「建築情報学」、「コモングラウンド」、「自分のタガを外す方法」。まず「建築情報学」ですが、noizはコンピューター上で建築を行うことを基本スタンスにしているんですよね?

豊田:建築業界ってすごく"重い"んですよ。時間はかかるし、責任も重いし...まるで重工業。だからこそ、建築は社会の中で長く残るのですが...。さらに、他の業界と比べると新しい技術を取り入れるのが遅い点も、ずっとなんとかしたいと思っています。

そもそも業界内でコンピューター技術を活用した事例がなく、「コンピューター技術を使うか否か」の議論もできていない。だから僕は、コンピューター技術を活かした建築を実践しつつ、学問として「建築情報学」を提唱し、新しい議論を生もうとしているんです。

落合:コンピュテーショナルデザインの話って、建築サイドから出てくる話と、コンピューターサイドから出てくる話で違うんですよね。興味を持っている学生は、どちらかというとアナログなバックグラウンドを持った人が多い。

齋藤:日本は、コンピュテーショナルデザインの普及が遅れていますよね。建築家は時代とともに変化する人の心理に敏感でなくてはいけないので、「なぜ建築心理学というものが存在しないのか」と常々疑問に思っています。

スマートシティや仮想通貨など新しいテクノロジーが存在する世の中を前提として、街や建築物の設計を行うべきですよね。日本の"おじさん"はそれができないから、若者の活躍が目立つようになっているのかもしれません。

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落合:建築業界の人が、データに疎いことも気になります。データを見て気になったことを質問すると「それは現場に行かないと分からないからね」と言われたりする。

豊田:共通のプラットフォーム上でなにかを行う発想を持つ人が少ないかもしれないですね。どちらかといえば、「現場でなんとかする」と言う人が多い。それが日本の良さでもあるのですが、これまでとは違うものをつくっていく意識がないと、なかなか変わっていかないかもしれません。

草野:学問としての「建築」は、国によって学ぶ内容が違っているんですか?

豊田:国というよりも、大学によって全然違いますね。「物質から離れて考えるのはやめよう」とか「コンピューター的に考えてみよう」とか、各大学によって軸となる考え方が違います。

草野:建築の仕事ってすごく学際的ですよね。合意形成が必要な仕事ですし、人々の暮らしにも常に目を向けなくてはいけないから。

落合:関係ない分野はないかもしれないね。

これからの建築家はプログラミングを学ぶべき。デジタルへの理解がなければ、社会実装型の建築は実現しない

草野:続いてのキーワードは、「コモン・グラウンド」。落合さんの提唱する「デジタルネイチャー」にも関連する話だと思います。

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豊田:スマートシティに関する仕事をする時、多くの人が「物質世界を、デジタルに正しく記述すること」に注力していると感じました。しかし僕は、2つの世界をつなぐことの方が重要だと考えていて。物質世界とデジタル世界をつなぐプラットフォームをつくるべきだと思っており、それを「コモン・グラウンド(共有基盤)」と呼んでいるんです。

落合:人間の目を介して光を「見る」世界と、データとして「読む」世界は全く違うんですよね。それぞれの世界で取れるコミュニケーションも全然違うから、物質世界とデジタル世界の各々がデジタル言語に変換されていなければ、スマートシティは実現しない。

草野:齋藤さんは「コモン・グラウンド」についてどう思われますか?

齋藤:豊田さんのおっしゃる通りだと思います。おそらく建築業界でも、個別ケースに目を向ければ、「コモン・グラウンド」のような思想で頑張っている人もいるじゃないですか。僕の会社でも「地図は2Dではなく3Dにするべき」と言っていて、既存の地図をスキャンして立体化したりしています。スマートシティ化も、多くの企業が取り組んでいまよね。このようにプレイヤーは増えているのですが、指揮者不在なんですよね。

豊田:用途と目的がはっきりしていないから、先陣を切る人がいないのだと思います。

落合:タスク思想の人が多いんですよ。

豊田:既存の学問や工学ベースだと、「正しいことを積み上げる」スタイルが取られがちです。しかし確証がなくても、「20年後にはこうなっているはずだ」と思うことを掘り下げて、アプローチをしていかなければいけないんじゃないかなと思いますね。

齋藤:SENSORSでもよく警鐘を鳴らしていますが、1つの世界だけを見ていてはいけないんですよね。建築のことだけを分かっているだけでは不十分で、インターネットの歴史も理解していないとダメなのかもしれません。そうした人材が、業界内で不足していると思います。

豊田:つまはじきにされているのかもしれない(笑)。

齋藤:僕は、つまはじきにされても困らないですけれど(笑)。

草野:ゲーム業界では、「コモン・グラウンド」が進んでいるそうですね。

豊田:進んでいるというか、活用しやすい業界なのだと思います。既にゲームAIの普及が広まっているから、「ユーザーの反響を高めるためにはどのような記述をすればいいか」といった、本来建築業界でもなされるべき議論が日常的に行われているんです。

建築業界は、ゲーム業界に比べて法律などの規制も多いですから、頭を固くせざるを得ない部分もあって...。落合さんや齋藤さんは、デジタル技術を駆使した取り組みを色々とされているじゃないですか。僕ももっと、そうした取り組みを行なっていきたいと思っています。

落合:ゲームの中だと、「このアイテムを落としたら、全員がその人を殺していい」みたいなルールも作れますからね。

豊田:ダンジョンに入るたびにマップが変わっていたりするなど、コントロールできるのが面白いですよね。本来、都市やイベントといった現実世界においても同じようなことを行うべきだと思うのですが、全体最適よりも個別最適を優先しがちなので、なかなか実行できない。

齋藤:昔「ゲームエンジンを使って、何ができるか」を研究していた思想家がいました。ゲーム開発にも従事している方だったのですが、もしかしたらゲームエンジンを作っている人が、建築業界で教鞭をふるった方がいいのかもしれませんね。

豊田:大学の建築学科は、デジタル技術を教えることを億劫に思っているのではないかと思います。アナログな手法ばかりを教えているというか...。

落合:デジタルもアナログも、どちらも理解していないとダメですよね。1つのマテリアルを、デジタルで見るかアナログで見るかは全然違うから。「手触り」を「解像度」に置き換えることができるかどうかが、非常に重要です。

齋藤:建築学科のプログラムの大半が、デザインの話なんですよね。本来建築家は、3Dから医療まで横断的に知識を持って、物事を考えなくてはいけないと思うのですが...。少なくとも、建築には他の様々な分野が関わっていることや、それらを統合することができるということを、もっと伝えていかなくてはいけないですよね。

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豊田:建築学科の学生に、プログラミングを教えたいんですよね。落合さんと齋藤さんが仰るように、これからの建築家はアナログとデジタル両方の視点を持たないといけない。あらゆる業界に共通して言えることですが、別の領域にはみ出していかないと新しい視点が持てません。建築学科の学生に「Uberのビジネスモデルが分かるか?」と聞いても、2〜3人しか答えられないんです。そんな状況で、社会を良くする建築が生まれるとは思えません。コンピューターサイエンスの道と街づくりの道、どちらに進むにせよ、ビジネスやテクノロジーの素養を持っておくべきだと思います。

草野:コンピュターサイエンスの学生と建築学科の学生がコラボしていった方が良さそうですね。

落合:60年代〜80年代は、そういった動きがあったんですけどね。MITメディアラボで行われていたことが、建築学科の授業で応用されていましたよ。

草野:本来学際的にやっていたものが、閉鎖的になってきているんですね。

豊田:専門外の人と話すためには、共通言語を持っていないとダメですよね。今の時代、コンピューター言語が分からないと、建築情報学が理解できないと思います。

齋藤:アナログとデジタル、両方を理解した上で「アナログな建築をやりたい」と言う人が現れてもいいとは思います。でも、今はアナログな建築を教えることしかできていないから、コンピューターサイエンスや電子工学など、様々な分野と一緒に建築を教えてプロフェッショナルな人材を育てていきたいですね。

草野:SENSORSを観ている建築学科の学生さんたちに、そうした人材になってほしいですね。

齋藤:建築学科の学生も「そうだそうだ」と言うんですけど、本当にそう思っているんだったら一揆を起こせばいいんですよ。

豊田:扇動してくれる誰かがいないと、はじまらないような状況になっていますよね。

続く第2弾記事の前半では、豊田氏の「自分のタガを外す方法」を探っていく。自分を外の世界に連れ出すために、コンピューター技術を習得したという豊田氏は、「社会を良くすることにおいては、広い視野を持つことが重要だ」と、業界の問題を指摘した。

後半は、齋藤が提示したキーワード「建築家というビジネス」をもとに、トークが展開。閉鎖的な建築業界のアップデートに取り組む豊田氏の話に、MC陣も共感を示し、齋藤は「建築家は設計図を書くこと以外でもっと稼げる」と示唆した。さらに適切な賃金が支払われない業界の問題に対して、落合は「業界全体でベースを上げていくべきだ」と指摘した。

先進的な取り組みを行う豊田氏の思想から、社会実装型の建築を実現するためのヒントを探っていく。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一曰く"建築学生はもっとデジタルで遊ぶべき".ゲスト:豊田啓介( コンピューテーショナル・デザイン 1/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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