コンピューター技術は、「自分のタガを外す」もの。建築家 豊田啓介が目指す、次世代の建築家

2019.02.04 18:00

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(左から)豊田啓介氏、齋藤精一、落合陽一

「コンピュテーショナルデザイン」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、建築家の豊田啓介氏(noiz共同主宰)だ。

全3回にわたってお届けする第2弾記事の前半では、豊田氏の「自分のタガを外す方法」が語られたセクションをお届けする。安藤忠雄事務所を経て、コロンビア大学でコンピューター技術を学んだ豊田氏。「自分を外の世界に連れ出したかった」と当時の想いを明かした。

後半は、齋藤が提示したキーワード「建築家というビジネス」をもとにトークが展開。豊田氏は「新しい領域に踏み込む人がいない」建築業界をアップデートしたいと語り、齋藤は「建築家は設計図を書くこと以外でもっと稼げる」と示唆した。さらに適切な賃金が支払われない業界の問題に対して、落合は「業界全体でベースを上げていくべきだ」と指摘した。

閉鎖的な建築業界で、先進的な取り組みを行う豊田氏の思想から、社会実装型の建築を実現するためのヒントを探っていく。

コンピューター技術を学びに渡米したのは、「自分のタガを外す」ため

草野絵美(以下、草野):それでは、次のキーワードにいきたいと思います。「自分のタガを外す方法」です。

豊田啓介(以下、豊田):僕は最初"The20世紀"的なモダン建築ばかりを手がけてきて、それが身体に染み付いていたので、新しい視点を持ちにくかったんです。そこから抜け出すために役立ったのが、コンピューター技術でした。自分を外の世界に連れていくために、非常に強力なツールなんですよ。これは企業にも言えることで、新しい技術を習得せずに昭和の成功体験を引きずっている会社も多い。タガを外すことって、自分の力だけでは難しいんです。ですから「新しい技術を使っていたらいつのまにか自分のタガが外れていた」という状況を、自らつくりだそうとしました。

草野:「新技術」としてコンピューター技術を選ばれたのはなぜでしょう?

豊田:もともと、人間の力だけではつくれないものに興味があったんです。それをメタ的に知ることができるものを探した末に行き着いたのが、コンピューター技術でした。

齋藤精一(以下、齋藤):そうした経緯で、コロンビア大学に来ていたんですね。

豊田:コンピューターの系譜をしっかり学びたかったんです。

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齋藤:僕も、同様の経緯でコロンビア大学に行ったんですよ。コンピューター技術を基礎から学ばないと、設計ができないと思って。あそこは、同じような想いで学びに来る人が多いですよね。

豊田:コロンビア大学ではそれまで知らなかった、既成概念に捉われない建築ばかりを学ぶことになったのですが、最初は「こいつら何を言っているんだ?そんなことできるわけないだろ」と思っていましたね(笑)。でも、自分のタガを外して議論できるようになってくると、それまで見えてこなかった新しい可能性に目を向けられるようになりました。アメリカの教育を受けると、「これまでつくったことのないものをつくる為にどうすればいいのか」と考えられるようになる。そうした視点を持てるようになったのは、コロンビア大学に行ったおかげです。「99%の人が反対していても、1%でも良いと言っている人がいれば投資する」新しい教育の在り方を知りました。

齋藤:当時、ダイヤグラムをつくることが流行っていましたよね。ダイヤグラムは、「こうしたい」と思っていても、データを入れると予想外の結果が出てくることもある。自分の思考の延長に面白いものが出てくるんです。

落合陽一(以下、落合):僕は泥遊びするような時期にWindows95で遊んでいたのですが、解像感が低かったので、デジタルに質量感を感じることもあれば感じないこともありました。片側にどっぷり浸かっていると、片側に特別感を感じるようになるんですよね。

草野:コンピューターにしかつくれないものと、人間にしかつくれないもの、それぞれどんなものがあるんですか?

落合:僕は、その境界線はないと思っています。コンピューターみたいな人間もいるし、人間みたいなコンピューターもあるので、そこに差はない。境界線を引かずに、「どちらが優秀だ」と決めつけない癒着点を持っていることが、デジタルネイティブだと思うんですよね。そうした感覚を持っている人は、YouTubeで観ているのと同じ感覚で、友達と一緒にいる。一人称で物事を捉えるか、二人称で捉えるかの違いしかないんです。

齋藤:僕は、感覚でしかできないことは、現場で確認するしかないと思いますね。「見た人が気持ち悪くならないか」といった繊細な心理を考えることは、まだ人間以外にはできないんじゃないかなと思っています。

豊田:デジタルの話や人間の心理の話をしていくと、結局哲学の話になってくるので曖昧になってきますよね。認識論や身体論の話になっていく。ただ、そうした哲学的な議論を経ていかないと「この領域なら実装できるよね」といった発想に至りません。これは建築業界だけではなく、あらゆる業界で言えることだと思います。社会を良くすることにおいては、広い視野を持つことが重要です。

建築家は、もっと稼げる仕事。「設計図を書く」以外のバリューも評価されるべき

草野:ここからは、SENSORSスタッフやMCから集めた、豊田さんに聞いてみたいキーワードをもとにお話を聞いていきたいと思います。まずは、齋藤さんからのキーワード「建築家というビジネス」についてお伺いしたいです。

齋藤:豊田さんのような建築家とは少し違うかもしれないのですが、いわゆる建築業界にいる「建築家」って、ビジネス的にはうまくいっているのでしょうか?

豊田:つらい質問ですね。先ほどのお話ともつながっていて、建築家が着手しなければいけない領域は社会の中でシフトしていっているのですが、これまでの建築家が踏み込んでいない新しい領域に挑戦する人がいないんです。誰かがやらなければいけないのですが、世間から期待されている建築家のイメージと、僕が知っている建築家のイメージに差がありすぎていて、そこの調整にすごく時間がかかっています。

齋藤:僕も同感です。ほとんどの建築家が、設計業にしか対価を支払われていないんですよね。本当は設計業以外にも稼げる所やビジネスになる所っていっぱいあるはずなのに...。

豊田:そもそも「建築家は設計をやる人」とだけ思われているんですよね。クライアントによっては「ここに土地があるから、ホテルかレストランをつくってください」と要求してくることがありますし...。さらに「提案しないと設計もさせてあげないぞ」といった空気を出してくる。それで業界が成り立っている節はありますよね。

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齋藤:それは建築業界だけではなく、デザイン業界にも当てはまると思います。要は、クライアント側が、知識を提供してもらうことに対する敬意が少ないんですよね。それこそニューヨークだと、そうした知見の提案に対しても十分なコンサル料をもらえるようになっているのですが。

豊田:建築家は設計図を書くこと以外にもバリューを出して、お金をもらっていいと思います。海外だと、そういったものが大きな収入源になっていたりしますよね。

齋藤:建築業界やデザイン業界には、そういうことを声を大にして言っていきたいですね。そこがネックになっているから、適切な賃金が支払われないのだと思います。

落合:大御所であればいいんじゃないですか?

豊田:いや、安藤忠雄の年収と、松井秀喜の年収って比べ物にならないんですよ...。

落合:業界によって、賃金に対する考え方が全く違いますよね。たとえば僕の場合、「メディア出演」と「クリエイティブに関するコンサルティング」と「研究」の3つの仕事をしているのですが、どれも「時間を割く」ことに対してフィーをもらっています。建築業界も同様の仕組みであれば、豊田さんのような建築家はいくらでも稼げるはずなのに、それが難しい。アイドルでも、駆け出しのアイドルならば無給の仕事もありますし、業界によって全然違いますよね。

齋藤:耳が痛いですね。

草野:クライアント側と建築家側で、認識のズレがあるんですかね。

豊田:そうですね。建築家の価値が「設計をすること」になっているんだと思います。「満足のいく設計をしてくれないと、お金は払わないぞ」といった発想が残っている。noizも設計事務所なので、そうした仕事を受けていて、設計料しかもらっていません。しかし同様のことをマッキンゼーのようなコンサルティング会社がやったら、もらえるフィーは2桁くらい違うと思いますよ。せめて今よりも1桁くらいフィーがプラスになるだけで、建築業界はだいぶ変わってくる気がします。そのためには、まずはロールモデルを作らないといけないと思っています。

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齋藤:今の話を聞いていて思ったのですが、1980年以前にあった仕事とそれ以降の仕事では、チャージの仕方が全然違うのかもしれません。80年代以前は、とりあえずクライアントの要望を聞いて、提案をすることから仕事が始まっていましたよね。しかし今は、スポットでしかお金をもらえないことが多い。それなのに「あれもやってほしい」「これもやって」など、注文ばかりが増えていくんです。だから、人件費もそれなりにかかります。海外の建築業界と比較しても、賃金のベースが違いすぎるんですよね。

落合:駆け出しの建築家でも、日本と海外では年収が4倍くらい違っているんですよね。

豊田:カリフォルニアでAIが扱える建築家は、最初から2,000〜3,000万円くらいもらっていますからね。恐ろしい。

齋藤:逆に、日本だと「こんなにもらっていいんだ」となってしまう。

草野:それでは海外に人材が流失してしまいますね。

落合:するでしょうね。日本食に愛がないと(笑)

豊田:だから、まずは僕らがモデルを作らないといけないと思います。バリューをチャージしてお金を作り、適切なフィーが払える体制を作っていくしかないですよね。

草野:落合さんの会社やライゾマティクスにも、「なんかやってよ」的なバックリとした提案が来ることは多いんですか?

落合:死ぬほどくるよ(笑)

草野:そういった場合、どのように仕事を進めているのでしょうか?

落合:僕の場合は、最初にロードマップを引いているパターンが多いですね。他のコンサルティングを受けてからうちに依頼が来る場合と、うちに最初から依頼が来る場合では、クライアント側の意思決定基準も違ったりしますから。どうやって目標達成するのか、意見を聞きながらロードマップに落としています。やり方は様々で、紙に落とす場合もあれば機材を使って空間設計を行う場合もある。いずれにせよ、まずロードマップを引くことが重要だと思います。

草野:ライゾマティクスさんはどんな感じなんですか?

齋藤:うちも色々なやり方がありますね。僕の場合は、まず面白そうなクライアントの話は率先して聞くようにしています。そこに対して「こういうことができるのであれば、やりたい」と提案しています。場合によっては「ここにフィーがかかるのであれば、一度考えます」と言われて、仕事がなくなることもあるので、そこは少し怖いんですけれど...。会社の利益を考えると、はじめに仕事を受けて後から上乗せでフィーをもらえないか相談する方が良いのですが、最近はそういうことをしないようにしています。

豊田:ライゾマティクスさんって、特殊部隊じゃないですか。特殊部隊じゃないとできない仕組みだから、そうした強気な姿勢が取れますよね。

落合:もう、業界全体でそういう姿勢を取るしかないんじゃないかな。たとえば映像業界は、カメラマンや照明さんに対するベースのフィーがある程度決まっていると思います。そうしたベースのフィーを作っていかないと、業界全体の賃金が上がらないですよね。だから一斉に上げていくしかない。そうしないと「じゃあ他の安い建築事務所に仕事を依頼します」と言われてしまうから。

続く第3弾記事の前半では、豊田氏の目に映る「ライゾマティクス齋藤精一」の姿が明かされた。共闘する仲間でもあり、競合でもある齋藤に対し「共感できる部分が多い」と尊敬の念を示し、齋藤も「日本の建築業界には、豊田さんのような人が必要不可欠だ」と返した。

中盤は、「2025年の都市」をテーマに議論が白熱。大阪万博にも携わる豊田氏は「万博を、新しい取り組みの実験場にしたい」と話し、齋藤も「2025年に向けて、準備を進めたい」と明かした。落合も「大阪万博を機に、日本列島3,0にアップデートするべきだ」と意見し、日本の未来についての意見が飛び交った。

後半は、落合からの質問「旧態依然とした建築事務所からの風当たりは強くないのか?」に、豊田氏が回答。先進的な取り組みを行う豊田氏は、「デジタルとアナログを両方理解しているから、意見しやすい」のだと話した。さらに、次世代の建築家の育成についても話が及び、司会の草野から「建築家の教育用ゲームがあってもいい」という意見も飛び出した。

建築、アートとそれぞれの業界で革命を起こしてきたMC陣と、コンピューテーションデザインを提唱し、建築業界に革命を起こす豊田氏。3名の議論から、今後の日本をより良くするヒントを探っていく。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一の趣味は70~80年代のCM!?ゲスト:豊田啓介( コンピューテーショナル・デザイン 2/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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