大阪万博は、"日本列島3.0"の始まりとなる。建築家 豊田啓介氏が志向する、2025年の都市づくり

2019.02.06 18:00

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(左から)豊田啓介氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

「コンピュテーショナルデザイン」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、建築家の豊田啓介氏(noiz共同主宰)だ。

全3回にわたってお届けする最終回となる本記事の前半では、豊田氏の目に映る「ライゾマティクス齋藤精一」の姿が明かされた。noiz同様にコンピューター×建築に取り組むライゾマティクスに対し、「競合でもあるが、共感できる部分が多い」と尊敬の念を示した。それに対し、齋藤も「日本の建築業界には、豊田さんのような人が必要不可欠だ」と返した。

中盤は、「2025年の東京」をテーマにトークが展開。大阪万博にも携わる豊田氏は「万博を、新しい取り組みの実験場にしたい」と話し、齋藤も「2025年に向けて、準備を進めたい」と明かした。落合も「大阪万博を機に、日本列島3,0にアップデートするべきだ」と意見し、日本の未来についての熱い議論が交わされた。

後半は、落合からの質問「旧態依然とした建築事務所からの風当たりは強くないのか?」に、豊田氏が回答。建築業界の中で先進的な取り組みを続ける豊田氏は、「デジタルとアナログを両方理解しているから、意見しやすい」のだと明かした。さらに、次世代の建築家の育成についても話が及び、司会の草野から「建築家の教育用ゲームがあってもいい」という意見も飛び出した。

建築、アートとそれぞれの業界で革命を起こしてきたMC陣と、コンピューテーションデザインを提唱し、建築業界に革命を起こす豊田氏。3名の議論から、今後の日本をより良くするヒントを探っていく。

「正直、ズルいと思うこともある」豊田啓介から見た、ライゾマティクス齋藤精一

草野絵美(以下、草野):続いては、落合さんからのキーワード「豊田さんから見たライゾマティクス齋藤さん」です。

落合陽一(以下、落合):齋藤さんは、フットワークが軽そうなイメージがあると思うのですが、それはメディア露出も多く、色々な取り組みをされているからだと思うんですよね。実際、豊田さんの目には齋藤さんがどのように映っているのでしょうか?

豊田啓介(以下、豊田):noizもライゾマティクスさんと同様、コンピューターを使った建築をしているので、タッグを組む時も、競合する時もあります。競合として見ると、ライゾマティクスさんはデジタル分野における実績もあるし仕事も速いので、正直「ズルい」と思うこともありますね。

齋藤精一(以下、齋藤):競合だと認識されていたんですね。

豊田:知らないところで競合と認識されていたりするんですよ。でも、仕事の速さやフィー体系に関して羨ましいと思っていますし、齋藤さんの考え方には共感できる所も多いんです。齋藤さんはアナログなアーキテクチャへの理解があったうえで、「建築」を再定義しているじゃないですか。そういった考え方は長期的にみると、長く残る建築物の創造につながるのだと思います。うちも建築とコンピューターの両方がわかっているけれど、コンピューター側からのアプローチが強いので、もう少し両面から見られるようになればいいのかなと思っています。

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齋藤:やっぱり、他の領域と掛け合わせていかななければ、世の中を変えるようなことはできないですよね。だから、豊田さんのように「コンピュテーショナルデザイン」を提唱する人は絶対に必要なんです。日本でそういったスタンスを取る人はあまりいないんじゃないかな。アカデミックに取り組んでいる方はいっぱいいますが、実装している人はほとんどいないと思います。

草野:お二人が共闘する時は、どんな風に仕事を分担しているんですか?

齋藤:僕は「表現」の部分を担うことが多いですね。一方でnoizさんは「空間性」を担っている。

豊田:施工方法によっても変わっていきますけどね。ライゾマティクスさんに影響されて、僕たちの考え方が変わったりもします。今度一緒に「ノイゾマ」というチームを組んで一緒に仕事をしてみたいです(笑)

落合:それ超良いじゃん(笑)。僕の会社もよく「ライゾマティクスさんと、どう違うんですか?」と聞かれます。実際には全く違っていて、うちはクライアントのやりたいことを忠実に実行する。一方で、ライゾマティクスさんは「何をやるか」からコンサルティングしている。だから、途中で当初の目的が変わった場合には「ライゾマティクスさんと組んだ方がいいかもしれないですね」と提案することもある。そのようにクライアントに最適なプランを考える人がおらず、デジタルに対する認識が低い会社は淘汰されていくと思います。

大阪万博は、実証実験の場として活用したい。豊田啓介氏に問う、「2025年の都市」

草野:続いてのキーワードに移りたいと思います。これはSENSORSスタッフが考えたものなのですが、「2025年の東京の都市」について。2025年は大阪万博が開催される年でもありますし、6年後に東京がどうなっているか、豊田さんの考えをお聞きしたいです。

豊田:バズワード的に「スマートシティ」が使われている中で、Googleのような企業が日本に存在しないことも事実です。だから、万博のような機会を使って新しいことを実装していくべきなんじゃないかなと思います。実際に大阪万博に関わっている中でそう感じるようになりました。やはりニーズがなければ、人びとがスマートシティへ関心を持つこともないですし、実装は難しい。だから「ここに行くには、色々なしがらみを外さないといけないよ」というきっかけを作らないといけないと感じています。

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落合:1964年の東京オリンピックと1970年の大阪万博を機に、新幹線や太陽の塔が出来て"日本列島2.0"が始まったわけですからね。ただ当時は、人口も増加していましたし、高度経済成長期でもありました。人口も減少して経済も停滞している今、"日本列島3.0"にアップデートするためには、コンピューターや文化やデザインといったソフト面で問題を解決してゆかなければいけないと思います。

齋藤:日本だからこそ実現できるスマートシティを披露する場所として、大阪万博は良い機会だと思います。テックがしっかりと実装された上で日本人が生活しやすい街はどんなものかが、明かされるといいですよね。

それを実現できるように、2025年に向けて動いていきたいと思っています。今の日本には、個人レベルで優秀な人は多いのですが、それらをつなぐ力がない。だから彼らの力が、社会に対して十分に活かされていないんですよね。だから、アリババなど海外のシステムの方が先に普及してしまいそうそうになっているんです。

でも、人口の少ない日本だからこそ取れる戦い方もある。個人の平均点はすごく高いと思うんですよね。電気業界やインフラ業界など、さまざまな業界が連携して何かが作れるようになったらすごくいい。落合君が言っていたように、1964年は高度経済成長期の中で東京オリンピックを開催したけれど、2020年は経済が低迷している中で開催する。だから、昔と同じことをしていてはダメなんです。ここで何か新しい価値を見出していかなければ、この先の日本はどうやって稼いでいくのだろうと思いますね。稼ぐ手段は色々あると思うのですが...。

豊田:新しいものを取り入れていかないと価値は生み出していけないのに、業界や企業が閉鎖的だとタガが外せないんですよね。たとえば、Googleが情報プラットフォームを構築したことで新しい価値が生まれましたよね。しかし情報の流通だけでは幸せになれないことがわかったので、Amazonのように物を情報として扱うプラットフォームができて、今度は、メルカリのように個人の所有物を情報として扱うプラットフォーマーも出てきている。つまり、インターネットの出現によって、モノの価値が可視化されるようになったんですよね。

しかし、ものづくりを行う企業が情報を扱う企業と連携するための共通プラットフォームを持っていない。だから宝の持ち腐れになっていることが多々あるんです。大阪万博は、そうした問題を解決する機会にもなると思っています。「Googleのように全ての情報を一極に集めることはできないけれど、日本風にオープンに情報を集めるとこんなことができますよ」と発表できればいいですね。

齋藤:「NECと三菱商事が共同で何かを開発しているか?」と考えても、そんなことしていないじゃないですか。そこってすごく大きな損失につながっている気がするんですよね。

落合:同感です。しのぎを削るならオープンに叩き合えばいいのに、テーブルの下で叩きあっている。それはあんまり良くないなと思います。僕の最近の趣味は、1970年〜1980年代までの日本のCMを観ることなのですが、当時のCMは超元気なんですよ(笑)。あの元気さはなんだったんだろうと考えていて。おそらく当時は、企業側が他人がどう思うかを考えずに「これでいいだろ」と思うものを作っていたのだと思います。マーケティングやコストを気にしていないというか...。

あの元気さは不思議ですが、発信する側の自信があるものじゃないと観ている人も面白くないと思います。今の時代の企業も、そうした考え方をもっと取り入れた方がいいのではないでしょうか。

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齋藤:2020年には、そうした社会実装ができるかなと思っていたのですが、明らかにできなさそうなんですよね

落合:間に合わなかったですね。

齋藤:間に合わなそうなので、2025年までに向けてやっていきたいですね。さらに関西からっていうのがいいかもしれない。

草野:前回のChapterでもお話があったように、業界によって考え方が違うとか、コンピューターと建築はもっとコラボするべきだとか、そういった点にも問題があるのかもしれないですね。

齋藤:僕はすごくアナログなところに問題があると思っています。Twitter上で喧嘩している人たちも、実際に会うと仲直りすることもよくありますから、業界を超えたリアルな交流がもっと増えればいいと思いますね。

豊田:僕は、土俵の外に出るよりも、自分が勝てるところにしっかりいようという意識が強いので、専門外の人たちと積極的に交流をすることができにくい状況にあるのかもしれないです。

草野:実現していないけど、定期的にアイディアとして出る「空飛ぶ車」などを実現する社会にもなってきているんですか?

齋藤:そういったものも、万博に向けて実験していきたいですよね。

豊田:実生活でいきなりやるのは難しいけれど、万博という実験イベントだったらできるかもしれません。都市や社会基盤領域でも同じことが言えますよね。都市という基盤がないと実装・実験できないことって世の中には腐るほどあるんです。都市を活用した実験や実装の良い機会として万博があるので、パブリオンとしての機能も大事ですが、実証実験の場としてもうまく活用していきたいですよね。

落合:ヘリ移動の方が絶対効率良いはずなのに、それをみんながやらないからコストが下がらないんですよ。海外では、当たり前のようにヘリ移動する社長もいますからね。

齋藤:この前、投資家の千葉功太郎さんがホンダのビジネスジェットを買っていましたね。

落合:あれは買いますよね。約5億8000万円とかそんなに変な値段じゃないじゃないですか。それくらいだったら買えそうな社長とか多そうですけどね。僕は、飛行機乗り遅れることがめちゃくちゃ多いので、その時間ロスを考えたら専用機を買った方が安いかもしれない。

建築系VTuberの自由な発想が、業界を変える?次世代の建築業界に必要なこと

草野:最後に、落合さんからいただいたキーワード「三角定規で殴られると痛いか?」について。これはどういった意味でしょうか?

落合:「旧態依然とした建築事務所とかが殴ってきたりしないんですか?」という意味です。

豊田:殴られないにしても、フレンドリーになれないことは多いかもしれないですね。

落合:僕や齋藤さんに「メディアアートって言ってるけれど、全然アートじゃない」とプンプン怒っている人もいたりするので。

齋藤:今は少なくなったけれど、5年前は「メディアアート」と言うだけで敵視されることもありましたからね。

落合:「それは違う」とか言うのも、Twitter上だけにしてくれとか思ったりしますけどね。今は良くなってきたけれど、5年くらい殴られ続けてきたので。

豊田:旧来の建築家みたいな人が、頼んでもないのに急に目の前に現れて、仁王立ちしながら「お前がそう言うんだったら、俺を納得させてから目の前を通りすぎろ」みたいなことは時々ありましたね(笑)

落合:やべえ(笑)

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齋藤:僕は、逆に建築じゃないところから建築にアプローチしてきているから、そういったハレーションみたいなものはあまりないかもしれないですね。言うほど横のつながりもないですし。どちらかというと「次にこういったことをやろうとしているんですよ」と、対等に話すことが多いかもしれません。

豊田:僕の場合は、コロンビア大学の前に安藤事務所という「20世紀建築の大御所」みたいなところにいたので、立場上言われにくいというのはあると思います。「アナログもデジタルも、どっちもやっていた」という実績がある上で、コンピューテーションデザインを提唱しているので、説得力はあると思います。

豊田:この前建築系VTuberの人が建築コンテストみたいなものを自主的に開催していたのですが、すごく面白かったんですよ。「建築から重力をなくしたら」など、柔軟な発想の企画がたくさん挙がっていました。そうした新しい発想を持つ人たちが、これからどんどん活躍していくんだろうなとも思います。実際にものをつくらなければいけなくなった時のシミュレーションは、彼らのような人たちの力が必要です。そういう人たちが勝手に育ってくれているのは、いいですよね。

落合:マインクラフトをやっていた子供も、急にものを作れるつくれるようになったりしますからね。

草野:もしかしたら、建築家専用のゲームがあると面白いかもしれないですね。

齋藤:教育用の?

草野:そうです。その中では、現実世界の概念を超えた設計をすることができる。大人用のマインクラフトみたいなものがあったら面白いと思います。

日本は高度成長期において、ものづくりを通して大きく飛躍した。しかしそれはもう過去の話。デジタル技術が普及しきった今の時代、デジタルとアナログの融合が各業界で求められている。「AI」や「スマートシティ」といったバズワードだけが一人歩きしている中で、実装に向けて具体的に動いている人や企業は、どれだけいるのだろう。

停滞している日本を再び活性化させるために必要なこと。それは、自分の専門分野から一歩外に目を向け、視野を広げることだ。「コンピューティングデザイン」を武器に、建築業界の未来を切り拓く豊田氏のように、時代を読み、行動を起こすことが重要なのだ。

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(SENSORS|落合陽一はエヴァンゲリオン好き!?ゲスト:豊田啓介( コンピューテーショナル・デザイン 3/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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