世界初!パラレルVRドラマ『ゴースト刑事』誕生秘話 - 伝説のディレクター土屋敏男がVRドラマに込めた想いとは?

2017.03.28 20:15

伝説のテレビ番組『進め!電波少年』を手掛けた土屋敏男がVRドラマを制作した。VRドラマ「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」だ。土屋が所属する日テレラボが指揮を取り、タッグを組んだのは鴻上尚史、ライゾマティクス齋藤精一、監督は日テレ ドラマ班の久保田充だ。VRへの強い関心を示していた土屋が満を持してリリースするVRドラマ「『ゴースト刑事』 日照(ニッテレ)荘殺人事件」の制作秘話、そして前例無きVRコンテンツを作る際の思考プロセス、心意気を伺った。

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詳細はゴースト刑事のwebサイト(こちら)をクリック。

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日テレラボがリリースするVRドラマは「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」。視聴者が"ゴースト刑事"となって犯人探しに参加できる仕組みだ。

日本テレビの伝説のディレクター土屋敏男がVRを使ったドラマをリリースした。その名もVRドラマ「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」。あるアパートで起きた殺人事件の犯人を視聴者である我々が"ゴースト刑事(デカ)"として360度映像のなか探していく視聴者参加型のドラマである。これはVRアプリをスマートフォンにダウンロードし、誰でも楽しめるVRドラマとなっている。アプリをリリースしたばかりの土屋敏男にVRを活用した理由、VR『ゴースト刑事』制作秘話をインタビューした。

■クリエイターとしてテクノロジーに真正面に向き合った結果の「VRドラマ」

--まず、VRでドラマを作ろうと思ったキッカケを教えてください。

土屋:
あらゆるテクノロジーは"基礎研究"として研究所から生まれ、エンジニアの手に渡り、製品として世の中にお披露目されます。ただお披露目されただけでは、まだ100%世の中に受け入れられたというわけではないんです。クリエイターが「このテクノロジーってこういうことじゃないの?」と味付けすることによって、テクノロジーは多くの方に使ってもらえるものとして浸透していきます。つまり、テクノロジーはクリエイターが味付けするプロセスが大事だと考えています。

『進め!電波少年』はSONY Hi8というハンディカムで猿岩石(有吉弘行が活動していた元コンビ名)のヒッチハイクの旅を撮影しましたが、ソニーからSONY Hi8がリリースされた際のメッセージは「パスポートサイズ、小型なのに画質も良いので女性でも撮影可能、旅行に最適」を謳っていました。でも、本当にそれだけなのか?と思っていて。それで、クリエイターだったらこの小型カメラを使って新しい表現が出来るはずだと考えた結果、小型なのでディレクターである私がカメラマンも兼任してヒッチハイクの旅にでるという企画を考えました。当時のソニーのエンジニアから見ると「そういう使い方で来たか!」と驚かれましたけどね。「ハンディカムは女性向け、家族旅行向け」だけの用途ではなく、「テレビのディレクターがカメラマンも兼任して番組を作れる」という新たな用途を見つけたことにより、いまでは日本のテレビではディレクターがカメラマンも兼任して撮影するというのがあたりまえになったんですよね。

■テクノロジーの提供側がおどろくような使い方をクリエイターがしてこそ、テクノロジーは世の中に浸透する。

--土屋さんはVRというテクノロジーを世の中に普及させることをミッションとして感じてらっしゃるように思います。

土屋:
メーカー側が考えているシナリオのままだと、テクノロジーの応用の仕方やコンテンツが制約されてしまうということをクリエイターは肝に銘じておくべきだと思います。たとえば、『電波少年』ではCGも活用しましたが、そこにはソニーのデジタルストレッチ技術を利用しました。司会の松村邦洋や松本明子の目や耳などの顔のパーツが拡大するようなCG表現をしたのですが、感情をデフォルメするようなCGの使い方はメーカーのシナリオにはなかったようで、これまたソニーのエンジニアは放送を見て驚いたようです。こういうメーカー側の意図と違う使い方をすることによりテクノロジーは市民権を得ていくと考えています。

ただ、全てのテクノロジーがうまく活用できるわけではないわけで。最近の例としては3Dテレビ。3Dを活用しよう、と私もいろいろと考えましたが、クリエイター側がメーカー提供のシナリオの域を超えることができなかったので3Dテレビは一旦息を潜めてしまったと感じています。同じように、VRもメーカーが提供しているシナリオ(アイドルのライブを自分の好きな視点で見られる、スポーツ観戦、秘境コンテンツなど)のままだと廃れちゃうなぁと思っていました。

■土屋敏男がVRドラマ『ゴースト刑事』に行き着く思考プロセス

土屋:
さて、なんとかメーカーのシナリオから脱却し、誰もやっていないVRコンテンツを生み出したい、と考え続けて注目したのが、VRは360度映像が見られるので視聴者の"視点が変えられる"という点。つまりは視点をそらすことができる、とも言えます。
その、視点をそらすギミックが活かせるものに「手品」があります。手品のように被験者の視点をそらしている間に360度空間の別のシーンでは驚くような仕掛けを仕込む...という手品的な世界は面白いぞ、と考えが進みました。そして、もう一歩考えを押し進めて、手品のようなトリックを扱う「推理小説」がいいんではないか?というところまでアイデアが膨らんできて。で、それでは「殺人事件ものにしよう」ということに行き着き、殺人事件の犯人を探すというVR、刑事モノという骨子ができあがりました。

--VRの360度を活かした「視点が変えられる」点に注目したことにより「殺人事件モノのVRドラマ」は生まれてきたんですね。

土屋:
そうです。ライブでもない、スポーツでもない。そしてゲームでもCGでもない。メーカーのシナリオにはなかったVRの使い方としての、「実写のドラマ」「殺人事件ドラマ」という企画が浮かんできました。

視点が変えられるということは、つまりは「マルチストーリー」なドラマなわけですが、面白いことに我々の日常生活って常に「マルチストーリー」なんですよね。複数あるストーリーを選択しながら私達は生きていて、人類の数だけストーリーがあるんですよね。例えば、極端な話だけど、私はいま取材を受けるためにこの会議室(日本テレビのある会議室)にいるけど、実は隣の部屋では私のことを殺そうと計画している人たちがいて。間違って隣の会議室に入ってしまったらアウトだったんだけど、この会議室にいるので平和に取材を受けて過ごしている。ちょっとした選択で人生が変わるような体験をマルチストーリーの中で疑似体験してもらえるのもドラマとして新しいかもしれないと思ってね。

そこで、私の頭の中には「視点が変えられる=殺人事件もの」「マルチストーリー」というのがアイデアとして固まってきました。そして、マルチストーリーを展開させるためのシーンとしては「古びた2階建てのアパート」というのが絵として浮かんできました。2階建てのアパートの一室で起きた殺人事件、その犯人は同じアパートに住んでいる住人である、さて誰が犯人なのか?というのをマルチストーリーで展開したら面白いかな、と。
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土屋のオリジナル企画書。日付が2016年5月24日となっている。オリジナルタイトルが『武威有荘』(ブイアール荘)だったことが伺える。VRドラマ『ゴースト刑事』の「マルチストーリー」の企画はここから生まれた。

■土屋のアイデアをコアに鴻上尚史、ライゾマ齋藤精一が集まる

--今回は関係者も豪華ですよね。

土屋:
VRでマルチストーリー、殺人事件ものをやろう!と思ったのが2016年5月末だったのですが、さて、誰と組んで進めていこうか?と考えた際に、ちょうどゲームクリエイターの水口哲也さんがライゾマティクスと組んだVRコンテンツを発表していて。水口さん経由でライゾマ齋藤精一さんをご紹介していただき是非一緒にやりましょう、とご快諾いただきました。また、日テレのドラマ班の久保田充にもチームになってもらい鴻上尚史さんに脚本をお願いすることになりました。

--ライゾマ齋藤精一さんの参加、そして、鴻上尚史さんがVRの脚本を書かれたということも驚きなのですが、企画をお伝えした最初の反応はいかがでしたか?

土屋:
鴻上さんには「また面白いこと考えますね〜」と開口一番言われました。でも、VRって劇場型なので鴻上さんのフィールドに近いんですよね。なのでスッと理解いただけました。しかも、今回の「マルチストーリー」が思いついた背景には、ニューヨークで行われている「スリープ・ノー・モア」というオーディエンス参加型でホテルの部屋を歩き回り観劇するスタイルも参考にしていて。鴻上尚史さんも「スリープ・ノー・モア」を観ていたのでこの企画をすっと理解してくれました。

■"神の視点"から"幽霊の視点へ"

--豪華なラインナップなのでVRという表現自体も、脚本もとても楽しみです。さて、なぜ「ゴースト刑事」は、幽霊が主人公なのでしょうか?

土屋:
今までのドラマは、すべて"神の視点"なんですよね。どんなドラマであったとしても視聴者は内容にコミットしない。そしてどこにでもいられる。つまり神様の視点。ただ、先述のニューヨークの「スリープ・ノー・モア」は参加者が自由にホテルの部屋を移動できるけどストーリーには影響を及ぼさないつくりになっていたり、PSVRの秋山さんにVRコンテンツのコツを伺った時は視聴者のスタンス(立ち場)を明確にしてあげることによりVR酔いしない没入感あるコンテンツに出来る、などのアドバイスを受けていたり。視聴者がVRドラマを見る時のスタンスを明確にしてあげるべきと考えた結果「ゴースト刑事」として幽霊の存在でストーリーに参加できるようにしました。そのことにより下を振り向いても自分の足や手が無くても違和感ないストーリーにできました。

■挑戦できない人は滅びる時代

--土屋さんがこだわった「VRメーカーが提供しないシナリオ」どころか、VR殺人事件、VRドラマという前人未踏のコンテンツを作ることになりましたが、テクノロジーを活用した新しい事例を作る際に大切なことって何でしょうか?

土屋:
前人未踏のものを作る時には面白がってくれる仲間が重要です。そして、未踏の挑戦を一緒に続けてくれる、一歩でも前に推進してくれる仲間が大事だと今回実感しました。「誰もやったことがないから無理だ」というのは簡単だけど「無理かもしれないけど検討した結果こういう方法がある」という代替案を出し続けてくれる仲間が必要で。ライゾマ齋藤さんとかには本当に色々と新しい表現に挑戦してもらったんだけど「難しいですね〜でもこういう方法だといけるかもしれませんよ」という代替案を必ず出してくれたので、リリースまでたどり着けました。

--テクノロジーの進化が激しいこれからの時代、前人未踏のモノにチャレンジできる仲間、モチベーションって大事ですよね。

土屋:
「誰もやってないからやりましょう!」というモチベーションが大事で。 前例無ければ動けない「誰もやってないからやめましょう」というスタンスだと、これだけ新しいものが出ていている時代に滅びると思うんですよね。
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世界初パラレルVRドラマ『ゴースト刑事』で視聴者を"神の視点"から"幽霊の視点へ"誘う、日テレラボ土屋敏男

■妄想力、自由でいる、実現を信じる

--土屋さんの新しいコンテンツを生み出し続ける原動力はどこにあるのでしょうか?

土屋:
妄想力、とでも言いましょうか。
今回のVRを例に話をするとVRのサンプルデモを見る時に「私ならメーカーのシナリオに無いことをやる」という意思と、実際にサンプルデモを見た時に「私だったらこういうふうにやるのになぁ」という妄想をふくらませる。そして自分の妄想が実現できると信じ続ける力も大事なんだと思います。

--妄想力って誰にでも持てるものでしょうか?

土屋:
持てると思います。
テレビってこうだよな、とか、会社ってこうだよな、とか、明日の自分も今日と同じだよな、俺って所詮この程度だよな、、、って決めつけないことが大事だと思います。

明日どこに居るかは自由だし、5秒後にどこに居るかも自由。
「AはBである」と決めつける生き方じゃなくて、
「AはB以外の可能性が100万通りある」と考える。そういう考え方をしていくと妄想力って育っていくと思っています。

私は幸いにして『電波少年』を作った経験があるからいま自由に動けるけど、ただ、そんな私だって最初のアポなしとかヒッチハイクとかを始める際には「テレビってこうだよね」という決めつけられた枠を外して「テレビって、もしかしたらこれも出来るんじゃないかな?」という妄想を膨らませて、そして実現できると信じたから固定概念を超えられたんだと思ってます。

誰かが提示したシナリオがあったとしても、そのシナリオを理解した上で「・・・ってことはだよ、これはXXXな使い方があるんじゃないか?」と、自分のなかで「・・・ってことはだよ、これはXXXじゃないか?」という問いを続けるのが大切なのかもしれないですね。で、そのためには素直に喜び、感動し、そして自分で考えるというプロセスを繰り返して行くことが、妄想力や新しい発見に出会う近道なのかもしれないですね。

--ありがとうございました!土屋さんの妄想力から発展し、素晴らしい仲間を巻き込んだVRドラマ『ゴースト刑事』を早速ダウンロードして楽しんでみたいと思います。

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世界初パラレルVRドラマ『ゴースト刑事』公開したばかりの日テレ土屋敏男にインタビューした

数年前からVR関連のセミナーや展示会には土屋敏男の姿があった。ずっと彼のなかでは「・・・ってことはだよ、VRはXXXな使い方があるんじゃないか?」と、メーカーのシナリオにないVRの使い方を模索していたのだろう。

土屋氏は妄想力が大事だと語り、挑戦できない人は滅びる時代になるとも予言する。会社のルールや外部のシナリオに沿ったままではなく、自分のなかで「・・・ってことはだよ、これはXXXじゃないか?」と自問自答し妄想力を鍛えることも大事だろう。 まずはVRドラマ「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」をダウンロードしてこのドラマを楽しみ、同時に自分であればどのようなVRドラマを作るのか?妄想を膨らませて新しいシナリオを模索することも滅びない人間の第一歩として必要なのかもしれない。

※VRドラマ「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」はiOS / Androidに対応。ダウンロードして楽しもう。
詳細はゴースト刑事のwebサイト(こちら)をクリック。

【注意】VRドラマ「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」視聴時の注意
・13歳未満の方は2眼タイプのVRゴーグル等を利用した「2眼で見る」モードでのご利用をお控えください。
・健康のため、長時間のご利用は控え、定期的に休憩を取ってください。
・対応機種等はゴースト刑事のwebサイト(こちら)でご確認ください。


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ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

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