"現代の魔法使い"落合陽一のフィロソフィー 【前編】最新作『Fairy Lights in Femtoseconds』と"メディアアート"の定義とは

2015.10.12 18:30

自然と計算機がミックスされ分断不可能になった世界観【デジタルネイチャー】を科学し、哲学し、実装することで未来を目指す現代の魔法使い・落合陽一氏。今年発表された新作『Fairy Lights in Femtoseconds』は強力なレーザーによって、プラズマで描いた絵と空気中でインタラクションすることが可能になっている。「20世紀は映像の世紀、21世紀は"魔法"の世紀」となることを予見する落合氏が描くアートとテクノロジーが融合した未来の社会、そして人間の姿とは?(【後編】"デジタル"と"ネイチャー"の区別のない世界を創り出す

"現代の魔法使い"の異名を持つメディアアーティスト・落合陽一氏は応用物理、計算機科学の技術を学際的なアプローチでメディアアートに落とし込み、世界から注目を浴びている。

メディアアーティスト。筑波大学助教・デジタルネイチャー研究室主宰。Pixie Dust Technologies CEO。経産省より未踏スーパークリエータ認定。TIME誌とFortune誌によるWorld Technology Awardなどでも入賞やノミネートされ、他にも受賞多数。

シャボン膜を振動させ、映像を映し出すことに世界で初めて成功した『コロイドディスプレイ』(2013)、超音波による音の焦点を利用して物体の浮遊と移動を実現した『Pixie Dust』(2014)などこれまで発表した作品はどれも国内外で高い評価を受ける。

YouTubeで公開された新作『Fairy Lights in Femtoseconds』の紹介ムービーは3ヶ月で73万回再生されている。強力なレーザーによって空中に発現した触覚性のあるプラズマとインタラクションを取れるとはどういった感覚なのか?SENSORSブルー岩本乃蒼が宇都宮大学・オプティクス教育研究センターで実際に体験、開発者の落合氏に話を聞いた。

■何もない空気中にプラズマで光を創り出し、インタラクションする『Fairy Lights in Femtoseconds』

強力なレーザーを集中照射することによってプラズマの絵を空中に発現させ、インタラクションすることができる『Fairy Lights in Femtoseconds』。

フェムト(femto)とはミリ、マイクロ、ナノ、ピコの下に位置付けられる単位であり、フェムト秒とは人間には体感できないほどの速さである。
岩本:
実際に触ってみるとピリッとしたり、私に対して反応を返してくれるというか、触った感触がありますよね。
落合:
プラズマを触っても焼けないというのは一つの特徴で、レーシックとかにも使われていたりします。手で触れても大丈夫なくらいのエネルギーに落として、空中で触れるインタラクション装置になっています。

プラズマを撮影しているカメラが指に当たったことを認識し、像が変わるプログラムが組まれている。1秒間に60フレーム動いているため、全く違和感を感じないインタラクションが可能となっている。

■エンターテイメントにまで魔法が浸透していけば、人間の考え方や過ごし方も変わっていく

岩本:
この最新作ではフェムトレーザーをお使いになっていますが、人の目で見ても速いかどうかも分からないくらいのものを操ることって、どういった感覚なんですか?
落合:
僕たちも速すぎて何が起こっているか分からないですね(笑)そういった意味ではほぼ魔法ですね。フェムト秒になってくると、実際に何が起こっているか分からないから、やってみるしかない。非線形現象ってありますよね。ある閾値を超えたら予測不可能なことが起こるので、それは実験するしかない。
岩本:
今後の展開はどうなっていくんですか?
落合:
例えば家の中のガスコンロと同じくらいの危なさだと思えばいいんですよね。フライパンだって触ったら火傷するし、頭突っ込んだら危ないですよね。直接目でレンズを覗き込んだら危ないけど、そうじゃない限りは大丈夫なものと理解が進めば、プラズマホログラムっていうジャンルは拡大していくと思います。
家の中以外でも例えば、ワールドカップやオリンピックのときにスコアが空中に出てきてもいいわけじゃないですか。
岩本:
たしかにエンターテイメント性を持てばさらに発達しそうですね。
落合:
あとはユーザーインターフェイス。触って変わるということはスイッチや触覚ディスプレイのようなものにもなるわけですよね。今は平面や機械が多いですが、三次元的に存在する空気が勝手にそういう機能を持ったらすごい面白いですよね。それってまるで魔法みたいで、かつ人間の考え方や過ごし方を変えていけるんじゃないかと思いますね。
岩本:
エンターテイメントと言えば、テレビや映画があると思いますが、映像はどう変化していくと思いますか?
落合:
映像って全員で同じコンテンツを見るための文化だと思うんですよ。映画館で走り回っていたら怒られるじゃないですか。今は映像をスマホ、パソコン、飛行機様々な場所で見られるので体験が変わってきています。誰が何を使っているのか分からなくなってきている魔法の時代。そのために使うデバイスもまたちょっと違う形をしているべきだと思うんですよ。
今だったらスマホっていう形を想像できるけど、Fairy Lightsだったら形を想像できないじゃないですか。もっと形が動的に変わっていったら、象徴的な形の機械っていうのが減っていって、各々が好きな価値観を保てる。ざっくばらんなイマジネーションで溢れた魔法の世界のようになると思うんですよね。

映像はコストが安く他人にプレゼンテーションできる装置になっていく。お芝居や映画っていうのは文化なので残ると思いますが、我々が生活の中で使っているスマホやテレビのようなコミュニケーションスタイルは絶対に変わっていくと思います。それはビデオを作ることでも、スクリーンを見ることでもない。次のメディアはどうやったら三次元空間に映像と同じように、またそれ以上に扱いやすいものを創れるかが鍵ですよね。

■メディアアートとは"人間の表現装置"を発明し続けること

岩本:
単刀直入にお伺いします。落合さんって"何者"なんですか?
落合:
自分では"メディアアーティスト"と名乗っています。ドイツ文学が好きで、フリードリヒ・フォン・シラーという詩人がいるんですけど、その人が「やがて自然は物質的な制約を断ち切って、自らの姿を自由に変えていく」って詩を書いているんです。そういうような哲学的な面から考えて、どうやったらこの世界を自由にできるか。まず哲学を考えて、それ通りにコンピュータを作っていこうという発想になったんです。これはちょっと研究者とは違うなと思ったので、アーティストと名乗っています。写真の技術、映像装置、はたまた3Dテレビといったメディア装置を発明することがメディアアートだと思っています。メディア装置の発明による芸術をどうやって定義できるのか、これは僕とメディアアートの戦いでもあります。
岩本:
具体的には何を考えて、何をやっていらっしゃるんですか?
落合:
僕のモチベーションは、どうやったら新しい"人間の表現装置"を創れるかということなんですね。それによって人間の感覚をアップデートしたい。例えばモノが浮いて、空中に絵を描いたり、触れる発光体を空中に作ったり、今までになかったものを創ってみる。そうやって、表現するための機械、「表現メディア装置」を発明し続けることが芸術だと思っています。

■10%の人たちが魔法の正体を知っている

岩本:
人は落合さんのことを"魔法使い"と呼びますよね?
落合:
分かりやすくてキャッチーで好きですね。19世紀にドイツの社会学者のマックス・ウェーバーが「世界は科学技術で脱魔術化した」って言ったんですね。どういうことかというと、例えばナポレオンが遠征するときに缶詰がありました。缶詰を火で炙るとなぜか腐らなくなる。その頃はまだ細菌が見つかっていなかったので、当時の人にしてみればまさに魔術ですよね。火による浄化。理由はわからないけど結果が使える。
でも最近はその逆になっている。コンピュータがどういう仕組みで動いているかは分からなくても、みんな普通に使える。世の中はほぼ魔法に包まれている。大半の人はこうやって科学技術を受けて入れてしまっていいと思っていて、残りの10%の人たちが魔法の正体を知っている。
岩本:
たしかにパソコンの仕組みを分かっている人は少ないのに、これだけ普及していますもんね。
落合:
全員が全員あの仕組みをパッと分かったら、みんな前頭葉が大きくなって異星人みたいになりますよ(笑)
10%の分かっている人と90%の分かってない人に分かれていてもいいと思うんです。逆に言うと、僕は公衆衛生や金融のことは分かっていないかもしれないですしね。どの分野においても、10%の人が魔法使い的に振る舞えばそれでいいと思っています。そういう意味ではコンピュータサイエンスの領域では僕は魔法使いみたいなもんだと思います。

【後編】「"デジタル"と"ネイチャー"の区別のない世界を創り出す」では、8歳でコンピュータに出会った幼少期から【デジタルネイチャー】という考えに至るまでの経緯が明らかになる。さらに、「映像の20世紀から魔法の21世紀へ」の真意、デジタル・ネイチャーがより顕在化しインターフェースが3次元空間に溶け込んだ世界像、テクノロジーを使って世界をどのように変えていくのか将来の展望を語っていただいた。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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