「あの人だけのために」---"言葉にできない感情"を写真に宿す、奥山由之の撮影哲学

2018.12.20 18:00

「写真家・映像作家と考える『表現のイマ』」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは写真家・映像作家の奥山由之氏だ。

全5回にわたってお届けするシリーズの第1弾記事では、奥山氏の掲げる信念「少人数に刺さるものをつくる」をテーマに行われたディスカッションの様子をお届けする。

弱冠20歳にして、写真家の登竜門「写真新世紀」で優秀賞を受賞した奥山氏。デビュー作でもある受賞作品『Girl』は、奥山氏が身近な人に向けて撮影した写真だった。「特定の人に向けた作品は、かえって多くの人の心に刺さる」と話す奥山氏に、表現者である齋藤、落合も大きく頷いていた。

ファッション関係者、ミュージシャンなど、さまざななクリエイターからも絶大な信頼を集める奥山氏。なぜ、人びとは彼の表現に惹きつけられるのか---。同氏の創作活動の根幹にある、鑑賞者を強く思いを届けたい人意識した表現に対する信念を紐解いていく。

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(左より)奥山由之氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

草野絵美(以下、草野):
今回のテーマは「写真家・映像作家と考える『表現のイマ』」です。写真家・映像作家のゲストをお招きし、現代に求められる写真や映像の価値を深掘りしていきます。落合さんは、写真がお好きでしたよね?
落合陽一(以下、落合):
そうですね。常にカメラを持ち歩いて撮影しています。あまり知られていないのですが、自分の作品も自分で撮影しているんですよ。
齋藤精一(以下、齋藤):
え!自分で撮っているんですか?
落合:
そうです。撮影のスキルって、読み書きそろばんのように、誰もが身につけるべきものになりつつありますよね。
齋藤:
僕は、カメラのこと全然わからないんですよね...。昔は少し触っていましたが、今はスマホでしか写真を撮らないです。
落合:
僕は機材にも凝っているので、このスタジオにあるような撮影機材、ほとんど持っていますよ。
草野:
すごい(笑)。機材愛が強いんですね。

以下、写真家・映像作家の奥山由之氏をゲストに招き、「表現のイマ」について議論が行われた。奥山氏は2011年、弱冠20歳にして、写真家の登竜門「写真新世紀」で優秀賞を受賞。2016年に発表した写真集『BACON ICE CREAM』は、「第47回講談社出版文化賞」で写真賞を受賞した。デビュー以来、数々の写真作品を発表しながら、テレビCMやミュージックビデオなども手がけ、映像作家としても活躍している。今回のSENSORSでは、"気鋭の写真家"とも称される同氏の思想を深掘りしていく。

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草野:
写真家・映像作家の奥山由之さんです。奥山さんはつい先日、「Forbes JAPAN」の「世界に影響を与える30歳未満の日本の30人」にも選出された、今最も注目されているクリエイターの1人です。
奥山由之(以下、奥山):
よろしくお願いします。
齋藤:
草野さんと奥山さんは、お友達なんですよね?
草野:
同じ大学に通っていたんです。私の19歳の誕生日パーティーの日に初めて会ったんだよね。
奥山:
共通の友人から「友達の誕生日パーティーがあるから行こう」と誘われて行ったのが、絵美の誕生日パーティーだったんです。でも当日にその友達が遅刻して、知らない人の中で知らない人の誕生日を祝うという、不思議な状況の初対面でした...(笑)。当時、絵美が「東京コレクション」の撮影をしていたので、同行させてもらったこともありますね。
齋藤:
草野さん、写真家だったの?
草野:
写真家として本格的に活動していたわけではなく、ファッション好きが高じて、コレクションの撮影をしていたんです。でも当時、奥山さんが真剣に写真に向き合っている姿を見ていて、「自分はそこまで写真が好きじゃない」と気づかされました。

身近な"あの人"へのメッセージは、世界中に伝播する

草野:
まずは奥山さんの思考を深掘りするために、ご自身の掲げる「3つの信念」についてお伺いしたいと思います。その3つとは、「少人数に刺さる作品をつくる」、「意識的に無意識をつくる」、「フィルムで撮る」。1つ目の「少人数に刺さる作品をつくる」とは、どのような意味なのでしょうか?
奥山:
どんな作品も、特定の誰かに刺さることを意識してつくっているんです。そうすることで、結果的に大勢の人に届けることができると考えています。実は、デビュー作品『Girl』も、特定の人への想いを込めた写真なんです。
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奥山氏のデビュー作「Girl」より

奥山:
当時、ある友人に特別な感情を抱いていたんです。しかし僕は、中学・高校と男子校に通っていたので、同世代の女性と話すことに慣れていなくて...。

そうして毎日悶々と過ごしていたある日、東日本大震災が起きたんです。あの時「いつ何が起きるかわからない」と強く感じたんですよね。それで、彼女に対する言葉にできない感情を写真で残しておこうと思ったんです。その写真が「写真新世紀」で優秀賞に選ばれて、写真集『Girl』として出版されました。

スタジオには、奥山氏の写真集『Girl』が用意され、MC陣が鑑賞した。シーツの乱れや、素顔の女性など、飾らない日常生活の断片が切り取られた写真を眺め、落合、齋藤は「ノスタルジーを感じる」と絶賛した。
落合:
カーテンから差し込む朝日の光とか、部分的にしか思い出せない記憶のようなものが描かれていますね。極めて物質的。すっぴんのこの子が、またいいんですよ(笑)。まるでアルバムみたい。
奥山:
「夢の具現化」みたいなことをしたかったんです。記憶を写真に落とし込みたいんですよね。
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草野:
奥山さんは、広告写真も撮影されていますよね。一般的に、広告は大衆に向けたものですが、その場合も「少人数に刺さる」ことを意識しているのですか?
奥山:
はい。逆に「この作品を届けたい」と思う人が誰だか分からないお仕事に関しては、基本的にお引き受けしづらいです。被写体の人なのか、一緒に作るスタッフさんなのか「この人のために!」というのを思い描きたい。例えば「20代の人々にはだいたいこんなものが刺さるよね」と言って、世の中の統計に合わせてつくった作品は、ただ"目に入る"というだけで終わってしまう。反対に、「届けたい」と思う対象が狭ければ狭いほど、結果的に多くの人に伝わっている気がします。
草野:
落合さん、齋藤さんは「少人数に刺さる作品をつくること」についてどう思われますか?
齋藤:
僕の場合は、少人数かどうかはあまり気にしておらず、とにかく自分自身が見たいものをつくっていますね。世の中には、自分と同じようなものを見たいと思う人がたくさんいるはずなので。
落合:
少人数にしっかりと刺さるものは、世界中に広がりますよね。世界に目を向ければ、同じ思考や感情を持っている人は一定数いる。意外に似た人間って多いんですよ。しかし、中途半端なメッセージは誰にも刺さらない。心の底から想いをのせないと、意味がないと思います。
奥山:
面白いもので、「この人たちに届けたい」と思い描いていた対象の人たちには届かず、その周囲だったり、意外な人たちに届く場合もありますね。落合さんの仰るとおり、まず大前提として、心の底から伝えたい想いがなければ、作品を届けたい人たちに届かないと思っています。

続く第2弾記事では、奥山氏の掲げる信念「意識的に無意識をつくる」「フィルムで撮る」をテーマに行われたディスカッションの様子をお届けする。

前半は"全編スマホ撮影"で話題を呼んだ、never young beach「お別れの歌」のミュージックビデオを一同が鑑賞。齋藤は「人生の引き出しを開けられた気分」と感想を述べつつ、奥山氏の高度な表現術を絶賛した。

後半は「フィルムカメラしか使わない」と話す奥山氏に、その理由を明かしていただいた。デジタルカメラよりも画質が劣り、利便性も低いフィルムカメラを愛用する理由とはーー。奥山氏の「表現」への熱き想いを紐解いていく。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一が悶絶する写真集...ゲスト:奥山由之( 表現のイマ 1/5))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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