奥山由之が写真集「POCARI SWEAT」で写した"青春"とは?エモーショナルを喚起するシャッターの押し方

2018.12.25 18:00

「写真家・映像作家と考える『表現のイマ』」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは写真家・映像作家の奥山由之氏だ。

全5回にわたってお届けする第3弾記事。前半は、奥山氏が手がけたPOCARI SWEATの広告写真を見ながら、撮影時のこだわりを伺った。齋藤は同広告を「エモーショナルだ」と称し、現代における広告の在り方について、議論が交わされた。

後半は齋藤からのキーワード「今のドキュメント」をテーマにトークが白熱。「人は『突然の雨』にときめきを感じている」と話す奥山氏に、その真意を問う。さらに話は「時間の流れ方」にも及び、落合からは「未来から過去に時間が流れている」という発言も飛び出した。

アーティストとして第一線で活躍する3人は、俯瞰的な視点を持つ。「人の心の在り方」に注目し、表現を志向する彼らの対話から、表現の本質を探る。

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(左より)奥山由之氏、齋藤精一、落合陽一、草野エミ

「青春を全力で肯定した」ーーPOCARI SWEATの広告写真に込められた想い

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奥山氏が手がけた「POCARI SWEAT」の広告写真をまとめあげた写真集

落合:
POCARI SWEATの広告写真に映っている高校生たちは、オーディションで選ばれた人たちなんですか?
奥山:
そうですね。
落合:
全員、番号札が貼ってありますもんね。この写真があることで「青春」がより伝わってくる。彼らは、このCMに出るために必死で頑張ったわけじゃないですか。本気で頑張っている人の青春ってすごくかっこいい。それが感じられるのが、いいですね。
奥山:
もともと「こういう画を撮ろう」とイメージしていたわけではないんです。撮影中は、とにかく「彼らの『青春』を全力で肯定する」ことだけを考えていましたね。
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草野:
広告写真を撮影するときに、いつも心がけていることはあるんですか?
奥山:
その広告で伝えたいメッセージを、自分の体内に取り込んで、理解してから撮影に臨みます。たとえばPOCARI SWEATであれば「青春」。踊っている高校生の姿を全身で感じながら、写真に落とし込みました。個人的な気持ちが入らなければ、いい写真が撮れないんです。

とはいえ、「自分の思想と合致しなかったら、撮りたくない」わけではないので、まずクライアントさんやスタッフさんとの会話を重ねて、その考えを自分の体内に取り込んでいきます。広告であっても自分の作品であっても、基本的な姿勢は変わらないですね。
齋藤:
本来の広告は、こうあるべきですよね。もちろん「安い」、「美味しい」といった直接的な訴求をするのも、ひとつの手です。しかし、人の心に深く刺さるのは、誰しもが持っているけど、日常的に口に出すことはないような感情を呼び起こすものだと思います。昔の日本には、こういうエモーショナルな広告がなかったですね。
奥山:
そうなんですね。
齋藤:
2013年に、ライゾマティクスでKDDIさんのCMを制作したのですが、当時は「商品を前に出してほしい」と言われていましたね。でも僕たちは、商品の直接的な訴求はせずに、商品を使って実現し得る「未来の都市」をCGで表現したんです。人びとの「ワクワク」を引き出したんですね。結果的に、そのCMは多くの人から反響を得ることができました。

僕が一番好きなCMは、ソニーのウォークマン「Play You」のCMです。「Play You」で音楽を聴きながら歌う新垣結衣さんと共に、全国から集まった人たちが歌っているんですよね。直接的に商品を宣伝していないけど、心に残るんですよ。
落合:
一緒に口ずさみたくなりますよね。

人は、変化が好きな生き物。思想をアーカイブする「写真」に、人々がときめく理由

草野:
MCのお2人から奥山さんに聞いてみたいキーワードをお預かりしています。まずは、齋藤さんからいただいたキーワード「今のドキュメント」。
齋藤:
今の時代、もの凄い速さで色々なものが変わっていくじゃないですか。なので僕は、2023年くらいまでの「今」をドキュメントとして残したいと思っていて、データを残しているんですね。街や人の「今」を記録しているんです。奥山さんにも、そういう欲求ってありますか?
奥山:
そうした欲求を抱く人がいることは理解できますが、自分にはないかもしれないですね...。
齋藤:
1964年に東京オリンピックが開催された時もそうですが、新しいものが生まれる裏では、色々なものが捨てられているんですよね。東京オリンピックの写真を見るよりも、今とは違う当時の街並みが写っている写真を見る方が、盛り上がります。だから今、2020年に向けて捨てられていく「今」を記録しているんです。
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奥山:
微妙に話がずれてしまうかもしれないのですが...。人って、結局のところ変化が好きなんだと思います。いい変化だけではなく、悪い変化であっても、心のどこかで、実はときめいている。最近観た演劇で「人は"突然"が大好きなの。突然の雨にみんな『参ったな』と言うけれど、本当はその状況を喜んでいるの」といったセリフがあって、共感したんですよね。
齋藤:
たしかに、みんな変化にときめいているのかもしれない。
奥山:
僕は「数十年前に撮影された渋谷の写真」とかを見るとすごい興奮するんですよ。今はなき街並みが映っているので。それもやっぱり、瞬間的に変化を認知できるからだと思います。
齋藤:
それは先ほど話していた、「感情の引き出しを開ける」ことに似ていますよね。人間は変化を恐れながらも、変化を求めているのかもしれない。それらは表裏一体で、変化の背景には、色々な欲望が渦巻いているんですよね。
落合:
昔の写真を見ていると、マスメディアの影響力の強さを感じますよね。昔の渋谷で撮影された写真を見ると、同じ格好や髪型をしている人たちばかりなんですよ。でも彼らは当時「自分は人と違う」と主張していましたよね。同質性の中で我が道を模索していた。マスメディアの影響力が弱くなるにつれて、その風潮は廃れました。その変化は面白いなと感じますね。
奥山:
たしかに。
落合:
日本の学校教育も、すごくマスメディア的なんですよね。たとえば制服。100年先の未来人からしたら、制服を着る意味がわからないと思います。しかし「制服を着る」ことは、ひとつの日本文化でもある。そういうマスメディア的な思想をアーカイブしておかないと、もったいない気もしますよね。
草野:
私は、80年代に撮影されたホームビデオを観るのが好きですね。そこに映っているお年寄りの方はもういなくて、赤ちゃんはおじさんおばさんになっている。でも、そこに映っている建物は今も変わらずあるということに、すごくときめくんです。
落合:
なぜ、そこにときめくんですか?
草野:
二度と再現できないシーンだからです。
落合:
なるほど。草野さんは、過去から未来に向けて時間が流れていると思うタイプなんですね。
草野:
落合さんは違うんですか?
落合:
僕は、未来から過去に向かって流れていると思っています。木に掘った相合傘を見た場合、草野さんは懐かしさを感じるタイプ。僕の場合は「あの時に掘ったものを発見した」と思うタイプですね。
草野:
映画『バックトゥザフューチャー』みたいですね。
落合:
そうそう。あれは未来から過去に向かって時間が流れていますよね。

続く第4弾記事では、奥山氏の内面をより掘り下げていく。

前半は、落合の提示したキーワード「ビジネスモデル」をテーマにトークが展開。「写真そのものが好きではない」と話す奥山氏は、なぜカメラをかまえ続けるのか。「表現者」としての仕事論を探っていく。

後半は、奥山氏から投げかけられた「未来の写真と映像」について、濃密なディスカッションが交わされた。落合、齋藤の深い考察から、「フィルム写真」や「レコード」といったアナログブームが起きた理由を探る。

さらに「アーティストとしてのブランドが確立した転換期」についても話題が及び、3人のもとに舞い込む仕事の依頼形式まで明かされた。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一は未来人!?ゲスト:奥山由之( 表現のイマ 3/5))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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