フィルムカメラブームが教えてくれる、デジタル全盛期に人がアナログ回帰する理由

2018.12.26 18:00

「写真家・映像作家と考える『表現のイマ』」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは写真家・映像作家の奥山由之氏だ。

全5回にわたってお届けする第4弾記事。前半は、落合が提示したキーワード「ビジネスモデル」をテーマにトークが展開。「写真そのものが好きなわけではない」と話す奥山氏の「表現者」である理由を紐解いた。

後半は、今回特別に設けられたMC陣への質問コーナーの様子をお送りする。奥山氏から投げかけられたテーマ「未来の写真と映像」について、濃密なディスカッションが交わされた。奥山氏は、「フィルム写真」や「レコード」といったアナログブームが起きたのは「人びとが情報の"粒"を欲している」からだと分析する。

さらに「アーティストとしてのブランドが確立した転換期」についても話題が及び、3人のもとに舞い込む仕事の依頼形式まで明かされた。

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(左より)奥山由之氏、齋藤精一

今と昔で大きく変わった、写真家のビジネスモデル

草野:
それでは、次のキーワード「ビジネスモデル」についてお伺いしたいと思います。これは、落合さんに挙げていただいたものですね。
落合:
昔と今で、写真家のビジネスモデルが120%変わったと思うんですよ。たとえば、蜷川実花さん。彼女の撮る写真は、極彩色の世界観が特徴です。肩書きは写真家だけど、独特のビジュアルイメージを創り出すアーティストでもある。インスタグラマーは写真を撮るのが仕事だけど、写真家とは言えないですよね。昔は「写真を撮る人=写真家」だったけど、その定義が変わってきているんです。その点について、どう思われますか?
奥山:
僕は「写真家」と呼ばれる人たちの中では、多様な活動をしている方かもしれませんね。先ほどもお話ししたように、意識的に色々なメディアで作品を発表していますから。なので僕はきっと、写真そのものが好きなわけではないんですよね。写真や映像の「表現」を通して、人の心に訴えかけることが好きなんです。表現をする方法は、写真や映像以外にもある。その事に気づいているか否かで、活動の幅が決まる気がします。
落合:
そうですよね。
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(左より)齋藤精一、落合陽一

齋藤:
奥山さんはさまざまなクライアントワークをされていますが、仕事の依頼はどのような形でくるのですか?ある程度枠組みが決まった状態なのか、それともお任せで来るのか...。
奥山:
自分で言うのも恥ずかしいのですが、ここ数年は「奥山さんの色を出してください」と言っていただけることが増えています。「写真か映像か」「何をテーマにするか」だけを共有されて、「後は奥山さんの自由に描いてください」と言われることが多いですね。
落合:
僕の場合、毎回そんな感じですよ。
齋藤:
そういった形での発注が増えはじめる転換期ってありますよね。
落合:
5年前くらいから、そうなりましたね。
奥山:
まさにそういう状態です。
齋藤:
個人のブランドが確立されると、「この人に頼めばなんとかなる」と思われるようになるんですよね。社会からの見え方が変わる瞬間って、クリエイターにとってすごく大事だと思います。
草野:
特に今の時代は、そうですよね。
落合:
ちなみに、僕は「落合さんならどうしますか?ゼロから考えてやってみてください」とよく言われます。まるで大喜利みたいに。1番驚いたのが「イカを売ってください」と言われた時です(笑)。イカのこと何も知らないのに...。
草野:
とんちですね。一休さんみたい(笑)。
落合:
最近だと、オーケストラの仕事もしました。
草野:
全力でやられていましたよね。
落合:
真面目なので、全部引き受けてしまうんですよ。
奥山:
僕は「イメージを一新したい」といった依頼がとても多いです。「ゼロからやってください」という依頼は、まだ来たことがないですね。
落合:
いきなり「イカ売ってください」と言う人が、現れるかもしれませんよ。
奥山:
イカを売りたいかは別として、自分が「好きだな」思えるものであれば、ぜひやりたいですね。自分が素直に「いい」と思えるものをつくって、みんなが幸せになったら嬉しい。それがビジネスとして回ったら、最高ですよね。当たり前の話ですが。
齋藤:
僕の場合、経営者でもあるので「やりたいけど、予算が足りない」こともあるんですよね。そこが難しいところでもあります。
落合:
アーティストとして僕個人が受ける仕事と、会社として受ける仕事は頭の使い方が全然違います。個人の仕事は自己責任なので、採算が合わなくても好きなものをつくります。会社の仕事だと利益が生まれない場合、暴動が起きるかもしれないので、好き勝手にはできない...(笑)。

なぜ、フィルムカメラブームが再燃したのか。情報過多の時代に、写真が優位性を保つ理由

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草野:
今回新たな試みといたしまして、MCのお2人への質問コーナーを設けました。奥山さんからお2人に、たっぷり質問していただければと思います。まず「未来における、写真と映像の関係性」について。こちらはどういった意味でしょうか?
奥山:
この10年で、主な表現形式が写真から映像に、徐々に変わってきていますよね。広告は特にその動きが顕著です。しかし単純に「写真が映像に置き換わった」わけではないと思っています。「動いているものに目がいってしまう」といった人間の動物的習性が影響している気がするんですよね。

とはいえ、写真には映像にない良さも当然ありますよね。そう考えたとき、写真と映像は将来的にそれぞれどのように活用されていくのか。10年前と今では驚くほどに世の中が変わったので、10年先がどんな世の中になるのか、僕には想像ができません。未来の社会で、人びとは写真や映像とどのように関わっていくのか、お二人の意見をお伺いしたいです。
落合:
写真と動画を見ているときの視覚的な違いは、2015年に出版した『魔法の世紀』にも書きました。アナログなものとデジタルなものを見ているときでは、捉える色が違います。写真はCMYK(反射色)、動画はRGB(発光色)で色が出力されています。
奥山:
そうですね。
落合:
個人的には、近年の写真は物質性が高まっていると感じますね。iPhoneやディスプレイの解像度が上がってきたので、被写体の素材感を鮮明に映すんです。「目の前にあるモノをフィルムに焼き付ける」というよりも「被写体の物質性を確認する」ために、写真がある気がします。

反対に、動画は波動のようなものだと感じています。たとえばプロジェクションマッピングは、映像というよりも舞台照明です。光に対する自由度が上がれば上がるほど、新しい表現が生まれていくのだと思います。
齋藤:
人間が求める情報量が、時代と共に変わっている気がします。映像も写真も、粒子の塊じゃないですか。粒子を1つの情報として捉えた場合、より多くの情報が求められる時代には映像が好まれる。情報過多になった時には、写真が増えていく。特に広告においては、その傾向があると思うんです。

広告に関して言うと、ひと昔前はユーザーがタッチできるインタラクションなものが好まれていました。しかし数年前から廃れていき、今はスライドショーのような静止画の組み合わせが好まれている。先ほどもお話ししましたが、人は変化を求めていながらも、恐れているんですよね。映像は見ていて楽しいけど、情報がありすぎると嫌になるというか...。
奥山:
なるほど。
齋藤:
「写ルンです」が、若い子の間で流行っているのも、同じ流れだと思います。チェキの売り上げも伸びていますしね。最新のポラロイドはよくできていて、スマホと連携できるんです。スマホでシャッターが押せるので、ファインダーを覗かないで撮れる。シャッターを切る時、スマホに映るのは鮮明な画像なのですが、最終的に出てくるのはポラロイドのアナログな写真なんですよね。
落合:
齋藤さんが、ポラロイド写真のような偶発性の表現を好むのは意外です。僕はライカで撮った写真を、ポラロイドで撮影していますね。ポラロイド写真の質感は好きだけど、偶発性の表現はあまり好きではないんです。まずは、意図的に撮影したい。
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草野:
奥山さんは、お2人の話を聞いてどう思いますか?
奥山:
今の時代は波動が飽和状態にあるけれど、人びとは物質的な表現を求めているということですよね。RGBで見る波動的な情報が増えたことで、CMYKで出力される物質的な質感が浮き彫りになって、そこに惹かれる人が多い。
落合:
CG作品がもっと増えてくると、写真の価値が高まる気がしますね。CGだと、すべて思い通りなものがつくれるじゃないですか。
奥山:
今、レコードブームが再燃しているのも同じ理由かもしれませんね。テープ、CD、MD、データと記録媒体が進化してクリアな音質に耳慣れているからこそ、レコードが出す音の粒感に魅力を感じる人が多いのだと思います。
落合:
その通りだと思います。技術が上書きされて、情報の粒度が細かくなればなるほど、一つひとつの粒自体に惹かれるというか...。
齋藤:
そういう時代になったっていうことですね。僕が若い頃は、画像の編集ソフトは1個のフィルターをかける間にタバコが1本吸えたんですよ。でも今は、早すぎてタバコを吸う暇がない(笑)。そういったテクノロジーの進化の影響は大きいですよね。

次回最終回となる第5弾記事の前半は、奥山氏からの質問をテーマにトークが白熱。「スマホの普及で、人びとの目線の角度が下がっている」と話す奥山氏。デジタル領域の最先端に立ち、未来を志向するMC陣に「デジタルメディアの普及は、人体に影響を及ぼしているのか」という質問をぶつけた。

後半は、奥山氏とMC陣によるブレストの様子をお届けする。それぞれが欲しい「理想の撮影機材」をテーマに繰り広げられた「未来の商品会議」ではトップクリエイターたちによる、夢溢れるアイディアが多数飛び交った。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一が解説するフィルムの物質性.ゲスト:奥山由之( 表現のイマ 4/5))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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