究極の自然体は「目」で撮影するーー奥山由之×落合陽一×齋藤精一が考える「未来の撮影機材」

2018.12.27 18:00

「写真家・映像作家と考える『表現のイマ』」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは写真家・映像作家の奥山由之氏だ。

全5回にわたってお届けする最終回の第5弾記事の前半は、奥山氏からMC陣に投げかけられた質問をテーマにトークが白熱。「デジタルメディアの普及は、人体に影響を及ぼしているのか」という奥山氏の問いかけに対して、齋藤から「日本人のDNAには、セーラームーンの姿が刷り込まれている」という興味深い話が飛び出した。

後半は、奥山氏とMC陣が欲しいと思う「未来の撮影機材」についてブレストを実施。「目をカメラにしたい」「脳内のイメージを映し出したい」など、トップクリエイターたちによる、夢溢れるアイディアが多数飛び交った。

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(左より)奥山由之氏、齋藤精一、落合陽一、草野エミ

「セーラームーン」は日本人の足を長くした?デジタルメディアと人間の関係性

草野:
MCのお2人への質問コーナー。続いての質問は「デジタルメディアの進化は、人体に影響を及ぼすのか」です。
奥山:
街ゆく人たちを見ていてここ数年で感じていることなのでが、 5年くらい前から、街中にいる人々の視線の角度が平均的に下がっていると思うんです。
落合:
どういうことですか?
奥山:
スマホを見ている時間が長くなってから、目線の平均角度が下がっていると思うんです。街中で誰かと偶然目が合うことも少なくなった気がしています。だから、昔の映画によくあった「目が合った瞬間に恋に落ちた」といったシーンは、もう共感を得られないと思います。スマホが登場して、人との出会い方も、感情が動くポイントも、恋愛の形も変わった。飛躍して言えば、メディアの進化は人体になんらかの影響を及ぼしているんじゃないかとも思うんですよね。それこそ、この先20年で表情とか骨格が変わっていくかもしれない。この点について、お二人はどう思われますか?
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落合:
これまでも生活の中に新しいメディアが登場するたびに、生活様式に変化が生まれてきましたよね。たとえば、食事の時間。テレビが一般家庭に普及してから、食卓で繰り広げられる会話は、番組に対する感想やツッコミが中心になりました。会話の批評性が高くなったんです。さらにスマホが登場してからは、スマホを見ながら食事をする人が増えた。僕の場合は、食事の時間にテレビ会議をすることも多いです。これからの時代は、ハングアウトで友達と話しながら飲み会をするのもありだと思います(笑)。
草野:
私はよく、リモート飲み会をしています。海外にいることが多いので。
落合:
齋藤さんと僕も今度、リモートで飲み会しますか(笑)?
齋藤:
やりましょう(笑)。メディアと人体の関係に話を戻すと、「VRゴーグルをつけ続けていると首がおかしくなる」と言われていますよね。他にもこんな話があります。以前お話しした解剖学の先生曰く、ある時代から、日本人の足が長くなってきたそうなんですよ。「『セーラームーン』や『プリキュア』などのアニメを観た人たちのDNAに、10頭身で描かれたキャラクターの姿が刷り込まれていて、それが人体に影響を及ぼしているのではないか」というのが、その先生の仮説です。
草野:
面白いですね。
齋藤:
本当かわからないですよ。でも、あり得る話だとも思います。我々は、あらゆるメディアからサブリミナルメッセージを受け取っていて、それらは人体に影響を及ぼしているのかもしれない。メディアと現実の境界が曖昧になっているんですよね。だからこそ、今後リアルな体験や空間の価値が高まる気もします。
落合:
それは、間違いないですね。
奥山:
体験型の展覧会も増えていますよね。
齋藤:
大衆に伝えたいメッセージがある場合、駅貼りのポスターよりも、リアルな体験の方が圧倒的に刺さりますよね。リーチする人の数が少なくても、エンゲージメントは高いので。
落合:
ヨーロッパのハイブランドは、オフラインの体験を重視していますよね。ブランドの価値を高めるために、クローズドなサロンをつくって、顧客にシャンパンを送ったり...。リーチの拡大を狙うのではなく、人の心に深く刺さる体験を提供した方が、本質的ですよね。
齋藤:
将来的に、スマホはインフラ化するとも思います。あと10年くらい使ったら、ある程度その特性が理解できるじゃないですか。そうすると「スマホの良さはわかった。でも俺はこっちが好きだ」と別のツールを使う人も出てくるはずです。デジタルカメラとフィルムカメラを使い分けるように、スマホも複数ある道具のうちのひとつになっていくと思いますね。おそらく「便利すぎて世の中がつまらない」と言い始める人が、今後増えるのではないでしょうか。
落合:
「コンビニでは買い物したくない」と言い出す人とかいそうですね。

撮りたいものが撮れる「理想の撮影機材」とはーートップクリエイターによる、未来の商品会議

草野:
最後は、ブレストのコーナーです。テーマは「こんなの欲しい!未来の撮影機材」。スマホのカメラもどんどん進化していますし、GoProや360度カメラなど、様々な撮影機材が登場していますよね。クリエイターである皆さんに、「今後こんな撮影機材があったらいいな」と思うものについて話し合っていただきたいと思います。未来の商品会議ですね。
落合:
僕の場合、研究者なので実際に「未来の撮影機材」を作っていますよ。一般的なカメラの30兆分の1のシャッタースピードで写真が撮れる機材とか...。
奥山:
すごい(笑)
落合:
僕が今欲しいのは、細胞の個体を撮れるカメラですね。もはや撮影機材と言えるかわからないですが。奥山さんは、どんな撮影機材が欲しいですか?
奥山:
撮影機材というよりも、目そのものをカメラにしたいですね。
落合:
目の光学中心に合わせたカメラなら、つくれますよ。ちょっと重いかもしれないけど。
奥山:
メガネくらいのサイズですか?
落合:
そうですね。つくろうと思えばつくれます。映画『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のような、長回しの映像は撮りやすくなるんじゃないかな。「Snapchat」を運営するSnap社も、メガネ型カメラを開発していますよね。
奥山:
カメラがあると、どうしても被写体の方が機械への意識をしてしまう。もし瞬きだけでシャッターを押せれば、もっと自然な表情を撮れると思うんですよね。「いいな」と思った瞬間にシャッターを切れる。カメラでは「いいな」と思った瞬間と、シャッターを押す瞬間には微妙にズレが生じてしまうんですよね。
齋藤:
「撮りたい」と思ってから、シャッターを押すまでに0.2秒くらいかかりますもんね。
奥山:
じーっと待って、一瞬のシャッターチャンスを狙う写真家の方もいらっしゃるのですが、僕にはそれができないんです。だから、いつシャッターを押しても自分のイメージに近い写真が撮れるような"空間作り"に力を入れるんです。なので、撮影は「空間をつくる」感覚なんですよ。
草野:
脳の動きに反応するセンサーをつけて、指に電流を流すとかできそうですね(笑)
落合:
報道カメラマンは、シャッター音が小さい「レンジファインダーカメラ」を好むんですよね。シャッター音が極力小さい方が、自然な写真が撮れるので。僕が今持っているこのカメラも、歴代のライカの中で1番シャッター音が小さいものです。
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落合:
脳内のイメージを映し出せる機材も欲しいですね。知り合いがfMRI(MRIを利用して、ヒトおよび動物の脳や脊髄の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法の一つ)を使って試作していましたが、MRIで撮影した画像に統計データを重ねているものなので、脳にあるイメージをそのまま映し出しているとは言えませんでした。
齋藤:
フィルムムービーカメラにも、もっと進化してほしいですね。業務用のムービーカメラ「Alexa」の後発モデル「ALEXA Mini」は小回りが利くので、撮れるものが増えたんですよ。クオリティは落とさずに、機材が小さくなっていけば、撮影の幅が広がりますよね。それが「目がカメラになる」話につながるのかもしれませんが。
落合:
カメラ愛好家としては、オールドレンズでもオートフォーカスができるものが欲しいです。カメラスキルって、カメラ側の調整を極めることで磨かれていくんですけど、レンズ側の調整はカメラに自動でやってほしいんですよね。
齋藤:
なるほど。
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落合:
人間の力だけでピントを合わせ続けるのは、難しいんです。そこはコンピューターの力をお借りしたい。うちのラボにいるメンバーは、こういうことを思いついた翌日には実際に機材を作っているんですよね。ただ、それをコンシューマー向けの商品にするまでには至っていないので、そこに頭を悩ませています...。
齋藤:
もはや撮影機材の話ではないのですが、マイクも進化の余地があると思います。ミュージカルの出演者って、肌色のマイクをつけているじゃないですか。あれはなんとかしてほしい。口の中にマイクを入れるとかできないのかと思います。
奥山:
僕も、ミュージカルのマイクは不自然だと思っていました。
落合:
歯をマイクに変えられるのなら、僕は変えますね。収録のたびにマイクをつけるのが面倒臭いんですよ。
齋藤:
それだけ小さいマイクが実現したら、エンターテイメントに革命が起きますよね。マイクがあるだけで、雰囲気が壊れません?
落合:
壊れますね。ネクタイみたいに、儀礼的だと思います。
草野:
スパイの世界では、ありそうですよね。
落合:
GoProのように、ファッション性の高いウェアラブル端末も増えてほしいですね。Googleグラスが普及しなかったのは、見た目がイケていなかったからだと思います。
落合:
肉眼で見た時の感覚に近い映像を生成する撮影技法で、ライトフィールド撮影というものがあるのですが、奥山さんはそれを使ってみたらいいんじゃないですか?
奥山:
そんなものがあるんですね。試してみたいな。
草野:
そろそろ終わりの時間となりました。奥山さん、いかがでしたか?
奥山:
落合さんの「明日にはつくれるけどね」という発言がとてもかっこいいと思いました。僕もいつかそういう発言がしたいです。
落合:
今回は、みんなのプロ意識が高すぎましたね(笑)
齋藤:
このブレストシリーズを起点に、新製品も開発や実験ができたら面白いですね。
草野:
SENSORS発の新製品、楽しみにしています!

時代の変動を冷静に見つめ、人びとの感情の動きに目を向ける。そして、それを自身の心に投影し、作品に落とし込む---。奥山氏が「気鋭の写真家・映像作家」と呼ばれる背景には、徹底的に「人の感情」に向き合う姿があった。

大切な人が微笑んだとき。仲間と熱狂する時間。「嬉しい」や「楽しい」などでは表せない感情が心に湧き上がる。人を惹きつける表現とは、そうした「言葉では表せない感情」を表象したものではないだろうか。

今後、VRやARの民主化が進んでいくだろう。しかしどんなにテクノロジーが進化しても、人間の本質---感情を持つ生き物であることは変わらない。「表現」を技術による演出と捉えるか、人の感情のスイッチを押すこと捉えるか。誰でも創作物を世界に向けて発表できる「1億総クリエイター時代」の分かれ道は、表現の根底にある信念にあるのではないだろうか。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一のカメラ話は止まらない!ゲスト:奥山由之( 表現のイマ 5/5))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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