「シンギュラリティ=技術的特異点を15年早めたい」小笠原治がいま注目するテクノロジー、スタートアップ

2016.02.01 20:30

ABBALab 小笠原治さんを会場で直撃!スタートアップが「CES」に挑戦する意義とは?」でもお話を伺った、投資家、DMM.make AKIBAプロデューサー、実業家として活躍する小笠原治氏。今回はその続編として、注目しているテクノロジー、スタートアップと大企業の関係性、2045年シンギュラリティを見据えたビジョンについて帰国後改めてSENSORS.jp編集長・西村真里子が迫りました。未来を捉えるヒント満載です。

■IoTの意味づけが変わる?人の気配をセンシングする準静電界

西村:
時代を見るヒントが欲しくて、「CES」現地に引き続きインタビューのお時間をいただきました。早速ですが、小笠原さんがいま注目しているテクノロジーとその理由を三つ教えてください。
小笠原:
シンプルに僕自身が欲しいものでいうと、ある程度自由な通信、無線給電、準静電界のセンシングに興味を持っています。準静電界はいわゆる「人の気配」と言われているもので、サメやエイ、ナマズなどで発達している電解検出センサーについて研究されているものです。サメだと3メートル先にいる砂の下にいるヒラメとかを感知できるんですよね。
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西村:
私はサメが大好きでかつて文献を読み漁ったのですが、それはロレンチニ瓶と言われるセンサーのことかもしれません。人間でいうところの毛穴でセンシングできるやつですね。
小笠原:
人間の場合はそのセンサーが内耳の蝸牛や体毛にあるんじゃないかと言われていますが、「人の気配」でセンシングできるのでIoT自体の意味づけが変わると思い、興味を持っています。
準静電界が発達すると人感センサーが不要になり、操作不要の世界が広がると考えています。そして、一人一人発する気配は別だろうから、どのように識別していくのかも気になるところです。
西村:
「通信」、「無線給電」、「準静電界」。この三つに共通するのはなんでしょう?
小笠原:
小笠原:トータルで見ると全部無線になるのですが、その中でも「通信」は技術的な興味というよりはあるべき論として関心持っています。現在、通信は国が許可しないと扱えないのでもっと自由な通信があってもいいのではないか、と考えています。
そして「無線給電」。これはみんなが困っていることなので新しいソリューションが生まれやすい領域かと。そして技術的関心があるのが「準静電界」ですね。オカルト的な意味での関心ではないですよ(笑)。
西村:
私はサメ好きから「準静電界」に一気に興味が湧きました(笑)。ありがとうございます。

■変革を起こすのはスタートアップ?大企業?

西村:
イノベーションを大企業とスタートアップの対比で語られることが多くなりましたが、この10年で変革を起こすのはスタートアップか?それとも大企業か?もしくはコラボレーションモデルか?小笠原さんのご意見を教えてください。
小笠原:
ポジショントークにもなりますが、答えは「スタートアップ」です。そして、大企業になるスタートアップが出てきます。
西村:
それは、この先10年で起きる現象と考えておけばよろしいでしょうか?
小笠原:
5年くらいじゃないしょうかね? しかもそのスタートアップの半数ほどが大企業からのスピンアウト組が占めると考えています。

これは「イノベーション」に対しての僕の持論なのですが、いまの大企業はイノベーションを起こして大企業になったところがほとんどです。ただ現在ではかつてのイノベーションがコモディティ化し、それを守るためのルールセットを作り続けていく連続性の中にいると考えています。イノベーションって非連続なものですよね?なので、連続性の中にいる現在の大企業がイノベーションを起こすのは難しいかと。イノベーションは大企業からのスピンアウント組や外部から起こると考えています。
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■日本は優先順位2位の市場

西村:
次の質問は「日本のスタートアップが世界で成功する方法」です。これは、わたし自体がジレンマを感じつつ質問しています。なぜジレンマを感じているかというと、すでに「日本」と「世界」という垣根が無くなっている世界で「日本のスタートアップが世界で成功するには?」という切れ味悪い設問も歯がゆく思っていながら、言語の壁も含めていまだに「日本」と「世界」対比は存在するのかな、と。小笠原さんがどのように捉えているかも教えてください。
小笠原:
最初からプロダクトを投入するマーケットを「日本以外」に設定し、日本の優先順位を二番目にするのがいいんじゃないでしょうか。もしくはよく言うグローバル・ニッチですが、本気で国じゃなくターゲットユーザーに売っていく、Gateboxのように「興味を持ってくれる人に売る」というスタンスがいいのかもしれません。
西村さんもラスベガスCES 2016で見たCerevoのTipron(ロボット型プロジェクター)などは、日本の狭い家庭ではおけないでしょう。明らかに海外向けプロダクトです。同じくCerevoの3Dプリンターで作った自転車ORBITREKにしてもヨーロッパの方が自転車文化やツールド大会もあり受け入れやすいと考えています。とりあえず日本を二の次に考えてプロダクトを作っていけば面白いモノができるのではないかと。日本でも欲しがってくれる人がいる、ぐらいが。
西村:
国内、海外でいえば年末にABBALab出資先スタートアップのOrpheがMashableに掲載(※2015年で最もイノベーティブな靴としてOrpheが紹介されたMashable記事)されていましたよね。あれはすごいニュースだな、と思ったんですが特にMashable側に働きかけたとかではないのですよね?
小笠原:
ほんとにたまたま、Orphe作ってるNNFの菊川君から「Mashableに載りました〜」と軽い報告があり、それに対してこちらも軽くおめでとう、と。そんなノリだったんですけど。どちらかというと我々の周りの方に喜んでいただいた感が強いですね。
西村:
わたし自身のマインドセットも変えていかなければと思う話ですね。「Mashable載った。やった!」ではなく、それはあくまでもプロセス上のひとつで自然な流れとして捉える、と。
小笠原:
ABBALabの投資先のスタートアップは誰も特別なことやっていないんですよね。好き勝手やっているだけ、という。
西村:
ABBALabが投資する際の判断基準が気になってきました。小笠原さんとしてはMashableに載るような、もしくは大企業になるようなスタートアップを探して投資しているのでしょうか?
小笠原:
投資先のスタートアップ同士で面白いものを作り出す連中もいるのかな、という視点で見ていますね。そういう連中を出来るだけ近くにあつめる。それぞれ得意分野違いますし、くっついたり、辞めたり、伸びていったり様々だと思いますが、それを身近に見られるのが今の僕の役得かな、と考えています。その投資先スタートアップ達の動きを見ないで「グローバルに視点をおこう」とか「ドメスティックだとダメだ」という話だけをしてはしていないと思います。投資先スタートアップは日本市場だけを見ていないんですよね。Gateboxに関しても「俺コレ好きだよ」を極めているわけで。まあ、好きにやるのがいいんだと思います。頭でっかちなマーケティング戦略に振り回されるな!ということですね。
だからこそ西村さんも年末にHEART CATCH 2015みたいなイベントをやったわけでしょ?
西村:
そうですね。スタートアップ自身のビジョンやコンセプトを洗練させていくべきだと考えてのアクセラレーションプログラムを起こしました。
小笠原:
自分の好きなことを追求すべきだと思います。ただし、人目に触れるところにもっていかないと世界だ日本だの議論もできないので、世界中の人が集まる場所でプロダクトをお披露目することが大切だと思っています。CESやSXSWが良い機会ですよね。

■予防医療がモノのサービス化を促進する

西村:
次に、テクノロジーが介入することで活性化するポテンシャルマーケットを教えてください。
小笠原:
まず「データの売買」でしょうか?センシングした人がそのデータを必要としている人に売るという「データという価値を販売し、そのデータを使って新たな価値を生む」という新たなエコシステムができてくるだろうなぁと思っています。今それをさくらインターネットでやろうとしています
もっと大きなスパンの話をすると、2010年代後半はDMM.make AKIBAのような場が増えて、ハードウェアプロトタイピングを一定以上の品質かついままでの10分の一のコストや時間でつくることができるようになります。そうなるとマスカスタマイゼーション、大規模なオンデマンド戦争がはじまりハードウェアの収益化が販売からサービスに流れていくと考えています。
その時のキーが「予防医療」かと。一つの例として「サイマックス」があげられます。トイレにつけるセンサーで毎日の排泄物を調べられますが、例えば糖尿病は軽度合併症を発症しているステージ3までいくと不可逆ですが、ステージ2までだったら合併症を予防できる。サイマックスではこういったモニタリングができる。医療費に換算するとモノの販売よりもサービス分野でお金を取り続けるのが良いですよね。予防医療分野はモノのサービス化の流れを作ってくれると考えています。

さらに先の2020年はネット化されたデバイスが世界中で数百億個になると予想されていますが、その半分以上はいまから生まれるスタートアップが生み出していくと考えられます。その時代になると予防医療ではなく対処療法的な医療分野が伸びていくと考えています。その時代になると変革が起き始めている仮想通貨、ドローン、物流、エネルギー、農業、モビリティが十分成長するんじゃないかと考えています。

■3Dプリンターは材料勝負。日本の大手メーカーに期待。

西村:
小笠原さんにも取材させていただきましたCESですが、主催側にお話をきいたところ今年はドローン、3Dプリンター、VRがホットであるとおっしゃっていました。先ほどドローンは2020年以降本格化するとありましたが、3DプリンターやVRについても考えを教えていただけますでしょうか?
小笠原:
3Dプリンターは「材料」の戦いになると考えています。日本の大企業が強い領域ですね。CerevoのORBITREKというロードバイクもフレームの一部はチタンで3Dプリンティングしたものですからね。
VRはCESでたくさん展示されていましたが、単なる「ディスプレイ」だけ考えるとまだまだ伸び代があるレベルだと思っていて。もっと人にフィットするヘッドマウントディスプレイが必要になるんではないかと考えております。その意味では「FOVE」のようにアイトラッキングでコントロールできるような「ディスプレイ兼コントローラー」がVR市場では大事になると考えています。
西村:
CESのセッションでVR市場はソフトであるコンテンツ制作ノウハウ共有が必要不可欠と話されていました。ソフトについてはどのように考えられますか?
小笠原:
攻殻機動隊/Production I.G.など日本のアニメ業界は積極的です。日本だとアニメからどんどんコンテンツができていくと考えています。
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■シンギュラリティを早めたい。この欲求が小笠原氏を突き動かす。

西村:
最後に、小笠原さんがいま1番ワクワクすることを教えてください。
小笠原:
2045のシンギュラリティに向けて何が起こるのかなーと、シンギュラリティを少しでも早めるためには自分が何できるのか?ということにワクワクしますね。IoTプロダクトに取り組んでいるのはまさにそのためですね。人工知能がどれだけ発展しても人間からフィードバックを取得するIoTデバイス側が進化しなければ意味無いですし。シンギュラリティに向けてこれから何が起こるんだろうって、まるで子供のころのマンガで描かれていた未来を想像するみたいに楽しんでます。

『シンギュラリティ=技術的特異点』・・・「特異点」って何なんだ!!
『いままでの常識が通じなくなる』・・・「え〜!!?どういうこと?」の連続!

今45歳なので、自分が楽しむためにもシンギュラリティを少なくとも15年は早めたいと考えています。

あとは、お金が無くなるところをみたいな、と。これからモノやコトを含むブツブツ交換の時代になると思っていて、わざわざ中間フォーマット/価値交換基準である貨幣を使う理由がなくなっていくと考えています。
いままで起きなかったことを早く見たいと思っていて。そのような取り組みをしている連中には会っておきたいというのもモチベーションのひとつですね。

『アウェイが嫌いなので人が集まる場所やチームを作っています』と語る小笠原氏はawabar、DMM.make AKIBA、ABBALabなど常にイノベーターが集まる場所やコトをプロデュースされています。「小笠原氏が今何にワクワクしているのか?」をチェックすることは日本のイノベーターがどこに向かうのか?知ることとイコールであると、私は捉えております。今回お話を伺った小笠原氏の視点を持ち世界を見回してみると、イノベーションの種がそこかしこに見えてきます。

取材・文:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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