食のオーナーとなって"当事者"に〜「OWNERS」が提案する、地域との関わり方

2016.01.14 13:00

あの生産者の、あの食材のオーナーになる。つい1ヶ月前、「食」を通じて地域の資源と人々を繋ぐサービス「OWNERS」がローンチされた。様々な領域・媒体を通して、まだ見ぬ地域資産が発掘されつつある現在、描くのはこれまでになかったオーナー制度の仕組み。生産者と消費者を繋ぐ新たなタッチポイントにより、食そして地域はいかに姿をかえていくのだろうか。仕掛け人である(株)エル・エス・ピー OWNERS 運営責任者の谷川氏に話を聞いた。

「OWNERS(オーナーズ)」は、こだわりの産地や生産者・商品からお気に入りのオーナー制度プランを探し、自分がその生産物の「オーナー」になれるプラットフォームサービス。

提供されているプランは、果物やお米などの農産物、また日本酒・乳製品などの加工品、そして生産地は北海道から九州までと多岐に渡る。ユーザーがプランに登録をすると、サービス上で生産者が発信する商品の状況など確認することができ、商品到着までのプロセスも楽しめる仕組みだ。

■食を通して、地域を"知る"のではなく地域の"当事者"になる

「OWNERS」の運営責任者である谷川佳(たにがわけい)氏は、大学卒業後、新卒で企画会社に入社。約3年間自治体や民間企業での企画やPR事業に携わり、中でも「食」を中心とした企画をメインとしていた。その経験の中で身をもって、現状の地域資源の発信方法に課題を感じたという。

谷川佳(たにがわ けい)氏

谷川:
PRを通して農家や地域の資源がメディアに取り上げられることで、その魅力が一時的に発信される機会はありました。ただ、継続的に関心をもってもらおうと思うと難しく、いいモノがあっても知られていない、知られたとしても瞬間的な話題だけで終わってしまうことに課題を感じていました。

地方と人とを瞬間的な話題だけではなく、"長期的な関係"で繋いでいきたい。そう考える谷川氏が注目したのが、既存の「オーナー制度」だった。

「OWNERS」トップページより

谷川:
雑誌などで魅力的な地域や生産者の存在を知っても、その地域と直接関わる方法って少ないと思うんです。現地への旅行で終わってしまったり、ネットで一回購入するだけだったり。一方で、オーナー制度の魅力は、自分が地域や生産者と継続的に繋がることが出来ること。自分の第二の故郷がそこにあるような感覚を楽しんでもらえればと思っています。

オーナープランの数々

オーナー制度自体はこれまでもあったものの、利便性の低さや生産者主導という点で一般的には知られていなかった。そうした従来のオーナー制度を見直し、テクノロジーと消費者のインサイトを融合させることで、現在のライフスタイルにフィットしたオーナー制度のプラットフォームを生み出したのだ。

■「食」に共感する人々に広がっていく"オーガニック"な集客法

「OWNERS」をローンチするにあたり、パートナーとなる全国の生産者の元を、すべて自身で足を運んで営業したという谷川氏。

生産者の中には、電話などで「インターネットサービス」と伝えるだけで、門前払いされるようなこともあったという。そんな状況下でも、多くの生産者、そしてユーザーを惹き付けた谷川氏が語る「OWNERS」の世界観とは。

谷川:
広告や価格で商品の価値が決められる売り方ではなく、生産者のこだわりや、なぜこの価格なのか、この売り方なのかという背景を理解してもらった上で商品の提案をしてみませんか、ということを伝えてきました。

実際に登録されている農家の方

一方のユーザー(オーナー)側は、都心部を中心に着々と登録数が増えている。中でも、大都市で働く20〜30代がその大半を占めるという。

谷川:
日頃は都心で仕事しているからこそ、日常のちょっとした贅沢を楽しみたいとか、都心にいながらも食を通して地方と繋がりたいという人々の間で、口コミで広がっています。商品の物語や背景に共感する人に使ってもらえると嬉しいです。

■"あの人が作った"と"あの人のために作りたい"が消費を変える

OWNERSの強みは、生産者とオーナー間のコミュニケーション手段にもある。サービス上のコミュニケーションページには、生産物が今どんな状況で、どのような工程で作られているのかという情報が生産者から随時発信されている。

「OWNERS」上のコミュニケーションページより

谷川:
単純に、商品の紹介ページで産地などの情報だけを見ても、現地と繋がっている感覚や生産者が今日どんな思いで作っていたかなんて分かりません。「OWNERS」では、生産者の方が「今日はこんな作業をしています」とか「送られる商品以外に、おまけでこんなのも入れておきましたよ」といった、生きた情報が発信されています。こういう背景を知ってこそ、生産者と繋がるという感覚をリアルタイムに感じられるかなと考えています。

一方の生産者側も、このコミュニケーションの存在は大きい。これまでのマスに対する市場取引も重要だが、自分たちの作ったものを人がどう喜んでくれているかといった、全国の消費者一人一人のリアルの声を聞ける機会はほとんどなかったという。

谷川:
ある生産者の方から、「今までは誰に売るかわからなかったものをずっと作っていましたが、オーナー制度で事前に買ってくれる人が分かると、あの人のために作るんだと顔を思い浮かべながら、楽しく作ることができます」という声をいただきました。こうした喜びは、サービスを実際に立ち上げてから初めて分かった価値でもありました。

登録されているチーズ工房の牛舎の様子

このように、生産と購入の順序が逆になることは、「OWNERS」の強みにもなっている。オーナー登録の手順を踏んだあとに生産が始まるため、生産者側もオーナーのためだけに新しい栽培方法を試したり、通常は販売していない新品種にトライしたりといった挑戦をすることができる。

谷川:
例えばりんご農家さんが言うには、収穫の直前まで葉をとらない「葉とらずりんご」というのがとても美味しいらしいんです。ただその生産方法だと、りんごの色がまばらになってしまうので、店舗だと扱ってもらえません。だけどOWNERSならそれを喜んでくれる人たちがいる。事前に注文数が分かるので、その分チャレンジができるんです。

■実現したいのは"共感"から生まれる、地域食の流通

ユーザーには、消費ではなく、オーナーとして「所有する」という新たなライフスタイルを提供する。生産者には、自分たちのこだわりの商品を適切に提案できるフィールドを用意する。谷川氏が、今後「OWNERS」を通じて実現していきたい未来とは。

谷川:
今後はコンテンツの拡充はもちろん、オーナーとなった方だけが特別な形で追加購入しギフトとして送れる仕組みや、飲食店と連携した取り組みも考えています。
例えば、「OWNERS」に登録している生産者の食材を扱ってもらうかわりに、お店でオーナーに対して何らかのサービスを提供していただくようなイメージです。これによって、お店側は仕入れをすることでその商品の物語や背景を知るお客様とつながることができ、一方でオーナー側も同じ共感をもった飲食店との出会い、その場で特別なサービス受けることができる。そして、生産者は更なる販路の拡大につながるという「OWNERS」だからこそ提供できる仕組みを構想しています。

今まで買う・食べるだけで完結していた食生活。それが、「OWNERS」を介することで、こだわりを持った生産者や地域との出会いやコミュニケーションが生まれる。食を基軸とした新たなライフスタイルを提案する「OWNERS」から目が離せない。

文:長谷川輝波

フリーライター、慶應義塾大学法学部4年在籍。高校時代はファッションデザイナーを志し、大学入学後はサロンモデルやファッションライターとしての活動を経験。現在は複数企業・協会でのライター・マーケティングに携わる。大学ではサービスプランニングを専攻。https://www.facebook.com/kinami.hasegawa

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