リオパラリンピック閉会式 引き継ぎセレモニーの舞台裏と東京2020に向けた構想

2016.11.24 09:45

9月19日、リオデジャネイロ・パラリンピックの閉会式にて東京2020オリンピック・パラリンピックへの引継ぎ式が行われた。モデルやダンサー、朗読者など障害のあるパフォーマーたちが音楽や映像に合わせて圧巻のパフォーマンスを繰り広げ、公式YouTubeの再生回数は10万回以上となった。

このセレモニーのコンセプトは「POSITIVE SWITCH」。このコンセプトを発案したのが、クリエイティブスタジオ、株式会社ワン・トゥー・テン・ホールディングスの代表取締役社長・澤邊芳明氏だ。日本財団パラリンピックサポートセンターの顧問であり、東京オリンピック・パラリンピックに向け動き始めている澤邊氏にオリンピック・パラリンピックへの想いを伺った。

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■「POSITIVE SWITCH」は普段から使っていた言葉

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--「POSITIVE SWITCH」は、どのようなことがきっかけで考えついたのですか?

澤邊:
元々、パラリンピック閉会式に関わる予定はなかったんです。後から聞いた話で、オリンピックの引継ぎ式はゲームやアニメを中心に、クールジャパンというテーマでいくことがほぼ決まっていたのですが、パラリンピックに関してはコンセプトが中々決まらなかったそうで。今年の5月に銀座で開かれたイベントで、閉会式をプロデュースしていた佐々木宏さんにお会いして、僕がそんな事情も知らずに「パラリンピックとは、ポジティブスイッチが入るものだ」と熱弁したんです。その言葉に佐々木さんはピンときたんでしょうね、「めちゃくちゃいい言葉だ、使わせてください。」と言われました。後日リオで使いたいと連絡をもらい、もうポスターもできて逃げられないようになっていました(笑)

--「POSITIVE SWITCH」はパラリンピック用に考えた言葉ではないんですね。

澤邊:
普段から「ポジティブスイッチ入りますね」と言っているので、今回のために考えついた言葉ではありません。僕は18歳の時にバイク事故にあって車いす使用者になり、ポジティブスイッチは、怪我をしてからずっと考えている想いです。いざという時に、あえて「えいや!」という前向きな気持ちのスイッチをいれてやらないとできないことが、今まで何度もありました。そうやって気持ちがポジティブに向かうことで可能性は広がる、ということも経験しました。そんな経験から、この言葉を自然に考えて、自然に使っていましたね。

1964年に行われた東京パラリンピックは、駒沢公園のオリンピックスタジアムの入り口で卓球が行われる程度の、寂しいものであった。しかし競技以上に日本人選手が海外の選手に驚いたことは、車いすの方が仕事を持ち、お酒を飲み、自由に出歩いていることだった。それがパラリンピックにおける1回目のポジティブスイッチ。そして東京2020、それは2回目のポジティブスイッチになるだろうと澤邊氏は話した。

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澤邊:
自分に対してだけでなく経営者としても、社員のポジティブスイッチをどうやったら入れられるのか、とよく考えます。障害のあるなしに関わらず、いろいろな方がポジティブな姿勢をもつことで意識が変わり挑戦をする、そんなきっかけがうまれる東京2020になってほしいと思っています。

■スポーツを楽しんでいるアスリートの姿を、僕たちも楽しもう

澤邊氏はこれまで車いす使用者であることを表だって話さず、また障がい者関係の仕事をあえてしてこなかった。そんな中2020東京が近づき、自身の会社も成長してきたよいタイミングで、日本財団からパラリンピックサポートセンターのオフィス設計コンペに参加しないか、という話が入ってきた。

--コンペに参加されることを決めた理由や、提案にこめられた思いを伺えますか?

澤邊:
パラリンピックサポートセンターの仕事が、障がい者関係の仕事としては初めてでした。自分自身の体験や思いをふまえて、ちょうどチャレンジすべきタイミングかなと、積極的に関わっていこうと決めました。
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パラリンピックサポートセンターには2020に向けて25の正式団体が集う。どんなメッセージを伝えられる場にするべきか、澤邊氏は「I enjoy !」というキーワードを考えた。

澤邊:
2000年のシドニーオリンピックでは、高橋尚子選手が42.195キロ走り終えた時に「すごく楽しい、42キロでした」と言いました。あんなに長い距離を走って、しかも真剣な勝負をしていたのに"楽しめる"とはどういう感情なのか。勝負は苦しいはず。ですが、真剣な勝負をコントロールできる人は"楽しめる"と様々なアスリートに会い、思いました。なので「I enjoy !」、スポーツを楽しんでいるアスリートの姿を僕たちも楽しもう、というメッセージです。

メッセージを伝えるために、オフィスの正面に横長の大きなビジョンを置いた。ウェイトリフティングやバスケットボールなど、様々なパラリンピアンの動きが多面的にみえるようにモーションを含めて3Dスキャンをし、動きが立体的にみえるコンセプトムービーを上映。私たちが知らない彼らの動きをよりリアルにみることで、競技の難しさを理解し、それがスポーツを楽しむことにつながると考えている。

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澤邊:
ロンドンパラリンピックでは「Meet The Superthumans」というキャンペーン映像が発信されました。どんなメッセージだったかというと、パラリンピアンは事故にあったり、病気をしたり、戦争で怪我をしたり、様々な逆境を乗り越えた"超人"としてスポーツを極めている。お前らの生き方はどうなんだ、根性努力に関しては俺らの方が上だ、という挑発的な文句でした。この映像によりパラリンピアンはすごい、というイメージをもったロンドンパラリンピックの会場は満員になりました。
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澤邊:
しかし同じメッセージを東京で伝えるのか考えた時に、日本人の応援してくれる人たちを想像すると、また違う打ち出しが必要だと思いました。我々は努力をしている人をみたくてスポーツを観戦するのではなく、単純にどっちが勝つかが気になる競技を観て楽しみたいのではないか。それは真剣な勝負をコントロールして、スポーツを楽しんでいるアスリートの姿を私たちが楽しむ時間です。 なので、私たちは競技を理解することが重要。テクノロジーをつかってパラリンピックをおもしろくしよう、と考えて色々な事業を手掛けています。

パラリンピック競技を理解することが、競技への興味関心につながる。音楽やテクノロジーを活かし、エンターテイメントにしようと考えていると澤邊氏は話した。

澤邊:
例えばボルトの足が速いと皆がわかるのは、100mを走った経験があるからです。ですが、目の見えない人の競技は想像がしにくい。それは体験したことがないからです。そこでもっとライトにテクノロジーを使って、パラリンピック競技を体験できないか考え「ENLOY!PARA SPORTS GOAL BALL」というアプリをつくりました。次第に画面から何も見えなくなり、音だけでボールの位置を理解してプレイするゲームです。
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このアプリは現在世界中でダウンロードされている。ほかにも、VRでロードレース用の車いすを体験できる装置の開発など、様々なものをテクノロジーと組み合わせてつくっている。史上最もイノベーティブな大会になる、と言われる東京オリンピック・パラリンピックに向けて、どのようなことを行ってみたいか伺った。

澤邊:
リオでは、サムスンがVRをつかって様々な競技体験をプレゼンテーションし、常時2時間待ちになるほど話題になった。8K、VR、3D、特に映像技術はもっと進化していきます。2020年はあくまでもきっかけなので、消費されるテクノロジーではなく、そこにいる人たちや社会を考えて世の中がよくなるために、テクノロジーをつかって自分たちができることをしたいです。
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澤邊:
1964年東京五輪の際は、高度経済成長の真っただ中。幸せですか?と聞かれてもきっと50%の人しか「はい」と答えなかったと思います。だからこそ残り半分の50%が欲望となり、さまざまな財産を残しました。しかし今は時代が違う。きっと80%の人が幸せだと答えますが、残り20%は漠然とした不安です。僕らは東京2020を通じて"レガシー"をつくりたい、一度の打ち上げ花火ではなく、漠然とした不安にポジティブスイッチを入れられるようなものを、テクノロジーを使って世の中に発信したいと思っています。

アスリートたちの挑戦する姿は、障害者や健常者という考えをこえて、私たちを前向きにさせる。人間の多様な魅力や可能性は、スポーツを通して、より多くの方々に考えるきっかけをもたらし、それが新しい社会をつくっていくことだろう。澤邊氏をはじめとした様々な企業が東京2020に目指すもの、それは社会に前向きな力を残すものとなるのではないだろうか。

取材:羽佐田瑤子

ライター。日本文化と食と寅さんを愛する87年生まれ。47都道府県を訪れ、「職人」「地方」「映画」「アイドル」「漫画」「アート」などサブカルチャーから伝統文化まで幅広く執筆。『SENSORS』のほか、地域媒体『フリーペーパーKAMAKURA』など複数の媒体で執筆を行う。趣味は小学生から続けている能。
Twitter:@yoko_hasada / URL:http://yokohasada.com/ 

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