これからのショッピングセンターは、"ちょうどいい探索"の場にーーパルコが提案する次世代の買い物体験

2018.12.17 18:00

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電車でInstagramを眺め、好きなブランドの新作をチェックする。寝る前のベッドでECサイトを訪れ、ワンピースを買うーー。インターネットが生活に浸透したいま、当たり前のように、場所や時間にとらわれず買い物ができる。

経済産業省が実施した調査によれば、2017年のBtoC物販系分野のEC化率は5.79%。2010年から右肩上がりで上昇しており、オンライン上での買い物は当たり前の行為となっている。

ECが普及した時代において、オフラインでの買い物体験の拡張に取り組み、次世代のショッピングセンター(以下、SC)を志向しているのが、パルコだ。同社が常に時代の先端を捉え続けている理由を知るべく、林直孝氏(株式会社パルコ 執行役 グループICT戦略室担当)、高野公三子氏(パルコのオウンドメディア『ACROSS』編集長)を訪ねた。2人へのインタビューを通して、次世代型SCの在り方を探っていく。

オンライン市場は、敵じゃない。パルコが時代の変化に柔軟な理由

オンライン市場での消費が増えたことで、多くの企業はオムニチャネル化に取り組んできた。実店舗とECサイトの情報管理システムを統一して顧客をフォローし、販売機会の損失を最小化するための戦略だ。これによって、「店舗に在庫がない場合に、QRコードでECサイトに誘導する」ことや「ECサイトで注文した商品を、店舗で受け取る」ことが可能になった。

今でこそ、オフラインとオンラインの融解に取り組むSCは多いが、かつてはオンライン市場を敵視する企業も多かった。しかしパルコは、早くからオンライン市場と"手を取り合う"姿勢を貫いている。それを象徴するのが、2013年に起きた、ある出来事だ。ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ(現・ZOZO)が提供する「WEAR」のプロモーションに、SCとして唯一協力したのだ。

リリース当時のWEARにはバーコードスキャン機能がついており(現在は廃止)、ユーザーは店頭でバーコードを読み取るだけで、商品情報を保存し、後からオンラインで購入することができた。

来館者がWEARを通して買い物をすれば、テナントの売り上げが下がってしまう。そのため、「施設内での写真撮影は原則禁止」と入居テナントに通知したSCもあった。しかし、パルコだけがテナントに対してWEARの導入を促した。林氏は当時のことを、次のように振り返る。

林直孝氏(以下、林):WEARは、コーディネートを投稿するSNSです。ショップスタッフさんが利用することでお客様の購買のきっかけとなる、接客のプラットフォームとして機能すると捉えたんです。我々はWEAR登場以前から、ショップスタッフさんによるブログを運営していたので「ブログは売上アップに繋がる」というデータも持っていました。WEARを導入すれば、ショップの売上もアップすると思ったんです。

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林 直孝氏

このように、時代の変化に応じた柔軟な対応ができる理由は、パルコの組織体制にあるのだと林氏は明かす。

林:新しい取り組みを行う際には、必ずお客様やテナントへの「メリットやデメリット」「数字の根拠」を経営陣に示しています。WEARの導入時も、既存のショップブログ閲覧者の来店率や、ブログからの売上効果などをリサーチしていたので、経営陣もスムーズにGOサインを出してくれたんです。組織を動かすのは簡単なことではありません。だからこそ、全員が納得できる「メリット」や「数字の根拠」を示すことが大事です。

コンセプトは「24時間パルコ」。いつでも、どこでも快適なショッピングをサポート

日本のSCにおけるオムニチャネル化の歴史を紐解くと、それは2010年代に始まった。ルミネは2015年から各テナントと自社ECサイト「i LUMINE」の在庫データを連携。EC上に在庫がない場合には、実店舗への商品取り寄せが可能になり、ECで購入した商品の色・サイズ交換も店頭で対応可能となった。プライベートブランドを軸にしたオムニチャネル化に取り組むマルイも、自社ECサイト「マルイウェブチャネル」との在庫データ連携を行うほか、2016年からは店頭にシューズの体験ストアを設置。訪れた顧客は、気になるシューズの試し履きを行なった後、専用タブレットからオンライン注文ができるのだ。 このように、主な国内SCにおけるオムニチャネル化の軸となっているのは「実店舗への誘導」である。しかし他社よりも早い2014年、パルコがオムニチャネル施策の第一弾として取り組んだのは、ショップブログからオンライン上で商品が購入できる通販サイト「カエルパルコ」(現:PARCO ONLINE STORE)の開発だった。

*「カエルパルコ」は、2018年11月にサービス名を変更

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PARCO ONLINE STORE

カエルパルコの前身となるのは、出店テナントによるブログプラットフォーム。当時、ブログで商品を紹介するショップスタッフが登場しはじめていたことに注目したのだ。

林:ブログはお客様とショップを繋ぐものだと思い、パルコのサイトリニューアルに合わせて全ショップのブログを開設しました。さらに、各店に対してブログ研修も行って「読まれやすい記事の書き方」などのレクチャーも実施。結果、サイトのリニューアルが完了した2013年の秋には月に1万件以上のブログが投稿されるようになったんです。

ブログの投稿数の増加に比例して、掲載商品の在庫確認や購入を希望する声が多く寄せられるようになった。そうした声を受け、2014年にブログにカート機能をつけた「カエルパルコ」がリリースされたのだ。

その後、商品の取り置き機能なども備えた公式アプリ「POCKET PARCO」もリリース。こうした取り組みにより、顧客はオンラインとオフラインの垣根を超えて、パルコでのショッピングを快適に楽しめるようになったのだ。

さらにパルコは、2015年9月からショップスタッフ向けのeラーニングを導入し、ショップスタッフの接客スキル向上にも注力している。以前から、定期的に対面での接客研修は実施していたが、ショップスタッフがその都度売り場から離れる必要があった。1回の研修は約2時間。全国のパルコで相当な時間、スタッフが売り場を離れることになる。eラーニングの導入で、店頭での接客機会を失わず、効率的にショップスタッフをサポートできるようになった。林氏によれば、これらの新しい取り組みは全て「接客の拡張」を目的にしているという。

林:パルコは、ご出店テナントの皆様から売上に応じたテナント料を頂いているので、皆様の接客を最大限に高めることは、結果として利益向上にも直結します。そうした背景もあり、積極的にテクノロジーを活用し、顧客の買い物をサポートすることで、顧客満足度の向上に努めているんです。

"オフライン起点のチャネルシフト"で、これまでにないショッピング体験を提供

パルコの基盤は、オフラインの「店舗の売り場」。まずは店舗での顧客満足度を高めることが大事だと考える同社は、これまでに様々な最新テクノロジーを活用した取り組みを行なってきた。

2016年には、仙台PARCOで人型ロボットの「Pepper(ソフトバンク社)」と自走式ロボットの「NAVii(ナビー)(米・Fellow Robots社 )」を活用した接客実験を実施。会話機能がついたロボットは、ショップの場所を尋ねた人を案内するなど、簡単な来店者のサポートを行なったという。1ヶ月に及んだ実験の結果、有人のインフォメーションカウンターよりも多くの問い合わせがロボットに寄せられたそうだ。

林:ロボットに寄せられた質問の多くが、ショップやトイレや映画館の場所を聞くものでした。こうした単純な質問は、わざわざ人に聞くよりもロボットに聞いた方が手軽ですし、回答も早い。このようなロボットが回遊していれば、お客様により快適なショッピングをしていただけると思います。

さらに2017年10月には、ロボットの用途を広げた新たな実証実験も行なっている。都立産業技術研究センターとの共同事業として池袋PARCOの店内に、日本ユニシス、08ワークス、パルコの3社が共同開発したロボット「Siriusbot(シリウスボット)」を設置。これは1台で2役を担うロボットで、昼間は来店客の案内役を務め、夜になると商品に事前につけられたRFIDタグを読み取り、テナントの在庫確認を行うものだ。面倒な棚卸し作業をロボットに任せることができれば、ショップスタッフの負担は軽減する。その結果、接客に対する集中度合いも上昇するだろう。Siriusbotが店舗に本格導入されるようになれば、「接客の拡張」に繋がるのではないだろうか。

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Siriusbotの概要(日本ユニシス公式サイトより引用)

2017年11月にオープンした「PARCO_ya上野」にはABEJA社が開発した人工知能を活用した店舗解析サービス「ABEJA Platform for Retail」を導入。今年4月には、池袋PARCOでAmazon Echoを活用した店舗案内サービスも開始している。

次世代型の取り組みとして注目したいのが、今年3月のサウス・バイ・サウスウエスト トレードショー(SXSW)に出展されたVRショッピングコンテンツである。「2020年の買い物体験」と称されたこの取り組みでは、物理的制約のないVR空間でのショッピングを楽しめる。売り場の空間が次々と変わるので、顧客は来店するたびに新しい空間を体感できる。空間の制約もないので、普通は1つのショップに入りきらないほどの商品をみることも可能だ。さらに、同一のVR空間を複数人で共有できるため、VR上であってもショップスタッフからのアドバイスを受けながら、ショッピングができるのだ。

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2020年の買い物体験イメージ画像。VR空間にディスプレイされたさまざまなコーディネート

林:VR体験とは別に、SXSWにはMR(Mixed Reality)を使った買い物体験を提供しました。、3Dスキャンされたヴァーチャルモデル着用の商品を自在に実際の空間上で切り替えて表示することができるんです。着用イメージをリアルに確認できるので、試着の手間も省けます。さらに、多言語対応もする予定なので、外国人のお客様にも同時通訳を行いながら接客ができるのです。

このように、先端テクノロジーの活用を推進しているパルコが目指すものは「デジタルショッピングセンタープラットフォーム」だ。

林:テクノロジー活用をさらに一歩進めるためには、データの集積を加速させる必要があります。たとえば、来館したお客様の欲しいものをAIで割り出し、テナントさんの在庫から最適な商品を提案できるようになるかもしれません。パルコを、これまでにない快適なショッピングを楽しめる「デジタルショッピングセンタープラットフォーム」に進化させたいんです。

時代の先を捉えるのは、"街のリアル"から。
若者とファッション・カルチャーを研究し続ける「定点観測」

しかしパルコが注力しているのは、テクノロジー活用だけではない。顧客でもある多くの若者も理解するため、「ファッショントレンドの分析」に関しては至極アナログな手法を取っている。デジタルとアナログの掛け合わせによって、顧客に支持され続ける"次世代型SC"を志向しているのだ。

"至極アナログな手法"とは、同社のシンクタンクが運営するWEBマガジン「ACROSS」」内で行われている「定点観測」だ。

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定点観測

「定点観測」は、約40年に渡って実施されている"ストリートファッションマーケティング"という俗称のフィールドリサーチである。民俗学研究者の今和次郎が提唱した「考現学」を参考に形成された、パルコオリジナルのマーケティング手法ともいえる。ACROSS編集長の高野 公三子氏は「ファッショントレンドは、数字では測れない」と話す。

高野:POSを使えば、売れ筋の商品を分析することはできますが、何故売れないのかは分かりません。また、ファッションの表面的なトレンドは分かっても、そのトレンドを受容する人たちの深層心理まではデータから読み取ることができません。同じアイテムでも、時代によって人気の色やシルエット、素材感は違います。やはり実際に目で見て理解することが大切だと感じています。

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高野公三子氏

「定点観測」は、基本的に、渋谷・原宿・新宿で毎月第一土曜日に実施されている。事前に、カウントアイテム(トレンドアイテム)とズームアップアイテム(今後流行しそうなアイテム)を編集部員が路上に出て、プレサーベイを行って決め、実施日には、それらを着用する人を観察、撮影するという。さらに、詳細についてアクティブインタビューを行ない、該当インタビューイーとなった方とそのファッション・カルチャーを理解していく。

高野:よくあるファッションスナップとは違って、ファッション以外のことについても詳しく尋ねます。たとえば、毎月のお小遣いや家賃、この街に来た目的など...。ファッションについても当日着ていらっしゃる服や小物のブランド名や購入場所、価格、購入した理由などを伺います。路面店で買ったのか、SCなのか。オンラインで購入したのか、おさがりなのか、メルカリで買ったのかなどなど。いわゆる"買い回りデータ"がいかに1人ひとり異なるかもわかります(笑)「定点観測」で明らかにしたいと思っているのは"街のリアル"です。街はそこに集う人たちのものであって、ディベロッパーのものじゃないんです。

「定点観測」のデータは、パルコに新しいコンセプトの売り場を創出するためのヒントとなったり、具体的に出店するテナントの他、さまざまなマーケティング関係者に役立っている。2017年には、Googleの非営利法人が運営している世界中の美術館を鑑賞できるプラットフォーム「Google Arts & Culture」のファッションプロジェクトにも参加。日本の唯一のストリートファッション情報として掲載されている。実際に路上に出て、街や人を観察することから得られるデータはそれほどまでに希少価値が高いのだ。パルコが時代の変化に寛容な姿勢をとり、新しい取り組みを積極的に行う背景には、常に時代の先に目を向けてきた「定点観測」の存在があるのかもしれない。

オフラインの売り場は、"非計画購買"をする場所。"ちょうどいい探索をしてほしい

オンライン市場の拡大、オムニチャネル化が進む今、消費体験は多様化している。そんな時代において、オフラインの売り場は、どのような場所であるべきなのだろうか。

取材の最後、林氏は「オフラインの店舗は"非計画購買"を楽しむ場所」だと話してくれた。

林:「これが欲しい」といった目的がある場合、ECサイトは非常に便利な場所だと思います。しかし特に目的がないけれど「なにか欲しい」といった需要がある人に対しては、SCは変わらず便利な場所だと思うのです。ですから、オフラインの売り場にはある程度の"探索性"が必要ですよね。潜在的なニーズを探りながら、それを叶えるものを見つけ出すような...。とはいえ、探索の時間は短い方がいい。我々が今注力しているロボットやAI、VRなどを活用し、お客様に"ちょうどいい探索"をしてもらい、最高な商品やサービスに出会えるようにしたいと考えています。

洋服、本、家電...。大抵のものがオンラインで買えるようになり、人びとの買い物は効率化した。しかしオフラインの売り場ーーたとえば街中でたまたま立ち寄った商業施設で、色々なお店を覗いてみたり、スタッフと対話を重ねることで、新しい発見ができることもある。「ちょうどいい探索性」を楽しめるパルコのような場所は、"効率化されすぎた"人びとの買い物体験をアップデートしていくのではないだろうか。

取材・執筆・撮影:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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