パトレイバーREBOOTで新たに描かれた近未来とは? 吉浦康裕監督インタビュー

2016.10.14 09:00

警察に巨大人型ロボット「レイバー」が導入された近未来の日本を描くアニメ『機動警察パトレイバー』。その新作短編である『機動警察パトレイバーREBOOT』が10月15日から『劇場上映 ゴーゴー日本アニメ(ーター)見本市』で一週間限定で劇場公開される。監督は2008年に発表した『イヴの時間』で一般家庭用のアンドロイドが実用化され普及した世界を描いた吉浦康裕。アニメーション制作は、庵野秀明が率いるスタジオカラーが担当する。今回、吉浦監督に新作で近未来をどう描いたのかについて伺った。

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(C)HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー

■これまでの仕事が全部パトレイバーのためにあったんじゃないかと思った

--今回の「日本アニメ(ーター)見本市」でパトレイバーの新作というのは意外だったのですが、どういった経緯で実現したものなのでしょうか?

吉浦:
「日本アニメ(ーター)見本市」では既に『ヒストリー機関』と『PP33 -POWER PLANT No.33-』という2本のアニメを制作していました。その2本の企画は、それまでの自分の作風とは違うことにチャレンジするという目的があって、それでいきなり巨大怪獣もの(『PP33』)を作ったりしたんです。その前まではいわゆる作家的な作り方をしてきて会話劇などが主だったんですけれども、ちょっとそれに限界を感じてきていて、このままだと監督としてマズイのではなかろうか?という危機感を抱いていた時にこの「日本アニメ(ーター)見本市」の企画を頂きました。ちょうど2本目を制作し終えた時に、緒方プロデューサーから「『日本アニメ(ーター)見本市』でもしかしたらパトレイバーができるかもしれないんだよね」とチラッとお聞きして、僕はその瞬間「今やるべきはコレだ!」と直感しまして、両手を挙げて「是非やらせてください、僕パトレイバー大好きなんです!」と。

そうしてこのお話をいただいた時に自分の中で「これはイケるんじゃ!?」という予感がしたんです。近未来の日常が舞台でそこにロボットが介在する世界観は、ある意味自分が今までやってきたことに近いですし、少し前に制作した『PP33』で「デカい物のバトルも演出できるかな」という自信を得ていたんですね。かつパトレイバーは会話劇でもあり、それも結構得意だったので、これまでの監督歴が全部パトレイバーのためにあるんじゃないかと。

--なるほど!

■パトレイバーには必ず日常風景が出てくるので、どの時代でも共感覚は得られやすい

吉浦:
パトレイバーって凄く面白い企画だなと思うのは、普通の一般的なロボットアニメに比べると何でも出来ちゃうじゃないですか? ロボットが出てこないエピソードなんてざらにある。それ故にここ昨今で作られているパトレイバーは外伝的なものが多い印象があったんです。なので自分の中でもっと王道のパトレイバーを見たいという欲求が溜まっていて、きっとみんなもそういうの見たいハズだ!って思い込んで(笑)。
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(C)HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー

--トレーラーを見ると最初のOVAのテイストに近いと思いました。

吉浦:
僕が特に好きなパトレイバーはやっぱりその雰囲気ですし、しかも実はトレーラーではまだ隠しているんですが、今回ならではの新しい描写も沢山あります。トレーラーはあえて古い懐かしいムードにしているんです。

--今回のパトレイバーREBOOTの時代設定とかはどうなっているのでしょうか?

吉浦:
パトレイバーの縛りとして今から10年後を想定するというのが常にあるらしいんですが、僕が企画を出した当初はもう何のてらいもなくこの「今」にしようと思いました。

--ということは、今現在にパトレイバーがあったなら?という感じでしょうか?

吉浦:
そういう感じですね。昔のパトレイバーを見てもハードウェアという意味での家や車ってそんなに変わっていない。それが作られたのが1989年ですけれども、2016年の今こそ多分10年後も車の行き交う道路や家屋はそんなに変わらないだろうって思うんです。

--押井さんの実写版(『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』)には実在の巨大ロボットであるクラタスが登場したりもしていますが、そうした物が現実の日常の中に浸透するのか否かというところは考察したりしましたか?

吉浦:
やっぱり現実的に考えると、自動車レベルで二足歩行ロボットが日常にあふれるようなことは無いだろうな、とは正直思います。むしろ今スマホが10年前から比べ物にならないくらい発展していますから、情報制御とかの方だけがめちゃくちゃ発展するけれどそれ以外は変わらないだろうなと考えると、今の時代にパトレイバーを出すにしても基本、風景は今のままで良いんじゃないかと思いました。特に舞台となる場所は別に都会のど真ん中というよりは、やっぱり下町をやってみたかったので。

そうした日常風景という点で言えば、昔のパトレイバーがずっとやってきたことで、今回も是非やりたかったんですけれども、ただ昔と一個違うコトがありました。パトレイバー1(※劇場版第1作)の頃はちょうど高度経済成長期からバブル時代で古い物なんてどんどん壊して新しい物を建てようというイケイケの時代ならではの魅力的なロケーションが沢山あったと思うんです。壊れゆくビルの奥に立つ高層ビルというような。実は今回それを探してみたんですけれども、もうああいう風景が無いんですよね。

--そうなんですね。今は古い建物でもリノベーションされて綺麗になっちゃったりしていますよね。

吉浦:
ちょっと良いのがあるなと思ったら隣に猫カフェがあったりして。だから劇場版と同じ風景は無理だなと正直思いまして。そこで狙いを変えて、今回は商店街とかコンビニとか猫カフェとか、いわゆる普通の風景の前でレイバーが戦うところにパトレイバーらしさを見出そうとしました。別にカッコ良くもなんともない何処にでもあるような風景で戦う。そこはちょっと頭を切り替えた点ですかね。
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(C)HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー

--今回、新たな現代的なテクノロジーの描写はあったりするんでしょうか?

吉浦:
いやー、その要素は正直あまり無いですね。レイバーは完全に人が操る重機なので、そこはびっくりするぐらい昔のパトレイバーをもう一度って感じなんですよね。たとえばこれが長編作品の場合、今ならではのAI要素なんかを物語に組み込むのは全然いけると思うんですけどね。作品のポテンシャルとしてはパトレイバーという作品はそういった要素をガンガン取り込んでいけるし、時代に合わせて新しいプロットが生まれてくる余地はありますね。

あとパトレイバーはそこに必ず日常風景が出てくるので、どの時代でも共感は得られやすいですよね。そこは今回作ってみて面白いなと思いました。

むしろ自分がわくわくしたのは、今のアニメーション制作技術で新たな演出ができるという点だったんです。パトレイバーって電線があったり一般家屋があったり商店街があったり、そういった日常空間にヒーロー然としたロボットが居るギャップの魅力じゃないですか。そのロボットに警視庁って書いてあったり、ナンバープレートとか良い具合にアイコンがあるんですけど、それを今の技術でさらに臨場感をもって描けるというのはありました。例えば今作は、人間の視点からの見上げたアングルのアクションが多いんですよ。屋根の間から見える二台のレイバーの取っ組み合いなど、CGならではの見せ方ですよね。
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(C)HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー

■アニメのデザインが実際のロボットに逆輸入されて、若い人にはヒーローロボットのデザインのパトレイバーがリアルに見える

--『イヴの時間』では登場した絵画ロボットやピアニストロボットなどが、ここ数年のAIの発展で一部の現実にフィクションが追いついてしまいましたが、『パトレイバー』でそういったことを感じる部分はありましたか?

吉浦:
今回のパトレイバーでそれに近いものを感じたのは、かつて『機動警察パトレイバー』が発表された当初、イングラム(※劇中に登場する警察用レイバー)はリアルな世界観に対して敢えてギャップのあるデザインだったわけじゃないですか? でも今回、面白かったのは出渕さん(※出渕裕、パトレイバーのメカニックデザイナー)系のデザインって、今の時代はむしろ実物のロボットに逆輸入されているので、イングラムのデザインが逆にリアルに見える若い人がいるらしいんです。実際にあるロボットから採ったデザインなのかな?みたいな。そういう捉え方もあるんだなぁと。

(※実際に、出渕氏は独立行政法人産業技術総合研究所が開発した22足歩行ロボットのHRP-2とその後継機のHRP−3のデザインを行っている。)

--今の実際のロボットを作っている人たちが、そうしたフィクションのロボットが大好きで作っていたりしますよね。

吉浦:
言うなれば、アニメがお手本だったりしますもんね。だから本当に現実が追い越したというか、現実がフィクションを模倣してそれがまた戻ってきているという、そういった事例がもう起こっているんだなと思うと感慨深いですね。
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レイバーのような巨大ロボットはまだ我々の普段の生活で目撃することはないが、既にフィクションの域を超えクラタス、ASIMO、Pepperなど形を変えて実現している現在。そうした我々の日常のテクノロジーはむしろフィクションから生み出された側面もあるという。いまREBOOTされたパトレイバーだが、そこで描かれた近未来の日常とは今まさに我々の日常と隣り合っているのかもしれない。

あの「機動警察パトレイバー」がファン待望の完全新作短編アニメーションとして復活(REBOOT)! 10月15日から東京・新宿バルト9、 梅田ブルク7で開催される『劇場上映 ゴーゴー日本アニメ(ーター)見本市』で一週間限定上映される。

また劇場先行版Blu-rayが10月15日に上映劇場にて、10月21日にバンダイビジュアルクラブ(BVC)にて発売。さらに特装限定版Blu-ray&DVDが10月26日に発売。

機動警察パトレイバーREBOOT公式サイト

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp

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