東京の未来は「江戸の暮らし」から見えてくるーー「Playable City Tokyo 2018」イベントレポート

2018.12.24 08:00

MakingtheCityPlayable2018_01.jpg

2020年に向けて、東京の町は日々進化を続けている。特に、再開発が進む渋谷駅周辺にはいくつもの巨大ビルが建設され、昨日と全く同じ景色を見ることが難しい。

最先端のテクノロジーやビジネス、エンターテイメントが集結し、世界中から注目を集めている東京。そんな東京をもっと進化させるために、必要なことはなにかーー。

2018年9月28日、未来の東京の在り方を考える「Making the City Playable 2018 コンファレンス」が開催された。「Playable City」は、英国のメディアセンター・ウォーターシェッドが2012年に立ち上げたプラットフォームだ。"遊び"を通して人と都市の出会いを促し、新しい町づくりに挑んでいる。本イベントは、英国外で初となる国際会議となった。

当日は、齋藤 精一氏(株式会社ライゾマティクス 代表取締役社長)、クレア・レディントン氏(ウォーターシェッド CEO/クリエイティブ・ディレクター、UK)、若林 恵氏(黒鳥社 ディレクター)など、国内外で活躍するスピーカーが登壇。さらに、8ヶ国の約30名のクリエイター、プロデューサー、研究者なども参加した。

本記事では、江戸の暮らしと対比しながら「未来の東京」のあり方を探った若林氏による基調講演を中心に、当日の様子をお伝えする。

"Playable"な町づくりは、子どもの遊びをお手本に。"流動的なルール"が、東京をアップデートする

過去を振り返ると、未来へのヒントが見えてくることがある。では、東京にとっての過去とはなにか?それは、約150年前まで続いた「江戸」に他ならない。

若林 恵氏は江戸を例に挙げながら、東京をPlayableな町に進化させるために必要なことを示唆した。

MakingtheCityPlayable2018_02.jpg

若林恵氏

若林氏がスライドに映したのは、江戸時代の商いの姿を絵で紹介した『江戸商売図絵』だ。都市を形成するのは、そこに生きる人びとである。過去と現在の都市を比較する上では、それぞれの時代における、人びとの生活に目を向けるとヒントが浮かび上がってくる。同書によれば、江戸の町に生きる人びとは、今よりも"楽しそう"だったという。

若林恵氏(以下、若林):江戸の町には、いたる所に物売りがいましたし、お布施を求めて歩いている山伏もたくさんいました。さらに興味深いのが、「スタスタ坊主」や「わいわい天王」と呼ばれる人たち。彼らは、頼まれていないのに人の家の前で勝手に念仏を唱えてお金をせびるんです(笑)。人びとは、そんな彼らにお金を払っていましたし、「お金のためなら、なんでもやる」ということが普通に通用していたんですよね。当時は「士農工商」という厳格な身分制度があったので、決して平等な社会ではありませんでしたが、なんだか楽しそうですよね。

明治維新を境に江戸は東京へと名前を変え、産業革命が起き、資本主義社会へと移行していった。さらに20世紀末に登場したインターネットによって、日本経済は大きく成長した。2014年にGoogleと野村総合研究所が行なった調査によれば、2011年では19.2兆円だったインターネットGDPは、2014年度には約23兆円にまで伸長している。江戸時代に比べて、東京で生きる人びとの、一人あたりの所得は遥かに高い。しかし一方で、「楽しそうに生きる人」は減少した。若林氏はその原因を、アメリカの人類学者デヴィッド・グレイバーの論文を紹介しながら、説明する。

若林:グレーバーは、2013年に発表した論文『On the Phenomenon of Bullshit Jobs,』の中で、「20世紀以降、世の中にはBullshit Jobsーーつまり、"クソどうでもいい仕事"が増えた」と言っています。

なぜなら、世の中にルールが増えすぎたから。人びとは効率化を求めて大量のルールを作ってきましたが、新しくルールができる度に、"クソどうでもいい仕事"が増えていったんです。ルールを遵守するために、大量の書類を書いたり、上司に確認をとったり...。無駄な時間が大量に発生するようになりました。

効率化を求めてルールを作ったはずなのに、そのルールが仕事を非効率にし、人びとの働くモチベーションも低下しました。イギリスの有力な調査会社YouGovの調査では、労働人口の37%が「社会に対して意味のある貢献ができていない」と答えたそうです。

MakingtheCityPlayable2018_03.jpg

グラフィックファシリテーター・やまざき ゆにこ氏によるグラフィックファシリテーション。リアルタイムで講演内容が可視化されることによって、若林氏のメッセージがダイレクトに伝わってくる。カラフルなイラストは、会場の雰囲気も明るく演出していた。

東京を、人びとがもっと楽しく活き活きと過ごすことができる"Playable city"に進化させるためには、社会における"ルールの在り方"を改めなくてはいけない。若林氏によれば、そのヒントは子どもの遊びにあるのだそう。

若林:"Playable"とは、子どものように柔軟な発想を持つこと。子どもたちは常に、その場に応じたルールを作りながら遊んでいます。たとえば、小学6年生の子どもたちが遊んでいるところに小学3年生の子どもが混ざった場合、体の大きさも年齢も違う"新入り"の子向けにその場で新しくルールが作られる。だからこそ、毎回新しい発見があって面白いんですよね。

"Playable city"に進化させるためには、都市においても時と場合に応じてルールを変えていくことが必要です。これからの東京には、そうしたルール作りを主導できるクリエイティブプロデューサーが必要になってくるのではないでしょうか。

人の能動性を促し、当たり前の風景を見過ごさない。東京を創造性溢れる町にするために

基調講演の後は、国内外で活躍するスピーカーによるプレゼンテーションやパネルディスカッションが行われ、それぞれが考える"Playable"が語られた。

株式会社グランドレベル代表の田中 元子氏は、「人の能動性を発露することが"Playable"だ」と話し、自身の運営するランドリー付き地元コミュニティ「喫茶ランドリー」を紹介した。田中氏は、喫茶ランドリーに訪れた人に対して、なにかを働きかけることはしないそうだ。人びとは"放っておかれる"ことで、それぞれが自発的に好きなことをして、楽しそうに時間を使うのだという。

午後には、"Playable cityの創造"の実践編となる、ワークショップも開催された。ウォーターシェッドが展開している世界のクリエイティブ・プロデューサー育成プログラム『クリエイティブ・プロデューサー・インターナショナル』の参加者たちが、ファシリテーターを務めた。

MakingtheCityPlayable2018_04.jpg

宇宙人になりきって行うワークショップ「Uchujin」は、地球の常識を知らない宇宙人の視点から、都市を観察するもの。参加者の一人は、地名が書かれた看板を観察し「地球人は、地名をわざわざ書かなければその場所を覚えられないのか?」と話し、普段当たり前にある風景の本質を問い直した。

"Playable"は、終わりのない探求。人が楽しめる"遊び場"を作り続けることが重要

最後に行われたクロストークには、齋藤 精一氏、クレア・レディントン氏、ティーン・ベック氏、若林 恵氏、三輪 美恵氏らが登壇。『SENSORS』の番組MCを務める齋藤氏は、2015年の日本上陸時から、Playable cityに携わってきた。同氏は以下のように述べ、イベントを締めくくった。

MakingtheCityPlayable2018_05.jpg

(左から)三輪美恵氏、若林恵氏、齋藤精一氏

齋藤:都市を「遊び」でアップデートさせるのは、クリエイターです。しかし都市を管轄するのは「行政」。ですから、クリエイターと行政が手を取り合う必要があるんです。

2020年に向けて、日本の行政も常に「なにかしたい」と考えていますが、失敗するリスクがあることには手を出したがらない。しかし、"Playable"とは終わりのない探求なので、一度で結果が出るものではないんです。「成功しそうだから、やる」ことではありません。東京をPlayable Cityにするためには、試行錯誤を繰り返しながら、さまざまな「遊び」に挑戦し続けることが必要なのではないでしょうか。


エンタメも仕事も、東京には世界中から最先端のものが集結している。そんな東京をさらに魅力的な都市にするためには、そこで過ごす人びとの体験を豊かにすることが重要だ。「遊び」を取り入れることによって、東京はもっと楽しく、面白い都市へと進化していくのではないだろうか。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

最新記事