ライゾマ齋藤精一、WIRED JAPAN若林恵らが語る「人と都市」との繋がり方

2016.02.25 08:30

英国ブリストル発のメディアアート作品『街行く人と都市をつなぐ不思議な街灯「Shadowing」が2016年2月26日(金)〜3月21日(月・祝)まで虎ノ門ヒルズで展示されます。これは道行く人の記憶を街灯が覚え、影として再現してくれる都市に溶け込む作品です。
英国以外では東京が初海外お披露目となる「Shadowing」は、どのようにして生まれたのか?開発者であるジョナサン・チョムコとマシュー・ロジア、そして彼らを支える英国・ブリストルのメディアセンターWATERSHEDのクリエイティブディレクター クレア・レディントン、東京でMedia Ambition Tokyoを実現するライゾマティクス 齋藤精一氏とWIRED JAPAN編集長 若林恵氏が行う対談の様子をお届けします。デジタルと融合する都市はどのような姿であるべきか?考えさせられるセッションです。

英国ブリストルにあるWATERSHED が掲げる「PLAYABLE CITY」。「PLAY=遊ぶ、楽しむ」をコアに据えたメディア作品を実際に都市にインストールしていくことにより、都市の活性化を図る取り組みです。
ライゾマティクス齋藤氏は世界中のメディアセンターを訪ねる機会が多いとのことですが、その中でもWATERSHED/ブリストルは市民、作品、都市との融合が素晴らしいと絶賛します。その背景には何があるのでしょうか?

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モデレーターを務めたライゾマティクス齋藤精一氏。胸にはWATERSHEDが手がけたクレーン作品Mass Crane Dance(後述)をオマージュしたブローチが飾られている。

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左から、英国・ブリストルのメディアセンターWATERSHEDのクリエイティブディレクタークレア・レディントン、「Shadowing」制作ジョナサン・チョムコとマシュー・ロジア、ライゾマティクス齋藤精一氏とWIRED JAPAN編集長若林恵氏。アットホームな雰囲気の東京・虎ノ門ヒルズカフェで行われた。

クレア・
レディントン
(以下クレア):
私が所属するメディアセンターWATERSHEDがあるブリストルは、テクノロジーとクリエイティブが融合するユニークな都市です。英国のシリコンバレー的な存在でもあり、バンクシーが生まれた都市でもある。そして、映画・映像文化も盛んで世界的に有名な「羊のショーン」「ウォレスアンドグルミット」アニメーションもブリストル発です。音楽も盛んで、ブリストルミュージックを代表するユニット「MASSIVE ATTACK」がいます。

そのような都市に新しいイノベーションを生み出すミッションを掲げた「WATERSHEDメディアセンター」が1982年に設立されました。我々はイノベーションやクリエイティブなアイディアは「People not like you=あなたと違う人」と話をすることから始まると考えており、アーティスト、テクノロジスト、科学者、様々な背景の方々とコラボレーションし続けています。

具体的には、市民参加型で町中を使って行うビデオゲームゾンビ体験「2.8 hours later」や工事用のクレーン100本を使ってダンスを行う「 Mass Crane Dance」や、街中にウォータースライダーを再現する「Park & Slide」等の作品があります。どれも市民が参加して楽しんでいる作品です。
我々は都市は車や建物のためだけのものだと考えがちでが、都市は市民が楽しむためのものです。
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ブリストルのメディアセンターWATERSHEDのクリエイティブディレクター クレア・レディントン

クレア:
ご存知だと思いますが、世界の半数以上の人が都市に住んでいます。
都市でどのように生活するか?は本当に身近な問題です。政府の政策や企業に頼るだけではなく、もっと人間味を感じ、文化を大切にする都市であるべきだと考えます。利便性を追求するだけではなく、もっとセレンディピティを大切に思わず出会い・発見することが可能なカフェやバーのような場所であるべきだと私は考えます。そしてWATERSHEDには実際にバーもあり、市民が常にコミュニケーションを取っています。

Playable Cityのコンセプトは市民が楽しめる作品を作ること。そして、ブリストルだけではなく世界のあらゆる都市に展開可能であること。我々が運営するPlayable City Awardは2013年からスタートしましたが、初年度に世界から200以上の応募がありました。受賞作品は最初にブリストルで紹介され、その後世界中の都市で展開されます。

先ほどイノベーティブなアイディアは「People not like you=あなたと違う人」と話をすることから始まると申しましたが、アート作品も同様「People not like us=ここと違う都市」で展開することにより新たな価値を持ち始めます。 今回ご紹介する「Shadowing」はまさにブリストル発で日本で展開される作品となります。 それではここからは「Shadowing」作品を作った二人にバトンタッチします。
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PLAYABLE CITY AWARD 2014 グランプリ作品「Shadowing」を制作したジョナサン・チョムコ(左)とマシュー・ロジア(右)

マシュー・ロジア
(以下マシュー):
僕たちは建築家とインタラクションデザイナーの2名でコンビを組んでいるのですが、人々が空間や歴史とどのようにインタラクトするか?をテーマに作品を作っています。

人が都会に住むとはどういうこことか?それは隣人の息遣いを感じることに意味があるのではないか?と考え「Shadowing」では、人の影を録画し、それを再映させています。自分よりちょっと前にその道を歩いていた人の影を感じることができる、他人に息遣いを感じる作品にしています。
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バスキュールの馬場鑑平氏に「Shadowing」を試してもらった。氏が5秒前に歩いた影と実際の影が同時に存在する。

マシュー:
実際にブリストルで展開したときに、影が時間差で出現し、自分の影と他人の影が混じる様にみなさん驚いていました。ですが、驚きの後は皆さま自分の影や他人の影と遊び始めました。その後ヨークシャーでも展開し、この度東京・虎ノ門にもやってきました。世界各国で展開されることにより、新たな楽しみ方が生まれることを期待しています。
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ヨークシャーでは住宅街にアート作品「Shadowing」をひっそりと展開させた

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東京ではオフィス街・虎ノ門ヒルズで「Shadowing」は展開される。都市が変われば受け取りての感覚も変わるのだろうか?

ジョナサン・チョムコ
(以下ジョナサン):
「Shadowing」は数秒前の自分の影の記憶を楽しむものですが、この作品を見て300年前の街の記憶を蘇らせて欲しいという依頼が来ました。そこで作ったのが「HEART OF KING」という作品です。これは木製のハートにGPSと触感センサーを搭載し、チャールズ一世が処刑場に向かう最後の道を歩いたところを再現するものです。
ハプティクス(触感)を大切にしたのは目と耳は自由に現在を楽しんでもらうようにするためです。
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「HEART OF KING」この作品を持ちロンドンの街中を歩く。チャールズ一世が登った処刑台への道に近くなればなるほど、鼓動バイブレーションが激しくなる。処刑台に登ったところで体験は終了する。

ライゾマティクス齋藤
(以下齋藤):
WATERSHEDはメディアセンターでありつつ、作品は全てブリストル始め街中で実施されるのが羨ましいです。例えば、私がブリストルで参加した「A Folded Path」では人々がスピーカーを持ちながら街中を練り歩くのですが、その際に参加者以外の人から何をやっているのか?と聞かれ説明すると、「よし、僕たちも参加する」と市民が参加者に変わっていくのです。
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日本だとそもそも道路交通法の問題などで実施できないことも、「PLAY」人々が楽しむ要素を大切にする作品を媒介してコミュニケーションが生まれている事例は、新しいまちづくりの方向性として楽しく正しいと思います。

クレア:
ブリストル市は「やりたい!」と言ったらやらせてくれる自由度を持っています。ただその背景には我々WATERSHEDが責任をもってしっかりしているからやらせてくれるのもあります。
WIRED JAPAN
若林恵(以下若林):
「HEART OF KING」が日本に展開されて、赤穂浪士の討ち入りシーンなどを体感できたら感動しますよね。さて、1982年に設立されたWATERSHEDが何故いま注目されているのか?クレアさんご自身に質問させてください。
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ライゾマ齋藤精一氏(左)とWIRED JAPAN編集長 若林恵氏(右)

クレア:
1982年設立当初から「よりよい未来を作りたい」と考え小規模ながらもアート作品を作っていましたが、ここ5年間でびっくりされるぐらい受け入れられるようになりました。いままでは何故科学者やテクノロジストなど異色のメンバーでプロジェクトを実施することが理解されなかったのですが、最近では組織や役割を越えたクロスセクターでプロジェクト実施するのが必要不可欠になってきています。その世の中の背景も含めて、ニーズが高まっていると考えています。
若林:
今回の「Shadowing」を作ったマシューもライゾマ齋藤さんも建築家、建築学科出身ですね。「建築家」の役割が変わってきていると感じませんか?
マシュー:
現在の建築家は空間、街、建築されたものを通していろんな体験を生み出す役割を求められます。伝統的には都市計画、家を作ることが建築家の役割でしたが、デジタルが普及しソフトウェアやアプリケーションが発達すると街中の体験、つまりは生活自体にレイヤーを重ねていく仕事も建築家に求められると思います。
齋藤:
「ハードウェアとしての建築」の時代は終わったと考えています。ハードだけ考えてビルを立ててもうまくいかない。建築家がよりソフトウェアを含めて学び、実践していくべきだと考えます。僕がライゾマアーキテクトを設立したのも、若林さんらとWIRED LABを始めるのもハードウェアとして見られてきた都市にソフトウェア、デジタルで何ができるのか?を日本で検証していく必要があると考えているからです。

まちづくりでライゾマに依頼される内容は「大きなLEDディスプレイで何かを見せて欲しい」や「商店街の屋根をLEDパネルに変更する」などのハードウェアアプローチのものが多い。そのようなアプローチではなく、今回紹介する「Shadowing」のように街灯自体が楽しめるものになると街は変わると考えます。展示に協力する虎ノ門ヒルズ、森ビルはとても先進的に実施していると思いますが、ソフトウェアを考えないとスクラップアンドビルドがまだまだ続いてしまうのを危惧しています。

僕がメディアセンターWATERSHEDから学んだことは、アクティブにアイディアをつくり、それを実際にブリストルにインストールしていくことが大切だということ。我々は街は「受け身」と思っていますが、アクティブに新陳代謝を高める為には作品をインストールし続ける必要があると感じています。
クレア:
WATERSHEDがうまく回っている秘訣のひとつに、バーの存在を挙げられます。人々が飲みにきてスタッフの給料が支払えるだけではなく、市民とコミュニケーションをとる場所として機能する。バーに来る方々が実際に作品に参加してくれる参加者となるのです。
そして「人々が集まる場所を作る」だけではなく、「人々が集まって平等にアイディアが出し合える空間」が大事。私が最近の流行りで危惧しているのは「テックスタートアップ」「コワーキングスペース」などは「場所」を作って満足するだけではなく「社会に貢献できる場所かどうか」をしっかり考える必要があると感じています。
マシュー:
アルビントフラーが1970年代に消費行動の中の「Experience 体験」に注目しましたが、彼は文明が進むに連れて人々は受け身ではなく、どんどん参加したくなるのではないか?と言っています。まさにその通りです!人々は単に美術館にいって鑑賞するだけではなく、美術館で体験することを欲し始めています。
若林:
先ほども述べましたが「HEART OF KING」デバイスを持って、赤穂浪士の討ち入りとハラキリまでの歴史物語を体験できたら泣いちゃうかもしれません。赤穂浪士を全く新しいストーリーとして受け止めることになりそうです。そう考えると、テレビも当時は同じ役割だったのかもしれませんね。いままで文章で読んでいた赤穂浪士を映像で再現することにより、新たなストーリーとしてみんなの心を生き生きとさせた。
ただ、テレビの赤穂浪士に飽きてしまった現在、また新しく赤穂浪士ストーリーを焼き直す必要があり、その際には「HEART OF KING」のような作品が媒介するのかもしれませんね。
齋藤:
僕は「都市とデジタル」はまだまだ分離していると感じています。
いまでも街中でスマホを見て歩いている人が多いです。これは街そのものよりもスマホの方が面白いからです。もしもスマホが街にインストールできるような素地ができるのであれば、人々は街を見て生活するようになるかもしれません。
まちづくりの現場ではライゾマは「魔法使い」と思われているところもあるのですが、派手なLEDディスプレイでの作品よりも、もっと地味で人が介在するところにテクノロジーを使っていかないといけません。まだまだ遅くないのでWATERSHEDの事例を参考に進めていければと考えております。

24時間365日携帯するスマートフォンは人間の一部になり始めました。ただ我々はスマホの先にある都市、ビル、道路とはまだまだコネクト仕切れていません。いままで「都市は誰かが作ったもの」と他人事として考えていましたが、スマホの出現、IoTの流れの先には自分とつながる「都市=生活空間」が存在することを認識させられるセッションでした。「Shadowing」等のインスタレーション、メディアアートに参加することは都市と自分の関係を考えるきっかけとなりそうです。

取材・文:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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