音楽の未来がここにあった!? 旧くて新しい音の創造的体験

2015.03.23 20:00

音を楽しむという営みは、太古より人間が最も身近に親しんできたものの一つであろう。そしてそれは人の身体そのものを共鳴させる歌という形式から、手や指を用いてかき鳴らす楽器、そしてコンピュータを使ったデジタルなものへと、テクノロジーの進化と共に変遷を重ねてきた。演奏も視聴もどんどん便利になる一方で、かつてのように人間の体と楽器が直接触れ合うことで音を奏でたり、自らの手で針をレコードにおいて音楽を再生するというような、身体性や物理的な関係性は薄れ、パソコンとスマホのディスプレイの向こう側に音楽がある世界になってきたとも言える。そういった世界を予見し、さらにその先のデジタルと人間の未来の形を直感的かつ新しい体験として描いてきたビジョナリーの一人がMIT Media Labの石井裕教授だが、 15年ほど前の研究で描かれたコンセプトは今見ても未来的だ。

musicBottles 2000

Audiopad 2003

同様に、身体を用いた音楽を通しての自己表現の範囲を拡大したり、人の営みたる音楽の原点である生演奏でのセッションを機械が行ったりと、先日開催されたSENSORS INGNITIONでは音楽の未来をかいま見させてくれる展示がいくつもあった。そのうちの3つを紹介したい。



■AID-DCC Inc.Eye Play the Piano


HMD(ヘッドマウントディスプレイ)は今最も盛り上がっている製品カテゴリーの一つだろう。Oculus Rift(オキュラスリフト)に代表されるように、その主要な用途はVR(バーチャルリアリティ)だ。


しかし、それとは全く違うアプローチを取っているのが「Eye Play the Piano」というシステム。日本発のハードウェアスタートアップが開発した世界初の視線追跡機能の付いたHMDであるFOVEを使い、四肢の自由がきかない児童がピアノを弾けるようにしたのだ。

http://eyeplaythepiano.com/


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株式会社エイド・ディーシーシー 上條圭太郎氏によると、アイスバケツチャレンジで一気に世間で知られるようになったALSを始めとして、肢体が動かなくなる難病に罹っている方々にとって、最も望む行為は自分の意志や感情を表現すること。

そういった病気を患っていない人にとっては空気のように当たり前で普段意識すらしていないことが、実際にはどれだけ貴重なことか。

肢体が自由に動かせないということはマウスはおろかタッチパネルも操作できない。だからこそ、不自由さを抱える人に寄り添い、簡単に実現するソリューションにはとても意味がある。

具体的には、ヘッドマウントディスプレイ FOVEに搭載された目線追跡機能を使い、 ユーザーの目線の動きを感知、ユーザーの目の前には鍵盤があり、弾きたい音に視点を合わせて瞬きすることで、 手足を一切使わずとも連結されたピアノから実際に音が鳴り響くというもの。

さらに、頭を下に傾けることで、それがピアノのペダルの役目を果たし、 弾いた音を伸ばすこともできる。


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筆者も実際に試してみたが、すぐに演奏できるようになった。


元々上條さんは、障害を持った方の可能性をテクノロジーで広げたい、という想いをずっと抱いていた。2013年には視覚障害を持つ児童向けにYahoo! JAPANの「さわれる検索」を企画・制作。

(触れる検索とは:マシンにさわりたいものをよびかけると、音声検索で3Dデータをみつけ、3Dプリンタを使って立体物として出力するというもの。検索したものを子どもたちが実際に「さわれる」体験を実現する。)

http://sawareru.jp/


今回も「さわれる検索」でタッグを組んだ博報堂と共に「Eye Play the Piano」の最初のユースケースをつくった。

現在クラウドファンディングを通して100万円を集めることに成功し、試作機30台ほどを肢体不自由児の通う特別支援学校に寄贈することを目指しているそうだ。

そしていずれは全国135校(部門のみを含めると334校)の特別支援学校へ、このEye Play the Pianoシステムを届けたいという大きな目標を掲げている。

将来的には、各ユーザーの視線の動きに合わせた最初の調整がもっと簡単になり、FOVE本体も軽量化される予定 。そして奏でられる音の数がもっと増えるそうだ。


MMI (Musical Mechanical Instruments)


続いては、KIMURA(TASKO inc.)、柳澤知明(rhizomatiks)、比嘉了(フリー)、2bit君(buffer Renaiss)が出展したマシンバンド「Musical Mechanical Instruments/MMI」。


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ギター、ベース、ドラムセットを機械が自動演奏するというもので、ドラムからの信号と連携し、機械たちが音楽を奏でるキックになっている。


このマシンバンドは昨年開かれた「Maker Faire Tokyo 2014」の会場でも披露されたので、IoTMaker界隈では知られた存在だ。Maker Faire Tokyo 2014では、ドラムとギター・ベースをあえて離れた場所に設置し、リモートでの演奏を実現していた。


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今回のSENSORS IGNITIONでは、カンファレンスとEXHIBITION終了後に行われたアフターパーティーにてMMIによるスペシャルライブも催された。自動演奏とはいっても、弦やヘッドが振動して生み出す音はホンモノ。楽器が持つ音の質感まで再現できるMMI、オーディエンスもCDやサンプリングした音を流すだけでは得られないライブならではの一体感を楽しんでいた。演奏の精度のますますの向上に期待したい。


MMI official website(facebook)

https://www.facebook.com/musicalmechanicalinstruments




■中西宣人(東京大学)『POWDER BOX


POWDER BOXは、そもそも誰でも簡単に即興演奏が楽しめる電子楽器。


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複雑な操作は一切なく、 やることはシンプル。


機器に色んなタイプのセンサーを挿入して、あとは自分の指でそれに触れるだけ。触れる強さや触れ方に応じて 音色、音程、リズムが変幻自在に変わっていく。各機器の赤いボタンを押せば直前の演奏分のループ再生が始まるので、他の楽器で同じことを繰り返していけば、音が重なっていきあっという間にセッションが始まる。



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指を滑らせればその動きをセンサーが感知して音階が奏でられ、にわかDJ気分を楽しめた。


しかも各楽器同士はペアリングが要らない通信規格で互いに接続されており 、演奏中はテンポとリズムが自動的に同期されるので、本当に誰でも簡単にできる。プレイを始めるとあっという間に人が集まってきていた。楽譜が読めなくても、演奏技術を持たなくても、感覚的に操作して音を出せる。しかもそれがただの音ではなくメロディーになっている。

コンピュータを操作する手段がキーボードしかなかったときは、コンピュータのコマンドを知らないと操作することが出来なかった。そこにマウスやタッチパネルが出てきて子どもでも操作できるようになったと同じく、とにかく触っていればなんとか形になってしまう。

WalkmaniPod、そしてiPhoneなどのスマホ+インターネット(YouTubeなどを含む)のおかげで音楽を聴くという行為はこの上なく身近なものになったが、演奏する人口はそれに比しては増えてはいない。だからこそ、こういった直感的かつ簡単なインターフェースで誰でも演奏ができるようになっていけば・・・将来が楽しみな端末である。


今回紹介した3つの展示に共通しているのは、
より幅広い人たちが音楽との関わりを深めるチャンスを作っているということ。

楽譜が読めない人でもメロディーを奏でられたり、直感的に体を動かすだけで楽器を演奏できたり、演奏者が同じ場所にいなくても機械でセッションを実現できるなど、音楽がさらに身近になる世界を予感させる製品たちだった。


最後に、冒頭のMIT Media Lab 石井教授の言葉を紹介したい。

"技術とは手段に過ぎない。ぼくらが成し遂げたいのは新しい体験。デジタル世界との新しい創造的な体験。"

今回の展示された製品や作品がかいま見せてくれた、新しい音楽の 未来へと期待が膨らむ。


(SENSORS編集部 取材・文 梶原健司:株式会社チカク ファウンダー カジケンブログ



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