いま押さえておきたい 米国クラウドファンディング史

2015.04.14 19:00

2009年にクラウドファンディングをリードする世界最大規模のプラットフォーム"Kickstarter"が産声を上げて以来、「クラウドファンディング」が世界を席巻している。旧来までの銀行やベンチャーキャピタルには見向きもされなかったスタートアップや個人クリエイターをエンパワーし、起業ファイナンスのルールを書き換えた。ファイナンスの調査・分析を専門に行うThe Tabb Groupのレポートによれば2015年、クラウドファンディング市場は170億ドルに達する見込みだという。日本でも盛り上がりを見せる中、今一度サービス発祥の地・アメリカを中心にクラウドファンディングが急速に成長を遂げていった歴史をベンチマークとなった事例を押さえながら振り返りたい。

■「クラウドファンディング」的精神の源流は「自由の女神像」建設

独立運動を支援したフランス人の募金によって贈呈され、1886年に完成した自由の女神像。(photo credit: Liberty Statue via flickr license

2010年前後を境にアメリカで始まり、一気に世界へと波及していった資金調達プラットフォーム「クラウドファンディング」。一見イノベーティブで新しい概念のように思われるかもしれないが、その概念の裏にある精神性の源流は古い。歴史が浅いアメリカにおいて、その端緒が見られるのが建国100周年を記念して建築された「自由の女神像(Statue of Liberty)」だ。これはジョーゼフ・ピューリツァーが自らの新聞「The New York World」を使ったキャンペーンで世界中から何千もの少額(一人当たり平均80セントほど)の寄付を募ったことで実現された。

日本においても「結(ゆい)」という昔ながら共同体制度がある。一人で行うには膨大な費用や期間がかかるプロジェクトに対し、村落単位で相互扶助の精神で成し遂げるというものだ。しかしながら、「不特定多数」の人から広く資金を募るという面で、グローバル性に欠けるものがある。

クラウドファンディングが真骨頂を発揮するためには、人々が時空間を超えてコミュニケーションを取ることを可能にした技術的到達点、すなわち「インターネット」の誕生が素地に必要だった。

■アメリカにおける二大プラットフォーム類型:報酬型&エクイティ型

クラウドファンディングが辿った歴史を紐解く前に、数多あるその類型を簡単に整理しておきたい。タイプを細分化することも可能なのだが、本国アメリカにおいては大きく二つに大別できる。

2008年1月にローンチされた「Indiegogo」。資金調達額の総計では、後発の「Kickstarter」の後塵を拝している。(https://www.indiegogo.com/)

【報酬型プラットフォーム(Rewards-Based Crowdfunding)】
KickstarterIndiegogoに代表される報酬型のプラットフォーム。出資者は金銭的なリターンではなく、T-シャツや初期プロトタイプなど何らかの報酬や特典が得られる。インセンティブは出資額に応じて変化することが一般であり、ユニークなものも多い。具体的なプロジェクトについては後述したい。

AngelList」ではスタートアップの株式投資、債務投資が行われる。認定された投資家のみが出資できる。(https://angel.co/)

【エクイティ型プラットフォーム(Equity Crowdfunding)】
あくまで主流は報酬型プラットフォームがメインストリームだが、AngelListCircleUpに代表されるエクイティ型プラットフォームの市場も活況を呈している。このタイプでは、出資者は対価として株式を受け取る。典型的な使用例はスタートアップへの出資である。2012年にオバマ大統領が立法化したThe JOBS Actにより合法化され、私企業が公的に資金を調達することが可能となった。

■現代のクラウドファンディングが誕生するまでの導線

冒頭でクラウドファンディングの隆盛にとって、インターネットの存在は不可欠だったと述べた。しかしながら、インターネットが人口に膾炙した90年代後半からクラウドファンディング・プラットフォームが出現するまでには約10年のタイムラグがある。

2006年に起業家のマイケル・サリバンが初めて「クラウドファンディング」という言葉を用いるまでに、クラウドファンディングという思想が社会に根付くキッカケとなったベンチマークを辿りたい。

マリリオンは(Marillion)は1979年にイギリス・バッキンガムシャーで結成されたプログレッシブ・バンド(photo credit: Joe del Tufo via Words and Music https://wordsandmusicbook.wordpress.com/

クラウドファンディング史を辿る上で、パイオニアとして必ず語られるのがイギリスのロックバンド「マリリオン(Marillion)」だ。
Kickstarterのような今やメジャーとなったクラウドファンディング・プラットフォームがまだなかった90年代後半に、彼らはインターネットの可能性を引き出すことに成功した。資金不足のため開催が危ぶまれていたアメリカツアーの資金60,000ドルをオンライン上でファンの寄付で集めたのだ。このキャンペーンの成功により、2000年に初の完全寄付型のプラットフォームである「ArtistShare」が誕生することになる。

これを皮切りにオンライン上で群衆から資金集めをすることのポテンシャルに気づいたチャリティ業界は、さまざまな領域から参入していくことになる。非営利組織はもともと小規模の草の根運動を基盤としてきたこともあり、これをオンラインに移行させることに好機を見出した。

Kiva」は世界中のマイクロファイナンス機関と提携し、融資する側(ユーザー)と融資される側(途上国事業主)をマッチングする仕組みの世界で初めてのNPO(http://www.kiva.org/

2005年にKivaがローンチされ、発展途上国に対して貸付を行うことを推進する初のプラットフォームになった。これまでクラウドファンディングを通じ1億6500万ドル以上を募っており、返済率が98%にものぼるという。これはマイクロファイナンスのグラミン銀行を想起させるものだ。 こういった成功を通じ、「ソーシャルレンディング(Peer-to-peer lending)」の概念が根付いていった。これはオンラインでお金を借りたい人と貸したい人を結びつける融資仲介サービスの総称だが、クラウドファンディングの思想と通底するものがある。

■「クラウドファンディング」という用語の産みの親のプロジェクトは実は失敗していた

ここまでみてきたように「クラウドファンディング」という言葉が一般に使われるよりも前に、そのコンセプトの下敷きは存在していた。ただやはり「クラウドファンディング」という言葉で定義されて初めて概念は結晶化をみるだろう。

初めてこの言葉を用いたのは起業家マイケル・サリバンだった。2006年8月に自身のビデオブログコミュニティを支援するためのインキュベータープロジェクト「fundavlog」を説明するために用いたのが"クラウドファンディング"だった。この用語が爆発的に社会に浸透していったのとは対照的に、彼自身のプロジェクトが日の目を見ることはなかった。

オバマ大統領を主体に運営される「Organizing for Action」は現在でもサイトから簡単に15ドルという少額から寄付することが可能となっている。(https://www.barackobama.com/

2008年にバラク・オバマ大統領がインターネットで資金・支持者集めで大成功を収めたことから、一層クラウドファンディングのポテンシャルが明らかになり始めた。オンラインで少額から簡単に寄付を可能にしたことで、政治自体への敷居を下げた。このことで新たな支持者層を掘り起こすことにも成功したのだ。

■Kickstarterが導火線となり、エクイティそして不動産まで伸張

Kickstarterではアート、コミック、クラフト、ダンス、デザイン、ファッション、フィルム、シアター、テクノロジー、音楽、写真、映像どのクリエイティブ系に強みを持っている。(https://www.kickstarter.com/

翌2009年にようやくKickstarterがローンチされる。今日、グローバルで千にも及ぶといわれるプラットフォームを牽引するKickstarterだが、クリエイティブ領域に強みを持ち、これまでに8万2千のプロジェクトが資金調達に成功し、約16.5億ドルが集まったという。(Kickstarterのレポートによる)

2010年になり初のエクイティ型プラットフォームとなる「GrowVC」がローンチされた。スタートアップと投資家をマッチングを促進し、これまでに世界200カ国近くから1万弱の起業家、投資家、専門家を結びつけているという。

Fundrise」が掲げている信条は「すべての人に不動産投資への機会を」(https://fundrise.com/

同年、クラウドファンディングでは初となる不動産開発への投資機会を与えることを目的にした「Fundrise」がローンチされた。これまでに20,000以上のメンバーに国内の30以上の不動産プロジェクトに投資する機会を供出している。

こうした社会の趨勢にあって、2012年ついにオバマ大統領がThe JOBS Act(新規事業活性化法)に署名した。この法律が立法されたことで、エクイティ型プラットフォームが法的に認められることとなり、さらなる勢いを獲得することとなる。

■クラウドファンディング史に残るユニークなプロジェクト

クラウドファンディングで出資者を募るプロジェクトはハードウェアの開発からイベントの開催まで様々であるが、ここではアメリカで特に注目を集めたユニークなキャンペーンをKickstarterからいくつか紹介したい。

「ポテトサラダ」プロジェクト by Zack Danger Brown (https://www.kickstarter.com/projects/324283889/potato-salad)

当初は10ドルを目標額にジョークとして始まったポテトサラダを作るためのプロジェクトは終わってみれば6,911人から55,492ドルを集めた。出資額に応じて、リターンも変わり1ドルでウェブサイトに名前が掲載、2ドルで調理風景を撮影した写真、3ドルでポテトサラダを少量、5ドルで希望食材をサラダに混ぜてくれる。10ドルが上限で、この額を出資するとキッチンで調理風景を見学できる。この面白おかしいプロジェクトはアメリカでも話題を呼び、様々なメディアで取り上げられた。

「飛ぶバイク」プロジェクト by Chis Malloy (https://www.kickstarter.com/projects/1524806320/hoverbike)

世界初の空飛ぶモーターバイクとして注目を浴びた「hoverbike」プロジェクト。キャンペーンのマネージャーによれば「ヘリコプターに比べ、このホバーバイクの方が安く、使い勝手がいい。全く新しい空の飛び方」ということだ。

「ディスコ・ドッグ」プロジェクト by PARTY NYC (https://www.kickstarter.com/projects/prtyny/disco-dog-the-smartphone-controlled-led-dog-vest)

そして最後に紹介したいのが現在出資者を募集中のプロジェクト「Disco Dog」だ。これはPARTY NYCが開発したもので、世界初の愛犬用LEDベストとのこと。スマートフォンと連携し、文字を変えたり、色を変えたりすることができる。スマホと接続が途切れたときに、自動的に「LOST DOG(迷い犬)」とメッセージが表示されるというのが可笑しい。プロジェクトがクローズするまで残り僅かということで、是非とも応援したい。

■次の5年でクラウドファンディングはどこに向かう

Kickstarterから生まれたOculus VRがFacebookに20億ドルで買収されたことやPebbleのスマートウォッチがクラウドファンディング経由で40万セットを売り上げたことで、米国において「クラウドファンディング」はバズワードの域を越え、一般化したといえる。一方で、プロジェクトの数が膨大になるにつれ出資者は一体どのプロジェクトを応援すればいいのか選択が難しくなってきているのも事実だ。そこでKickstarterのような総合型プラットフォームに対抗する形で台頭してきているのがジャンル特化型のプラットフォームである。

サイエンスにターゲットの照準を絞った「Petridish」はニッチクラウドファンディングサービスの一例だ。(http://www.petridish.org/

世界銀行のレポートによれば、2025年までにグローバルでのクラウドファンディング市場が900億ドルから960億ドルに及ぶといわれている。 マーケットが拡大すれば、既存のプラットフォームでは行われなかった新たなモデルが出現する可能性がある。これまでは小規模で多くの場合個人ベースだったプロジェクトが広がりを見せ、冒頭の「自由の女神像」でみたような市町村、国家、世界でより大きな規模の成功事例が生まれることを期待したい。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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