クリエイティブカンパニー「おくりバント」バズを生み出す大人たちの青春

2015.04.28 19:00

親会社にインターネット広告大手のアドウェイズを持ちながらも、会社設立からわずか1年の間に独特の感性を感じさせる繊細なMV、はたまた破天荒で型破りなプロモーション施策と数々のバズ企画を生み出してきた。小中の同級生で結成された「おくりバント」が仕掛ける"劇場型広告"の裏にはいつまでも消えることのない童心と夢、そして異能の三人が大人になり会社を設立するまでのドラマチックなストーリーがあった。

■アドウェイズ本社の一角に本陣を構える「おくりバント」

【左】クリエイティブディレクター(企画・制作)の小沼朋治氏、【中】代表の高山洋平氏、【右】左からアクションディレクター(俳優)の上野朝之氏、【前】ギラギラ広報あんな氏

事前のリサーチからオフィスは五反田あたりの小さな雑居ビルの一室を想像していた。ところがフタを開けてみると、インターネット広告では老舗のアドウェイズ本社内に彼らは本陣を構えていたのだ。数百人はいようかというとオフィススペースでスーツにネクタイを締めた社員がパソコンで忙しなく仕事をしている。その中を少し進むと、明らかに無理やり設営された"本陣"が忽然と姿を現す。その中で待ち構えていたのは大名や旗本ではなく、ニューエラライクのキャップを被りプラスチックバットを構えた「おくりバント」のメンバーだった。

「世界でも本陣で囲んだオフィスはウチだけではないか」と豪語するクリエイティブディレクターの小沼氏。海外ではそもそも建築文化が違うのでそれはそうだと思いつつも、話を聞いた...。

小沼:
資金もネームバリューもないなかで、口コミを意識したものを作りたかったんですね。かつ本陣にしたのは戦術を考える場所という意味もある。お客さんが来たときに必ず写真を撮って、SNSに上げてくれたりするんです。そういうときにこのバントポーズもあるとみんな写真を撮りやすい。

現在のところ社員は5人。案件の内容に応じ、外部のクリエイターとも連携しつつ仕事をこなしているという。

名刺はポイントカード制になっており、9個貯まると特典があるという。なお受注してもらうと一気にポイントが貯まる癒着型名刺でもあるそう。

■至上命令は「ぶっ飛ぶこと」同級生たちが再び出会うとき

代表の高山氏は会社設立前の四年半の上海駐在で語学は習得したものの、現地の人には飲み屋のお姉さんのような中国語に聞こえるのだそう。

「おくりバント」が結成される直前、代表の高山氏は上海アドウェイズの営業部長を務めていたという。営業のプロを自負する氏は、駐在時代、毎日飲みの席での営業力に磨きをかけていた。そのずば抜けた"接待力"でアドウェイズの岡村社長にも一目置かれる存在だった。駐在も四年半を迎え、そろそろ帰国したいと思っていたタイミングで、「ぶっ飛んだことをやりたい」と目論んでいた岡村社長から声がかかったという。

とはいえ、高山氏が得意とするのは営業の一辺倒。実際に手を動かせる人材が欲しい。そこで氏が白羽の矢を立てたのが、アドウェイズの他部署で働いていた小沼氏だった。また、当時バックパッカーとしてタイやミャンマーなどを放浪していた上野氏と高山氏が中国で偶然出会っていたことから、上野氏も「おくりバント」に参画することになった。特に示し合わせるでもなく自然の流れで会社を立ち上げることになった三人は、なんと小中の同級生、同じクラス同じ班だったというから驚きだ。

高山:
ぼく個人としては何もできないので、会社のコンセプトから何から全部設計してくれと小沼に設計させて、今も会社をやっているという感じです。

おくりバントは「自己犠牲の精神で、お客さまを得点圏までおくること」をミッションに現在主に3つの事業を展開している。メインの広告制作、"おくりバントアパレル"というアパレルブランドの展開、そしてYouTubeのコンテンツ制作だ。そして今後自社メディア事業の強化にも力を入れていきたいと語っていた。ちなみに社名には「おくりバント」とあるが、三人とも野球の経験はないという。ただし、パワプロやファミスタに関しては相当やり込んでるんだとか。

--オウンドメディアに関しては、当然マネタイズを考えてということですよね?

小沼:
いや、どちらかというと無駄なことをやりたい。趣味があわよくばお金になればいいと思ってやってますね。

会社設立時、親会社アドウェイズの岡村社長から渡された至上命令は「ぶっ飛んだことをやる」ただこれだけだったという。その他には何の縛りもなかった。現在の中心事業である広告制作に関しても経験があったのは小沼氏だけだった。

■予算をかけずにソーシャルで目立つための「奇策」

--なるほど。なにしろ地味なことはやるなと。それが前提にある上で、実際の案件で気をつけているポイントなどありますか。

小沼:
さきほど言ったオフィスを本陣にすることも一例ですが、とにかく口コミは意識します。IT系の人がインタビューのときによくやる"ろくろ"ありますよね。高山なんか実際にろくろを回すマシーンを借りてきて、実際に回してみたこともあるんですよ。
高山:
それがバズって、実際に仕事が来たんですよ。
小沼:
人数も少なく、資本も小さいので、例えるなら「奇策」のイメージです。僕らはメディアも持っていないので、何かを作った時の導線がない。だったら口コミが広がるようなやり方しかないんですね。

--いつかやってみたいことは何でしょう。

高山:
夢はジャッキー・チェンを呼ぶことですね。我々は彼をアクターとしてのみじゃなくて、歌手としても最高に評価してるんですね。彼に来てもらって、プロジェクトAの主題歌「東方的威風」とかを歌うイベントをいつかやってみたいです。

「おくりバント」のバックボーンには子供の頃からの夢や憧れがある。その一例にDMMのオンラインゲーム「HOUNDS」のプロモーションイベント「屍!!ゾンビ商事株式会社」がある。

もともとゾンビ映画が大好きだったことからこの企画は生まれた。とにかく思いついたことをあの手この手でうまくビジネスと結びつけながらやっていく。やりたいことが先にあってその後にお金が付いてくればいいというスタンスで臨んでいるそう。だからこそ低予算でも、振り切れた企画になるのだろう。

■バズりの方程式=533個のバント理論とは

--HPやこれまでの作品を拝見させていただくと、良い意味でふざけられてると思うのですが、バズるための方程式のようなものがあるんでしょうか。

高山:
おくりバント(OB)理論という全て広告理論に基づいたものを小沼が設計しています。これは533個の理論からなるんですが、この数字は奇しくもバントの神様・川相昌弘さんのバント記録と一緒だったんですよ。
上野:
数えたら偶然にも...。
高山:
ただ、まだ20個くらいしか出していないんですが。例えば、HPのトップの"バントお姉さん"。

株式会社おくりバントのHPトップより(http://www.okuribunt.com/

高山:
これは「三股理論」に該当します。女性の股を開かせることを僕らは常に考えているのですが、そのためには方法が三つあります。一つは「オシャレなBARに連れて行く」二つ目は「プレゼントをあげる」そして、「おくりバント」をさせるというものです。
小沼:
おくりバントをさせると自然に股が開くんですよね。
高山:
DeNAさんからサッカーゲームのプロモーションの依頼があったときに小沼が考えたのが「ボレーお姉さん」。女の子にボレーシュートさせると、これまた股を開くので、"四股"理論だなっていう話になったんですけど(笑)
DeNA『レボスタ』のプロモーション動画「きれいなボレーお姉さんは好きですか?夏子篇」
小沼:
これもバントの写真を撮ってたからこそ受注できたと思うんです。基本的にうちのノリはそういう感じですね。

--ということは、基本的には自分たちの感性を信じて?

高山:
感性というよりは、OB理論...。
小沼:
基本は感性ですね...(笑)

■マルチスキルが求められる時代に反逆する職人スタイル

コンテンツビジネスの世界では、写真やライティングなどのクリエイティブが分かる一方で、総務のような細々とした雑事もこなすことができるマルチスキルを持った人材が求められている潮流がある。(参考:コミュニケーションがコンテンツビジネスに迫る再定義、その先にある未来とは) そんな中、おくりバントではクリエイティブの経験があるのは小沼氏のみ。それぞれが一つのスペシャリティに特化している節がある。

高山:
うちは完全にプロ集団です。プロ集団というか、純粋にその箇所しかできない。例えば僕なら営業しかできません。小沼もクリエイティブだけ。上野は役者なんですけど(笑)役者と美術しかできない。ようは、職人の集まりのような。
小沼:
「目の前の一人を熱狂させる」みたいな話ありますよね。この二人は実際にそうなんですよ。僕がどんな企画を出しても、二人は絶対に否定しない。
高山:
「いいね〜、売れるね〜」って言って、すぐに売りに行きます(笑)
小沼:
この三人が熱狂できるコンテンツだったら他の人も楽しんでくれるだろうと。
高山:
小学校からずっと一緒だから感性が近いんですよね。ヒゲといえば、ポンセだったり、ハンセン、チャールズ・ブロンソンだったり。そのへんの共通言語がある。
小沼:
あとはよく言われますが、「突っ込まれビリティ」と呼ばれるような、いかに突っ込む余白を残すのかの設計には気を使いますね。

■サービス精神は「突っ込まれビリティ」に表れる

小沼:
これは合コンで気づいたんですけど、ツッコミがうまい男って嫌いなんですよ。男たるもの突っ込まれてピエロになって、一人前だろみたいな。
高山:
中野新橋の焼肉屋にいるんですよ。そういう洒落た奴らが。安い焼肉屋なのにワインなんか飲んじゃったりして。

--高山さん自身は具体的にどういったことをこれまでにやってきましたか。

高山:
営業にバイトで雇った女子を"愛人風"に連れ立って行ったり、ガリガリ君を食べながら行ったりしますね。

--え...?

高山:
ガリガリ君を食べながら「なんとかさんいますか?」と受付に行って、部屋に案内されたら、連れの愛人に「ほら、これやるから食べな」って言って。そういうことをしてます。

--それが許されるキャラなんですね...。

小沼:
サービス精神なんですよ。突っ込ませてあげると相手は気持ちいいじゃないですか。
高山:
よいしょの精神ですよね。一緒にやってくれるクリエーターさんなんかも女の子だったりしたら、「お母さんか、お父さんはフランス人ですか?」っていつも聞きますね。

■あえて企画を本道から外すことにバズのヒントはあるのかもしれない

--それぞれ尊敬している、影響を受けたっていうヒトや作品はありますか。

小沼:
『サルでも描けるまんが教室』はバイブルですね。あとは「ピタゴラスイッチ」で有名なメディアクリエーターの佐藤雅彦さん。僕らにはああゆう発想って全くないので。

--そこに近づこうという感じですか?

小沼:
及ばないですね。広告業界のヒトは本質的なところから入っていきますよね。僕らはどちらかというと上辺です(笑)企画書を書くのもだいたい前の日から。
高山:
そんなことないだろ!二時間前とかだろ。前日じゃ早いだろ(笑)
小沼:
電通の岸勇希さんが書かれた『コミュニケーションをデザインするための本』とかを読むと僕はけっこう感動するんですけど、できないんですよね。僕にはああゆうのが。天才なんだろうなあ...。
上野:
食べてるもんが違うんだろ。
高山:
きっと育ったのが足立区じゃないんだよ。環境のせいだよ。俺たちは俺たちにできることをやろう。

■とにかく「定礎」がアツい!

インタビューが沸点に達したのは、話が「定礎」に及んだときだった。最近注目していることを伺うと、三人から口を揃えて出てきたものが「定礎」だった。そういえば、高山氏は「定礎」と大きくプリントされたTシャツを着ていた。

高山:
営業マンとしてビルに色々行くじゃないですか。そうすると、定礎がたくさんあるんですよ。今までは全然分からなかったんですが、定礎って本当は南東にあるんですよ。ただ、最近はどんどん特殊な形のものが出てきてて、それを追うのが楽しくて仕方ない。
小沼:
定礎の素晴らしいところは誰でもすぐに始められる趣味なんですよ。
高山:
僕らは"定礎ティング"って呼んでるんですけど、最近ついに定礎ンズという定礎を愛でる会を結成しました。

--型ってそんなにたくさんあるんですか?

高山:
僕らが発見してるだけで、それも533個あるんです。例えばロボコップ型、象形文字型...。ケータイに数え切れないくらい定礎の写真が入ってます。

teisoscreen.jpg

小沼:
日本橋なんかに行くと、主演男優型っていうのがあるんですが、ビルの正面にドンっと。もう完全に主演なんですよね。定礎をやり始めちゃうと夢中ですね。あと10m行くともう一個あるんじゃないかとか。オフィス街なんかに行くと定礎がありすぎちゃって...。
高山:
あと面白いのでいうと、何も書いていない定礎。
小沼:
それは暗黒型だね。
高山:
いや、うっかり八兵衛型だな。

--どっちですかね...(笑)

■ゴールは女にスナックを持たせること、そして日本アカデミー賞を取ること

--もしバジェットが無限にあり、何も制約がなければどんなことをやってみたいですか。

高山:
スナックを女に持たせたい。それが男のロマンですからね。ブティックでもいいですけど。小さなスナックでいいんです。ベロアのソファーにはタバコの跡が付いてたりなんかして。俺がいつも飲みに行くとイライラしちゃう。「早く閉めちまえよ」とかって(笑)いつもカウンターの端で。「まだお客さんいるでしょ」「いいよ、そんなの」とかって。それはやってみたいですね。
上野:
僕は宇宙に行きたいです。
小沼:
個人の希望だな...。会社としては商業映画を撮りたい。映画を撮るために動画の案件をやったりだとか、MVにしても最終的な延長線上には映画があって、やってるつもりです。
小沼氏が監督&脚本を務めたMV、水曜日のカンパネラ『チャイコフスキー Interlude-ラモス- 』

--熱海城っていうのはまたどうして?

上野:
熱海城って観光用に作られた鉄筋コンクリート造で歴史的に実存したものではないんですね。あの北条氏が戦略的に建てたかったであろう場所に建てられただけで。
小沼:
あそこにドラキュラがいるんじゃないだろうかと僕は思うんです。じゃないと側に秘宝館があるのもおかしい。
高山:
ドラキュラって処女の生き血じゃなきゃダメだから、だいたい秘宝館に行くカップルって普通は男が女をその気にさせるために行くから、たぶん処女なんですよ。
小沼:
だから男と女を集める装置になっている。そして、熱海が観光地として寂れていくのと一緒にドラキュラも衰退していくんですね。そこでドラキュラは、熱海の全盛期を取り戻すために再活性化させようとするんです。
高山:
ただし、いきなり血を吸ってたらすぐに悪評が立つじゃないですか。だから、最初は血は吸わずに我慢して、ひたすら、熱海のためにって...。
小沼:
だんだん人になってしまう。最後に吸えるところまでいったのに吸わない。人間として生きる道を選ぶ。熱海が活性化して、みんなに感謝されるみたいな話って受けるじゃないですか(笑)
上野:
僕らは熱海をめちゃくちゃ愛してますからね。高校生の頃、みんなでよく遊びに行ってました。
小沼:
いつかその映画をとるまでは会社をつぶせないですね。
高山:
そうだね。この映画で日本アカデミー賞を取って、あとジャッキーを呼べたらもう思い残すことないね。

「おくりバント」のクリエイティブの源泉には、やってみたい、見てみたい、という少年の夢とも呼ぶべき積年の願望がある。純真さから生まれた企画だからこそ、人々に少年心を呼び起こし、琴線に触れるのだろう。そこから自然とバズが生じる。彼らの企て自体がアドウェイズ神出鬼没の"バナー広告"のようでもある。次はどんな"おくりバント"でワクワクさせてくれるのだろうか。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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