WEBと新聞から考える、新旧メディアの前途【後編】新時代のニュースとメディアのかたち

2015.05.28 23:00

スタートアップとのオープンイノベーションを加速化させる朝日新聞メディアラボ・渋谷分室で行われた有料トークイベント「Webと新聞から考える、新時代のニュースとメディア」(5月7日開催)。苦戦が続く新聞社の打開策とは?WEBメディアはマスメディアを代替できるのか?新旧メディアそれぞれにバックグラウンドを持つメディア人が見据える、新時代のメディアの形とはいかなるものなのだろうか。(【前編】WEBメディアは、記者を追いやるのか

【左から】中野渉氏(ハフィントンポスト日本版ビジネス&マネー編集長)、川原崎晋裕氏(ログミー株式会社・代表取締役)、山川一基氏(朝日新聞メディアラボ)、前島恵(株式会社kairo代表取締役)

前編では、100年以上変わることのなかった新聞の集団取材体制の限界が議論された。このシステムが立ち行かなくなったとき、誰が「公共性」を担うのか。そもそも、みんなが知るべき"マスなニュース"は存在するのか。海外の事例でいえば、バズフィードがピュリッツァー賞受賞の政治記者を迎い入れるなど、調査報道に注力していることも見逃せないだろう。
後半では、このような本質論に沿いながら、具体的な事例も織り交ぜながら新旧メディアのあり方が語られた。

■メディア×メディアで、イノベーションは起こらない

前島:
後半のテーマは「メディアのあり方」。まずはマネタイズの話から始めたいと思います。前半では「ジャーナリズム」や「公共性」などの話題も出ましたが、そもそもメディアって会社ですし、儲からないことにはジャーナリズムも保てないという側面があります。ログミーではマネタイズはどうなってるんでしょうか。
川原崎:
ログミーはマネタイズできないですよ(笑)書き起こしがどれだけ大変か...。60分の原稿を書き起こすのに、普通に5時間はかかりますからね。PVで1円も儲からない時代にそれをどうやってマネタイズするんだ...っていう話ですよ。
前島:
ハフィントンポストではいかがですか。
中野:
営業部隊というものを年明けに作りました。ネイティブ広告も注力したいと考えておりまして、専門に書く記者を雇っています。
前島:
新興WEBメディアが生き残る道の一つとして、大手の傘下に入るという方法があるかと思います。新興メディアとの連携自体についてはどのように考えているのでしょうか。
山川:
ただ出資したり、買ったりというだけで何か新しいものを生み出すというのは難しいと思います。ただ、我々のアセットを使っていただいて、さらに価値が上がるようなら協業などしたいとは当然考えている一方で、同じようなものをやっているメディアがくっついても世界はあまり変わらない気がしていて...。それよりも新しいテクノロジー、例えば人工知能、IoT、ウェアラブルなど、そういったものに次の世界があるんじゃないかと考えているのがこのメディアラボという組織の考え方です。
川原崎:
WEBメディアに関していうと、どのジャンルをやるかで収益化できるかどうか決まっちゃうんですよ。ビジネスあるいは不動産とかCPMがめっちゃ高いところじゃないと絶対に無理。芸能ならPVで押し切れるんですけど、カルチャーや音楽やっちゃうと厳しくて...。そういうところがどうするかというと、バイアウトするしかないと思っています。バイアウトする意味も、山川さんがおっしゃるようにメディアがメディアを買ってもあんまり機能しない。例えばクレジットカード会社のように仕組みと集客がセットになるから意味があるんですよね。朝日新聞さんが持っている仕組みで思うのは、配達網ですよね。例えば野菜農家と提携して、野菜とか売ったほうが儲かるんじゃないかと思うのですが。
山川:
全くその通りだと思います。このメディアラボでも「流通網」というのは一つの大きなテーマです。今までなにもやってこなかったというわけではなく、これまで地域によって牛乳を運んだり売ったりもしてきたんですよ。

■中立でいられないなら、バイアウトはしない

前島:
nanapiのけんすうさんは「やりたいことをやれるからあえて入った」とKDDIに買収されたときにおっしゃっていたと思うのですが、川原崎さんも大手と組むならここだみたいなところはありますか?
川原崎:
はじめは僕もメディアを10億円くらいで買ってもらって、南の島で一生暮らしたいと思っていました。でも、よくよく考えるとダメだって気づいたんです。端的にいうと、「公平性」が失われるおそれがありますよね。例えば、うちがフジテレビに買われたらフジ以外の番組の書き起こしはできなくなります。となると、Wikipediaのような寄付型が最終形態かなと思っています。上から僕のバナーが出てきて、「寄付してくれ!」みたいな(笑)
前島:
なるほど。その根底にある意識って、ジャーナリズム精神的なものなんですか?
川原崎:
かっこ悪いことしたくないんですよ。人から尊敬されていたい。起業家なので。めっちゃカッコイイこと言いましたね、冗談です(笑)
すごいクリエイターなのに世の中にうまく発信できていない人の手伝いがしたいっていうのが一番大きいんですよね。なので、そういう人を支援しようとすると、中立な立場でいないといけないというのがやっぱりあると思います。

■「炎上」をどう捉えているか

前島:
次のトピックは「ニュースのあり方」。とくに「炎上をどう捉えるか」ということについて皆さんにお聞きしたいと思います。
中野:
たしかに話題によってはFacebookのコメント欄が盛り上がることがあります。特に、民族系の話など、ヘイトスピーチにも重なってくるのですが、あとは右とか左とか。一応ガイドラインがありまして、差別的な言葉や丸っきり根拠がないのに人を馬鹿にするようなものに関しては、こちらの権限で見えないようにしています。ただ、言ってることが真っ当というか、論理的に間違っていなければ極力消すことはありません。
川原崎:
ログミーでは炎上ということはほぼないですね。むしろ一字一句書き出すと、登壇者の方から「やめてくれ」と言われることが多いです。
前島:
オフレコ的な?
川原崎:
これがオフレコ関係ないんですよ。これすごい面白いんです。普通、編集した方が自分の意図したことと違うことが伝わると思いますよね。でも、書き起こされた方は絶対にそう思わないんですよね。全文書き起こされる方が圧倒的に嫌だと言う。うちとしても全然揚げ足を取るつもりはないんですけど、人って口が滑るので、「やばい、これ」「でもあなた言いましたよね」っていうのが通じないんですよね。社長や経営者は責任ある立場なので、僕はけっこう容赦なくいくことが多いです。「言ったことはいったでしょ」っていうのが当たり前だと思うんですけど、一般の人であるとか、文化人だと別にいじめてもしょうがないですし、それは本意ではないので、事前に原稿をお見せして、直していただくことはあります。
山川:
コメント欄で建設的な議論が行われる仕組みは喉から手が出るほど欲しいです。それこそNewsPicksさんがやられたようなことを我々はやりたかったわけです。一次ニュースのコモディティ化が進んでいくと、逆説的にそこの価値も高くなっていて、前半で話したスター記者も同様です。同じニュースなんだけど、この人が書いたらどうなっていたか見たいとかっていう世界が次のメディアのあり方だと思うので、我々のサプライチェーンに入れたいという気持ちはすごく強いです。ただ、現実にはそこの部分は2ちゃんねるに集まってしまっている。忸怩たる思いがあります。

■コメント欄で成功をみるNewsPicksモデル

前島:
コメントをコンテンツとみなして、コンテンツの一部としてみるんですか、それともコメントから新たな記事を作るのか。
山川:
ああ、それはあると思います。ハフィントンポストはコメントを基に取材をしたりっていう世界があります。朝日デジタルが作った「withnews(ウィズニュース)」もそれに近くて、インタラクティブな形でそれを行っています。
前島:
NewsPicksの場合は経済に特化しているのと、返信できないようになっていたり、仕組みと合わさってある程度うまくいっていると思います。それが一般的なニュースであったり、国家みたいな話題が絡んでくると難しくなっていくところなんですかね。
山川:
それもありますし、例えば弊社がなんらかの形でUzabaseさんと提携するとします。読者からして、朝日が入ってることが分かると「NewsPicksどうなのよ」ってなっちゃう可能性も考えられる。そもそも色がついてしまうことに原因があるのかもしれません。ちょっと臆病になりすぎているのかもしれませんけど、世の中の状況はそういう気がしてて...。いずれにしても、建設的な議論ができる世界は作っていきたいです。

■みんなが知るべき"マスなニュース"はもはや存在しないのか

前島:
そもそも「マスなニュース」「みんなが知るべきニュース」って必要なんでしょうか。僕も一応、現代っ子の一人として思ったりするんですが、特にWEBの世界においては好きなものだけ読もうと思ったら、いくらでもできてしまう。一方、新聞社なんかは「メディアは公共性があるべきだし、議論の元になるべきだし、みんなが知るべきことがあるんだ」っておっしゃるんですけど、この辺りを伺いたいです。
例えば、中野さんは紛争地で取材をなされていました。若者視点でいうと、紛争について知らなくても困らないし、それでも日常生活を普通に送れる意識があるわけですよ。そういう中でも、伝えてこられた立場からお話いただければなと。
中野:
難しいですね...。たしかに、パキスタンやアフガニスタンのニュースってすごく読まれなかった...。パキスタンは日本人でも入れるんですけど、アフガニスタンは普通の日本人は入れません。おそらくアフガニスタンに日本人は100人ほどしかいません。内訳としては日本政府の大使館員とJICAの関係者、あとは援助関係者くらい。つまり、日本人がTwitterで発信するっていうこともできないので、そういう意味で、そこに記者が行って伝えることに意味があると思ってやっていました。ただ、それも「外電でAPのニュースを流せばいいだけ」っていったらそうかもしれないですけど、日本人が行って伝えることに意味があると思っていましたし、ニュースの価値判断はまだプロの目で総合的に見てやることが大切だと信じてやっていました。
前島:
僕の周りを見ていても、「そもそも中立性なんていらないんじゃないか」っていう議論さえあります。さきほど川原崎さんもおっしゃられていましたが、改めて、なぜ大企業に属するのではなく、独立している必要があるのかについてお聞かせください。
川原崎:
独立している必要があるのは、本当のことを書くためですね。「マスなニュース」っていう言葉の定義も変わってきていると思っています。昔はテレビや新聞が発信するものが"マスなニュース"ですよね。みんなが見ているものがマスなニュース。今はみんなが選択的にたくさん見ているものがマスな情報だと思います。もう一つの定義は、「知っておくべき」いわば"お節介なニュース"の出し方をすべきなのかっていう話ですよね。僕としては自分が損をしないなら要らないんじゃないかと思っています。まさにマスの発想ですけど、それによって国民の9割が損をするとか、危険な目に遭うとか、不利になるとか、そういうものだったらいいとは思うのですが、しばらくそういうものはなさそうなので...。
山川:
「お節介」というのはすごくいい言葉だと思うんですけど、まさに新聞の商法はある意味お節介なんですね。新聞は一面のトップ記事が一番重要など、紙面の構成や順番に重要性が割り振られていて、そういうルールが100年以上変わっていない。当然、今の世の中でそれが通用するはずもないと思っています。さっきの「9割の人が損をしなければいい」っていう話でいうと、新聞からすれば、「1割すごい辛い人がいるのは、社会問題じゃないか」といって、一面に持ってきてみんなに考えてもらう仕組みだった。でも「それって独善じゃないですか」っていうふうに変わってきていて、新聞社が厳しくなってきているんですね。我々としては、そこは常に重要だと考えていて、やろうと思っているんです。その届ける仕方をどうするのかというのを先ほどから議論していると思っていて、質の高い記事を発信し続けるだけのサステナブルな仕組みを再構築しなければならない。
前島:
種明かしをすると、僕も一若者とは言ったものの、完全に僕も同じ側で...目には見えない損得なんですけど、広く知っておかないと民族問題でもなんでもそうなんですけど、どんどん分かり合える範囲が狭くなっていって、争いの世界になってしまうのでは...という心配があります。
山川:
なにが損で、どこから得になるかは分かりづらいと思うし、どこがどうつながっていくかも分からないので、そこは広く情報をみんなで知りましょうっていう世界だと思うんですよね。じゃあマスのニュースにみんな関心がないかというと、そんなこともないんですよ。ピケティが突然爆発的に売れたり、池上彰さんの『週刊こどもニュース』が高視聴率になったり。あのお化け番組が打ち切られちゃった理由も単純で、子供向けの番組だったのに実際に視聴していたのは大人だったからなんです。つまり、そういったことに不安になったり、知りたいと思う人は潜在的にたくさんいるわけですよ。
前島:
ありがとうございます。では、最後に質問を受け付けようと思います。

■それぞれの尺度で選ぶ、最近もっともウケた記事

質問者:
御三方に最近の記事で一番ウケたものをお聞きしたいです。ウケなくても、自分で一番手応えがあったもの。それがPVなのか、ソーシャルでの拡散なのか、世間に影響を与えたのか、ご自身の尺度で結構です。どんな記事が一番ウケたのか、そしてその尺度はなんなのかっていうのを教えていただきたいです。
中野:
PVでいうと、率直に言って、先月の佳子さまの入学式です。写真を100枚つけたら、むちゃくちゃPVが伸びました。あとは最近ではパッキャオの試合。日本ではテレビで地上波がやっていなかったですよね。「じゃあ日本では何時からどうやって見られるのか」っていう記事を出すと、すごくPVが伸びたりしますね。直前になってみんなGoogleで検索するんですよね。こういうのは単にビューを稼ぐっていうことのお話です。
川原崎:
うちでいうと、「はあちゅうのゲスアワー」っていう超面白い連載があります。「青学のテニスサークルは本当にチャラいのか」「彼女の部屋で大人のおもちゃを見つけたときの正解の対応法」などなど。なんでこれが気に入っているかというと、ログミーをうまい具合に崩してくれるんですよね。僕はあんまり意識の高いメディアをやるつもりは全然ないんですよ。結果的にログミーは超意識の高い人が読んでるんですが、僕がやりたいのは書き起こしの可能性を追求することなので、そのためにはスタバで女子トークを起こしてもいいですし、おばあちゃんの世間話でもいい。書き起こしの可能性はたくさんあると思っていて、その中の最たる例がこの「ゲスアワー」。おそらくYouTubeの再生回数よりも、ログミーの閲覧数の方がはるかに多いんじゃないでしょうか。GMO熊谷さんの良い話のあとにサッとこういうのが入ってくる(笑)これは相当楽しいと思っています。
山川:
2年くらい記者を離れてしまっているのですが、過去に書いた記事でポジティブなものとネガティブなものの二つがあります。一つはアメリカでGMに勤めていた男性に密着して書いた記事です。GMの隆盛と凋落を、その社員の人生と照らし合わせた内容で、今までにない切り口だったこともあり数多くの好意的な投書を頂きました。もう一つはIMFの幹部が「日本の財政が世界のリスクだ」とが会見で初めて明言したことがあり、それを記事にしたときです。新聞記事って頭でっかちに書いて、後ろからどんどん削られていくのを前提に書いているんですね。だから起承転結じゃないんですよ。その結果、記事に載ったほとんどが「日本の財政が世界のリスクだ」っていう部分だけで。そしてデジタルだとモデルがフリーミアムなので、お金を払わないと一段落とか二段落とかしか読めないんですよ。それだけ出ると、「日本経済が世界のリスクになる」だけ出ちゃって、読者から批判が噴出しました。全文には背景ももちろん書いているんですが...。新聞というメディアの限界だったり、フリーミアムという仕組みの限界を痛感しました。
前島:
ありがとうございます。これにてトークセッションを終了します。

イベントのチケットは完売し、業界関係者を中心に活発な議論が行われた。

今回のイベントでは、紙/WEB二つの切り口から実務者を集め、「メディアのあり方」に関する実際的な議論が行われた。大手メディアが構造的な変革を求められる一方で、新興のWEBメディアの側でも淘汰が起こり始めている。ユーザーのコンテンツ消費行動が、メディアを入り口としたものではなく、タイムラインからの流入へと急速にシフトしているのだ。海外の事例でいえば、ニュース動画サイト「NowThis」がメディアのトップページを撤廃し、各プラットフォームに最適化したコンテンツ供給に完全シフトした。
メディア状況は目まぐるしく変化しているが、長年覇権を握り続けていた大手メディアが持つリソースは未だ強大である。山川氏が述べていたように、オープンイノベーションの源泉は一見結びつきが全くなさそうな革新的なテクノロジーにこそあるのかもしれない。ここ朝日新聞メディアラボから生まれる次なる"メディアのかたち"に期待したい。

【前編】WEBメディアは、記者を追いやるのか

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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◼︎WEB生まれの若き編集者が、本屋で描いた新時代の"編集"
[前編] 編集に正解がない時代をいかに生きるか
[後編] "拡張を続ける「編集」の本質とは


[登壇者プロフィール(2015年5月時点)]

前島恵| KEI MAEJIMA
前島恵
株式会社kairo代表取締役。ニュース解説メディアCredo編集長。今春東京大学大学院(メディア論、コミュニケーション論専攻)を修了し、現在はリクルートホールディングスに勤める。


山川一基| IKKI YAMAKAWA
山川一基
1995年の朝日新聞社入社以来、ほとんどを経済部の記者として過ごす。財務省、日銀、首相官邸、内閣府、自動車、IT、電機産業などを担当し、2010年からニューヨーク、12年からワシントンに勤務。13年に朝日新聞メディアラボに加わる。


川原崎晋裕| NOBUHIRO KAWAHARASAKI
川原崎晋裕
ログミー株式会社・代表取締役。Webメディアプロデューサー。1981年生まれ。2007年、株式会社サイゾー入社。ウェブメディア事業を立ち上げ、6年間で合計10メディア以上をリリース。2013年、独立。ログミーを運営する傍ら、コンサルタントとして外部メディアの運営に携わる。


中野渉| WATARU NAKANO
中野渉

ハフィントンポスト日本版ビジネス&マネー編集長 大学卒業後、JICA(国際協力事業団、現・国際協力機構)職員を経て、1997年に朝日新聞社に記者として入社。福島支局や静岡総局BB(ビッグブラザー=まとめ役・教育係)などの地方勤務、国際報道部、ニュージーランドのドミニオン・ポスト紙への短期派遣、イスラマバード支局長(パキスタンとアフガニスタンを担当)などを経て、2014年からハフポストに出向中。これまで難民問題など取材。

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