日本初の民間宇宙飛行士としてISS搭乗へ 高松聡氏の「ソーシャル・アートプロジェクト」

2015.06.25 10:00

日本人初の民間宇宙飛行士として、ソユーズに乗り込み、ISSに滞在すべくロシアで日夜訓練中の高松聡氏。宇宙旅行代理店「SPACE TRAVEL」の代表も務める高松氏は、これまでもクリエイティブ・ディレクターとして世界初の宇宙ロケを敢行したCM制作で注目を集めるなど、幼少期から宇宙への憧れを絶やすことなく人生を歩んできた。我々にはイメージし難い宇宙飛行士になるための訓練、高松氏が宇宙へ秘める思い、そして宇宙で実行予定の「ソーシャル・アートプロジェクト」の中身について話を聞いた。

高松聡氏(クリエイティブ・ディレクター、宇宙旅行代理店「SPACE TRAVEL」代表)<Photo Credit: Space Adventures, Ltd>高松氏のFacebookはコチラ

ロシア・星の街で、日本人初の民間宇宙飛行士としてソユーズ搭乗し、ISS滞在に向けて訓練に励んでいる高松聡氏にSkypeで取材を敢行。今年1月から訓練を続けているという訓練の内容とは?52歳の今、なぜ宇宙飛行士に?そして宇宙で実現を目論む「ソーシャル・アートプロジェクト」の中身とは何なのだろうか。

◼民間宇宙飛行士資格を得るための訓練とは︎

ソユーズのシミュレーターでの訓練の様子。<Photo Credit: Space Adventures, Ltd>高松氏のFacebookはコチラ

高松氏が行っている訓練は「宇宙観光」ではなく、あくまでもロシア宇宙庁が認定する「宇宙飛行士」資格を得るため。訓練・試験をパスしないことには資格を得られず、ソユーズの搭乗、そしてISSへの滞在は認められない。そのため、ソユーズ、ISS両方の構造と仕組みを把握しておらねばならず、暗記事項は膨大になるという。

高松:
仕組みっていうのは空調から何からなにまで全部なんですね。例えば、水をどうやって、どのタンクから、どういうパイプを通して、どのバルブをひねって、どうやって温めて、どうやって飲んで、どうやってタンクを交換するのか。一つ一つお話しするとキリがないくらい憶えることがあります。当然ISSにはトイレを直してくれる職人や大工もいなければ、医者や建築家もいません。ISSで過ごすにあたって必要となる知識や、メンテナンスの仕方も学びます。

トラブルなくISSで過ごすための知識に加え、当然ソユーズの構造や理論、フライトの性格まで把握しなければならないという。

高松:
ソユーズに関しては、基本的にパイロットと同じなので、目の前に広がっている全てのコントロールパネルのボタン・スイッチの操作方法を覚えます。加えて、体力を強化するためのフィジカルトレーニング、そしてロシア語も勉強しています。

--やはりフィジカルトレーニングは相当キツイんでしょうか?

高松:
人にもよるとは思いますが、僕はそれほど運動をするタイプではなかったので、それなりにキツイです。ただ、周りで訓練している人たちは屈強なスーパーマンみたいな宇宙飛行ばかりで... 横でものすごい勢いで懸垂してたりします。僕も頑張らなきゃいけない感覚に陥りますね(笑)

◼「ソーシャル・アートプロジェクト」で目指す"共有できる宇宙体験"

ESA(欧州宇宙機関)での訓練中に、シミュレーターの窓から撮影したもの。<Photo Credit: Space Adventures, Ltd>高松氏のFacebookはコチラ

宇宙飛行士になることは高松氏にとって、幼少期からの積年の夢だった。6歳で月面着陸を見た日から今日まで宇宙、ロケット、宇宙飛行士への憧憬が消えることはなかったという。52歳となった今、巡ってきた宇宙へのチャンスを掴み、ロシアでの訓練に励んでいる。当初はISSに行くことが夢だったが、訓練を積み、自分が宇宙に行く実感が湧いてくると同時に「宇宙で何をするか」という命題が浮かび上がってきた。

3月頃にアクションプランの構想が始まり、現在3つのプロジェクトを想定しているという。今回の取材では、その中でも特に興味深い「ソーシャル・アートプロジェクト」の中身について話を伺った。これは宇宙と地球をインターネットでつなぎ、地上にいながらにして宇宙を感じることができるというプロジェクトだ。高松氏はこれを「共有できる宇宙体験」と呼び、実現に向けた構想を練っている。

--「共有できる宇宙体験」とはどういったものなのでしょうか?

高松:
宇宙から帰還した宇宙飛行士が口を揃えて言うのが、「宇宙から見た地球は筆舌に尽くしがたいほど美しかった」ということ。人生観が変わるほどの景色だったというんですね。アポロ計画の頃は、よく帰ってきたNASAの宇宙飛行士が宗教家に転向したりということもありました。宇宙からみる地球の美しさというのは、宇宙に行ったことがある、ないしはこれから行く人にしか分からない体験じゃないですか。私も行くことになるので、個人としては大きいですけど、世の中にとってはあまり意味がないと思うんです。なので、宇宙に行って地球を見るという経験を地上にいながらにして多くの人が体験できるようなプロジェクトにしたいというのが考え方の骨格です。

--現時点で、具体的な方法は何か考えられていますか?

高松:
主に二つの方法で共有することを考えています。今でも毎日、ISSで撮った写真がNASAから公開されていますが、地上の方がシャッターを押せるようにしたいんですね。ISSからみる地球のライブ映像なんかはUstreamなんかでも見れるんですが、非常に解像度が粗く、かつ不安定なんです。私がやりたいのは宇宙に設置してある一眼レフのシャッターをアプリとインターネットを使って切れるようにすること。とはいえ、一眼レフの重たいデータをリアルタイムではシェアできないので、地球に戻ってきたときにシャッターを押した方にデータをダウンロードしてもらうようにする。地上にいる世界中の誰もが宇宙に行って、写真を撮ったらこんな写真が撮れますっていうのは理論的には可能になるわけです。

船長がコントロールパネルを操作する棒「コマンダー棒」が宇宙マニアの間ではどうやら渋く人気のあるアイテムのようです。前回アップした動画では棒は持っているものの、ほとんど使っていないので「棒でボタンを押すところ」を再度アップします。コマンダー棒は伸縮可能で、金属の棒の先にラバーがついています。スクリーンはタッチセンサーがないので、機械的に押せる正面のボタンを押して表示フォーマットを変び、Entremを押してコマンドを発令したります。長さ50CMくらいの棒でパソコンのキーボードを押して操作している感じです。これは無茶苦茶アナログ感があって、最初は恐々と触っていましたが既にちょっと快感に変わりつつります。「ロケット噴射!」みたいなコマンドをタッチパネルでクリックというのもなんだか味気ないとおもいませんか。今後ソユーズの操船インターフェースはさらにデジタル化が進むらしいです。でも重要コマンドは機械的なクリック感のあるボタンとして絶対に残ると思います。制御しているコンピューター自体が故障した場合の備えとしても機械式ボタンは存在意義があるのですが、それに加えて「重要なボタンを押すんだ!」という精神的な覚悟を要求する意味合いも大きいと思います。ヤマトで波動砲を打つときに「スクリーンの波動砲アイコンをポチっとクリック」では「打つ覚悟」が全然感じられないでよね。波動砲を打つことで得られるものと失うものはとてつもなく大きいのですからアイコンポチではだめなんです。話がずれてしまいました。。ソユーズのコントロールパネルで特に重要なコマンドとなるボタンは間違って押すことがないように金属のカバーがついています。左手スクリーンの下の方のグレーのカバーで覆われているボタン群です。クリティカル・コマンドと呼ばれているカバー付きボタンは一生触ることがない怖いボタンだと先週まで思っていたのですが、アンドッキングからランディングまでのシミュレーションの中で「軌道船内気圧を解放」「船内気圧ゼロに接近」「軌道船分離準備よし」、Satoshi!軌道船分離するぞ、「3、2、1分離!」とどんどん指令が進みカバーをガチャっと開け、ボタンを「覚悟を決めて」押したのでした。そういう緊迫しているところは撮影する余裕はないのです。アップしたビデオは、「マニューバーフォーマットに切り替えて、分離までの時間を確認してみなさい。!えーとはいガチャガチャガチャと切り替えて、マニューバーフォーマットになりましたが、分離までの時間はどこに表示されえているんだ?どこ?グデ?グデ? それはここここ、あー、突然警報が鳴る、警報音をペーケー2ボタンでキャンセルする、この警報音キャンセルはこのボタンでもできましたっけ? できないよNO 」という分離前の少し平和なシーンです。明日月曜には2回目のクルー3人で行うシミュレーションです。宇宙服を実際に着て実施します。前回も通信システムが故障などのマイナーな異常がありましたが、明日はちゃんとした故障というか重大な故障が途中で起きるはずです。故障=通常ではない状態になること」ですからオフノミナル・シチュエーションあるいはオフノミナルと呼びます。空気が漏れて船内の気圧が急減少してしまう「急減圧」や「火災」が明日起きるのでしょうか。船長以下私たちは、何も知らされずに飛行を始めます。どうなることやら。

Posted by 高松聡 on Sunday, May 24, 2015

ソユーズのコントロールパネルで操作の訓練を行っている動画<Movie Credit: Space Adventures, Ltd>高松氏のFacebookはコチラ


--もう一つの方法というのは?

高松:
宇宙に今ある一番高画質なカメラは地球上で一番高画質なカメラでは決してないんですね。ビデオカメラも同様で、数年遅れています。もちろん、カメラマンやアーティストが宇宙に行ったことがないことが一因かもしれません。なので、宇宙から撮った写真はすごい綺麗だけれども、美術館で10m幅で出力して、「うわー、すごい綺麗だな」っていうほど高解像度のデータの写真というのはまだ一枚も撮られていない。その他、色んなパラメーターで人間が知覚でき得る視覚体験を地上でスチールのビデオでも再現できていないので、これを再現できる作品を作ろうと思っています。大きく分けるとこの二つのプロジェクトに分類されます。

◼「3・2・1・イグニッション」宇宙へ行くことの実感を覚えた瞬間

<Photo Credit: Space Adventures, Ltd>高松氏のFacebookはコチラ

我々のような一般人にとって、宇宙は未だTVや映画の中でみる、イメージし難い遠い場所だ。幼心から抱いてきた宇宙飛行士という夢が突如現実化した高松氏は日々どのような思いを抱きながら訓練に臨んでいるのだろうか。

高松:
当初は理屈や理論を憶える座学が多かったのですが、実際にソユーズのシミュレーションで打ち上げからISSに到着しドッキングするまでをリアルタイムでシミュレーションしたときはリアリティを感じました。「3, 2, 1, イグニッション(発射)」。実際に軌道に乗ったタイミングでシミュレーターの窓の外を見ると、地球が見えるんですね。地球が回転している様を見たときは、訓練とはいえ、実感が湧きました。

--かなり本番に近い環境下で訓練が進められるんですね。

高松:
最初は点だったISSがどんどんと近づいてきて、ドッキング・ポートに5m、4m、1m、30cm、ドッキング。というようなシミュレーションを繰り返していると、「こうやって宇宙に行くんだ」っていう実感はすごく湧いてきます。あとは、宇宙服を実際に着て訓練を行うというのは実感を増す上では大きいかもしれないですね。

--月面着陸を目撃して以来、宇宙への憧れを抱いたと伺いましたが、その他に今回のミッションへの参加の後押しとなったような背景があるんでしょうか。

高松:
僕は物理学も好きなので、どうやって時間が始まったのか、宇宙の果てはどうなっているのか、重力とは何なのか。こういうことを考えながら物理学の啓蒙書や専門書を読むことも好きなのですが、百聞は一見に如かずということで、死ぬまでに宇宙へ行ってこの目で見てみたいという気持ちが強くありました。大きくは、単純にロケットや宇宙飛行士への憧れと宇宙を理解したいという気持ちの二つがあるということです。

◼来年こそ「宇宙旅行」が一般化する元年

<Photo Credit: Space Adventures, Ltd>高松氏のFacebookはコチラ

高松氏がチャレンジしているのは、あくまでも「宇宙飛行士」資格を目指しソユーズに搭乗、ISS滞在をミッションとするものなので文脈は異なるが、昨今では民間の会社を介した宇宙旅行への機運が高まっている。ある程度の費用さえ賄えれば、誰もが気軽に宇宙に行ける日が間近に迫っているというのもよく聞く話だ。
宇宙旅行代理店(SPACE TRAVEL)の代表も務め、業界の現況を熟知した高松氏に宇宙旅行の最前線についても話を聞いた。

高松:
ヴァージン・ギャラクティック (Virgin Galactic)スターチェイサー(Starchaser)といった宇宙旅行会社が「サブオービタル・フライト」というものを販売しています。価格は1000万〜1500万円ほど。ヴァージンなんかだと、コックピットに乗るわけではなく、普通の飛行機と同じようにパッセンジャー・シートに乗る。おそらく5分間くらいは無重力を体験するためにシートベルトを外してもいいことになってると思いますが、その程度なので特別な訓練はいらないです。

--かなり敷居は下がってるんですね。

高松:
ニューヨークに行くまでのファーストクラスが200万円くらいだとすると、それより安くなるってことはないと思いますが、高級外車を買う代わりに宇宙に行くことが可能になった料金かと思います。まだどこもお客さんを乗せた飛行は実現していないので、実感が湧きずらいと思うのですが、来年にはヴァージン・ギャラクティックあたりがお客さんを乗せたフライトを実現させる見込みですので、来年こそは宇宙旅行が一般化する元年になると思います。とはいえ、最初は事故を怖がる人も多いと思いますので、本当の意味で一般化するのは5年後くらいになっているかもしれません。いずれにせよ、そう遠くない話だと思っています。

--高松さんとしては、宇宙旅行ではなく、あくまでISSのミッションにこだわったということですよね?

高松:
サブオービタル飛行ももちろん素晴らしいので、行かないよりは絶対に行った方がいい。ただ、なにしろ宇宙にいるのは5分だけですからね。ISSの場合は10日間だから、240時間です。5分だけ一瞬行くのと、宇宙で1日中地球を眺めるのとでは全然違うので、是非ISSに行きたいというこだわりは強いです。"宇宙飛行士"というものにも六歳頃から憧れていたので、宇宙飛行士になるための訓練を全てこなし、資格を取るというのは得難い。逆に言うと、5年後に一般化するとなると、このパッケージ自体がなくなってしまう可能性もありますからね。

--「宇宙旅行」と一口に言っても様々なヴァリエーションがあると思いますが、業界はどういった展望になっているのでしょうか。

高松:
アメリカではボーイングとイーロン・マスク率いるSpaceXの二社がNASAの発注を受けて人を乗せるロケットを開発しています。早ければ年内、遅くとも来年にはアメリカの民間企業のロケットが再び人をISSに運ぶようになる見込みです。そうなると、私がやっているよう訓練を経て長時間宇宙に行けるというフライトがアメリカから始まるのではないかと思います。ちなみに月旅行というのもすでに販売されていますから、宇宙に行くことの幅はすごく広がると思います。あと三年後には日帰りではなく、地球を何周もして還ってくるとか、ISSに滞在するっていうようなものがアメリカからも出てくると思います。10年後にもなると、ISSではなく、民間の宇宙ステーション、言ってしまえば"宇宙ホテル"ですね。これができても全然おかしくないので、これから数年単位で著しく選択の幅は広がっていくと思いますよ。

<Photo Credit: Space Adventures, Ltd>高松氏のFacebookはコチラ

SA社と「ISSへの飛行契約」を締結し、早ければ二年後に宇宙で実行に移される"ソーシャル・アートプロジェクト"。
6歳の頃から抱き続けてきた夢が、半世紀越しに叶う。
見果てぬ宇宙への旅が、近づいている。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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