あえて"不完結"にこだわる「弱いロボット」が人とモノの関係性に問うもの

2015.06.13 14:00

高機能を追求したプロダクトやデバイスが開発のしのぎを削っている。そんな中、あえてそういった潮流とは離れ、人とモノのコミュニケーションに焦点を置きながら、社会性を持ったロボットを研究するのが豊橋技術科学大学の岡田美智男教授だ。岡田教授がロボット・デザインで心がけるのは、機能の足し算ではなく、引き算の発想だという。あえて欠点を持たせ、人に関わりを求める「弱いロボット」とはいかなるものなのだろうか。

■開発思想の裏にあるのは、あくまでも"人のコミュニケーション"

岡田美智男氏(豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 教授)

豊橋技術科学大学の岡田美智男教授は自身の研究室(ICD/TUT)で、社会的ロボティクス(Social Robotics)・関係論的ロボティクス(Epigenetic Robotics) など、人とのコミュニケーションの成立や社会的関係の形成過程、人との関わりの中での認知発達機構の解明などを狙いとした次世代ロボットの研究を行っているという。

最先端テクノロジーを応用した高スペックプロダクト、デバイスが日々開発される中にあって、あくまでも開発思想の軸に"人のコミュニケーション"を置いているのが岡田教授のスタイルだ。

■完璧な仕事ではなく、むしろ人に頼る「弱いロボット」

《Sociable PC》: 「さむうなったなぁ」の語りがけに、ただ「コクン」とうなずいてくれる-そんな愛嬌のある「パソコンのようなロボット、ロボットのようなパソコン」(http://www.icd.cs.tut.ac.jp/projects/new_spc.html)

ロボットが人をナビゲートするわけでもなく、人がロボットの世話をするのでもない、ただ一緒に手をつないで並んで歩くだけのロボット「マコのて」や、まったく役立ちそうにないが、そこに居ないとなんだかさびしいような気持ちがする社会的存在を指向する、仮想的な生き物「Muu(む~)」など岡田教授がこれまでに発表してきた数々のロボットには共通した設計思想が見られる。それが意図的な"弱さ"だ。

岡田:
開発で気を配っているのが、ちょっとした弱さというか、たどたどしさ。そういうものをロボットが持っていると、僕らは思わず助けようとしてしまう。人の手助けを上手に引き出しながら、結果として目的を達成させるものが多いですね。

「弱いロボット」の開発のきっかけとなったのは、岡田教授のバックグラウンドにあるコミュニケーション研究だという。人間の身体を内側から考えると、自分の顔や背中が見えないように必ずしも完璧ではない。身体の"不完結性"にこそ大きな特徴があるというのだ。ここに着目した岡田教授は、不完結なロボットを次々と発表していくようになった。

■ひとりではゴミを集められない「Sociable Trash Box」

《Sociable Trash Box》:ひとりではゴミを拾い集められないけれど、子どもたちのアシストを上手に引き出しながら、結果としてゴミを拾い集めてしまう、「弱さをちから」にするゴミ箱ロボット(http://www.icd.cs.tut.ac.jp/projects/new_stb.html)

《Sociable Trash Box》はロボット単体ではゴミ集めができないが、ゴミを入れて欲しい仕草で子供のアシストを引き出しながら、結果としてゴミ集めをする他力本願なロボット。

--そもそもなぜ他力本願なロボットを作ろうとしたのですか?

岡田:
私たち人間も完全なようで不完全な部分を持っているんですね。そういった事を無視して、完璧を目指していくと、無理がたたってしまう。できないことは周囲に頼ればいいのではないかという発想で考えました。そもそもロボットにゴミ拾いをさせようとすると、ゴミに近づけて、アームを伸ばして、ゴミを拾い上げるって色々大変なんです。そういうことを考えるんだったら、側にいる子供たちに拾ってもらったほうが結果的に楽なんじゃないかっていう事なんですよね。人に頼るロボットっていう視点で考えると、いろんな可能性が膨らんでいく気がしています。

《Sociable Trash Box》の機構図(http://www.icd.cs.tut.ac.jp/projects/new_stb.html

測域センサーによって障害物を避けながら、カメラと焦電センサーによって人とゴミを区別し、赤外線センサーによりゴミ箱の中にゴミが入れられたことを感知し、お礼をする仕組みだという。
このロボットを使って実験したところ、周りにいる人間、特に子供がゴミを拾いゴミ箱に捨ててくれたとのことだ。

《Sociable Trash Box》を体験するSENSORSレッド・畑下由佳

実際に《Sociable Trash Box》のデモを体験したSENSORSレッド・畑下由佳は「人間と接しているような感覚になった」との感想を漏らした。これに対し、関係論的な視点でロボットを製作する岡田教授らしい返答があった。

岡田:
人らしさを表現する方法として人の姿に似せたロボットというものがありますが、僕らは周囲との関係の在り方に似せようとしています。なので、必ずしも人型をしている必要はなくて、人からタスクを受けたり、人に頼ったりする振る舞いをどんどん人に似せようというアプローチですね。

■子供のような喋り口でニュースを読み上げる「Talking-Ally」

《Talking Ally》:聞き手の姿勢や視線の動き、相づちなどをリソースに、発話をリアルタイムに調整、組織化する発話生成システム(http://www.icd.cs.tut.ac.jp/projects/new_ally.html)

相手の目を気にしながら、おどおどと話をするロボット《Talking Ally》。
「あのね、きょうね、がっこうでね、ねっ、きいてる?」学校から帰ってきたばかりの子どもが、母親に今日の出来事を説明するかのような語り口でインターネット上のニュースを読み上げる。畑下が「ロボットと会話しているという感覚じゃないですね」と述べるように、《Talking Ally》は話し手として一方的に発話を繰り出すだけではなく、聞き手の存在を予定しつつ、その聞き手との相互行為的調整に基づいて発話の組織化を行う発話生成システムなのだという。

《Talking Ally》が読み上げるニュースに笑顔で耳を傾けるSENSORSレッド

カメラにより人の顔を認識し、サンプリングした子供の声をたどたどしく読むようにプログラムされている。さらに、動きも生き物のようにスプリングを入れてあるという。このロボットには、より集中してニュースを聞く力を引き出す効果があるのだとか。たしかに子供が一生懸命に説明してくれる様には、耳を傾けてしまうのが自然だろう。

■"引き算思考"がロボットをシンプルに、関係性をリッチにする

「弱いロボット」が内包する、ある種の"ユルさ"はスペック競争の様相を呈する昨今のテクノロジー業界に逆行しているかのように思われるかもしれない。しかし、岡田教授が警鐘を鳴らすのはまさしく高機能性を追求し続ける日本のモノづくりそのものなのだ。

岡田:
コンパクトに高機能なものを追加していくっていうのが日本のモノづくりの強みだったわけですが、それがすでに消耗戦になっていて、疲弊し始めているんですよね。それよりも隙間を作り、人に手伝ってもらいながら一緒に新たな機能を生み出すっていう方向もあるのではないでしょうか。

岡田教授は「弱いロボット」に典型的にみられる、意図的な"不完結性"を「パワーダウンシフト」と呼ぶ。自己完結にタスクをこなすのではなく、人から助力を引き出したり、不完結さを前面に出すこと、まさしく"弱さ"の芯にある部分に注力するのだ。
この種のプロダクトを創り出すときに、開発段階で必要となるアプローチが機能追加型の足し算発想ではなく、引き算発想なのだという。

岡田:
(引き算発想だと)ロボット単体としては機能がそぎ落とされてシンプルになるんですけど、周囲との関係性はどんどんリッチになっていくんですね。このバランスが大事で、これまでのアプローチが足し算というのに偏っていたので、引き算型のロボットもどんどん増えていいと思っています。

岡田教授が"弱い"ロボットにこだわる理由の裏には、人間の身体性と感情の揺らぎをつぶさに読み取り、人とモノのコミュニケーションに還元しようという開発思想がある。相手の感情の機微や内面の情緒、未だテクノロジーだけでは把捉できない人間の非理性的な部分を切り捨てることなく、自身の研究に取り込んでいく教授の思想は今後、IoTの分野でも輝きを放つのかもしれない。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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