「動きのカガク展」ディレクター・菱川勢一が語るより繊細に、より五感に訴える"デリケートなモノづくり"

2015.08.10 18:00

21_21 DESIGN SIGHTにて6月19日より9月27日まで開催している「動きのカガク展」。"動き"に焦点を当てた本展示では、モーション・デザインの第一人者であるクリエイティブ・ディレクター菱川勢一氏がディレクションを行った。テクノロジーを盲目に享受するだけではなく、その裏側にある仕組みや原理を体感的に理解してもらうため"図工室"をテーマに掲げているという。SENSORSレッド畑下由佳が菱川氏に企画展の意図、モーション・デザインの本質、そしてアートとテクノロジーの関係に迫った。

■「動きのカガク展」はテクノロジーを使った、体験できる"図工教室"

2011年のカンヌライオンズで三冠を獲得するなど、国内外で数々の広告賞を受賞してきたクリエイティブ・ディレクター菱川氏がディレクターを務めた「動きのカガク展」。

"デジタル・ネイティブ"という言葉を聞くようになって久しいが、街中ではスマートフォンを使いこなしている子供の姿をよく見かける。小学生にもなれば当たり前のようにパソコンを使い始める。デジタルが社会に浸透するほど、アナログなものづくりに触れる機会も限られてきているのではないかという問題意識を持っていたという菱川氏。

クレジット:動きのカガク展ポスター(アートディレクション&デザイン:古平正義)

「動きのカガク展」は、「動き」がもたらす表現力に触れ、観察し、その構造を理解し体験することで、ものづくりの楽しさを感じ、科学技術の発展とデザインの関係を改めて考える展覧会です。本展で紹介する作家や学生、企業との協働による多彩な「動く」作品は、身近な材料と道具を使い、私たちの創作意欲を刺激することでしょう。そして、菱川勢一率いるドローイングアンドマニュアルが制作した動きの原理をひもとくアニメーションとともに、日常にひそむ様々な動きの仕組みを体感してください。 引用:「動きのカガク」展HP開催概要より

--改めて今回の企画展のコンセプトを教えてください。

菱川:
テクノロジーを使った、体験できる図工教室です。とはいえ、"図工"と一口に言っても沢山あるので、その中でも今回は"動き"をテーマにしようと思いました。例えば、「自動ドア」ってありますよね。あそこにも相当なテクノロジーが隠れているはずだと思うんです。裏側には沢山のギアやベルトやモーターがあるはずで。だけどスマートなデザインにするために不可視になってるから、子供が「これどうやって動いてるんだろう」って疑問に思ってもなかなかそれを知る由がないですよね。

--たしかに自然のものとして通っていますね。

菱川:
僕が生まれ育ったのが東京下町の京浜工業地帯なんです。そこらじゅうに工場があるような、いわゆる「下町ロケット」みたいと言われるような町ですね。こうした町工場って日本中にあったはずなのに、いつも間にか姿を消して、郊外の大きな工場に集約されていってしまいました。昔は「おっちゃん何やってるの?」とか簡単に中を覗いて、おじさんが教えてくれたりしたんですよ。「お前危ないけど、これはこうやってやるとネジになるんだよ」と教えてくれたりして、モノづくりが見えたんですよね。

--最近では、小学生からプログラミングをやるなんてことが一般化しつつありますが...。

菱川:
プログラミングのようなソフトウェアではなく、実際に手や機械を動かしてやるモノづくりもやってほしいですよね。こういったモノづくりを見ることなく大人になってしまった人にも一度見てほしいと思います。

■ディレクションで選考基準になった"わかりやすいもの"と"わかりにくいもの"

--今展示ではディレクションをされていますが、作品選びはどういった基準で?

菱川:
作品の仕組みが分かりやすいものを中心に選びました。例えばダンボールがあってモーターがあって、その先にボールがついて、くるくる回ってボヨンボヨンしてるけど音が鳴る、とか。当たり前のように思っているけど、実際に見ると「うわあ、面白いな」って思えるようなものですね。

--菱川さん自身が刺激された作品もありますか?

菱川:
人工知能を使った「セミセンスレス・ドローイング・モジュールズ #2(SDM2) - レターズ」(作:菅野創+やんツー)という作品ですね。

菅野創+やんツー「セミセンスレス・ドローイング・モジュールズ#2(SDM2) - レターズ」(Photo: 木奥恵三)

菱川:
人工知能が来場者が書いたメッセージを勝手に解析して、文字を分解して、また壁に落書きしていくというもの。人工知能が自分で判断してアウトプットを描いていくので、こちらのルールを無視した人が、見たこともない文字を書いているようなことですよね。"人工知能"っていうものの未来を示唆してくれているような、そんな作品です。次の未来を考えたときに最もホットな部分だと思うし、個人的には一番注目していますね。

--この発想は菱川さんの中では意外なものだったんですか?

菱川:
作家から「人工知能を使います」って言われたとき、「待ってました!」と思いました。これは絶対にわかりにくい作品になるなと。難解なものに直面して好奇心が沸くっていう事を促したかったので、こういう作品を展覧会に置きたかったんですね。

■"モーション・デザイン"は表現を豊かにする

(左)菱川勢一氏 (右)SENSORSレッド畑下由佳

--「モーション・デザイン」というワードについて少し説明していただけますか?

菱川:
これはアニメーションの世界ではそれほど新しいワードではないんですね。キャラクターをこういうふうに動かそうとか、アニメーションってまさに"動き"を作り出すことですよね。「車が動く」って口では簡単に言えても、どういうふうに動くのかは綿密に設計していくわけです。

--たしかに猛スピードで飛ばしているのか、ゆっくりとドライブしているのか、人によってイメージは違いますしね。

菱川:
あと日本語の言葉としての面白い特徴として「擬音語」がありますよね。オノマトペとも言いますけど、"ビヨ〜ン"とか"ポヨ〜ン"とか。"ビヨ〜ン"ならゴムのようにニュッと伸びる感じがするし、"ポヨンポヨン"は軽快に飛び跳ねる感じがする。そういう意味で日本人の表現力ってもともと相当豊かだと思うんですよ。外国語にも全くないわけじゃないけど、こういう表現豊かな日本語に接している僕らは、実は"動き"っていうものを潜在的にデリケートに捉えているんだろうなと。なので日本のアニメーションが表現豊かなのは、実は「モーション・デザイン」が元々すごく得意なところに起因するんじゃないかなというのが勝手な説です。

--私たちの身近な生活の中でモーション・デザインが還元されている具体例でいうと何があるんでしょう?

菱川:
例えば、「スマホ」。スマホは画面をタップするとフワーンと出てきたりしますよね。ボタンを押したらパチッと画面が切り替わればいいんだけど、フワーンと出てくるから気持ちいいですよね。あれはまさに「モーション・デザイン」ですよ。あれはUIデザイナーと言われる人たちが設計してるわけですが、必要か不必要かでいえば別に不必要なんです。ただその表現があると「気持ちいい」とか「使いやすい」となる。つまり"動き"を与えることで、豊かになるんですね。

--今回の展示のなかで、特に「モーション・デザイン」を感じられる作品はどれでしょうか?

菱川:
「アトムズ」(作:岸遼)ですね。これは気流を使った作品で下から空気がブァーっときて、その上でボールがクルクル回る。

クレジット:岸遼「アトムズ」(Photo: 木奥恵三)

菱川:
見ているだけで気持ちいいのですが、割と乱暴にボールをポンと投げ入れても、ちゃんと捉えてフワ〜ンとソフトにキャッチしてくれるんですよね。「ここで一体何が起きているんだろう」と不思議な気持ちになる。ここで使われている原理ってベルヌーイの定理っていう昔からある物理現象だったりするんです。空気の流れでものを捕まえてくれますという。実際子供たちがとくにこの作品をみてはしゃいでいるのをみると、「すごいわかるなぁ」と思います。

■「デリケートなモノづくり」へ:モーション・デザインはテクノロジーを次の次元に持っていく

--モーション・デザインによってテクノロジーの幅は広がっていくんでしょうか?

菱川:
広がると思います。機能として「便利」というところから、どんどん「豊か」「気持ちいい」とか次のステップに入っていってると思います。「デリケートなモノづくり」が一つのキーワードな気がします。モーション・デザインの視点で一工夫を加えることで気持ち良く感じるモノが進化していく。この展示を通して好奇心を持って、デザイナーやモノづくりをする子供が一人でも増えてくれたら最高ですね。

--モーション・デザインは今後どうなっていくんでしょうか?

菱川:
キーワードは「体験」や「体感」。例えば映画でも今は風が出たり水が出たり4Dとかで体験型になってきていますよね。そのように表現はより豊かになっていくと思います。きっとテレビも今後、香りなども含め五感に寄っていく。モーション・デザインで"デリケートな表現"といってるのは、まさにそうした五感に訴えていくような豊かな表現。人間の五感はフィジカルな部分で結構繊細なので、繊細に表現されたモノを繊細に受け取る。ここがもっと突き詰められていくだろうなとは思っています。

--アートとテクノロジーの関係をどう捉えていますか?

菱川:
分けていないです。エンジニアの人もアーティストだと思うんです。一方、アーティストも時折エンジニアだと思います。これはテクノロジー、これはアートって分けることは過去の価値観に囚われているんだと思います。これから必要なのは「分けないこと」。よくいう文系/理系みたいなのは、この先ないです。理系の人が絵を描いてもいいし、美大の人が急にプログラムを書き始めたっていい。ルールはないですから。スマートフォンやPCといったそれができるツールが日常で当たり前になってきたことは喜ばしいことです。もはやアートとテクノロジーの関係は一つ。分かれていない。

--菱川さんにとって「テクノロジー」とは?

菱川:
夢。だって、まだまだ進化しますよね。きっとアニメや漫画で見たものがどんどん実現に向かっている。だからテクノロジーがいいことに使ってほしいですよね。「気持ち良く」素敵な未来を作ってくれる夢であってほしいです。

モーション・デザインの第一人者である菱川氏が"デリケートなモノづくり"という言葉に込めているように、これからのモノづくりは高スペックな機能追求型ではなく、"気持ちいい""使いやすい"といったいわゆるUI/UX視点が欠かせない。
SENSORSでも追いかけてきたBAPA(Both Art and Programming Academy)が輩出しようとしている人材もこうしたアートとテクノロジーが不可分になっていく潮流を見据えているからに他ならない。
「動きのカガク展」を訪れ、インスパイアされた子供たちの中から将来のクリエイティブを担うクリエイターが生まれるかもしれない。

【プロフィール】

菱川勢一| Seiichi Hishikawa
菱川勢一
クリエイティブディレクター/映像作家/写真家、DRAWING AND MANUAL ファウンダー、武蔵野美術大学教授
1969年東京生まれ。レコード会社、家電メーカー宣伝部、海外音楽チャンネル番組制作、ハリウッド映画予告編制作など多岐にわたる経験を持ち、TVCMやミュージックビデオの映像監督、企業ブランディングやWebサイトのアートディレクター、ファッションやイベントなどの舞台監督を歴任した。ニューヨークADC賞、ロンドン国際広告賞など国際的な受賞多数。2011年に監督を務めたNTTドコモのCM「森の木琴」がカンヌライオンズにて三冠を受賞した。 (『動きのカガク』展HPより)


取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

最新記事