クリエイターがテクノロジーで拡張する、次の"音楽ビジネス"「POST」@岐阜【前編】

2015.10.29 09:30

10月11日、ソフトピアジャパン(岐阜県大垣市)にて「テクノロジーと音楽で、未来を届ける」をテーマに行われたイベント"POST"。SENSORSでこれまで追いかけてきたクリエイターたち(PARTY・中村洋基、しくみデザイン・中村俊介、Maltine Records・tomad)が集ったセッション「テクノロジーと音楽の未来」の模様をお届けする。SENSORS.jp編集長・西村真里子がモデレーターを務め、音楽ビジネスの未来が語られた。
【後編】音楽ビジネスのシフト・世界の音楽系スタートアップ分析「POST」@岐阜

【前半に登壇したのは右から】tomad氏(MaltineRecords)、中村洋基氏(PARTY)、中村俊介氏(しくみデザイン)【モデレーターを務めたのは写真左】西村真里子氏(HEART CATCH)

「テクノロジー、インターネットは20世紀の"音楽ビジネス"を溶かし、本能的に欲する"音楽"を人間に戻してくれている」と語るのはイベントでモデレーターを務めたSENSORS.jp編集長・西村真里子氏(HEART CATCH代表)だ。

音楽の流通経路がアナログからデジタルにシフトする中、リアルイベント、すなわちライブやフェスの動員数は継続的に増加。そうしたライブの演出では音楽業界の外側にいたクリエイターたちが積極的に参加し、新たなエンターテイメントの可能性が出現している。
事実、今回のイベントに登壇した三名も、tomad氏以外は広告の分野で活躍してきたクリエイターである。

「そもそも音楽はビジネスではなく、みんなで共有し、楽しむもの。クリエイターは本能でそれを察知し、アウトプットし始めているのではないか?」(西村氏)という仮説の元、イベントではテクノロジーが変える新しい音楽の形が語られた。

■テクノロジードリブンだからこそ、"体験"を追求−「すごい」よりも「楽しい」を

イベントの幕は中村俊介氏(しくみデザイン)による、触れずに動きで演奏できる次世代楽器"KAGURA"のデモで開いた。

KAGURAはRealSense 3Dカメラに対応した全く新しいUIの楽器アプリケーションであり、2013年にインテルが開催した「Intel® Perceptual Computing Challenge 2013」でグランプリを獲得した。

今年8月にサンフランシスコで行われた「J-POP SUMMIT 2015」では、福岡を拠点に活動するアーティスト・天神いのりとタッグを組んでライブを行い、好評を博したという。

キッズダンサーの踊りに合わせて、小気味よく和風の音セットが演奏される。 (https://www.youtube.com/watch?v=dW0gI6W-ztE

イベントで披露するたびに、オーディエンスから高い評価を得てきたKAGURA、評価が高まれば高まるほどビジネスモデルをどのように構築するか問われることが増えるという。
収益化も含めた今後の展望について、中村俊介氏は"有料版"のリリースを考えているという。自分で音セットを自由に作れるようにし、DJ機器とつなげばパフォーマンスの幅が広がるというわけだ。

KAGURAを開発した"しくみデザイン"はインタラクティブコンテンツのパイオニアとして、SMAPやTRFなど著名アーティストのライブ演出も手がけてきた。代表を務める中村氏はクリエイティブ・ポリシーとして、「『すごい』は一度だけ、『楽しい』は何度でも」を掲げる。テクノロジードリブンな会社だからこそ、体験にフォーカスすることが重要なのだという。

■SNS、SoundCloudが変えた音楽業界の潮目−"フリー"を貫くマルチネの流儀

tofubeats、三毛猫ホームレス、AvecAvecら人気アーティストを輩出し、mp3楽曲をフリーで配信するインターネットレーベル、Maltine Records(マルチネレコーズ)。10代よりこのレーベルを主宰し、一人で運営するのがtomad氏だ。
2005年に開始し、今年でちょうど10年目を迎えた。マルチネの紹介スライドに食いついたのが、PARTY・中村氏。

中村(洋):
いいですねー!前のページに「楽しいウェブサイト」と書いてあって、その次のスライドに「ビジネスモデルは特に考えていない」。このあっけらかんとした感じ、素晴らしいですね。

マルチネの基本方針として、楽曲で課金をすることはほとんどないのだという。収益はイベントや物販であげるほか、最近ではメジャーレーベルからリミックスや製作のオファーがくるそう。



黎明期からネットレーベルを運営してきたtomad氏。SNSが一般化した今、音楽レーベルを取り巻く構造に隔世の感があると語る。

tomad:
以前はメジャーレーベルから認められない限り、有名になることが困難でした。その潮目が変わるきっかけになったのが、人気を可視化するSNS、個人が配信できるようになるSoundCloud、そしてそうした楽曲をキュレーションするネットレーベルという音楽環境の変化です。

マルチネの音楽的特徴としては、ダンスミュージックとポップミュージックの狭間にあるといい、クラブでも家でも聴くことのできる音楽を目指しているという。そしてもう一点、ユニークなのがネットレーベルなのにも関わらず、リアルでDJイベントを開催していることだ。

昨年、恵比寿LIQUIDROOMにて行われたDJイベントの様子。来場者は1000人を超えたそう。 (https://www.youtube.com/watch?v=xo6ciG9pahg

会場にはマルチネらしいいくつかの仕掛けが施されている。Wi-Fi専用チームが1000人規模の同時アクセスにも耐え得るように環境を整え、来場者がストレスなくネットに繋がりながら踊れるように心がけているのだとか。さらには専用のスマホアプリが加速度を検知し、来場者の操作により照明の明かりが変わるようになっている。

tomad:
普通のクラブイベントというよりは、"オフ会"に近いので、繋がっていることが大事なんですね。マルチネの位置付けとしては、変化の多い音楽業界の中にあって、頑張り過ぎずに緩やかなコミュニティを目指す。一つの地域として機能するようなレーベルになればいいと思いますね。

■インタラクティブを追求した先に見えた命題:すごい人の "すごさ"をいかに拡張するか

最後にプレゼンを行ったのがPARTYのクリエイティブディレクター・中村洋基氏。数多くのクリエイティブワークを手がけてきた氏は、今回「私と音楽ビジネス」と題して音楽にまつわるもののみをピックアップし、プレゼンを行った。

等身大視聴機としてタワーレコードの店頭に置かれた。 (https://www.youtube.com/watch?v=Hlmb9AK0vkw

レディ・ガガのアルバム『ARTPOP』のプロモーションのために作られた「GAGADOLL」。レディ・ガガに精巧に似せて作られた人形の中に振動性スピーカーを内蔵し、ハグすると新曲を聴けるという仕組みになっている。

2012年、世界初のライブ・インタラクティブMVとして放送された「MAKE TV」。Sonyのコーポレイトスローガン"make.believe"の企業メッセージキャンペーンとして製作された。

視聴者はアプリをダウンロードすることでリアルタイムで生放送のテレビ番組に参加。視聴者が押すボタンの回数に応じて、スタジオ内に置かれたセットが発動し、MVの演出が変化する。放送には2万人以上が参加し、700万回以上ボタンがプッシュされた。

中村(洋):
以上「私と音楽ビジネス」になります...。嘘です(笑)もうちょっとやってますが、ここで一つ議題を投げかけたいと思います。今年、プログラミングとデザインを学ぶ学校「BAPA」が二期目になりました。テレビやライブといったインタラクティブな体験が新しいエンターテイメントの可能性を生み出すと思っていました。

BAPA2期生卒業制作発表会のテーマに出されたお題は「テクノロジーを利用し、アイドルのライブを盛り上げる」。アイドルグループ"虹のコンキスタドール"のライブ演出9つのチームが挑んだ。

LEDとモーションセンサーが仕込まれた指輪をオーディエンスに配布し、会場全体のシンクロ率を測る「シンクリング」、ファンの発した言葉をスクリーン上に投影する「コトバズーカ」、天井に取り付けられたキネクトがファンの手の動きを感知し、スクリーンで玉入れを行う「EXITOSS!」など様々なアイデアとテクノロジーでライブ演出を行った。(その他の作品や当日の様子については:テックが盛り上げる、ライブの未来のカタチ―LIVE BAPAレポート

中村(洋):
インタラクティブなライブ演出を9チームが行ったわけですが、当然のことながらやっぱり演者が圧倒的に素晴らしいなと思ったんです。「すごい人の"すごさ"をどれだけ拡張できるか」それが鍵なんじゃないかと思ったんですよ。

後編「音楽ビジネスのシフト・世界の音楽系スタートアップ分析」では中村洋基氏が投げかけた議題に沿い、Microsoftエヴァンジェリストの砂金信一郎氏も加わり、音楽ビジネスの未来が語られた。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近の関心領域は「人工知能」。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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