音楽ビジネスのシフト・世界の音楽系スタートアップ分析「POST」@岐阜【後編】

2015.10.30 09:00

10月11日、ソフトピアジャパン(岐阜県大垣市)にて「テクノロジーと音楽で、未来を届ける」をテーマに行われたイベント"POST"。SENSORSでこれまで追いかけてきたクリエイターたち(PARTY・中村洋基、しくみデザイン・中村俊介、Maltine Records・tomad)が集ったセッション「テクノロジーと音楽の未来」の模様をお届けする。【後編】では砂金信一郎氏(Microsoft)も加わり、SENSORS.jp編集長・西村真里子をモデレーターに、音楽ビジネスの未来が語られた。
【前編】クリエイターがテクノロジーで拡張する、次の"音楽ビジネス"「POST」@岐阜

【右から】tomad氏(MaltineRecords)、中村洋基氏(PARTY)、中村俊介氏(しくみデザイン)【左から】西村真里子(HEART CATCH)、砂金信一郎氏(Microsoft)

今回モデレーターを務めた西村真里子が審査員として参加した「MUSIC HACK DAY」。優勝を飾ったのは楽曲解析APIを使用し、音楽を再生しながら、その楽曲のムードに合ったミックスジュースを自動作成するジュークボックス型プロダクト「Squeeze Music」だった。 テクノロジーを経由することで、これまで音楽とは直接的に結びつきがなかったものが次々と生み出され、新たな時代の音楽の可能性を呈示した。

■︎世界の音楽系スタートアップの動向と音楽ビジネスの三類型

音楽領域以外のクリエイターが交わることでいかなる化学反応が起こるのだろうか?Microsoftのエヴァンジェリスト・砂金信一郎はバンガロール、テルアビブ、パリ、ロンドン、ベルリン、シアトルなどスタートアップの集積地を周って得た知見を基に、世界の音楽ビジネスの最前線をレポートした。

砂金:
世界における音楽ビジネスはざっくり3つの潮流に分けることができると思います。まずはデジタルデバイスに対する音楽配信のあり方の胴元を握り、世界中の人々に配信するプラットフォームを取りに行こうとするモデルですね。Sportifyなんかが代表です。日本だとAWALINE MUSICが該当しますね。

次にあるのがライブに行くためのチケット販売の効率化。ここはスタートアップにも参入のチャンスがあります。これは何も音楽に限った話ではなく、ファッションショーやスポーツも絡めて考えることができます。

三つ目は音楽自体のテクノロジー化。昔に比べ今は、創作活動自体の自由度が上がっています。KAGURAはこのカテゴリーですよね。先ほどBAPAの話もありましたが、アルゴリズムがゴリゴリ書けるようなエンジニアとアーティストの距離はまだまだ開きがあります。ここを埋めることができればまだまだ面白くなっていくでしょう。本来、日本はヤマハやローランドなど楽器メーカーが多数あります。ビジネスチャンスはあるはずです。

前編でtomad氏が述べたようにSNSやSoundCloudといったmp3配信サービスが個人の音楽創作活動の幅を一気に押し広げた。自身のレーベルの楽曲がグローバルなファンにリーチ出来るようになったとtomad氏は言う。

tomad:
SoundCloud上で流行っているストリーミングをフォローしていったり、有名なレーベルを追いながら、トレンドをキャッチします。うまくそのトレンドに乗れた楽曲はクラブミュージック界隈で有名なアーティストになれる流れができてきていますね。
砂金:
クラウド側をやっている私としては、そうしたtomadさんの考え方を全部実装して、アルゴリズムでソフトウェアにしたいんです。完全に自動化はできないんだけど、世界中で起こっているムーブメントのトレンドを自分で確認するための最初のリストアップはできるはずです。テクノロジーで少し楽ができるはずなんですよ。

■サブスクリプションやクラウドファンディングで変わる音楽ビジネス−それでもtomad氏がこだわるフリー配信

2005年以来、楽曲の無料提供にこだわってきたマルチネレコード。今夏、AWA・LINE MUSIC・Apple Musicなど、定額制音楽配信サービスが続々と日本国内でもリリースされている。こうした潮流の中で独立レーベルがサブスクリプション課金を行う可能性についてPARTY・中村氏から提案がなされたが...。

tomad:
できなくはないんですが...やりたくないんですよね。レーベルのコンセプトとして楽曲でお金を取らないという方針を貫いてきたので。
砂金:
例えば、サブスクリプションで定額制にするのではなく、クラウドファンディングみたいな形もあり得ますよね。日本でもアイドルに平気で年間数百万円払う人がいます。サブスクリプションとクラウドファンディングのハイブリッドのようなものもないわけではないかと。

3ヶ月間世界中のMicrosoft Ventureのアクセラレーターを周り、世界のスタートアップの最先端を視察してきた砂金氏。音楽系のスタートアップの当事者たちはどういったバックグラウンドの持ち主なのだろうか?

砂金:
パリに行ったときなんかでいうと、グルメやファッションを扱っているオシャレ系な人たちが音楽系スタートアップでいました。彼らがやっているのはログを取ることなんですね。それはデジタルなのか、リアルイベントなのか関わらず、ログを取って解析する。人工知能というか、機械学習を扱えるバックグラウンドさえあれば、データを加工してビジネスにしようとしている人はヨーロッパに圧倒的に多いです。音楽ビジネスに限らず、テクノロジーを使って表側のアプリケーションを作るのではなく、ログ(データ)を使ってビジネスを起こせるかっていうことだけを考えているのが印象的でした。

CDセールスが縮小しているのとは対照的に、継続的に伸び続けているライブへの動員数。音楽業界以外のクリエイターがテクノロジーを介して、音楽のあり方を変容させようとしている今、次なる"ライブ"の形とはいかなるものなのだろうか?

■ライブが持つ「お祭り」感をいかに拡張できるか

中村(洋):
超コアなファンではなくとも、Coldplayくらいのビッグネームになるとライブへ足を運んだりしますよね。知らない曲でも疎外感を感じずにシンクロできるのはライブ演出一つの凄みだと思います。それまではそんなに好きじゃなかったのに、ライブが終わったら大好きになってしまっているパワー。これをいかに拡張していけるか。
砂金:
ライブには二段階の課金ポイントがありますよね。一つはライブ会場に来てもらうことで、もう一つはライブを収録してDVDで販売する。ライブに来た人にとってはインタラクティブ性よりも、目の前で見る大物アーティストが全て。だけど会場に行けなかった人にとっては、引きのカメラでとった会場の一体感、盛り上がり自体がコンテンツなわけです。なので、インタラクティブな仕掛けで会場にいる人が盛り上がることはもちろん、テクノロジーの力でライブ自体の盛り上がりを高めることができればビジネス的な価値は高まりますよね。
中村(洋):
臨場感あるライブの向こうには脳髄のドーパミンが出る状態があって、それのためにお金をついつい払っちゃうというのがあると思うのですが、これはあくまで副次的。まずは「お祭り」を作り出したい欲求があるんですよ。それを作り出すのにまだまだテレビは強力です。『8時だョ!全員集合』が面白かったのは、本当に全員がお茶の間に集合してたからなんですよね。
tomad:
先日、SENSORSのOAで特集してもらいました。周りの友達も観てくれていて、キャプチャしたものをコラージュ写真にしてツイッターで上げくれたりしました。テレビを起点に逆にネットやSNSで盛り上がる、一体感がありました。
中村(洋):
そうなんですよ。まずはそのお祭り状態をどういうふうに作るかがライブの魅力だと思うんですよね。

■モノからコトへ、音楽ビジネスの大航海時代

1996〜2014年のライブの年間売上額の推移(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC)の調査結果より)

上記のグラフを見てもわかるように、90年代より現在まで、ライブ動員数は継続的に伸びている。

tomad:
やっぱりSNSが広がったことによって、みんなで盛り上がっている様子の写真をアップロードして、アピールする文化ができましたよね。それがバイラルになって、どんどん広がっていく。特にウルトラジャパンのようなEDMフェスの様子をみていると、それをすごく感じます。
中村(洋):
僕らの時代と比べると今は、みんな同じ服を着ていなくてもいいし、同じ音楽を聴いていなくても全然いいというか、それぞれが小爆発のような気がします。ハードウェアスタートアップCEREVOの岩佐社長って、めちゃくちゃニッチなデジタル家電を作っているんですよね。日本で10台や100台しか売れなくても、世界35カ国くらいで売るから大丈夫だったりする。マルチネの方向性もおそらく同じで、世界中の好きなもの同士で集まればいい。まさにオフ会っぽいというか。
西村:
最後の話題になるのですが、SNS以後、音楽ビジネスへの参入障壁が下がっているように感じます。今日ここに集ってくださった登壇者の方をみても、直接的に音楽に関係あるのがtomadさんくらいですよね。クリエイターの関わり方も含めて、今後テクノロジーと音楽はどのような形になっていくと思われますか?
砂金:
共感の先にどうやってお金を儲けるかを考えるべきで、何万枚売りました、何万ダウンロードありましたではないはず。あとは個人的に中村俊介さんを世界中のヒーローにしたいです。ビジネス面、技術面の課題はありますが、中村さんが死んでしまったあとでもKAGURAを演奏し続けている人がいるような状況を作り上げるお手伝いがしたい。それくらいの気持ちでVCや大手企業が関われば、音楽業界は発展していくんじゃないでしょうか。
中村(俊):
KAGURAのようなテクノロジーによって「音楽を演奏する体験」がより身近になり、将来的に完パケの音楽だけじゃなくユーザーが演奏体験できる余地を残した音楽の配信が始まる可能性も膨らませていきたいです。
tomad:
音楽をモノとして売るビジネスモデルは崩れているからといって、音楽自体の価値が下がったわけでは決してありません。一本の道がなくなり、大海原に解き放たれた今、自らビジネスモデルを考えなくてはいけない時代になったと思います。

音楽は誰のものだろうか?それは言うまでもなく音を生み出すアーティストであり、音を楽しむリスナーのものである。レコードからCD、CDからクラウドへと音楽の視聴環境の利便性は格段に増した。「ビジネスモデルが変わっても、音楽そのものの価値は変わらない」(tomad氏)。
太古より人間にとって最も身近なエンターテイメントであり続けてきた"音楽"だが、テクノロジーによって拡張されたその"体験"は現代に生きる我々だけ享受することが許される。テクノロジーを操るクリエイターたちは、次にどんな"音楽体験"で私たちを楽しませてくれるだろうか。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近の関心領域は「人工知能」。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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