プログラミングで学ぶ「正解がない時代」を生き抜く力 ~IT×ものづくり教室 Qremo~

2015.08.11 08:30

子どもの習い事で人気のプログラミング教室を展開する「Qremo」(クレモ)にSENSORSが訪問した。そこで行われていたのは、スキルを学ぶだけじゃない、これからの時代を生きるために必要な力を身に付けること。プログラミング教育がつくりだす未来の社会像とは...?

親が子どもに習わせたい習い事として、英会話、水泳、ピアノ、書道などはお馴染みだろう。そして、近年、子どもの習い事として「プログラミング」の人気が急上昇している。都内を中心に「プログラミング教室」の開校が徐々に目立ってきているのだ。SENSORSではその実態と可能性を探るべく、LITALICO(リタリコ)社が展開するプログラミング教室「Qremo」(クレモ)渋谷校に訪問した。

3Dプリンター群

渋谷駅を降りて、宮益坂方面から明治通りを原宿方面に進んで歩くこと約5分。キャットストリートにも隣接するビルの中にQremoの教室はある。中に入ると、緑色のカーペット、遊具のようなインテリア、透明なガラス板に仕切られた教室が広がり、安心感と開放感の中にもワクワクする要素が散りばめられた空間が広がっていた。3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションツールも完備されているようだ。そして、教室の奥に目をやれば、小学生の子ども達たちがMacbookに向き合い、夢中になりながらゲーム制作に勤しんでいる姿が見える。

実際の生徒がつくった弾幕シューティングゲーム

Qremoでは、実際にロボットやゲームを作ったり動かしたりすることを通じてプログラミングやデザインを学んでいく。今回訪問したゲーム制作の授業では、生徒たちが思い思いの発想でプログラミングをしていた。ランダムに散りばめられた弾を避けて得点を稼ぐ「弾幕シューティング」の制作が生徒たちの間で人気となっているようだ。ゲームで使うイラストを描いている生徒もいれば、ストーリーを演出するためアニメーションを制作してゲームの中に織り込んでいる生徒もいた。

Scratchの画面

Scratchを使いこなす

生徒たちのプログラミングはScratchというツールを使って行われている。Scratchはレゴのようにそれぞれに機能を持たせたブロックをブラウザの画面上で組み合わせることで、直感的な操作でプログラミングを行うことができるツール。もともとは2006年にMITメディアラボが開発し、現在では世界中の教育機関で導入されている。

時限表

ゲームプログラミング以外にも、デザインや、ロボット、デジタル工作などの幅広いIT×ものづくりの教育を展開している。

■自由度の高いカリキュラム、「障害」という言葉が無い教室

小助川さん(左) 島田さん(右)

「Qremo」は2014年4月リタリコ社を運営母体に開始された。リタリコといえば「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、障害者向けの就労移行支援事業所「ウイングル」を全国各地に展開し、生徒一人一人の個性を伸ばす学びを提供する学習塾「Leaf」も運営している。車いすをパーソナルモビリティとして開発するWHILL 社に投資したことでも有名だ。そんな、リタリコ 社がQremoを開設した経緯とは?Qremo事業部の事業部長 小助川 将(こすけがわ まさし)さんと、渋谷校 教室長の島田 悠司(しまだ ゆうじ)さんにお話を伺った。

小助川:
もともとリタリコでは、発達障害のあるお子さんも通う「Leaf」という学習塾を運営していて、その中でプログラミングの授業をやったことがありました。その時に「この年齢でそこまで作れちゃうの!?」という位すごい能力を発揮しているお子さんがいて、気付いたんです。世の中的には「障害」という言葉でラベリングされてしまっているけど、実は、得意な分野ではすごい才能を発揮できるじゃないかって。好きなものがその子の「強み」になってくる。そんな世界がつくれると思いIT×ものづくりの教室「Qremo」を開始しました。

プログラミング教育と聞いてイメージしがちな「次世代のスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグを生み出すため」ではなく、「生徒一人一人の個性にあった能力を発揮できる場」を探求した結果Qremoが誕生した。そのため、自由度が高い授業スタイルをとっているのだという。

島田:
今までの教育はみんなが決められた位置に座って、同じものを学ぶというのが主流でした。 もちろん、Qremoにはある程度決められたカリキュラムがありますが、本人がチャレンジしたいということがあったら、それにチャレンジしてもらいます。だから、同じ教室にいながらもみんなやっていることがバラバラです。先生たちの役目はファシリテーターに近いのかもしれません。生徒の自発的な行動を尊重して、その中からいろんなものを引き出していくことを重視しています。

Qremoに通う生徒さんの保護者は、ITスキルや教育への関心の高い方、子どもがゲーム好きという方の割合が多数を占めるが、発達障害のある子どもも多く通う。しかし、実際の教室でそんなことはまったく関係ない。サッカークラブで活躍するような典型的なクラスの"ヒーロー"タイプの子どももいるが、同じように好きなゲームをつくる仲間として自然にやり取りする光景が生まれているのだ。

公園の遊具のような作業スペースも自由に使える

本棚としても机としても!

島田:
床に座って作業をしている生徒さんや、中にはエラーが出た時に走り回ってしまう生徒さんもいます。普通の学校だと、そういうのって「問題児」になるじゃないですか。でも、彼らに「なんで走ってるの?」って聞くと「考えてるんだよ!」って言うんですよ。決してふざけてるわけじゃなくて、彼らは彼らなりの思考プロセスがあるんです。それを尊重したい。

学校では不登校だった生徒がQremoでプログラミングを学びはじめ、その能力と実績が認められてゲームクリエイターの専門学校に推薦合格を果たしたというエピソードもあるそうだ。これまでの社会で発揮できなかった才能が存分に活かせる場所が、テクノロジーの進化によって新たに生まれているようだ。

■スキルだけで陳腐化しない、「正解」が無い世界を生きる力を身に付ける

教室は奥まで見渡せるようになっている

Qremoでは、「教える」のではなく、目的を与えることで「意欲を引き出す」ことを重視しているという。プログラミングでは「正解のコード」というのは存在しない。一つのモノを作るだけでも、何通りもの書き方が存在する世界だ。与えられた指示通りにこなすのではなく、何が必要かを自分で考え、既存のものを組み合わせることで新しいものを生み出す力こそが、プログラミングやものづくりの世界では求められる。

島田:
「今日はモーターの制御を学びましょう」とか、「今日は関数を学びましょう」と授業をするのでは「勉強」になってしまいます。そうではなくて、プログラミングを教えるのに大事なことは「目的を明確にする」こと。たとえばロボットを扱うなら、「まっすぐ進ませる」、「ターンさせる」など、お題を提示します。生徒にとって、そのお題をクリアすることが楽しくなります。たくさんの別解がでてきます。本人達にとってみれば、ただ単にロボットを動かすだけなのですが、その過程で関数や変数といったプログラミングの基本的なことが自然と身に付くという仕組みです。

学校では優秀な生徒がプログラミングを学びはじめたことで、考え方や行動が変わったというエピソードもある。

島田:
学校でもとても優秀と評価されている生徒がいるのですが、あらかじめ決められた答えがあるものだと思っているんです。「これで合ってるのか?」って正解を聞いてくるんです。そういう生徒には、「どうすればいいと思う?」って聞き返して、考えさせます。それを繰り返していくうちに、その生徒は、正解ではなく、「やり方」を質問してくるようになりました。僕らは、その瞬間をどれだけつくれるかが大事だと思っています。

モノと情報が溢れている現代社会で求められる能力は、答えにたどり着く力ではなく、答えを作り出す力だ。テクノロジーが進化すればするほど、プログラミングのスキル自体は陳腐化してくるが、プログラミングを学ぶことは自ら答えをつくる力を身に付けることにも通じる。そして、より大きな視野で見てみれば「プログラミング教育」はこれからの社会にどのような変化をもたらすのか。

小助川:
プログラミングには答えがありません。絶対解がないため、より多様性が認められる社会形成に寄与することが出来るのではないかと思っています。また、困っている人を助けたいとか、誰かを喜ばせたいという時に、プログラミングを使って実際にモノをつくって、それによって笑顔になる人が増えるという体験ができると、お子さんの世界がもっと広がるのではないでしょうか?誰かの役に立つことが仕事につながると思っています。もっと言ってしまえば、プログラミングは言葉の壁を越えるものでもあるため、世界とつながる子どもがもっと増えると思っています。その中で、私たちは、「スキルだけ学んで終わり」ではなく、子供の将来につながる普遍的な考える力、伝える力、コミュニケーションし協働する力等を身につけるためのお手伝いができればと思っています。子どもが具体的な目標を見つけられて、クリエイティブな力を学びつつ、ちゃんと自分の力で歩んでいけるようにお子さんを育てていきたい。

才能を輝かせることができる新しい場を作り出したり、正解を自ら作り出す力をつけることができる「プログラミング教育」。英語と同じようにこれからの時代で主流となっていくだろう。スキルとして学ぶだけでなく、陳腐化しない教養としての見方をしてみてはどうだろうか。

取材:石塚たけろう

ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、EIR(=客員起業家)として複数の大手企業、スタートアップの新規プロジェクトに参画。Webデベロッパー。@takerou_ishi

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