ARの次は『拡張人間』 東大 暦本純一教授の世界

2015.07.03 11:25

テクノロジーを活用した新しいスポーツの開発・普及を目指す「超人スポーツ協会」。その代表理事に名を連ねる東京大学の暦本純一(れきもと じゅんいち)教授をSENSORSが訪ねた。暦本氏が研究するAugmented Human(拡張人間)の世界と、スポーツだけの活用に限らない人間の能力が「ネットワーク化」する世界とは...。

東大本郷キャンパス内のダイワユビキタス学術研究館

すべての精神状態や犯罪を起こす確率などが数値化された世界を描くアニメ「PSYCHO-PASS」。その第9話「楽園の果実」の中で登場する泉宮寺豊久は、脳と神経以外を全身サイボーグ化した人物。肉体を機械化することに抵抗はないのかと尋ねられると、次のように答える。

「結局は"程度"の問題なんですよ。たとえばあなた。あなたも立派なサイボーグですよ。なんらかの携帯情報端末をもっていますよね?家にはホームオートメーションとAIセクレタリー。それらのデータが災害や事故で失われたら、あなたはどうなりますか?自分の生活をそこまで電子的な装置に依託してしまっているのに、"自分はサイボーグ"でないと言っても説得力はありませんよ。あなたにとって携帯情報端末は既に第二の脳だ。科学の歴史は人間の身体機能の拡張、つまり人間機械化の歴史といっても差し支えない。だから"程度"の問題なんです。」

スマートフォン、ソーシャル、クラウド...。これらが無ければ仕事ができない人達は数多くいるだろう。泉宮寺によれば、そうした人たちは既に「サイボーグ」だ。

有史、人間の身体はテクノロジーによって拡張、すなわちサイボーグ化を遂げてきた。今後さらに拡張を続けた時、どのような世界が訪れるのだろうか。この分野の第一線で活躍する東京大学情報学環の暦本 純一(れきもと じゅんいち)教授の研究をご紹介する。

■拡張人間(= Augmented Human)の最先端「暦本純一研究室」

暦本純一教授

SENSORSの読者であれば、拡張現実(= Augmented Reality)はおなじみだろう。暦本氏によれば、拡張人間(= Augmented Human)はARの次の世界。身体の機械化以外にも、例えば旅行に行きたい時に他人の目線をジャックして、あたかも自分が旅行をしているような体験を可能にする。難しい作業をしている人の頭の中に入り込んでその人に憑依するかのように共同作業を行うことも可能。肉体面だけでなく、"人間の能力"も拡張するのがAugmented Humanの世界だ。

暦本:
身体の拡張技術で私たちの生活はどのようにかわるのか。疑似体験ではなく、実際の現実に影響を及ぼすので、「自分」ができたという感覚がもてることが特徴です。ネットワーク越しに誰かが誰かを助ける共同作業などを想定するれば、初心者と熟練者の能力がネットワーク上でリンクする世界がやってきます。今はIoTと呼ばれ人間とモノがつながる時代がきていますけど、その次の世界、人間と人間、人間と人工知能がネットワーク上でつながる世界がくる。それはつまり「人間の能力」がネットワーク化されることです。私たちはそれをIoA(=Internet of Ability)と呼んでいます。

暦本純一研究室では、Augmented Human、IoAを実現するいくつかのプロトタイプが制作されている。その一端をご紹介したい。

■仮想力覚提示デバイス「Traxion」

SENSORSブルー岩本アナが手に持っているのは「Traxion」という装置。この装置持っていると、装置は振動しているだけなのに、あたかもすごい力で押されたり、引っ張られたりするような「力」を体験できる。身近な用途として引っ張られる力を感じる方向に進んで行けば目的に地にたどり着くという道案内などに活用できる他、他人の「触覚」を伝達するという用途においては職人や一流アスリートの"感覚"をトレースできることも。

■AquaCAVE

水槽のまわりにあるプロジェクターで映像を投影する仕組み

AquaCAVEは水槽の壁をスクリーンにして海中の様子を投影する装置。スイマーは液晶シャッターグラスによる水中メガネを装着することで、広視野立体映像を見ながら泳ぐことができるようになる。スクリーンには海中の他にも、成層圏を映し出すことができ、宇宙遊泳を楽しいでいるかのような体験をすることができる。通常、「水泳」において泳者はプールの底の変わらない景色をみながら練習するのだが、この装置を使えば様々な景色を楽しみながら練習できるようになるという。また、この装置を活用した新しい水泳競技も開発していきたいと暦本教授は言う。

■Flying Head

ドローンに搭載されたカメラの映像がHMDに映し出される

Flying Headは,HMDなど専用の機器を装着した人間の頭部動作とドローンの動作を同期する操作メカニズム。頭を横に回転させればドローンもその分だけ横に回転し、しゃがんで頭の位置を低くすればドローンの高度もその分だけ下がる。操作している人はあたかも自分がドローンになったかのような気分になる。この研究を応用すれば、災害現場や緊急の医療現場などで、専門の技術者が遠隔でありながら、さも本人がその場にいるかのように的確な作業・処置を行うことができようになるという。

■Jack-In Head

ある人物が360度の視野をカバーするカメラを取り付けたヘッドセットを取り付け、別の人物がそれと連動したHMDを装着すると、その人の頭部を中心とした全方位のパノラマ映像を視聴することができる。たとえばスポーツ選手にJack-In Headを装着すれば、その選手が体感している視点やスピードなどを第三者が体験することができる。

JackIn Head: 1st person omnidirectional video for immersive experience

■人間の「身体」とはなにか

暦本氏の研究は、超人スポーツと絡めて語られることが多いが、もっと大きな分野での活用が期待できる。 人間の能力が伝達する世界、ドローンを自分の体のように自在に動かせる世界がやってきた時、はたして人間 の身体とは何なのか。サイコパスの泉宮時のように「人間は生まれながらにサイボーグ」と唱える研究者もいる。 テクノロジーは人間の身体を拡張させ、そして人間を超えた時。そこにはどんな新人類(=ポスト・ヒューマン)が 誕生するのだろうか。うっすらとその影を捉えることができる取材だった。

取材:石塚たけろう

ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、EIR(=客員起業家)として複数の大手企業、スタートアップの新規プロジェクトに参画。Webデベロッパー。@takerou_ishi

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