リオ五輪閉会式 真鍋大度・MIKIKOが語る"8分"の舞台裏

2016.09.15 17:00

2016年8月21日(日本時間22日)、第31回夏季オリンピック「リオデジャネイロオリンピック」が閉会した。閉会式には、2020年に次期夏季オリンピックを迎える東京に向けてのフラッグハンドオーバーセレモニーも含まれていた。

そのセレモニーを演出するチームにはミュージシャン椎名林檎氏、広告業界からは佐々木宏氏、菅野薫氏など日本を代表するメンバーが含まれているが、SENSORSではPerfumeのライブ演出や振付、また、BABYMETALの振付も手がけるMIKIKO氏、同じくPerfumeの演出はじめ最新テクノロジーを駆使した演出、メディアアート作品を手掛ける真鍋大度氏の両氏に今回の挑戦を取材した。

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「リオデジャネイロオリンピック」のフラッグハンドオーバーセレモニー演出の真鍋大度氏(左)とMIKIKO氏(右)

--セレモニーお疲れ様でした。
演出家として関わられたお二人に伺います。今回の出来は何点でしたか?
そして、関係者および世界中の反響はいかがでしたか?

MIKIKO:
あの状況でいうと120点?でしょうか?
ただ点数よりも何よりも当日のリオは雨が激しく、停電している地域もあったので閉会式が開催できただけでも万々歳でした。
そして、関係者の反応ですが、終了後にみんなからハグされて感動を分かち合えたのが嬉しかったです。ソチ五輪などのオリンピックセレモニーをはじめとする国際的なショウ演出を手掛けるマルコ・バリッチ氏からも絶賛していただいたり、後日IOCからは「長いオリンピックの歴史のセレモニーの中で一番よかった」というレターを頂いたりし、多くの方に喜んでもらえたのかな、と感じています。

そして、閉会式翌日に飛んだニューヨークのタクシー運転手にも閉会式の日本の演出が素晴らしかったと言っていただけて嬉しかったです。彼は我々が演出を担当したとは知らず日本人乗客としての我々にセレモニーの感動を伝えてくれたのも嬉しかったです。
真鍋:
セレモニー中は、会場上部にあるコントロールブースからしか反応を見ることができず、観客の反応はリアルタイムではわかりませんでした。
ただ、終わってブースを出ると現地のスタッフが興奮していて、みんなからハグを求められてうまくいったんだなぁと実感しました。

--今回の演出でこだわったところを教えてください。

真鍋:
演出そのものではないのですが、本番環境を構築して制作することが出来無かったため、映像や光のパターンを制作するためのツール開発に力を入れました。
マリオ以降のAR、プロジェクションとフレームの光、本番時のカメラワークのプレビューは全てこのソフトを用いて作られています。ダンス、映像、光を連動するために緻密な設計が必要でしたが、そういった部分が結果として日本らしさになっているのかもしれません。
現地のエンジニア達もシミュレーションソフトを見て驚いていました。
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「ダンス、映像、光を連動するために緻密な設計」が結果として"日本らしい"演出に繋がったと語る真鍋大度氏

--「緻密さ正確さ」が「日本らしさ」につながっているのですね。
そして本番ギリギリまでプログラミングをしていたことに驚きと、取材しているいまも脇汗をかいちゃうドキドキが伝わってきます。
さて、今度はMIKIKOさんのこだわりも是非教えてください。

MIKIKO:
わたしも最初にお話を頂いた際に、いつもやっていることをいつもの延長上で日本らしく表現できればと考えました。
オリンピック・パラリンピックのセレモニーで「いままで見たことが無いものって何かな?」って考えた時に、登場するダンサー達が一糸乱れず踊って見せるのって見た事ないな、と思ったのです。沢山のダンサーが楽しそうに踊っているのはいままでも見ていましたが、角度が正確に揃っているダンスを披露されたことはないな、と。なので、日本人の性格の様な几帳面なダンスを見せたいと考えました。

日頃、PerfumeやBABYMETALのメンバーにも「全員のフリが揃ってからこそ、各自の個性が見せられるんだよ」と伝えているのですが、そのことを今回のダンサー達にも伝え、角度のピッタリ揃ったダンスが日本らしさに伝わると考え、振り付けしました。
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PerfumeやBABYMETALのメンバーに振り付けする際に「全員のフリが揃ってからこそ、各自の個性が見せられる」と伝えている、と語るMIKIKO氏

--全員が揃っているからこそ個性が光る、踊り以外にもあてはめて考えられそうなお言葉ですね。今回はダンサーとLEDフレームも呼吸があっていましたが、フレームのアイディアは最初からあったのですか?

MIKIKO:
今回は地球の反対側のリオまでメンバーも演出部品も輸送する必要があり人数もミニマムしつつ、ポータビリティを考慮しながら演出を考える必要がありました。
本当はダンサーも30人にしてほしいと言われていたのですが、マルコからはフィールドを埋めるためには200人くらいが適当な数とアドバイスを受けたこともあり、さすがにそれでは難しいということで50人にしてもらいました。
青森大学男子新体操部の方々にも協力いただいたのですが、空間を埋めるために踊りの高さにこだわって欲しいというお願いもしました。

そして、一番時間をかけた部分で重要かつ大変な部分だったのが東京2020大会エンブレムの演出です。

エンブレムを紹介しなくてはいけないのですが、決定したのが4月後半。そして、8月末のセレモニーに向けて6月には全て完成していなくてはいけなかったので、時間も限られた中でどのようにエンブレムを表現するのかに集中しました。

その結果生まれてきたのが組市松文をLEDフレームで表現する方法だったのです。エンブレムの完成系から逆算してフレームとダンサーの動きを考えていきましたが、実際のフレームでテスト出来る時間がほとんど無かったので、模型を使ったり、パソコン上で動きを設計するなど色々と工夫しました。

--今回のプロジェクトは椎名林檎さんはじめ今回はとても豪華なメンバーでプロジェクトを進められたとお聞きしております。途中のプロセスはどのように進んだのでしょうか?

MIKIKO:
机で打合せをしている時間が長かったですね。
真鍋さんもそうですが私も職人気質なので早くプログラミングをしたいし、振付をしたかったのですが、打合せがとても長かったです。
それだけオリンピックの大変さを実感しました。 あと、それぞれの分野のスペシャリストが揃っていたので、"8分間の演出"も人によっては長く感じたり短く感じたり。

--"8分間"が長く感じたり、短く感じたりとはどういうことでしょうか?

MIKIKO:
佐々木宏さんら広告界の方々は日々"15秒"のCM枠で戦っています。
彼らにとっては8分は長いのです。
ただ、我々は2時間のライブを行っているので、8分は一曲分しかないじゃん!って短く感じる。
同じ"8分間"の演出でも長いと見るか、短いと見るか?というメンバー間での違いがありました。

が、結果、この座組みでしか生まれなかった絶妙なバランスの8分間になりました。
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セレモニー終了後にみんなからハグされて感動を分かち合えたのが嬉しかったと語るMIKIKO氏(右)

--"広告チームとの協業では何か大変なことはありましたか?

真鍋:
アート、広告に関わらず価値観の違いというものはありますが、恣意的な部分は出来るだけ排除して各分野の専門家を信頼し合って制作した結果、色々なチャレンジが盛り込まれた8分間になった気がします。
議論もぶつかり合いもありましたが、リスクを背負ってチャレンジをする以上は避けて通れない道だったかと。

--それぞれの道のプロが集結していたからこそのポジティブなぶつかり合いは結果として素晴らしい化学反応になったと感じております。さて、今回のセレモニーは現地で見る方と、テレビで見る世界中の方々がいました。現地の方、テレビ視聴者、アーカイブで見る方、誰を意識して作品を作ったのか? 教えていただけますか?

MIKIKO:
圧倒的人数がテレビで見ていますが、現地のスタジアムが盛り上がっているのは第一条件です。
圧倒的人数がテレビで見ているし、2020年にも映像を介してセレモニーやスポーツを楽しむ人がいることを意識して取り組みました。
真鍋:
33競技の映像合成の演出は今までのオリンピックで行われていなかった特殊技術を用いたものでディスプレイを通じてのみ体験出来るものです。

菅野薫氏を中心に、未来の視聴体験を提供するために是非実施させて欲しいとIOCや放送を担当するチームに長い時間を掛けて交渉してやっと実現できました。

現地の方とテレビ視聴者を同時に満足させる必要があり、数多くのプランを提出してやっとO.K.が出たパートなのですが本当にいろんなプランを作りました。全てのプランをパッと思い出すのが難しいくらいです(笑)
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2020年のオリンピック・パラリンピックでは映像を介してセレモニーやスポーツを楽しむ人がいることを意識して演出にこだわったと語る、MIKIKO氏(右)と真鍋大度氏(左)

--多くの方の努力があり、IOCとしても8分間枠で利用するAR演出を理解し、許可くださったのですね。

改めて伺います、セレモニー終了後にどのような感想を受けましたか?

MIKIKO:
セレモニー終了後はハグの連続でした。多くの感想は「美しかった!」と。あとは、ダンサーと連動するフレーム光が美しかったけど、どのようにダンサーと同期できたのか?という「不思議だった」というコメントも受けました。

リオで実施するということで、世間的には「リオ=カーニバル」という華やかな演出を連想しやくなるところ、圧倒的にプリミティブな日本らしさで臨んだのが結果として良いギャップになったのかもしれません。
真鍋:
会場で実際に見ていた方からはBeautifulという感想をもらうことが一番多かったですね。
土砂降りはテクニカル的には超マイナスでしたが演出的にはプラスに働いたところもあったかもしれません。

--最後に、2020に向けてコメントをいただけますか?

真鍋:
今回リオで貴重な体験をさせていただいたので、今回得たノウハウやアーカイブをうまく引き継いで2020に活かしていくことが重要かなと考えています。

次回はホームなのでリオみたいな大変さは無いかもしれませんが、シミュレーション、大規模イベントでのフェイルセーフなシステム設計、細かいことで言えば無線通信や放送システムとの連動方法など苦労した点がたくさんあったので何かしらお役に立てれば幸いです。
MIKIKO:
今回のセレモニーの前からPerfume、BABYMETAL、イレブンプレイの海外公演が増えました。
こちらは日本を意識せずに作品を作っているのですが、自分たちらしさを追究する結果が「日本らしさ」に繋がるというのを改めて実感しております。

そして、改めて外から日本を見て、やはり素晴らしい国だなと思える機会も増えました。
誇りを持って肩に力を入れすぎずに自分たちらしく今を表現する事が自然に日本的な表現になるという現象が4年後もその先も、大事なのかなと思いました。その意識で作品を生み出し続けなければいけないと考えております。

--ありがとうございました。

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リオ五輪閉会式セレモニーで「日本らしさ」を改めて考え、今後に繋げたいと語る 真鍋大度氏(左)とMIKIKO氏(右)

オリンピック・パラリンピック選手の戦う姿を見ると体の中心から感動が沸き起こる。その選手達が与えてくれるスポーツの感動にプラスして、リオ・オリンピック閉会式/フラッグハンドオーバーセレモニーにも感動を覚えた。それは筆者の個人的な感想ではなく多くの方々が感じた感動だろう。感動と同時に2020はいよいよ我々の出番だ、と気分が引き締まる思いをした方々もいるだろう。そのように多くの方を感動させ未来を考えるキッカケを提供してくれたMIKIKO氏、真鍋氏はじめフラッグハンドオーバーセレモニーのチームが存在することをとても誇らしくおもう。今回得た感動を忘れずに2020東京開催にて、さらに大きい感動を世界に発信できるように。ひとりひとりが意識をして未来を迎えられれば幸いである。

ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

写真:松平伊織

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