【さえりさん:ことばとわたしたち】 #3「夢に逃げるな。夢は選択するものなんだから」

2016.05.05 19:30

ライター・さえりさんによる連載・3回目。会社を退職し、Web編集者を経てフリーランスのライターとしての道を歩み始めたさえりさん。フリーになってからよく聞かれるという「独立した理由」や、これから歩もうとしている「夢」や、やっていきたいことへの考え方を綴って頂いた。

3月31日に会社を辞めた。
気づいたらわたしは、フリーのライターになっていた。

辞めてから早一ヶ月以上が経ったけれど、その間にこんなことをたくさん聞かれた。

「どうしてフリーになったんですか?」
「フリーになろうと思ったきっかけは?」

聞かれるたびに、考えた。順序がおかしいと言われるだろうけど、「気づいたらフリーになっていた」という感覚が、一番近しいのが事実だったから。

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ベルギーにて Photo by さえり

"シャワーを浴びて一晩ねむっても頭に残っていることは、本当に考えるべきこと"というのがわたしの社会人になってから悩むべき事柄の基準なのだけど、今年の頭からずっとシャワーを浴びても流れていかない、言語化できない想いがあった。

もやもやと心の中に蔓延る、未来は何も見えず、目の前の霧だけを認識しているような気持ち。それは現状に対する不満ではなく"疑問"のようなものだったと思う。

「あー、なんだかなぁ」

部屋の出窓にパソコンを置き、外を眺めながら何かを考えていたと思う。とても晴れていて、外から工事の音が聞こえるのどかな昼下がりだった。「なんかこう......なんだろう、どうしたらいいんだろう」。具体的に何を考えるべきかもわからずつぶやいていた、そのときだった。

「今なら、夢叶えられるじゃん」と閃いたのは。


「海外に住む」のが、昔からの夢だった。

なぜ海外に? と問われたら、当時はそれなりに理由があったのだろうが、今ではあまり思い出せない。でも、「日本以外の場所で暮らして色々なものに触れることは、必ず将来につながる気がする」と信じていたのは確かだった。

学生のころから思っていたけれども、それを思いつくのが遅かったせいで "親の懐に甘える語学留学"とやらをし損ねたわたしは、どう海外行きを叶えたらいいものか、考えあぐねていた。

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ベルギーにて Photo by さえり

そのうちすっかり海外行きなんていう夢を忘れ、「行きたかったけど、無理かもしれない」と思っていたのに、あの晴れた日の出窓で、昔持っていた夢が「ただいま」と弾む声で舞い戻り、わたしの積み重ねてきた「書く」という仕事としっかり結びついたのだった。
「書く」という仕事が徐々にもらえるようになった今の私なら、海外に住んで何かを感じたいという夢を叶えながら、現実的にしっかりと仕事ができるじゃない!

その後数日、現実的な方法をすり合わせ、会社に告げた。そこから退職まで、わずか2週間足らずだった。ちょうどわたしの仕事の手が空いていた時期で、タイミング的にもベストだったのだ。会社のみんなを随分驚かせてしまった。けれど、想いを話せば、理解してくれた。応援する、とさえ言ってくれた。その日社長の後ろから見えていた空も、同じように突き抜けるような青だった。

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ベルギーにて Photo by さえり

こんなことを言うと怒られるかもしれないが、「フリーになって、生活をどうするか」という現実的なことはあまり考えていなかったように思う。

「なんとかなると思う」というよりは「なんとかする」つもりでいた。
結局、やりたいことは心の底から突き動かされるように、そして自然に始まっているものなんだろう。Web編集者としての活動がスタートした昨年もそうだった。昨年はずっと「いい記事を作りたい」と思っていた。それに付随する大変さなど、微塵も考えずにやりたい企画に飛び込んだものだった。

今回の場合、やりたいことはふたつ。
先ほどの「海外に住みたい」ということと、もうひとつは「もっと"書く"を中心にいろいろな仕事をしたい」ということ。このやりたいことだけは決まっていたので、そこに付随するなにかは、当たり前に引き受けるつもりだった。

そこに付随したのが「フリーで働く」という形だっただけで、だからそこに、あらたまった"覚悟"のようなものはなかった。

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スペインにて Photo by さえり

昔は「書く」という仕事になかなかたどり着けなかった。ライターのなり方もわからなかったし、フリーになる選択肢も不安で消し去ったこともある。寂しいんじゃないか? 生活するほどの仕事はあるのか? 手続きが面倒だと聞くけれど管理はできるか? ......色々な不安が先立ってしまうと、どうしてもそれを選択する勇気はでなかった。

でも、どうして勇気がでなかったのかというと、きっとそこまでやりたいことじゃなかったから、の一言に尽きると思う。仕事が辛くなった時には「やっぱわたし書きたいんだよね」と口にしていたものの、きっとあの頃は、現状の不満から逃げるために"夢"を持ち出していたと思う。

昔、友人が「俺、働くのとか嫌なんだ。だからやっぱ昔から好きだったミュージシャンになりたい」と言い出した時、知り合いの歌手の女性がこう言った。

「そんなの、夢に逃げてるよ。夢は選択するものなのに」

何かが嫌になると、昔の夢を持ち出して語る人は多いかもしれない。「ほんとはああしたかったのに」「こうなりたいのに」「やっぱ○○しよっかな」と。もちろん語るのは自由だし、それが精神を支えることもあるから悪いとは言わない。けれどやっぱり、それは逃げ場所を"夢"に求めているのだと思う。それじゃあ"夢"はいつまでも"夢"のままだ。

夢は逃げ道として用意するものじゃなく、選択して歩むものなんだと思う。

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スペインにて Photo by さえり

わたしも昔からの夢「海外に住みたい」ことと、今の夢「書く仕事」を選ぶことにした。そして今、ひとつひとつを実際に歩んでいこうとしている。

やりたいことを前に、考えるよりも先に体が動いてしまっていた。覚悟どころか、他にやりたいことができたらいつでも方向転換すればいいという気持ちさえある。
でもそれでいいんじゃないだろうか。一つのことをするのに必要なのは「覚悟」とか「決意」とかじゃなく、「行動」なのだから。不安はない、と言えば嘘になる。けれども、きっと「なんとかする」んだと思う。

これからも目の前の現実をしっかり歩みながら、「やりたいこと」を誠実な気持ちで見つけていきたい。見つけたら、やりたいことに付随する、色々なものは喜んで引き受けるつもり。きっとみんなに助けを求めながらだけれど(笑)、でもしっかり前を向いて、一歩ずつ。

文:さえり

ライター。出版社勤務を経て、Web業界へ。人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
メール:i.like.being.on.my.own[アットマーク]gmail.com
Twitter:@N908Sa

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