サカナクションが見据える音楽を取り巻く変化〜ボーカル・山口一郎 インタビュー

2015.07.17 09:15

年齢性別問わず幅広い層から絶大な人気を誇るアーティスト・サカナクション。ボーカルの山口一郎氏が声を上げ、サカナクションが初めてオーガナイズする音楽とアートの複合的イベント「NIGHT FISHING」が7月2日・3日の2日間、恵比寿にて開催された。

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サカナクション・山口一郎氏

会場の外には整理券を握りしめ、開場を今か今かと待ち構えるファンたちがたくさん。会場には、テレビや雑誌などでもよく目にするアーティストやクリエイターもちらほら訪れていたようだった。それもそのはず、この「NIGHT FISHING」には山口氏が集めた超豪華クリエイター達が参加。ファッションブランド・アンリアレイジの森永邦彦氏やライゾマティクスの真鍋大度氏、映像監督の田中裕介氏などが集まったこのイベントは、サカナクションファンだけでなく業界からも熱い注目を浴びていた。

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KATAで開催されていた展示会。(Photo by Yoshiharu Ota)

山口氏はイベントが始まる前に、会場に集まったオーディエンスに対して以下のようなことを話した。

山口:
僕はデビューして8年経つのですが、色々感じたことがあります。それは、音楽は音楽以外のもので形成されている要素がたくさんあるということです。スタイリストさんが衣装を作ってくれたり、ヘアメイクさんがヘアを作ってくれたり、MVをとるときも映像監督やディレクターがいたり。僕は、サカナクションの音楽に関して「山口さんすごいですね!」といろいろな人に言われます。でも、それは少し違います。もちろんそこに自分のセンスも含まれてはいるけれど、色々な人の要素がサカナクションに入り込んで音楽は形成されています。それにも関わらず、多くの人にはそういったことが知られていない。そのことに、バンドを8年やっていてやっと気づきました。
音楽を聴く上で、音楽に関わっている人たちの役割や仕事はすごく重要なファクターだと思うし、そういった部分ももっとみんなに知ってもらいたい。それが、今回このイベントを企画した主な趣旨です。今日トークイベントに来てくださる方々は、音楽に関わる音楽以外の仕事をされている人たちです。そういう人たちの話を聴く中で、何か"音楽と同じだけど違うもの"を感じてもらえたらなと思います。
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ベース・草刈愛美氏の妊娠をきっかけに活動休止を発表してから約1年。その間に、山口氏の中で色々な気付きや心境の変化があったようだった。そこで山口氏に、この1年間で起きた心境の変化や、山口氏が考える音楽の未来について話を聞いた。

--今回の「NIGHT FISHING」は多くのメディアにも取り上げられ話題性も高く、チケットは即ソールドアウト。今の率直な感想を聞かせて下さい。

山口:
これだけの人が僕らのイベントに興味を持ってくれて、参加したいと思ってくれているということはとても嬉しいです。ただ今回は会場のキャパも小さく、かなり限られた人数しかご参加頂くことが出来ませんでした。たくさんの人に足を運んでいただきたかったので、申し訳なかった気持ちもあります。初めてのイベントだったので、次もやるとしたらそれまでに改善しなきゃいけないことはたくさんありますね。
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--イベントのオーガナイズは初めての経験だったのですか?

山口:
そうですね。いままではサカナクションというアーティストとして、プロデューサーがライブやツアーを計画してから一緒に詳細を詰めていくという形でした。実際に自分が人を集めたり会場や企画を考えたりというのは、メジャーデビューして8年経ちますが初めてのことでした。

--イベントを作っていく上で最も大変だった点はどこでしたか?

山口:
自分がどんな空間を作りたいのか、どんな人達と一緒に仕事をしたいのかということを考えた時に、「この人達と一緒に良い空間をつくりたいな」って思った人たちが一流の人達ばかりだったんですよ。スタイリストの三田さん、カメラマンの奥山くん、田中監督、アンリアレイジの森永さんもそうですし、ライゾマティクスの真鍋さんなんてほとんど日本にいない。そういった人たちとスケジュールを合わせて、一緒に空間を作っていくっていうのが一番難しかったです。

■音楽に対する向き合い方の変化

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--サカナクションは草刈さんの妊娠以降、1年間フェスなどの活動を休止していました。その期間を過ごしてみて、今後の山口さんやサカナクションにはどのような影響があったのでしょうか。

山口:
今までは、自分は全て受け身になってどんなことでも全部受けて、仕事をするっていうのが1つのテーマだったんです。

--受け身、ですか。

山口:
例えばテレビ番組や映画のタイアップ用に音楽を作る、といったことです。それは自分たちの音楽を知ってもらうために、たくさんの人に音楽を発信するという点ではすごく大切なこと。その音楽を聴いてくれて集まってきた人たちに向けて、自分たちの音楽を聴いてもらい、それでも好きな人達がファンとして残っていくという手法をとっていました。だから、サカナクションを色々な人に広げるということに対してすごくがむしゃらでした。

でもベースの草刈が妊娠して少し時間ができた時に、音楽って一体なんなのだろうとか、自分が立ち向かっていくものってなんなのだろうとか、冷静に一歩引いて考えられる様になったのがすごく大きかったです。今までは考えてもなかなか行動に移す時間も余裕が無かったのですが、今回はその時間ができたことで色々なことを考える余裕が生まれたから動いたという感じです。

こういう空間が作れたことで、たくさんの人達に音楽を発信するという部分でのモチベーションや動機のようなものができたんですね。とにかくここに人を集めたい。それって自分の制作活動にとってすごく大切な感情で。「一体自分は何のために音楽をやっているんだろう」とか「この苦しみっていつか報われるのかな」とか、余裕のなかった時期にそういう気持ちは少なからずありました。それが一度クリアになったというのは、今後の制作活動にすごく大きな影響があると思います。

--多くの人が利用するインターネットの中では仮想世界が拡張し続けている今だからこそ、今後の音楽はリアルな場所における「体験」というのがキーになっていくのだと思います。

山口:
そうですね。何でもバーチャルで体験できたり、SNSなどでリアルタイムに他人の動きが分かったりする時代だからこそ、「体験」というのが今後テーマになると思います。わざわざ足を運んでその場の空気を味わうという体験を経験させてあげることで、その人の人生に何か爪痕が残せるような気がしています。今回それが100%出来たかどうかというのはこれからの検証ですが、今回のような空間を作って人を巻き込んでいくというのは今までやっていたライブとほとんど同じなので、やっぱり面白いなと思います。

■表現とテクノロジーのバランス

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--2015年1月3日に放送された「NEXT WORLD」。あの世界観は、2045年の未来を想定したものでした。2045年といえばシンギュラリティを迎えると言われている年で、ライゾマティクスの真鍋大度さんとコズモの徳井直さんは「2045」という人工知能を使ったDJイベントを開催しています。音楽の側面から、山口さんはテクノロジーの発達によって今後音楽はどのように変化していくと考えていますか?

山口:
人の心を動かすものとは何なのか、いうところですよね。どんなアートでも同じだと思うのですが、特に音楽というのは、"その人間が何を言いたいのか、何を作りたいのか"という心象的な部分がオーディエンスから選ばれる一つの要素になる気がしています。機械や人工知能に関してはまだ分からないけれど、もし目の前に涙を流しながら必死に歌っている人の姿がいたら、それは2045年でもきっと多くの人達の心を動かすはず。そういった、人のエモーショナルな部分はこれからも変わらないと思います。

とはいえ、テクノロジーの進化によってアーティストの表現の手法が物凄く広がるというのも事実。ただし、表現がテクノロジーに依存してはいけない、ということは気をつけるべきだと思います。「既存のテクノロジーを利用して音楽を作る」というのではなくて、「どうしても作りたいものがあって、そのために必要なテクノロジーを作る・利用する」ということが大切ですよね。その順序が逆にならないようにしなければいけないというのは、僕達も気をつけていることですし、これからのミュージシャンや表現者達にとって大切な部分になるような気がします。

--ありがとうございました。

1年の期間を経て、ファンの前に戻ってきた山口氏。一つ一つの言葉が非常に重く洗練されており、表現の難しさや葛藤がひしひしと伝わってきた。今回は表現の場所としてこのような空間を作り上げた山口氏だが、次回のイベントに関しては全くの未定だそう。次はどのような形で、我々の心を揺さぶり、人生に爪痕を残してくれるのだろうか。次回の詳細発表を心待ちにしつつ、今後の活躍にも注目していきたい。


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インタビュー・文:石原龍太郎(いしはら りゅうたろう)


ライター・編集者。 テクノロジー・ファッション・グルメを中心に、雑誌やウェブにて執筆。本と音楽とインターネットが好き。@RtIs09

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