「実験を繰り返さなければ、新しいエンタメは生まれない」世界最高峰のデジタルアート集団 Moment Factoryの新たな一手

2019.01.28 18:00

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(C)MOMENT FACTORY

マドンナを筆頭とした一流アーティストのライブ、サグラダ・ファミリアへのプロジェクションマッピングなど、その実績を挙げようとすれば、枚挙に暇がない。

それらを手がけているのは、カナダ・モントリオールに拠点を置く世界最高峰のデジタルアート集団モーメントファクトリー。彼らが大阪に新たなナイトスポットをつくる、という情報が入ってきた。

2017年からは東京・渋谷に日本支社を構え、安室奈美恵のファイナルコンサート演出なども手掛けていたが、次なるディスティネーションは大阪だ。

そして、大阪城公園内に出現したのが、新感覚のナイトスポット「サクヤルミナ」。

「今後、日本でのプロジェクトを積極的に行なっていきたい」と話す彼らは、一体どのような想いで、デジタルアートに向き合っているのだろうか。

今回、モーメントファクトリーのファウンダーの1人であり、Chief Innovation Officerのドミニク・オーデット氏と、「サクヤルミナ」のディレクションを行なったマリー・ベルジル氏へのインタビューを敢行。モーメントファクトリー設立の背景、サクヤルミナへの想い、そして日本のエンターテインメント業界の活性化におけるヒントを伺った。

はじまりは、レイヴパーティーでの"実験"。世界最高峰のデジタルアート集団

モーメントファクトリーは、東京を含む世界6都市に拠点を構え、400人以上のスタッフを抱えるマルチメディア・プロダクションだ。シルク・ドゥ・ソレイユやマドンナ、スーパーボウルのハーフタイムショーなどの演出を手がける、世界最高峰のアーティスト集団である。

創業者のドミニク・オーデット氏、サクシン・べセット氏、 ジェイソン・ローディ氏の原点は、モントリオールのレイヴシーンにある。VJをしていた彼らは90年代後半、音楽、ビジュアル、テクノロジーを融合させる"実験場"として、数々のDIYパーティーをオーガナイズしていたという。

ドミニク氏(以下、ドミニク):90年代後半は、パーティーの演出もアナログからデジタルに移行する時代だった。それまでは、大きな会社じゃないと映像編集の機械を購入することができなかったけど、パナソニックのビデオミキサーなど、手頃な価格で買えるツールが登場したことで、デジタルツールが民主化した。だから僕たちは、レイヴパーティーで、様々な"実験"を行うようになったんだ。

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ドミニク・オーデット氏

シルク・ドゥ・ソレイユのファウンダーであるギー・ラリベルテは、彼らの活動を知り、パーティーの演出を依頼。これが契機となり、モーメントファクトリーはシルク・ドゥ・ソレイユやナイン・インチ・ネイルズのライブ演出を手掛けるようになったという。その後も、2012年のマドンナのスーパーボウルでのパフォーマンスの演出など、グローバルな舞台でデジタルアートを武器にして活動を続けている。

デジタルアートは、人と人を繋ぐもの。国境を超えて親しまれるエンターテインメント

「サクヤルミナ」は、彼らの代表作でもある、屋外型マルチメディア体験「ルミナ ナイトウォークシリーズ」の9作目だ。「ルミナ ナイトウォークシリーズ」は、それぞれの土地の文化や美しい自然にインスピレーションを受けて紡がれた新感覚のエンターテインメント。訪れた人は、独創的な物語の一部となり、体験できる。これまでの総動員数は100万人を超え、カナダ、シンガポールなど各国で人気を博している。

ドミニク:国によって、好まれる演出は全く違うよ。でも、「デジタルアートが人と人を繋ぐ」ということは変わらない。文化が違っても、人間の根源的な欲求は同じだからね。だから、基本的なアプローチは世界中どこの国でも変えていないんだ。

デジタルアートは、人と人を繋ぐーー。ドミニク氏の言うように、デジタルアートと伝統的なアートでは、鑑賞者に向けたアプローチが全く違う。日本を代表するデジタルアート集団、チームラボ代表の猪子寿之氏は、デジタルアートの特徴を、以下のように語っている。

わかりやすく言うと、昔のアートでいえば、モナリザだったら観客が個人としてモナリザを見てどう思うか、美しいと思うとか、なんか考えさせられるとか、個人と作品が一対一で対峙していたと思います。(中略)絵が絵としてアナログのときは、単独では存在できなくて、物質、質量、あるいは物質に媒介しないと絵が存在できなかった。(中略)しかし、デジタルになると絵が絵として単独で存在できるようになるのね。(中略)昔はモナリザと観客っていうのは完璧に対立していたし、違う存在だったのだけれど、だんだんとどこまでが作品でどこまでが作品じゃないかみたいなものが、つまり隣の人も含めて作品かもしれないようなことになっている。 (引用元:https://logmi.jp/business/articles/35383

「ルミナ ナイトウォークシリーズ」はこれまでに、各国の土地の文化や美しい自然にインスピレーションを受けて創られてきた。今回「サクヤルミナ」の舞台となったのは、大阪城天守閣を中核に据える、大阪城公園だ。来場者は、9章からなる物語の登場人物となり、デジタルアートを活用した様々な演出を楽しみながら、自らの足でナイトウォークを辿ることができる。

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(C)MOMENT FACTORY

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大阪城公園の豊かな自然は、幻想的な光に包まれ、来場者は一瞬でファンタジーの世界に"トリップ"できる。

さらに、大阪の文化でもある"笑い"の要素も盛り込まれている。大阪城の石垣の前を通ると、プロジェクションマッピングで映し出された「おしゃべりな石」が、気さくに話しかけてくるのだ。

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こうした、"デジタルアートのローカライズ"は、ディレクターのマリー・ベルジル氏が大阪に長期滞在し、土地の文化を肌で感じたことで実現したことだ。

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マリー・ベルジル氏

マリー・ベルジル氏:大阪は歴史がありながら、好奇心に溢れている街。新しいことに対して寛容で、海外の文化にも興味がある人が多いと感じました。さらに、音楽、演劇、食べ物、パーティーなど、それぞれの文化が独自の進化を遂げている。情熱に溢れていて、新しいものに意欲的に取り組む人が多い大阪だからこそ、未来のエンターテインメントを実現させることができたのだと思っています。

「サクヤルミナ」に来た人には、幻想的な魔法の世界を楽しんでほしい。来場者が、物語の一部となって楽しめるような演出を取り入れていて。物語の中を生きることで、日常では気づかないことを発見できるかもしれない。エンターテインメントの一部となって、楽しんでほしいと願っています。

新しいエンターテインメントは、"実験"の繰り返しで生まれていく

1990年代後半以降、人びとの消費行動は変化し続けている。生活が豊かになり、物質的な豊かさを手に入れたことで、人びとは"所有欲"よりも"心に残る体験"に積極的に消費するようになったのだ。さらに博報堂生活総合研究所の調査によれば、近年は今そこにしか生まれない、刹那的な「トキ消費」を求める人が増えているという。

光、音、映像によって作り出されるデジタルアートは、人びとに驚きと感動をもたらし、強烈な体験として記憶に残る。そして、同じ空間にいる人とその感動を共有することで、唯一無二の体験となる。「トキ消費」が求められている今の時代、デジタルアートが多くの人に親しまれるのは自然な流れといえるだろう。

そして、今後さらに世の中が効率化されていくなかで、唯一無二の体験ができるエンターテインメントの価値は高まっていくのではないだろうか。

では、新たなエンターテインメントを創出していくためには、何が必要なのだろうか。ドミニク氏によれば、エンターテインメント業界を活性化させるためには、「エコシステム」が必要不可欠だと語る。

ドミニク:モントリオールのあるケベック州では、1990年代の終わり頃に政府が大きな決断をしたんだ。それは、国をあげたエンターテインメント業界の活性化。政府、企業、教育機関が、エンターテインメントへの理解を深め、お互いをサポートしていこうと決めたんだ。20年以上もの年月をかけて「エコシステム」が形成され、今はエンターテインメントが国の文化の一部になっている。時代と共に進化するエンターテインメントを、文化として根付かせていくためには、エコシステムの形成が必要だと思うね。

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モントリオールは2017年、「世界で一番学生が多い街」に選ばれている。デジタルアートのプログラムが組まれている大学も少なくないそうだ。そうした"英才教育"があるからこそ、世界中のエンタメ企業が集まり、優秀なクリエイターを積極的に雇用しているのだと、ドミニク氏は言う。

ドミニク:テクノロジーとアートを掛け合わせて、新しいエンターテインメントを生み出せる人材を、多くの企業が求めているんだ。だから、デジタルアートで仕事をしたい人がいるなら、絶対にモントリオールに来た方がいい。新しい分野だからこそ、差別もないし、質の高い仕事がたくさんあるんだ。

近年の日本でも、デジタルアートは人びとにとって身近な存在なりつつある。しかしそれらは果たして、国の文化として根付いていくだろうか。いつの時代も、「日本の文化」として語られるのは、伝統的なものばかりではないだろうかドミニク氏に、「デジタルアートのようなエンターテインメントが、文化として醸成していくために、必要なことは何か」と問うと、「実験場だ」という答えが返ってきた。

ドミニク:僕たちがかつてレイヴパーティーでやっていたように、新しいエンターテインメントを生み出すためには、実験を繰り返すことが必要不可欠だと思う。そのためには、自由に実験できる場所がたくさんあるべきなんだ。政府や企業がそうした場所を積極的にクリエイターに提供していくことが、エンターテインメント業界を切り拓く上で大事だと思うね。

人は常に、新しい刺激を求める生き物だ。今後、テクノロジーが発達していくなかで、デジタルアート以外にも、"見たこともない"体験ができる新しいエンターテインメントの需要は高まっていくだろう。

革新的なエンターテインメントは、実験の繰り返しによって生まれていく。そのためには、優秀なクリエイターの育成、費用の捻出、実験場所が必要だ。日本のエンターテインメント業界をさらに発展させていくために、資金力を持った政府や企業とクリエイターが互いに歩み寄り、未来のエンターテインメントを生み出すためのエコシステムを形成していくことが重要なのだ。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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