「修行するAI」人工知能の未来〜真鍋大度×光明寺 松本僧侶×市原えつこ×東大 松尾豊

2015.12.03 09:00

クリエイター、研究者、僧侶らで語る「人工知能の現在と未来」。第8回目SENSORS SALON参加者は真鍋大度氏(Rhizomatiks Research)、松尾豊氏(東京大学 特任准教授・GCI寄付講座共同代表)、市原えつこ氏(アーティスト)、松本紹圭氏(光明寺僧侶)、そしてモデレーターに西村真里子(HEART CATCH)。舞台となったのは神谷町 光明寺。エンターテイメントから宗教まで、人工知能が変えようとしている世界の様々な事象を語り尽くした。レポート最終回となる今回のテーマは「生活に溶け込む人工知能」。

レポート第一弾「ライゾマ真鍋大度らが語る、ゴッホやピカソを凌駕する人工知能×アート論」でも触れたように今年に入って、人工知能は初めて画像認識の精度で人間を上回った。事実、街を歩けば至るところに監視カメラが設置され、その性能は向上の一途を辿り、セキュリティは高まり続けている。こうした技術は倫理的な側面もケアされつつ、社会制度、そして生活に溶け込んでいく。

最終回の今回は、ビッグデータが身体と結びついたとき、人工知能が我々の生活をいかに変貌させるのかについて考え、そして近未来の生活にどのような形で人工知能を溶け込ませるべきか?業界識者の考えを聞いた。

筋電や義手、IoT、スマートシティをキーワードに、あらゆる工場、農場、そして都市などのあらゆるプラットフォームが自律的に"考え"始めたとき私たちは生活をどのように送っていくのだろうか?

【左から】モデレーター・西村真里子氏(SENSORS.jp編集長、HEART CATCH)、真鍋大度氏(Rhizomatiks Research)、松本紹圭氏(光明寺僧侶)、松尾豊氏(東京大学 准教授)、市原えつこ氏(セクハラインターフェース)

今回のSALONでモデレーターを務めた西村氏やメディアアーティストの真鍋氏は、脳に電極を埋め込み脳内データを取り行動を制御したり、センシング後に他デバイスに指示出しする日も遠い未来ではなく、倫理的・道徳的問題がクリアできれば試してみたいとの考えを示した。

真鍋氏はこれまでにもダンサーの動きを感知するため筋電センサーを用いたり、真鍋氏本人の顔にセンサーをつけて表情をコピーすることを試みたりなどフィジカルで実験的なテクノロジーの表現に挑んできた。

『Electric Stimulus to Face』(2008)
https://www.youtube.com/watch?v=YxdlYFCp5Ic
真鍋:
筋電が面白いのは手が動く前に信号がパソコンの中に取り込めるので、手を実際に動かす前に音が鳴るんですよね。インタラクションとしては不思議な感じなのですが、触りたいと思う考えの方が先読みされて行動に先行するので、考えの関係性が逆転するんです。本当は自分が思って触ろうとしているはずなのに、動いたから触っているかのような。

西村氏はビッグデータがより身体との距離を縮め始めていることを指摘。筋電義手「handiii」を開発するexiiiや複数の生体信号を判別する高機能義手を開発している「Meltin」など新たなテクノロジーが健常者と障害者の壁を取り除き始めている。Meltinによれば、「手先の器用さで障害者が健常者を凌駕する世界を創れる可能性がある」という。

Meltin HPトップより

今年10月に韓国・ソウルで行われたIoTカンファレンスに参加した市原氏は、日本以上にデータ活用やセンシングが生活に溶け込んでいることを感じたという。

市原:
韓国ではスマートシティはじめ、スマート農場、スマート工場といったようにセンシングや人工知能を実社会のインフラに積極的に取り入れようとしている様子を感じました。様々なところにセンサーが張り巡らせデータを測定できるようになった場合、"考える都市"、"考える工場"、"考える農場"といったようにプラットフォーム側が考えるようになっていく。そうなった場合、社会にどのような変化が起こるか興味があります。

市原氏が現在進めている「デジタルシャーマン・プロジェクト」では、テクノロジーが発展した現代向けに新しい死や弔いの形をデザインし、提案することを目指している。

市原:
現状では、3Dスキャンした故人の顔と家庭用ロボットPepperを接合し、故人の癖(相槌や口癖、笑い方、しぐさの癖など)や気配を再現するものを制作しています。現在のプロトタイプでは生前に音声録音していただくことを前提としていますが、音響合成によって故人の声質を再現し、ソーシャルメディアのデータなどを利用して人工知能化することで、より拡張性を上げていきたいと思っています。とはいえ、ずっと故人の再現がこの世に存在するのは不健康なことだと思うので、一般的に死者が仏になりこの世を離れるという49日間でプログラムが消滅する、という設定にしています。
Digital Shaman Project Prototype1
https://vimeo.com/144708122

「人工知能の現在と未来」をテーマに盛んな議論が行われた今回のSALON。総括するため、最後にモデレーターの西村氏から「どのような形で人工知能が生活に溶け込んでいくと人々が幸せになるのだろうか?」という質問が投げかけられた。

松尾:
一つ選ぶとすれば、部屋にあるものを元に位置に戻してくれるロボットですね。家でもオフィスでも良いのですが、次の朝に行くと、必ず元の位置に戻っている。毎日が部屋がホテルのように整頓されている。それが欲しいですね。
市原:
"悟り"を教えるロボットでしょうか...。仏教的な価値観に触れることは現代社会ではあまりないと思うのですが、誰かを亡くしたときに私たちはどういうふうに立ち振る舞い、対処するべきなのか。それを手解きしてくれるものがあれば日本はもっと健全になると思うんです。今回の議論でお坊さんの精神性を人工知能化するのは大変だという話を聞いたので、どこまで現実性があるは分かりませんが。

【左】真鍋大度氏(Rhizomatiks Research)【右】松本紹圭氏(光明寺僧侶)

真鍋:
松尾先生に近いですが、自分のパソコンの中の状態を常に最適な状態にしてくれるものですかね。あとは以前に書いたプログラムを再現して、全て自動化してくれて、時間が短縮できるツールができたら良いですね。それから発展して、自分が次に何を作るのかを予測してくれる人工知能が出てくれば、自分はそれに沿って作っていくみたいなことも起こるかもしれません。過去にマウス、キーボード、使用アプリのログを取ってビジュアリゼーション、マイニングするところまではやりましたがプレディクトまではまだ手をつけていません。
松尾:
いや、それはすごい面白いですよね。実は僕も研究で一度同様のことをやったことがあるんです。人から見ると明らかだけど、自分では知らないパターンとか癖ってありますよね。これも妄想に近いですが、人間は自分の行動について過度に学習しないようにできているんじゃないかと思うんです。でないと自分をハックして、過度に働かせたりできるので、学習しないようにできている。すると、他人の方が気づく。そこのデータ分析の仕組みを取り入れると、自分の知らないパターンを向こうが発見してくれるっていうことができるかもしれません。

モデレーター・西村真里子氏(SENSORS.jp編集長、HEART CATCH)

西村:
真鍋大度2号みたいな(笑)では、最後に松本さんお願いします。
松本:
先ほど市原さんがおっしゃったことに近いですが、修行するAIを見てみたいですね。ディープラーニングとはまた別の学びの仕方ってある気がするんです。例えば修行中の意識に何が起こっているのか、何を目指しているのか、それ自体を解明していくプロジェクトができたら面白いですよね。世界中で様々な取り組みがあると思いますが、このプロジェクトを通して日本独自の精神性を明らかにできればすごく面白いと思います。
松尾:
宗教的な体験や活動を科学的な側面とぶつけてみるという試みはすごい少ないと思いますし、僕はずっと前から宗教のビッグデータ解析をやってみたらいいと思っていました。そういう切り口はすごく面白いと思います。

鉄腕アトムやドラえもんのおかげで人工知能・ロボットに親しみを持つ文化的背景を持った我々こそ生活に役立つ人工知能利用を考えやすい環境にいる。言うなればアニメ・漫画を読むことがアイディアソン的発想の地ならしをしているとも言えるだろう。森羅万象あらゆるものを受け入れるアニミズムをDNAに持っていることも優位性と捉えたい。今後テクノロジー進化を産業、エンターテインメント、アーティスト作品に溶かし込む「人工知能先進国」をみんなで目指していけないか、と考えさせるサロンであった。(モデレーター/sensors.jp編集長 西村)

構成:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近の関心領域は「人工知能」。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh


写真:延原優樹

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