「"視聴者"を"ユーザー"に」テレビ×ネットが生み出すTVCMの新しい価値と可能性

2017.04.21 12:00

SENSORS IGNITION 2017 トークセッション「テレビ×ネットで生み出すTVCMの新しい価値」。西村真里子(SENSORS.jp 編集長)がモデレーターを務めた本セッションには、吉澤健吾氏(HAROiD inc.)が登壇。「視聴者をユーザーに」というコンセプトを掲げるHAROiDが手がけてきた事例を辿りながら、視聴者参加型のTVCMが生み出している価値や効果、今後の可能性を探る。

■視聴者がリアルタイムに参加できるインタラクティブなTVCMとは?

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西村:
一つ前のセッションでも新しいテレビのフォーマットやそれをビジネスに変えるといったお話がありました。吉澤さんはHAROiDにおいて、TVCMにインタラクティブ性を持たせ、付加価値を与えるチャレンジに取り組まれています。本日は実際に行ってきた事例も含めて、お話をお聞かせください。
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吉澤:
まず初めに紹介したいのが、弊社が今年の1月に実施したキリンビールさんの「のどごし<生>」のCMです。CMのO.A中に、視聴者は特設サイトから「参加ボタン」を押すとCMに参加できます。東日本と西日本の陣営に分かれ、視聴者が画面をスワイプした分だけそれぞれのグラスにビールが注がれていきます。結果は、東日本の勝利でした。
西村:
CMの尺のなかで、何秒間で視聴者が競えるようになっていたんですか?
吉澤:
全体が60秒ほどで、ゲームが始まってから競うのが後半の30秒くらいですね。
西村:
CMがパッケージになっているのではなく、CMに視聴者がリアルタイムで参加できる。しかもその評価が出るのはすごいですね。
吉澤:
東につくか、西につくか、もしも視聴者の全員が西を選んだら、東には一滴も注がれない!なんてこともあり得ますね。
西村:
CMが始まる前から、「こういうことをやるよ」といった告知は行うんですか?
吉澤:
デジタルメディアでの告知は行いましたが、やはり普段通り番組を見ていたら偶発的にCMに出会う視聴者が圧倒的に多いです。なので、前半の30秒を使ってCMの説明を行い、スマートフォンから特設サイトへ来てもらうことを丁寧に説明しました。
西村:
テレビを見ている人のほとんどはスマホを片手に持っていると思いますので、「のどごしうまい」と入力して、そのまま参加できるのは良いですね。
吉澤:
この企画は全国ネットのゴールデンタイムで2回O.Aしました。1回目の最後に「来週もやるよ」と告知していたこともあってか、2回目のO.A時はソーシャル上で「KIRINのCMまだかな」とつぶやき、待ってくれている人もいました。
西村:
番組本編はもちろんのこと、CMも楽しめるということですね。

■エンゲージメントから生まれるブランディングと販促支援効果

吉澤:
続いて紹介したいのが、「氷結」の事例です。視聴者の皆さんで熱湯風呂ならぬ氷風呂の氷を叩いて割るという企画でした。各ブロックに分かれていて、それぞれでタップ数が設定された閾値に達すると、氷が割れていきます。(この事例の詳細は、記事「ダチョウ倶楽部「絶対押すなよ!」にリアルタイムで参加できるCM」にて

西村:
こちらも先ほどの事例と同様に、みんなが参加できるということですよね?
吉澤:
仕組みは同じですね。検索をしていただき、タップしていただく。結果として、600万タップを記録しました。さきほどの事例と違うのは、実際に氷結が1本もらえるクーポンがもらえることです。CMに参加していただいた人のなかから、先着で15万件のクーポンコードを発行させていただきました。Twitter上で「KIRINさん、ありがとう!」といった感謝の声も多数いただきましたね。
西村:
CMを観終わったあとにクーポンを手に入れて、氷結と交換してもらって、氷結を実際に飲む。さらにそのあとにお客様がソーシャルにそのことをアップしていただく。継続的なエンゲージメントが保てていますよね。
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吉澤健吾氏(HAROiD inc. Business Development Manager)

吉澤:
一連のプロセスを通じて、大凡150円ほどの商品をもらえた以上の喜びが届いているのではないかと思っています。この参加できるCMによってブランド好意度をリフトアップできたのではないかと。クライアントのメリットという意味ではそれに加えて、商品体験機会を提供できたことと、コンビニチェーンの棚にも置いてもらえるようになるという販促支援の効果もあります。
西村:
CMをやるということで、棚も取りやすくなると。
吉澤:
そうですね。さらに、お客さんとしても氷結一本をもらうだけだとなかなか恥ずかしいので、おつまみも一緒に買うといったクロスセルが生まれます。なので、コンビニチェーンの方にもメリットがある。

■「"視聴者"を"ユーザー"に」よりTVCMが購入に繋がる世界へ

西村:
コンテンツとしてはどこの部分が強かったと思われますか?物がもらえることなのか、ゲームに参加できることなのか、そもそもCMとして新しかったからなのか。
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吉澤:
もともと「O2O(Online to Offline)」と呼ばれる領域は、2012年頃にバズワードになっていましたよね。Webからリアルへ行動の流れを作ろうというアプローチ。Webを起点にコンビニで商品をサンプリングする手法も既に存在していました。今回の事例で特徴的なのは、テレビCMなので全国の視聴者がみんな同時に見ていること。テレビCMが最も得意としている部分です。ですので、テレビのO2O、つまりO2O2O(Offline to Online to Offline)をやるなら、コンビニサンプリングの「お得」という価値を、日本全国の視聴者が参加する壮大でバーチャルなお祭りに「参加」する新たな価値に拡張させようと考えました。結果的に、このお祭りを提供してくれたブランドへの「共感」が先ほどご紹介したツイートに表れているのではないかと考えています。
西村:
「共感」のマーケティングですね。
吉澤:
「AISAS」や「SIPS」という消費者行動モデルがありますが、テレビが届ける情報による「興味・関心」だけでなく一気に「共感」まで獲得出来ていると言えると思っています。一方で今後はTVCMを見た視聴者がアクションを起こす、ということをもっと当たり前にしていきたいですね。引き続き消費者行動モデルとして定義しようとすると、「衝動」と「行動」のみが直結されたモデルということになるのかもしれません。これを実現するためには、最適化された情報をリアルタイムにお届けして、シームレスにアクションまでの最短距離を提供していけるかどうか、が重要になってくると思います。
西村:
HAROiDさんがやろうとしていることは、まさに「Amazon Dash Button」に近いですよね。TVCMを観ながら「これ欲しい!」と思ったら手に入れられる仕組み。
吉澤:
そうですね。テレビCMでは多くの商品が次々に出てくるので、スマホやタブレットの中にある方が良いかもしれません。ボタンを押すことで、目の前で流れているCMやひとつ前にOAされていたCMの商品が買えれば便利ですよね。そのためには"今このCMを見ている"ということを知る必要があります。有益な情報なのかノイズになってしまうのかの違いは、本当に紙一重だと思います。HAROiDでは視聴ログデータの活用など「視聴者をユーザーに」というコンセプトでいろいろな取り組みを行っています。
西村:
視聴者をユーザーに、そしてお祭りに参加させるということですね。これからのHAROiDに期待したいと思います。

テレビの強みはなんといっても、多人数が同時に"リアルタイム"を共有しながらコンテンツを視聴することにある。そこにインターネットのインタラクティブ性を掛け合わせることで、CMに新たな価値を生み出しているのがHAROiDだ。吉澤氏がいう「壮大でバーチャルのお祭り」は「モノからコトへ」という現在の消費行動モデルの一つの解を示しているかもしれない。

【SENSORS IGNITION 2017 レポート】
キーノート『グローバルに通用するクリエイティブとは?』
セッション『VRクリエイティブ最前線』
NECスポンサーセッション『AI×映像認識の最前線』
セッション『近未来社会予測 ~AI、ロボット~』
セッション『メディアの先駆者が語る!これから生き残るコンテンツとは?』
HAROiDセッション『テレビ×ネットで生み出すTVCMの新しい価値』
セッション『日本3.0 日本の将来、何に投資すべきか?』

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。リクルートホールディングスを経て、独立。複数媒体でライティング、構成、企画、メディアプロデュースなど。夢は馬主になることです。

Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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