「日本3.0」大企業とスタートアップがイノベーションを創出するには?--佐々木紀彦×高宮慎一×斎藤祐馬×佐藤真希子

2017.04.20 12:00

SENSORS IGNITION 2017 トークセッション「日本3.0 日本の将来、何に投資すべきか?」。佐々木紀彦氏(NewsPicks)がモデレーターを務めた本セッションには、高宮慎一氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ)、佐藤真希子氏(iSGSインベストメントワークス)、斎藤祐馬氏(トーマツベンチャーサポート)の三名が登壇。明治維新から敗戦までの「日本1.0」、敗戦から今日までの「日本2.0」に続き、「2020年前後から大変革が起こる」と佐々木氏が提唱する「日本3.0」に向け、日本はどこに投資をし、イノベーションを創造していくべきなのか。日本にもチャンスが大きいフロンティア、イノベーター人材の条件、オープンイノベーションの鍵を探っていく。

■高宮慎一が考える「日本3.0」に向けた三つのフロンティア

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佐々木:
本セッションのタイトルにもなっている『日本3.0』は、私が今年初めに上梓した本に由来しています。問題意識としては、2020年前後にかけて日本のなかで非連続な変化が起こるのではないかということ。大企業とスタートアップの境界線が薄まり、AIやIoTといったテクノロジーの進化がビジネスにも波及することで、新たなイノベーションが起こりつつあります。本日は、日本を代表する投資家、起業家の方にお話をうかがっていきます。

まず最初のテーマは、「ベンチャーキャピタリストが注目する日本の投資領域」。2020年に向けてどういった企業、分野、人が投資領域としてホットになっていくかをうかがってみたいと思います。
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高宮慎一氏(パートナー/Chief Strategy Officer グロービス・キャピタル・パートナーズ)

高宮:
時間軸の短い順に3つあるのではないかと思っています。一つ目が「ポスト・デバイスシフト、ポスト・ソーシャル」。ここ3〜5年の間にガラケーからスマホに変わる分かりやすい波がありました。とはいえ、デバイスが変わったことでユーザーの根源的なニーズが変わったわけではありません。PC・ガラケー時代からあるゲームやコマースをスマホに最適化するだけです。大きな領域がすでにスマホシフトされた今、次に問われるのが「ポスト・デバイスシフト」なのではないか。付言しておくと、熱量の大きい細かなバーティカルにも目を向けておく必要があるでしょう。「SHOWROOM」が好例ですが、全体の母数は小さくてもファンの熱量が大きいバーティカルはかなり盛り上がっていますし、課金率も高い。そのため、全体のビジネス・エコノミクスとして成立するということです。

「ポスト・ソーシャル」というのは、皆さんのなかでも実感されている方もいらっしゃるかもしれませんが、「Facebook疲れ」のような状況です。その流れで出てきたのが、「Snapchat」のような新たなSNSやグループチャットのような「ドヤらないでもいい」「クローズドな」スペースができつつあります。その中で、今までのウェブ上ではトラッキングできなかったようなデータが生まれつつあるので、そこがまた宝の山として注目されています。
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モデレーターを務めた、佐々木紀彦氏(NewsPicks編集長)

佐々木:
たとえば『君の名は。』のプロデューサーでもある川村元気さんは、「ソーシャルが終わる」といったことをおっしゃっていました。つまり、10〜20年という長い軸でリアルへの回帰が起こっていくのではないか。
高宮:
すべてを民主化し、フラットにするのが今までのネットの流れでした。つまりは、グローバリズムみたいな話だと思います。それの揺り戻しとして、小コミュニティが重視されつつあるのではないでしょうか。たとえばInstagramのインフルエンサーがなぜ力を持ってきたかといえば、若い人の感覚では、既存のメディアはトップダウンで誰かの恣意性によって発信されていて信用できない。それよりも自分の小グループの範囲内にいる人の意見の方がオーソリティがなくても信用できるという話なんです。これが「トランプ現象」や中心なき小コミュニティが乱立する時代の背景になっていると思います。その社会的な変化を捉えるサービスは出てくるかもしれません。
佐々木:
二つ目のシフトは何ですか?
高宮:
二つ目は「リアルに染み出していくネット」です。日本の製造業はアセットともレガシーとも言えますが、"生産現場の暗黙知"がデータによって可視化されていき、機械学習を掛け合わせていくことで最適化が進んでいくでしょう。トヨタのカイゼン活動のようなことも機械でできるようになり、かんばん方式にしても自社だけではなく複数社をまたいでサプライチェーン全体に最適化されるということもあるでしょう。こうした流れが規制緩和と相まると、ヘルスケアのようなこれまでネットが及びにくかった古い業界も変革されていく機運が高まると思います。
佐々木:
大企業とベンチャーの橋渡しをされている斎藤さんからみて、高宮さんがおっしゃったような大企業の動きは感じられていますか?
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斎藤:
これまでの大企業は長い時間をかけて研究開発を行い、自前主義で事業を作ることで利益を生んできました。ただ、今はこのサイクルがすごく短くなっています。2010年以降は劇的に早くなっている。自前主義の限界に気づき、日本中の大企業がスタートアップへの投資を始めたのが2〜3年前から現在までの流れです。

一方で大企業出身者がベンチャーを起業することも増えてきました。それによって、これまで大企業には関わりのなかったベンチャーという世界の文化に共感しやすくなったというのはあります。
佐々木:
そこはかなり大きなシフトですね。古い業界に変革が訪れつつある中で、ベンチャーキャピタル(VC)の役割も変わってきていますか?
佐藤:
IoTをはじめ様々なベンチャーが興りつつありますが、生産や量産になるとどうしても大企業に頼らざるを得ない局面が出てきます。そうなったときに、大企業のトップが「ベンチャーと一緒にやるんだ」とか「彼らはこういうところを持っているから伸ばしてあげよう」といった感じでサポートしてくれるとありがたい。大企業のそういった部分を咀嚼するというのが我々の役割でもあります。あとは、大企業のトップの頭の中を変えていきたい。
高宮:
3つ目は世界中どこでも言われていることですが、「テクノロジードリブンのイノベーション」。具体的にいえば、AI・IoT・VRが筆頭でしょう。注意しなくてはいけないのは、AIもIoTも技術の名前であってビジネスの名前ではないということです。どのマーケットで、どのユーザーのどのニーズ、どの課題を解決するのかまでは見えていないことが多いということです。要素技術として世界を変えるポテンシャルがあるのは間違いないので、時間軸を長く取りながら投資をしていく必要があります。

■大企業イノベーション人材に必要なのは「マインド」「ネットワーク」「経営スキル」

佐々木:
3つの素晴らしいポイントありがとうございました。今後、日本のテクノロジー・ベンチャーが国内外で成功するためにどこに注力していくべきだと思われますか?
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斎藤祐馬氏(トーマツベンチャーサポート株式会社 事業統括本部長 公認会計士)

斎藤:
抽象的にいえば、"テーマとチームの掛け算"。まずチームでいうと、やはり一回目の起業よりも二回目の起業の方が成功率は圧倒的に高い。資本政策に失敗するような基本的なミスも減りますし、とにかく良い人が集まりやすいからです。なので、まずは何度も起業するシリアルアントレプレナーを増やしつつ、良い形のM&Aが増えていくことが望ましい。

一回目は技術的にあまり強みがないITベンチャーをやる。次にやるときには、世界でも勝てるテクノロジーベンチャーをやってほしい。そして大企業の人たちはM&Aでとにかく買ってほしいです。そうすると、5年で確実に大きく変わっていくでしょうね。
佐藤:
うちのファンドは3名のパートナーでやっているのですが、みんな非常に個性が強い。投資先の経営者も個性が非常に強いんです。先日LINEさんとの資本業務提携を発表したウィンクルという会社にも投資をしていたのですが、社長の武地実さんが初音ミクが大好きで一緒に生活をしたいということで「Gatebox」を作ったそうなんです。つまり、これまで何も作ったことのない人たちがハードウェアを作る熱量は半端ないと思うんですよ。テクノロジーももちろんあると思いますが、そういった熱量とユニークな視点が大事になってくるのではないかと思っています。
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高宮:
グローバルで成功するためには、日本が国として持っている比較優位をレバレッジしないと勝てないと思います。Facebookのような全人類の共通ニーズだと、どうしてもユーザーの母数が多い英語圏に対抗するのが難しくなってしまいます。なので江戸時代以来、脈々と続く爛熟した市民文化やサブカルに根差し、世界でみるとニッチかもしれないところを取り切るというのはあると思います。

もう一つは、「製造業3.0」という話もでてきていましたが、全ての要素を自前主義で自社で揃えるという発から脱却し、自社は本当にコアとなる領域にフォーカスして、その他は柔軟にスタートアップを含む外部と連携して事業を推進するというのはあると思います。もう一つあるとすれば、日本の厳しいユーザーに育てられた「小気味のいいサービス」を輸出していくこと。人の土地に乗っかる小作人ではあるのですが、1999年以来日本はモバイルサービスの市場がかなり成熟し、世界に誇れるサービスが出てきています。
佐々木:
見極めれば日本企業にもチャンスはありそうですね。そこで大事になるのが「イノベーター人材」だと思います。これからのイノベーター人材に求められる素養や経験にはどういったものがあると思いますか?
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佐藤真希子氏(株式会社iSGSインベストメントワークス取締役代表パートナー)

佐藤:
先日シリコンバレーに行って思ったのは、「トップ層はものすごい競争環境で生き残ってきた人たち」だということです。私には子供が3人いるのですが、どうやってこの子たちを世界で戦える人材に育てられるかを考えたら、やはり"スーパーニッチ"に行くしかないと思いました。日本も文化もそうですが、とにかくマニアックに、人と同じことをしては絶対にダメだ、と。3人いるので、色んな育て方をしていきたいです。
斎藤:
大企業の中のイノベーターでいえば、大事なことは3つ。1つ目は「マインド」です。端的にいえばビジョンということになりますが、ようは世の中に対してどのような"差分"や"変化"を作りたいのか。新しいことをやるのはものすごく大変で、「これをやっていればいつでも燃えられる」というパッションを持つことも大事です。

もう1つが「ネットワーク」。大企業にすごいネットワークがあったとしても、個人の属人的なネットワークが少ない人は意外と多い。事業作りに関しては、知り合いが多ければ多い方が良いです。

そして最後は「経営スキル」。たとえば大企業の中で事業計画をきちんと作れる方は本当に少ない。大企業の方は事業計画を色んな人にレビューしてもらい、ダメ出しされる経験がほとんどないからです。「マインド」、「ネットワーク」、「経営スキル」この3つを持てれば大企業の中にいても事業は作れます。
佐々木:
そういう人は大企業にどれくらいいますか?
斎藤:
大企業のトップ100社があるとすると、結果を出せるのは一人ずつくらいでしょうか。ただ、佐々木さんもおっしゃっているように2020年を境に変革が起こっていくとすれば、それ以降は下剋上の時代になるはずです。新しい分野で成功すれば、大企業の中で新規事業の役員にどんどんなっていく。これは大きなチャンスではないかと思います。僕も社員が25万人ほどいる会社の社内ベンチャーで始めたのですが、そもそもベンチャーをやっている人がほぼいないので、何年かやると圧倒的に会社でトップになることができます。

■「日本3.0」に向けたオープンイノベーションで鍵となる視点

佐々木:
大企業のトップ100社があるとすると、結果を出せるのは一人ずつくらいでしょうか。ただ、佐々木さんもおっしゃっているように2020年を境に変革が起こっていくとすれば、それ以降は下剋上の時代になるはずです。新しい分野で成功すれば、大企業の中で新規事業の役員にどんどんなっていく。これは大きなチャンスではないかと思います。僕も社員が25万人ほどいる会社の社内ベンチャーで始めたのですが、そもそもベンチャーをやっている人がほぼいないので、何年かやると圧倒的に会社でトップになることができます。
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斎藤:
新規事業には火種が必要。そして、その火種になるのがビジョンとパッションを持った起業家的な人材です。彼らがエンジンになるので、彼らのような希少なリソースを応援しながら事業を作るのが現状でいうと分かりやすい方法だと思います。
佐々木:
なかなか起業家人材が大企業から生まれてこない一因にロールモデルがいないことが挙げられるかと思いますが、この話題は女性にとってもよく出てきますよね。この辺り、佐藤さんは何が大事になると考えられていますか?
佐藤:
男の子と女の子の両方を育てて思うのは、女の人は承認欲求を積み上げていくということ。一歩ずつ階段を登っていく。一方で、男の子は、「ここから飛べるよ」と言って、小さい子でも木から飛び降りて足を折ったりしますよね。「僕は飛べる」、「僕はできる」ということを小さい頃から教えるという意味で、教育は大事ですし、親の価値観や考え方はすごく影響を与えると思うんです。なので、保守的にならずにママたちももっと社会に出て、家庭の中から変えていくことも必要でしょうね。難しい部分も多いとは思いますが、もっと自信を持つべきだと思います。
佐々木:
ロールモデルは今後どんどん出てくると思われますか?
佐藤:
私はサイバーエージェントの新卒一期生だったのですが、ずっとロールモデルはいませんでした。「ロールモデルが必要」とよく言われるのですが、私はそれがいなかったからこそ、今ここに立てていると思うんです。とにかくニッチなところで目立つことが大事なのではないかと思いますね。
高宮:
なぜ大企業から起業家人材が出てこないかというと、佐々木さんのフレームワークでいうところの昭和の「日本2.0」の価値観を引きずっているからだと思います。終身雇用を前提にしているので、人材が個別の会社の業務やコミュニケーションに最適化されてしまっていて、転用性がなくなってしまっています。では、どうすればいいのか。やはり雇用の流動化が重要になると思います。成熟しきって縮小していく産業の雇用を守ることを重視するのではなく、国として戦略的に重要な産業にリソースを転用できるようなトレーニングを提供するといったような社会保障とセットになれば、日本全体の産業にとってもプラスですし、価値あるプロフェッショナルも育てられると思います。

本セッションでは業界を牽引してきた気鋭の投資家と起業家が、日本の将来に向けた展望と戦略を語り合った。「オープンイノベーション」の機運が高まってから久しいが、日本においてその明確な成果が上がったとは言い難い。「起業家がもっとも希少なリソース」と高宮氏や斎藤氏が指摘するように、大企業、スタートアップ双方の側でそうした人材を増やすことが急務である。一方で、佐々木氏がオープンイノベーションを起こす上で鍵になると主張する「"西海岸"と"東海岸"の融合」を促進していく必要もあるだろう。VCのみならず我々のようなメディアも翻訳に努め、媒介となりながら社会全体で一つの方向性を共有していくことが重要なのではないかと感じたセッションであった。 

【SENSORS IGNITION 2017 レポート】
キーノート『グローバルに通用するクリエイティブとは?』
セッション『VRクリエイティブ最前線』
NECスポンサーセッション『AI×映像認識の最前線』
セッション『近未来社会予測 ~AI、ロボット~』
セッション『メディアの先駆者が語る!これから生き残るコンテンツとは?』
HAROiDセッション『テレビ×ネットで生み出すTVCMの新しい価値』
セッション『日本3.0 日本の将来、何に投資すべきか?』

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。リクルートホールディングスを経て、独立。複数媒体でライティング、構成、企画、メディアプロデュースなど。夢は馬主になることです。

Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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