『BuzzFeed』『VICE』『¥マネーの虎』仕掛人が語る"生き残るコンテンツ"とは

2017.04.11 18:15

SENSORS IGNITION 2017 トークセッション「メディアの先駆者が語る!これから生き残るコンテンツとは?」。中村洋基氏(PARTY)がモデレーターを務めた本セッションには、古田大輔氏(BuzzFeed Japan)、佐藤ビンゴ氏(Vice Media Japan inc.)、栗原甚(日本テレビ)の三名が登壇。媒体やスタイルこそ異なれど、グローバルにコンテンツ展開をしてきた各社が「今後生き残るコンテンツ」を語り合った。

■ローンチから一年、『BuzzFeed Japan』躍進の裏にあった"バズの定義"

sadoshima-communitylab0.jpg
中村:
僕はこれまでTOKYO FMの「澤本・権八のすぐにおわりますから。」というラジオ番組に150回以上出演させてもらうなかで、様々なゲストに話をうかがってきました。面白いものを作っている人は、やはり普通の人の10倍くらい考え尽くして作っているんですね。本日お集まりいただいたコンテンツメーカーの方々にも根掘り葉掘り、自分がコンテンツを作る上で参考になるようなお話を聞いていければと思います。
sadoshima-communitylab0.jpg

モデレーターを務めた、中村洋基氏(PARTY Creative Director / Founder)

中村:
まずは『BuzzFeed』の古田さん。日本版は独自にどのような戦い方をしようと思ったのか。まずは『BuzzFeed Japan』の戦略の裏側をお聞かせいただけますか?
古田:
僕らは「バズる」という言葉をしっかり定義しています。単にPVが高いということを「バズる」とは呼びません。読んでもらった記事をシェアしてもらったり、コメントをつけてもらったり、「いいね!」を押してもらう。つまりエンゲージしてもらうことから広がっていくことを「バズる」と考えています。なぜ人が誰かとコンテンツをシェアしたくなるのかを科学していったことが、『BuzzFeed』がすごいスピードで伸びた理由の一つです。

では、日本ではどうなのか。実は人の心が動く根本の部分に違いはそれほどありません。僕らが大切にしているフォーマットが四つあります。①ナレッジ(人に知識を与えるもの)②エモーション(人の感情を動かすもの)③アイデンティティ(「自分はこういう人です」と人に紹介したくなるもの)④アスピレーション(「これやってみたい!」と思ってもらえるもの)。それでも当然、何によって動かされるのかは国ごとに微妙に異なります。そこをチューニングしていく。2016年のローンチ当初は、あらゆるタイプのコンテンツを出して、それぞれの反応を見ていきました。
中村:
『BuzzFeed』ではエンタメコンテンツのみならず、シリアスでジャーナリスティックなニュースも扱われています。その意図や狙いもお教えいただけますか?
sadoshima-communitylab0.jpg

古田大輔氏(BuzzFeed Japan創刊編集長)


古田:
常に僕らが心がけているのは、今までのメディアに出てこなかったニュースをやろうということです。僕の前職である朝日新聞には、編集部に約2,000名いました。『BuzzFeed Japan』には現在34名(2017年3月現在)働いていますが、単純に規模で考えても、戦い方や戦う場所を考えなければ意味がありません。僕らがやっていることの一つに「デマの検証」があります。
中村:
『WELQ』をはじめとするキュレーションメディア問題も、『BuzzFeed』は早くから微に入り細に入り取材して、記事を作っていましたよね。この例も個人の編集者が検証したというより、編集部の動き方としての事例なんですか?
古田:
『WELQ』の話がネットにちらほら出始めたとき、「これは大きな話だ」と思い、ちゃんと取材することに決めました。メイン担当の記者がコツコツ調べていき、取材を進めていったんです。その中でどうやらDeNAが記事作成のマニュアルを作り、それを元にクラウドソーシングで大量に安価な記事を作成していたという全貌が見えてきました。そこが一つの大きなポイントだったのではないかと思います。「組織的な関与があったことが判明した」ということを暴くことができた。ここに至るまでにはかなり丁寧で深い取材が必要で、僕も社内では報道経験がある人間を集め、相互にチェックしながら進めていく体制を築けたのが大きかったのではないかと思います。

■NYのスパイク・ジョーンズ宅を訪問...そこから『VICE Japan』は立ち上がった

中村:
では続いて『VICE Japan』の佐藤ビンゴさんに話を伺います。イスラム国や麻薬カルテルのドキュメンタリーをいくつか観させていただいたのですが、日本人ではなかなか考えられない取材力に驚きました。そもそもビンゴさんは「Vice Media Japan inc.」のCEOになる前は、自身がバンドマンだったり、レーベルもやられていたんですよね?
佐藤:
レーベル兼プロモーターですね。
中村:
それがどうしていきなり『VICE Media Japan』の立ち上げに至ったんですか?
sadoshima-communitylab0.jpg

佐藤ビンゴ氏(Vice Media Japan inc. CEO, Genral Manager)


佐藤:
「世界で認められたい」と思いながらバンドをやっていたのですが、どうしても白人に負けている感覚が昔からあって悔しいと思っていました。事業としてはライブツアーのブッキングをしたりして、世界ツアーを組んだりしていたんです。途中からプロモーターも始めて、海外のミュージシャンを日本に連れてくるといったこともしていましたね。ただ、どうしても音楽業界が経済的に苦しいということは感じていました。そこでCD以外にも、DVDのような映像をライセンスして出してみることにしたんです。

スパイク・ジョーンズの『アイム・ヒア(I'm Here)』というかなりマニアックなショートムービーをライセンスしました。すると、スパイク・ジョーンズから「わざわざこんなものに金払ってライセンスするの?面白いからニューヨークに遊びに来なよ」と声をかけられて、NYの彼の家に遊びに行ったんです。

そこで「音楽は儲からないんだよね」といった話をしていたら、彼が「『VICE』やばいよ」という話をしてくれて。それまでは僕自身、『VICE』に対して「汚い、怖い、えげつない」といった印象しか持っていませんでした。彼の話を通じて知った『VICE』には、「感動できるものがあるかも?」と思えたんですね。そこで日本では一度畳んでいた『VICE Japan』を2012年に再び立ち上げることになりました。
中村:
スパイク・ジョーンズの家に行ったことが一つのターニングポイントだったんですね。
佐藤:
『VICE』のスタッフがシリアのアレッポに行って、イスラム国(IS)と政府の抗争を取材している動画があるのですが、観ていただければお分りいただけますが、取材対象者とも比較的身近な距離で取材をするのが『VICE』のスタイルと言えるかもしれません。イスラム系だけど、「ニコール・キッドマンが好きだぜ」といったシーンが多々あります。それが『VICE』の特徴の一つかもしれないですね。
中村:
でもたとえば僕が「Hello, I'm Hiroki」とかって言ったら、即撃ち殺される可能性があるわけじゃないですか。でもボスと談笑できる関係性になっているっていうのはどういうことなんですか?
佐藤:
何回もアプローチしたり、話すことが大事で、とにかくその場に行って話すというスタイルです。こうした映像のみならず、テキストや写真のウェブ記事も配信しています。
中村:
映像にしてもテキストにしても長くて濃い。『BuzzFeed』の「いかにシェアされるか?」とは違う動機に突き動かされているようにみえます。どんな想いをもって取材されているんですか?
佐藤:
「興味あるものに取材しようぜ!」という感じなんです。一旦リスクの有無は置いておいて、多少口にしにくいところでも、興味を持って踏み込んでいく。『VICE』を日本語に訳すと「悪徳」といった意味になるのですが、メディア事業の一方でクリエイティブエージェンシーのようなこともやっています。その事業の名前は『VIRTUE』で、「美徳」という意味になるんです。悪徳と美徳を併せ持つ感覚はあるのかもしれませんね。

■世界31カ国で放送される『¥マネーの虎』ーフォーマット・ビジネスで大事な各国へのケア

中村:
続いては、日本テレビの演出・プロデューサーの栗原甚さんです。
栗原:
僕はこれまで20年間バラエティ番組を作ってきまして、最近は4年ほどドラマを作っています。『天才バカボン』の実写ドラマは、企画からオンエアまでに1年9ヶ月くらい掛けました。今回この場でお話させていただくのは、『¥マネーの虎』という番組の話です。日本では2001年から2004年まで放送した、一般人の起業家が事業計画をプレゼンし、投資家にが出資を求めるというリアリティ番組です。
中村:
実は『¥マネーの虎』のフォーマットが、栗原さんによって世界中に送り出されているんですよね?
sadoshima-communitylab0.jpg

栗原甚氏(日本テレビ 演出・プロデューサー)


栗原:
現在、世界31ヵ国(2017年3月現在)で展開しています。番組販売を含めると184ヵ国以上で放送しています。世界各国で誰でも番組を作れるように、僕が番組のフォーマットを「バイブル」と呼ばれるものにまとめました。そして実際に番組を作る際には、僕が現地で演出・監修指導をします。アメリカ版では金曜の夜8時、かつての日本と全く同じゴールデンタイムで放送していますし、アシュトン・カッチャーのようなハリウッドセレブも出演しています。カナダでは10年、イギリスでも12年以上放送しています。日本版では無機質な会議室で収録してていたのですが、海外では、ゴージャスなセットを組んで収録したり、各国の文化や国民性に合わせたローカライズ演出をしています。
中村:
日本版ではケバブ屋さんを始めたいトルコ人のような小規模なビジネスが多くありましたが、海外ではもう少し大きいアントレプレナー気質の方が多いのでしょうか?
栗原:
そこは色々ですね。「この商品を売りたいんだ」と持ってくる人もいれば、もっと大きなビジネスだったり。一つイギリスの事例を紹介させてください。イギリスではよく雨が降りますよね。イギリス版のシーズン1で、駅にビニール傘の自販機を設置したいというビジネスがプレゼンされ、マネー成立しました。そして今ではイギリスの街中に常設されています。他にもチェコ版に出演していた社長が大統領選に出馬しました。このように世の中に実際にインパクトを与えているのが、この番組の素晴らしい所だと思います。今では僕一人ですべての国に行くのは大変なので、配給元のソニー・ピクチャーズに僕の分身のようなフライング・プロデューサーが10名ほどいて、彼らが僕の指示で、番組の立ち上げを行っています。
中村:
フォーマット・ビジネスを全然知らない方からすると、「BBCが買った!じゃあウン千万円入ったね!」という感じで売ってしまえば終わりと思われる方もいると思うのですが、そういう事ではないんですね。
栗原:
実際はアフターケア、電化製品でいうアフターサービスが充実していないと番組は長続きしません。今でも31ヵ国から「こんな悩みがあるんだけど、どうすれば良い?」という質問に随時答えて、テコ入れをしています。そうする事によって、日本テレビにも継続的にライセンス料が入ってくる。これが、僕が考える「真のフォーマットビジネス」です。
sadoshima-communitylab0.jpg

栗原:
実は最近、面白い試みをしました。昨年秋に世界中で『¥マネーの虎』を作っているプロデューサーをロンドンに集めて「サミット」のような会議をやりました。イギリスBBCでは『Dragons' Den』、アメリカABCでは『Shark Tank』という番組名になっていますが、各国のプロデューサーが一堂に会し、視聴率情報や物販展開などの近況報告、各国が直面している問題点を報告し合いました。「この新しい試みをしたことによって、このあと10年は人気番組であり続けるのではないか」といった実感を持つことができました。また、昨年は新たに中国、メキシコ、ケニア、ブラジルの4ヵ国で番組が始まり、今年も新たに数ヵ国増える予定です。

■三者が考える「これから生き残っていくコンテンツ」

中村:
最後に「こういうものを作っていきたい」「こういうものが生き残っていくのではないか」と思っているコンテンツの方向性をお教えいただけますか?
sadoshima-communitylab0.jpg

古田:
僕らは短尺の1分程度の料理動画も見せるし、1〜2万字を超えるような骨太のルポタージュを載せることもあります。それぞれのコンテンツを受け取るオーディエンスはどんな人で、どう使いたいと思い、友達とシェアしたいと思うか。そういったことを考えながら作っていく。人類は未来永劫コンテンツから知識やインスピレーションを得たい」と持ち続けるので、そこに資するコンテンツを作っていきたいです。
佐藤:
個人的なことを含めていえば、「パンチ・笑い・公益性、あとは、ウォーリアー」。こうした言葉になるかと思います。
栗原:
「オリジナル」じゃないですか。新聞のラテ欄を見ると、各局とも似通った番組が多いですよね。でも日テレは似たような番組は存在しません。社内でも類似番組の企画書はそれだけで跳ねられます。クリエイターがポリシーを持ってオリジナル番組を作り続ければ、生き残っていけるのではないでしょうか。
20170323_084.jpg

セッション終了後、TOKYOの「O」で集合写真



クリエイティブディレクターである中村洋基氏が、コンテンツメーカーである三者にコンテンツ作りにあたってのこだわりや思想を深く堀った本セッション。最後に各者が述べたキーワードからも、コンテンツ制作において問われるのは表面上の流行やギミックではなく、「見たい、聞きたい」の根源にある人間の欲求なのではないかというメッセージを感じ取ることができた。

【SENSORS IGNITION 2017 レポート】
キーノート『グローバルに通用するクリエイティブとは?』
セッション『VRクリエイティブ最前線』
NECスポンサーセッション『AI×映像認識の最前線』
セッション『近未来社会予測 ~AI、ロボット~』
セッション『メディアの先駆者が語る!これから生き残るコンテンツとは?』
HAROiDセッション『テレビ×ネットで生み出すTVCMの新しい価値』
セッション『日本3.0 日本の将来、何に投資すべきか?』

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。リクルートホールディングスを経て、独立。複数媒体でライティング、構成、企画、メディアプロデュースなど。夢は馬主になることです。

Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

最新記事