不変への憧れが日本を停滞させている - 神山健治×落合陽一 映画『ひるね姫』と未来予測

2017.03.28 16:15

3月23日に虎ノ門ヒルズフォーラムで行われた SENSORS IGNITION 2017のトークセッション『近未来社会予測 ~AI、ロボット~』では、「現代の魔法使い」と呼ばれる落合陽一氏、自動運転も題材となっている『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』が大ヒット上映中のアニメ界の魔法使いとも言える神山健治監督が登壇。モデレーターはSENSORS.jp編集長の西村真里子が務めた。

IGNITION-HIRUNE01.jpg

神山健治監督(左)と落合陽一氏(右)

■『ひるね姫』は観る人によって見た目が違う

トークセッションを行うのは初めてという神山監督と落合氏。「ニューヨーク国際子ども映画祭」から帰国したばかりの神山監督と、ちょうど当日にフランスで行われていた欧州最大のVRイベント「LAVAL VIRTUAL 2017」にてVRによる車椅子の自動運転「Telewheelchair」でTRANSPORT & MOBILITY部門を受賞した落合陽一氏。攻殻機動隊S.A.C.の最初の放送時に丁度中学生で、以来、神山監督のファンだという落合氏はすでに2回『ひるね姫』を鑑賞したという。セッションはそんな落合氏による自動運転の話題から始まった。

落合:
僕はずっと車メーカーと共同研究をやってきたので、『ひるね姫』を見てあまりにリアルだと思ったんです。取締役会の様子や、社員さん、工場の様子とか出てくるんですけど、「コレ行ったことあるよな」「オレ、ここでプレゼンして同じこと言われたことある!」とか、そういうような世界観がありました。今の日本の中で自動運転は重要なキーで、技術的な現実感もまさしくあの印象でした。
神山:
いま社会で起きている一番大きな問題と切り結んだ作品を作るというのが僕のドラマツルギーとしての基本的なスタイルですが、今回、その大問題として日本の産業、特に日本の最大の成功体験である自動車とオリンピックを絡めてみたんです。『ひるね姫』は三世代の話で、自動車とオリンピックを成功体験として人生を送ってきた世代と、その成功体験を追体験しつつ行き詰まりを感じて打破しようとしている世代、そういう事と一切関わりが無いさらに若い世代というのを描いている作品で、それで何が見えてくるのか?という、自分自身で結論を模索した作品でもあるんです。
IGNITION-HIRUNE02.jpg

モデレーター SENSORS.jp 編集長 西村真里子(左), 神山監督(中)、落合氏(右)

落合:
そうなんです。子どもが見たときとオジちゃんが見たとき、『ひるね姫』は観る人によって見た目が違って超面白いです。
西村:
世代ごとにテクノロジーとか、何が起こるかというコトに対する切り取り方が違うのは、狙ってのことなのでしょうか?
神山:
いままでは僕の世代的な目線を中軸に置いて作品を作ってきたんですけど、いま生きている個人、若い、社会にあまりコミットしていないぐらいの若い世代から物語をスタートさせて、最終的にそれがいまの社会と切り結んだときに、どういう化学反応が起きるのだろうか?という今までとは逆のアプローチをしています。

本来、映画って1つのテーマしか入れられないところを、『ひるね姫』は2.5ぐらい入れるというチャレンジもしている。なかでも、「テクノロジー」と「世代の対立」というのが大きな2つですよね。

■ 現在求められている物語とは?

西村:
お二人は現在の2017年をどのように捉えているのでしょうか?また、現在求められる物語はどういうものなのかお聞かせください。
神山:
今回は3.11(2011年の東日本大震災)の影響が強く自分の中でもあって、あれを機会に本当に天地がひっくり返るというか、右と左が入れ替わっちゃうくらい価値観が変わったと思っています。『ひるね姫』を作った時によく言っていたのが、「何も起きない日常というのが、むしろ最も得難いファンタジーになってしまった」と、それまでの日本というのは閉塞していると言いつつも、結構幸せだった訳ですよね。その永遠に続く日常が幸せではないと感じるくらいの状況から、一気に何も起きなかったことの方が「得難いファンタジー」になってしまった時に、どういう作品を作るべきか?というところからスタートしたんです。

いま現実に起きていることに目をつぶっていれば、まだまだハッピーなんですよ。なので、まだ社会とコミットしていない主人公を描いていくことで、何か見えてくるだろうと考えました。
落合:
3.11と比べて、僕にとっては、この前のトランプ大統領が誕生した事やイギリスがEU離脱を決めた時の方が、現実に対する感覚がグッと来て、「現実が一番フィクションみたいに見える」という感じだったんですけど、多分、3.11の時に社会人だった人はこう思ったんだろうなと僕は感じたんです。僕は3.11のときに大学生だったから、社会変化にはまだ鋭敏じゃなかった。でも今回のポピュリズムの決断はまさしく3.11的なインパクトがあって、現代としては6年遅れていたんですけど、僕らの世代にとってはかなりリアルに今やってきたものなのかもしれないです。逆に言うとこの会場にいるまだ学生の人にはわからないかもしれないですけれど。
IGNITION-HIRUNE-KAMIYAMA.jpg

神山健治監督

■ 不変への憧れが進化を妨げているのではないか?

次の「AI、ロボットはどのように生活に浸透するのか?」という話題の前にモデレーターの西村から最近発表されたBoston Dynamicsのロボットの最新映像が紹介され、それを落合氏が解説した。

ロボットは、3Dプリンティングによって造形された骨格に油圧の駆動系を組み込んだものとなっていて、そうすることで総部品を物凄く少なくすることを実現している。新たなテクノロジーでそうした設計が可能となる自由さが生まれたことを背景に、ロボットの設計はよりソフトウェア設計の部分が重要となっており、最新のロボットはハードウェアでありながらほぼソフトウェアによる設計法が命であることが強調された。

西村:
これを見ていた時に、『ひるね姫』にもこういう感じのハーツというロボットが登場して、フィクションとノンフィクションがどんどん溶け合っているなと感じたのですが、未来予想をしている魔法使いのお二人は、現在やこれからAI、ロボットが生活に浸透していく中で、人間として不変なものをどのように定義されていますか?
神山:
攻殻機動隊S.A.C.を作っていた時は、僕はまだ不変っていうのが大事なものだと思っていたんです。個性というのが最終的に残っていく必要性みたいなものを描いてきたんです。それで15年ぐらい経って、『ひるね姫』を作っていた時に思ったのが、不変という部分が進化を凄く妨げているのではないかと思っているんです。
落合:
同意見ですね。不変への憧れがむしろヤバイ。
西村:
なるほど。変わった方が良いんですね。
IGNITION-HIRUNE03.jpg
落合:
「何者かになるべき欲求や圧力」っていうのが、却って「何者にもなれない世界」を作り出していると思うんです。
神山:
そこが日本を停滞させているんじゃないのかな?というのが、『ひるね姫』のテーマの一つでもあります。スマートフォンとかが凄く伸びたのって皆が欲しいと思って受け入れたというのもあるだけど、やっぱり「こんなもの本当に持っていて良いんだろうか?」というブレーキになっていた部分というのもあると思うんです。

まだどういう形になるのかちょっと想像できないんだけれども、AIが商品化される時に、AIを受け入れていける人と、受け入れることができない人が出てくる時が、AIが伸びるかどうかの瀬戸際かなと思っています。AIを欲しいと思ってそれを使いたいと思っていく、でもそこには絶対弊害が出ると思うんです。でも、それを良しとするのがこれからの未来に重要だと僕は今思い始めています。

かつて環境破壊や温暖化が凄く言われたけれど、人間はそれを止められないということが判った訳です。ダメだと言っているんだけど、もう戻らないんです。だとしたら進んだ上で、どう解決するか?を考えていかない限りはもう進歩がないんじゃないかというのが昨今の僕の考えなんです。
落合:
僕も「1600年以降に培われた人間性のことは忘れてください」ってよく言っているんです。要は機械化の裏返しで、我々は人間性を育んできている。例えば、神山監督の撮られた攻殻機動隊はその話なんだと思っています。人間にはゴーストが存在するのか? 機械と人間は異なるのか。それはつまり我々は「個」である必要はあるのかという議論なんですけど、我々は、もはや知能という面では人と機械を分けるものがなくなって来ていて、さらに言えば、インターネットの中で我々は「個」である必要も無くなってしまって、この社会というのは自ら知能や個性というのを失っても良いという人たちも増えている。Twitterを見てもBOTみたいな人間いっぱい居ますから。

そういう社会において日本人っていうのは、1600年以降、近代ありきの人間性を本当に振りかざしがちです。我々の社会にここ150年でインストールされた近代のパラダイムです。「あなたらしく生きなさい」とか、「オリジナリティ」を探す、憧れるみたいなものを一度パッと捨てて、出来ることからやろうとしないと多分ダメだと思うんです。手の届くところからやってやり続けた結果、「何か違うものが建った」という話の作り方でないと、成立し得ないんです。
IGNITION-HIRUNE-OCHIAI.jpg

落合陽一氏

西村:
実際の行動に置き換えてみると、自分が動けるところで動いていくとか、興味持ったところに行くとか、そういう感じで捉えて大丈夫でしょうか?
神山:
そうですね。だから『ひるね姫』の主人公のココネは、問題意識というのを全く持っていないんだけれども、眼の前で起きた事象に対しては能動的に解決していくキャラクターにしてみたんです。今の若い人たちにとっては、もう問題が大きすぎるので今から全容を把握してからスタートするのでは間に合わないんです。であれば、目の前に起きた問題それだけにアプローチしていけば良い。
落合:
それをひしひしと感じたんですよね。スティーブ・ジョブズの話ではないんですよ。スティーブ・ジョブズは自分が「何者か」であるというのを信じ続けた結果、「何者か」で在った人なんですけれど、ココネちゃんはそうじゃない。手につく範囲にあるものを若さと根性でががっとやっていったら、いつの間にかにあらゆるピースがハマっていって、なんか母の後を継げる人間になっていたみたいな感じです。

そこに有るものからやっていこうというのを、若者だけではなくて、それを産業レベルでやっていかないといけない。ソフトウェアってそういうものなんです。
西村:
一人のカリスマを目指すというよりも、みんなで積み上げていくみたいな感じに。
落合:
それで積み上がった人をカリスマと呼べば良いんです。
西村:
それは実際は人でなくても、積み上がったソフトウェアでも何でも良い。
IGNITION-HIRUNE04.jpg
落合:
例えばオリジナリティという意味では、赤色・緑色ダイオードってノーベル賞取らなかったじゃないですか? 普通に出来たんですよ。青色が一番難しかったんです。一番難しかった最後のピースを埋めたやつが、評価されるべきなんですよ。赤・緑が揃っていた世界で、青がなかなか出来なくて、やっと作ったみたいな。これはビジネスでは当たり前のことですが、科学ではこの類のオリジナリティが評価されづらい。しかしながら我々は今、オリジナリティということに関して、そういうようなことがもっと評価されてしかるべきだし、科学技術への失速が危惧されている日本に対するメッセージだと我々日本人全体が受け取るべきだったんです。市場に出るところをもっと力入れて解決していかないといけない。

でも、日本人が貰ってしまったが為に、俺たちは自省できなかったんですよ。青色に何の意味があったのか?しっかり考えることができなかったんですよ。なんか全然違うんですよ。僕らが見ているTVでは天野教授のウェストポーチの話をずっとしていたんですよ。

■ 落合陽一が神山監督と映画を作るとしたら?

西村:
最後に、落合さんは神山監督と映画を作るとしたらどういうものを作りたいですか?
落合:
人間って本当に死ぬのかな?とか興味があって、意識って連続するのか? 不連続なのか? そういう話とか、逆に完全に無個性なんだけど幸せな物語が機能的な物語として生じ得るのか?というところは結構興味があるんです。つまり『ひるね姫』って凄くブレイクダウンされた話だと思っていて、あれよりさらにブレイクダウンされたら、どういうような物語が描けるのか? テクノロジーをお見せしながら話をしたいですね。
西村:
是非、つくばに行って話が盛り上がると。
神山:
是非、研究室に行かせてください。
落合:
ハイ、よろしくお願いします。
IGNITION-HIRUNE05.jpg

神山監督の作品を知り尽くした落合氏による『ひるね姫』への考察。それに呼応して、監督が次々と明かしてくれた物語の構造や背景には、鋭い現代社会への洞察があり、『ひるね姫』の見方に留まらず、我々の社会や日常の見方をも一変させてしまうのではないかと思うほどである。SENSORS IGNITIONで出会った2人が今後、何を生み出すのか?注目である。

なお、落合陽一氏はリニューアル版『SENSORS』(2017年4月〜)にも出演。新たな"IGNITION(着火)"しそうなプロジェクトについても掘下げてもらう予定である。

【SENSORS IGNITION 2017 レポート】
キーノート『グローバルに通用するクリエイティブとは?』
セッション『VRクリエイティブ最前線』
NECスポンサーセッション『AI×映像認識の最前線』
セッション『近未来社会予測 ~AI、ロボット~』
セッション『メディアの先駆者が語る!これから生き残るコンテンツとは?』
HAROiDセッション『テレビ×ネットで生み出すTVCMの新しい価値』
セッション『日本3.0 日本の将来、何に投資すべきか?』

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp



写真:松平伊織

最新記事