"没入感から実在感へ" VRドラマ制作秘話 - ライゾマ齋藤精一×ソニーPS VR秋山賢成×日テレラボ土屋敏男

2017.03.30 09:00

日本テレビが制作しスマホアプリでの配信をスタートした世界初のパラレルVRドラマ「『ゴースト刑事』 日照(にってれ)荘殺人事件」。3月23日に行われたSENSORS IGNITION 2017のトークセッション『VRクリエイティブ最前線』では、その制作チームのライゾマティクス クリエイティブディレクター 齋藤精一氏、『進め!電波少年』のT部長としておなじみの日テレラボ シニアクリエイター 土屋敏男、そしてPlayStation®VR(PS VR)のゲームや映像コンテンツなどの開発を手がけているソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア次長兼製作技術責任者 秋山賢成氏が登壇。モデレーターはVR、AI、ロボットなどのテクノロジーを活用した日テレならではのクリエイティブ・ビジネス領域の研究や生活者マーケティングを担当する日テレラボ主任の加藤友規が務めた。

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ライゾマティクス 齋藤精一氏(左)、日テレラボ 土屋敏男(中)、ソニーPS VR 秋山賢成氏(右)

■ VRドラマ『ゴースト刑事』

加藤:
最初に土屋さんの方から何故VRドラマに挑戦したのか?という理由をお聞かせいただければと思います。
土屋:
僕が『電波少年』で猿岩石のヒッチハイクをやったのは当時ソニーのHi8というカメラがパスポートサイズで出たというのが凄く大きいんです。このカメラを使ってディレクターが猿岩石の2人と一緒に旅をするという新しい企画がテクノロジーによって生まれたといえます。

基本的に新しい企画というのは新しい演出によって生まれ、その新しい演出というのは、新しいテクノロジーによって生まれることが多いと思っています。そのテクノロジーというのが今はVRだったり、これからはAIもあると思います。人の心を動かすというエンターテインメントを作ってきた人間としては、その新しいテクノロジーによる新しい演出的なアイデアを足すことで、新しいコンテンツとなると考えています。

今回はただVRをそのまま使うのではなく空間をVRで移動しながらいくつものドラマが同時に進んでいくマルチストーリーのパラレルドラマを考えたわけです。それが出来るか?出来ないか?その時はまだ何の知識もなくて、それで齋藤さんに会って、こういう表現はできるんですか?と確認するところから始まりました。
加藤:
土屋さんが考えられた『ゴースト刑事』はパラレルなストーリーになっています。古いアパートの一室で起こった密室殺人事件をゴースト刑事という立場になって、そこの住人の中から犯人を見付け出すというものになっています。
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SENSORS パープル 笹崎里菜(左)、モデレーター 日テレラボ主任 加藤友規(右)

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体験者であるゴースト刑事に向かって話しかけてくる

ここでステージ上にSENSORSパープルの笹崎里菜が登壇し、VRドラマ『ゴースト刑事』がどういうものなのか?彼女自身が体験した内容をスクリーンに映し出してレポートした。『ゴースト刑事』では視点を画面の中心に持っていくことで移動できるので、自分が見たい方向を見ることができる。視聴者が行きたい方向に行けるというのは今までになかったドラマの形だ。

加藤:
齋藤さん、実際に制作してみていかがでしたか?
齋藤:
一番最初にどんなカメラを使うのか?というところで、アパートの住民に囲まれたシーンでカメラから何メートル役者さんから離れたら"囲まれている感"が出せるのか?とか、カメラとその撮れるものの検証から始まりました。面白かったのが、今後にも活かせるように日テレさんの制作の関連会社の皆さんと一緒にノウハウを出来るだけ貯めたことですね。上からカメラを釣るとか、消さなきゃいけない部分とか、4台のカメラの画像を1枚に繋ぎ合わせるのでその繋ぎ目のスティッチとか......
土屋:
今までスティッチって言葉を60年間使ったことがなかったけども、この3ヶ月ぐらいで一生分使ったね(笑)。
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製作過程の様子、スクリーン左下の白い曲線がスティッチ。

■ VRでは体験者の役割を定義する必要がある

加藤:
この撮影段階で事前に秋山さんにもアドバイスをいただきながらやっていました。『ゴースト刑事』に携わられた感想などお聞かせいただけますか?
秋山:
僕の方から皆さんに色んなお話をしたんですが、それは非常に上手く活かされていると思っています。例えば扉をじーっと見たらそこに移動するとか、ユーザーさんが実際にやりたいことがちゃんと誘導されて出来るように上手く設計されていると感じました。
加藤:
VRクリエイティブにおいて気をつけるべきところはなんでしょうか?
秋山:
日テレさんには没入感を超える実在感を是非目指していただきたいとお話ししました。あらゆるVRコンテンツに不可欠な要素を我々はSense of Presenceと呼んでいて、自覚することなくその世界の中に自分が居る感覚をいかに出すかが非常に重要だと思っています。しかも、それは簡単に壊れてしまう。慎重に丁寧に作っていかないといけないのです。
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ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア次長兼製作技術責任者 秋山賢成氏

秋山:
VRドラマのストーリーの中の一人であるという実在感を高めるためには、VRの中で自分は何なのだろう?と体験者が自覚をしないと、「自分って、今何やっているんだっけ?」となって取り残されてしまう。なので体験者がその世界で何なのか?を定義したほうが体感は上がります。加えて、そのVR世界にいる対象、例えば誰か人が居たら自分に話しかけてくるとか、自分の行動に対して何かインタラクションがあるように見せかける演出を入れるとか、そういったものを会話や目線でシナリオに組み込むと非常に良いです。

一番重要で気を付けなければいけないのは、視聴者側が置いてきぼりされないことです。今回はチュートリアルから丁寧に作られているので、置いてきぼりにされることもなく、非常に上手く作られているのではないかと思いました。
加藤:
ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいですね。
土屋:
僕らがこれまで作ってきたドラマ・映画は基本的に神の視点なんです。例えば2人が揉めていて他に誰も居ないという場面が見えていたら、じゃあその時見ている私はなんなの?という時、それが神様の視点なんです。

VRはそうではなくて、見ている人間は好きなところを見ることになるので、「私は誰?」というのを脳の中で理解していかないと、色んな意味で酔ってしまうという話をしていただきました。それで台本がゴースト刑事という体になっていく経緯があったんです。
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日テレラボ シニアクリエイター 土屋敏男

加藤:
そこは結構葛藤がありましたよね。
土屋:
今まで作ったことがないし、当たり前にドラマを神の視点で作っていたんです。そこを変えるというのは結構クリエイティブのジャンプがありました。

■ 脚本・鴻上尚史氏のコメント

加藤:
そこを変えるにあたっては脚本を担当された鴻上尚史さんとも相談しながらだったんですけども。

ここで脚本の鴻上尚史氏のコメントが映像で紹介された。

鴻上:
外から揉めている声が聞こえて来ないと、そちらに行くという気持ちにならない。今居る部屋で起こっているドラマのクオリティはキープしながら、他にも興味が湧きつつその場所も面白い、という塩梅をちゃんとしないといけないのが難しかった。一つの場所のクオリティが高すぎると、他の場所に行ってくれなくなってしまうんです。

作家としてはこのルートは面白いんだけど、こっちもやっぱ面白いんだというのを責任持って何本も書くのがVRでやる作家の仕事という気がします。まず一回この世界を自由に楽しんだもらった後は、各部屋・各廊下にどんなドラマがあるのかというのを順番に見てもらうと、脳内でフッと繋がって、「あっ、こうなってるのか!」という瞬間が楽しいと思いますね。
加藤:
鴻上さんには何度書き直して頂きましたっけ?
土屋:
6回ぐらい書き直ししましたね。一番最初は「神の視点」で台本を書いていましたし、見ている人間がゴースト刑事という設定や、あとは犯人が誰か?のトリックとか色んなところで書き直していただきました。
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ライゾマティクス クリエイティブディレクター 齋藤精一氏

■ VRゲーム『Rez Infinite』製作の裏側

加藤:
VRクリエイティブの可能性についてトークをしたいと思いますが、先週のSXSWで面白かったのがここにいらっしゃるソニーさん、ライゾマさんと水口哲也さんによるPS VRのビデオゲーム作品『Rez Infinite』(Rez)の展示で、体感とそれを共有するというコンセプトで作られていました。齋藤さんからご説明頂けますか?
齋藤:
簡単に言うとVRは視覚の表現で、あとは360°の音による聴覚の表現ですけれども、Rezで水口さんと慶応KMD(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)さんと一緒にやったのは、プラスアルファでもっと体の刺激というのを一緒に同調して体験させることができないか?というところでした。

Rezはシューティングゲームであり音楽を作っていくゲームでもあるので、撃たれて着弾するという部分もあったり、それを身体で体験してもらう為に、1番最初のテストでは振動子を身体の色んな所に着けたスーツをプレイヤーが着て、その振動は見えないのでLEDを着けて、それで何処に今どういう振動があるのかというのが判るようにしました。VRは体験者が感じたことをなかなか他の人と共有出来ないので、MEDIA AMBITION TOKYO 2016の時に、水口さんのスーツと観客が座っている椅子を同調させて振動しながらLEDが光るという、一体的に会場で一緒に体験できるということをやりました。

今年はSXSWには行っていないのですが、色んな人の噂とか記事を見ていると、VR業界では技術よりもコンテンツの話になっていて、何をどういうストーリーでどういう目的で作っていくか? それに対してどういう表現をしていくか?が一番大事になり始めています。ようやくコンテンツフォーカスになって、どういうふうにクリエイターの人たちが何を作るのか?というステージに変わってきたと思います。
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『Rez Infinite』のスーツ製作の様子

■ VRの最高コンテンツを作ろうとチャレンジをしている

加藤:
最後に、秋山さんからも注目されていることとしてVR空間とプロジェクションマッピングのお話をしていただければと思います。
秋山:
今、カヤックの天野清之さんにクリエイティブディレクターになっていただいて、VRの新しいコンテンツとして、空間を活かした映像とVRとCGと全てを利用したPS VRの最高のコンテンツを作ろうとチャレンジをしているところです。詳細は別途発表させていただきますが、ご期待ください。
加藤:
みなさま、ありがとうございました!
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昨年のVR元年からはじまり、VR業界はコンテンツ指向に大きく動き始めているという。今年は『ゴースト刑事』やそれに続くVRによる新たなストーリーが多く生み出され、それがどんなものになるのか?想像を超える体験に出会えることが楽しみである。

齋藤精一氏はリニューアル版『SENSORS』(2017年4月〜)にも出演、業界のトップランナーとの徹底討論などが行われる。今後も齋藤氏とVR業界とのコラボレーションに注目である。


※VRドラマ「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」はiOS / Androidに対応。ダウンロードして楽しもう。
詳細はゴースト刑事のwebサイト(こちら)をクリック。

【注意】VRドラマ「『ゴースト刑事』 日照荘殺人事件」視聴時の注意
・13歳未満の方は2眼タイプのVRゴーグル等を利用した「2眼で見る」モードでのご利用をお控えください。
・健康のため、長時間のご利用は控え、定期的に休憩を取ってください。
・対応機種等はゴースト刑事のwebサイト(こちら)でご確認ください。

【SENSORS IGNITION 2017 レポート】
キーノート『グローバルに通用するクリエイティブとは?』
セッション『VRクリエイティブ最前線』
NECスポンサーセッション『AI×映像認識の最前線』
セッション『近未来社会予測 ~AI、ロボット~』
セッション『メディアの先駆者が語る!これから生き残るコンテンツとは?』
HAROiDセッション『テレビ×ネットで生み出すTVCMの新しい価値』
セッション『日本3.0 日本の将来、何に投資すべきか?』

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp



写真:松平伊織

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