"これからの音楽"を盛り上げるために出来ること〜小室哲哉/ユニバーサル ミュージック/AWA/ジェイ・コウガミ が語る音楽業界の未来(7/7)

2015.10.01 12:00

7回目の実施となるSENSORS SALONのテーマは「変貌を遂げる音楽業界2015」。2015年初夏、AWA・LINE MUSIC・Apple Musicと、定額制音楽配信サービスが続々と日本国内でもリリースされた。音楽を聴く環境が今後大きく変化していくと予想される中で、アーティスト(小室哲哉氏)、レーベル(ユニバーサル ミュージック)、サービス(AWA)、音楽ブロガー(ジェイ・コウガミ氏)といったそれぞれの立場から、これからの"音楽業界"についてじっくり語って頂いた。

OA未公開シーンを含め、YouTubeでも公開中

今回のSENSORS SALONは、ミュージシャン・音楽プロデューサー 小室哲哉氏、ユニバーサル ミュージック合同会社 営業統括本部 副社長直轄 イノベーション担当ゼネラルマネージャー 鈴木貴歩氏、AWA 株式会社 取締役/プロデューサー 小野哲太郎氏、音楽ブロガー ジェイ・コウガミ氏というメンバーでお送りする(モデレーターは日本テレビインターネット事業部「SENSORS」クリエイティブディレクターの海野大輔)。SENSORS.jpでは、このSENSORS SALONの模様をほぼノーカットで、全7回の記事としてお届けする。最終回となる7回目は、このメンバーがこれからの音楽業界で一緒にプロジェクトを仕掛けるなら、どんなことが出来る?というテーマを元に、今後の音楽業界の展望について語って頂いた。

■日本と海外、アーティストの立ち位置の違い

海野:
例えばこのメンバーでプロジェクトを一緒に仕掛けるとしたら、こんな事が出来るんじゃないかというブレストを最後に出来ればと思います。変わる音楽業界という前提があるなかで、2020年に向けてこんなことが出来るかも。そんなアイデアを頂けたら嬉しいです。
小室:
かたや「AWA」(小野さん)を始めて、かたや「THE BIG PARADE」(鈴木さん)のようなことを実際にしているので、その動きを基盤にしてというところですよね。僕らミュージシャンの場合は...さすがにDr. Dreみたいに上手く立ち振る舞えないというか、彼は音楽プロデューサーであってしかもビジネススキームがしっかり、Appleとディール上手くやるって相当なことだと思います。そこを両立する人って、海外ではジェイ・Z、Dr.Dreみたいに、すぐ名前が出てくる人っていっぱいいると思うんですよね。それはK-POP、韓国とかでもたくさんいますよね。
鈴木:
プロデューサーとか、マネジメントの社長とか。
小室:
日本の場合、両立感というのは難しいですよね。「オンステージなの?オフステージなの?」という、制作側に回ればいいのか、演者側に回ればいいのかみたいなところはあるかな。特に、ほとんどのアーティストの人が演者側に回りたいと思いますね。「ここに上がれるの!」とか、「何万人のところでやれるの!」といった喜びを感じてエネルギーが出て、すごく良いパフォーマンスが出来たりするのが基本的な日本のミュージシャンの形だと思います。アメリカのように多様でマイノリティーの人が多かったりすると「(ステージで演じるだけではなく)なんかやってやろう」っていう気持ちの迫力がね。 実は、アメリカにいた時にレコード会社からいろいろなオファー、すごいびっくりするようなオファーも頂いたこともあるんですよ。ただ向こうは、ヘイ、メーン、ワッツアップ!みたいな...毎日明るいので、この人たちとずっと一緒にいたら、僕にはとても精神的にも体力的にも難しいなって思って、丁重にお断りしたんですけど(笑)。そういう意味では、日本特有の落ち着き、ゆっくりした感じというか、静かにやるようなところもあるんですよね。IT業界もあるのかな?向こうも変わらないですか?
小野:
ITはどこも割と静かですね。GoogleさんもFacebookさんも。職人が良いものを作るっていう感じはありますね。確かに、特に日本は静かかもしれないですね。
小室:
レーベルの人はすごい。パワフルですよね。DJの人でも、ヨーロッパの人は静かな人もいますけど、(アメリカはパワフルな人が)多いかな。アクティビティーがゴージャスな気がします。(日本では)何を作るにしても、(アーティストが自らというよりレーベルや事業者の)皆さんのところに乗っかるのか、乗らないかという所になるかと思います。
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小野:
アーティストさんとの組み方が「楽曲をご提供頂いて、配信数に応じてお金を還します」というようなビジネスライクになりがちだと思うんですけど、本当だったらもっとリスナーに最適な方法で届ける方法を(アーティストさんと)一緒に配信業者としてもやりたいという思いはありますね。
小室:
(AWAには)松浦(勝人)くんが入っているのは大きいかな。アーティストと積極的にいつも近づこうとしてくれて、頻繁に集まったりとか、そういう場を作ろうとしてくれたりね。そういうことを積極的にしてくれる人なので。AWAにそういう人が入っているということは大きいんじゃないかなと思うので。
小野:
取引先としてではなく、あくまで一緒にこの業界を盛り上げていくというような(思いです)。レーベルさんやアーティストさん、配信業者、ユーザーもそうですけど、四者全員が得をして、幸せになれる形が作れないと、定額制音楽配信サービスはそんなに長くは持たないんじゃないかなと感じちゃいますね。四者のうち誰かが辛い思いをしてしまうと。
小室:
ミュージシャンはすごくその心配をしていると思います。
海野:
どういう人材がアーティストのそばにいたらいいのか、レーベルのそばにいたらいいのか。そういった、マッチングのための人材が必要とされる時代が到来するんでしょうか?
小室:
ジェイくんとか、自分でwebをやっていて、僕も読んでて「今度ここでフェスがあるんだ」と教えてもらえることはたくさんあるので、その道のプロのような人たちがもっと表面化してほしいですよね。
小野:
すごく分かります。どうしても、自分たちだけで話しているとどうしても配信業者の立場に偏りがちですし、(そういった偏りは)アーティストさんもレーベルさんもあるのかもしれないですし。ジェイさんの記事とかを見ると「そうだ、もっと俯瞰的に見ないと、結局誰かにシワよせがいくモデルになっちゃってるんじゃないか」というチェックが出来るということが、すごくありますね。定額制音楽配信サービスを否定ではなく前向きに見た上で、どういうやり方が一番いいかを参考にさせて頂くことがあります。
小室:
そういう人たちが道先案内人のようなことをしてくれると、すごく嬉しいですよね。ジェイくんも、そこでコンペティティブになれるような人がでてきたらそれはそれで面白いと思うでしょ。(他の人が)「あれ、どこからこの情報を入手したんだろう」みたいな(笑)。 またレーベルの方、特に外資のユニバーサルさん、ワーナーさんとかは全世界のアーティストの情報が手に入る訳だから、いいものはいいということで、それをメディアがうまく取り上げてくれるとね。
鈴木:
そういう意味では、なるべく良いものは積極的に発信していくこともすごく大事かなと思います。業界全体が上がっていくことが、最終的には自分たちの利益にもなってくるので。
小室:
次から次っていう風になってほしいですよね。テイラー・スウィフトなら「テイラー・スウィフトだけ」のような感じになってしまうので、ちゃんとレディー・ガガもいての、と続いててほしいですね。どんどん変わっていって、どんどん新しい人が出てくるのも嬉しいんですけど「この人がいて、この人がいて」という(広がりがある)感じにならないと音楽の活性化という意味ではなかなか難しいし、僕も90年代のプロデュースの仕方でも、そこをすごく考えていたんですよ。
小野:
同時多発感がすごかったですもんね。
小室:
とにかく頑張って広げたかったので。「あの曲もいいけど、この曲もいい」という感じに思ってもらえると嬉しいですよね。 そういう(広がりという)意味では、定額制音楽配信サービスについても、3つ同時に立ちあがったのはすごくいいことですよね。盛り上がり感が見えるので、僕らからしたらすごく良いことかなって。さらには後発隊も待っているわけじゃないじゃないですか。
小野:
GoogleさんもFacebookさんも始めるかもしれない(収録時。Google Play Musicがその後登場)。世界の巨人ばかりですけど(笑)。
小室:
客観的なユーザーからしたら、それが面白いので。
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■フォーマットが変わる度に、新しい形のアーティストがブレイクしてきた歴史

鈴木:
僕らとしては新しい形のメディアが出てくると、新しい形のアーティストがブレイクするという繰り返しで。LPが出てきた時に、Pink Floydが片面1曲のアルバムを出して何千万枚も売れただとか、着うたの時にはGReeeeNみたいな、顔は出さないけれども曲は知られている人が出てきたりとか、定額制音楽配信サービスでもそういうアーティストが出てくるということがすごく大事なことで、それが次の活性化に繋がる。そうしたら僕らも頑張らなくちゃいけないし、アーティストとも一緒に頑張らなくちゃいけないし、配信業者さんともちゃんとやらなくちゃいけない。
小室:
形になる現象が起きないとメディアも取り上げないので。例えば夕方のニュースのプログラムでは、良いハプニングが起きた時に取り上げてもらえたりするのでね。 ちなみにCDでいうと、CDのオリコンチャートが一番最初に出来た時の1位がTM NETWORKだったんですよ。
一同:
おおー!
小室:
CD単独のオリコンチャートの1週目に1位だったんですよね。(当時はレコードで発売される曲も多い中)CDだったら、もしかしたら1位になれるんじゃないかと思って急いで、ベスト盤(「Gift for Fanks」)作ったんですよ。
鈴木:
着うたも最初から全てのアーティストが参加していた訳じゃなくて、GReeeeNだったりとか西野カナさんみたいな、そういった先進的というか若者としてのネイティヴ感のある人が入ってきて活躍されたということもあるので。そういう意味では、自分が想像もつかないような、スクリプションネイティヴのようなアーティストが出てきて、熱狂的に受け入れられるというのが近い未来にあるんじゃないかなと思います。
小野:
各社、初年度の再生1位のようなランキングを発表するとき、そのときの第一回目のチャンスというか、そういうタイミングが来るかもしれない。
小室:
一回目は残りますからね。
小野:
3社同じアーティストだったら「もう大ヒット間違いなし」となるかもしれない。
鈴木:
そこを作るっていうのが、このそれぞれの立場でできる1つのプロジェクトかもしれないですね。
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ジェイ:
良い音楽をずっと聴き続けられる文化が、定額制音楽配信サービスで出来たら良いなと思っていますね。象徴的だなって思ったのが、なでしこジャパンの大儀見優季選手が小室さんにTwitterで、決勝戦の前にglobeの「FACES PLACES」をロッカーで聞いていたというツイートされていたことです。皆で一緒に一体になれるという文脈でglobeを聴いていたということは、ずっといい曲が聴かれるということを象徴しているんじゃないかなと思うんですよね。それで今度、少女サッカーの方達がglobeをどんどん聴き続けていって「みんなでこの曲を聴く」というような形が生まれれば、それも一つの文化だと思いますし。
小室:
その曲が(世代が変わるとともに)変わっちゃうと寂しいんだよね(笑)。 今ちょうどね、なでしこが30歳前後で(「FACES PLACES」をリアルタイムで聴いていた)ギリギリの所じゃないですか。世代が変わると違う曲になる可能性があるので、ドキドキしているんですよね(笑)。
鈴木:
(世代が変わると)試合前にはGReeeeNで気合を入れてますみたいな感じになっちゃうかもしれないですもんね(笑)。ただ、まさに定額制音楽配信サービスで世代を超えるということもあるかもしれないですね。
小室:
超えてほしいですね。できることなら(「FACES PLACES」が)「We Will Rock You」とか、「We Are the Champion」「We'll Never Walk Alone」(のような存在)になってほしいですよね。
鈴木:
じゃあ早速「試合前に聴く」というプレイリストを作って頂いて。そこで多様な年代の曲を入れて、キックオフ前に聴くような。
小室:
そうだね、是非お願いします(笑)。

【モデレーター(SENSORS クリエイティブディレクター)海野大輔より総括】
同時多発で動き出した「定額制音楽配信サービス」。まさしく2015年は「サブスクリプション元年」として記憶される年となるだろう。音楽文化経済圏とネット文化経済圏の幸せな邂逅が結実したのだ。衰退ぶりが報道される一方で、日本の音楽産業はまだ世界第2位の市場規模を持っている。その潜在能力は底知れない奥行きを持っているはずで、今年の動きはその力を大きく揺さぶるものになるだろう。
今回のディスカッションでは、アーティスト、レコードレーベル、配信サービス、音楽業界を俯瞰するブロガー/ジャーナリストが、それぞれの立場で、いかに日本の音楽文化の奥行きを掘り下げていくのか、真剣に模索していることが明らかになった。次のブレイクスルーは、こうした立場の差異を越境する血の通った協業がキッカケとなって、新しいケミストリーが発生することなのかもしれない。

構成:市來孝人

SENSORS WEBエディター
PR会社勤務の後独立。福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経て、メディアプランナー・プロデューサーとして活動中。


写真:延原優樹

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