現実に溶け込むSFの世界―攻殻機動隊が描く未来予想図

2015.06.29 19:00

今や、SFファンだけでなく幅広い人々から愛されるSFアニメ「攻殻機動隊」。電脳化技術やサイボーグ化技術が発展したパラレルワールドにおける2029年。その世界観は数多くのテクノロジー研究者達をも虜にしている。その攻殻機動隊の25周年を記念して立ち上がったのが「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」だ。そのプロジェクトのメディア向け説明会が、2015年6月12日に開催された。今回はその中で行われた、クリエイターと研究者が行なう公開ブレストに注目した。

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登壇者と作中のキャラクター、バトゥと草薙素子


人工知能やロボットの技術が発達している現在、研究者や技術者の間では攻殻機動隊の世界が実際に実現する日はそう遠くないのではと言われている。今回の公開ブレストは、攻殻機動隊の作品と現実世界との間にあるギャップについてクリエイターと研究者が意見を出しあうというものだ。公開ブレストは、「義体・ロボット」「電脳・人工知能」「スマートシティ」の3分野で進められた。

登壇者は以下のとおり。
◯神山健治(かみやまけんじ):映画監督。「攻殻機動隊S.A.C.」シリーズの監督・脚本。
◯冲方丁(うぶかたとう):小説家。「攻殻機動隊ARISE」「攻殻機動隊 新劇場版」の脚本などを手がける。
◯稲見昌彦(いなみまさひこ):慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。専門はバーチャルリアリティなど。
◯南澤孝太(みなみざわこうた):慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授。専門はハブティクスなど。

■義体・ロボット

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神山:
10年以上前に作られた攻殻機動隊スタンダードコンプレックスでは、当時の2000年初頭と30年後の未来でどういった差異が生まれるのかを表現するために、現実と未来のテクノロジーをなるべく接近させて描きました。

攻殻機動隊の根幹にある「義体」と「ロボット」の定義ですが、義体は自分の身体と物理的に繋がった状態で自分の身体拡張をおこすものという考え方です。それ対してロボットは、自分の身体から離れた分身のようなものを作って遠隔操作するもの、もしくはAI(人工知能)が搭載されていることによって自立的に動くものをロボット、という風に定義付けています。
稲見:
分類の仕方は非常に明確ですね。ただし義体とロボット、どちらの研究開発が難しいかというのは一概には言えません。身体拡張はいかに自分の身体が直感的に操作できるのかという課題があり、身体の代理になると人と同じような形や機能で動くようなものを開発するのはやはり難しいです。
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--攻殻機動隊の作中では、人間ならではの恋愛模様を義体が行っている様子も描かれています。

冲方:
作品を作る上でやらなければいけないことが3つありました。1つは、戦争以外の動機でサイボーグが普及する理由を作らなければいけないこと。2つ目は『不気味の谷』をいかにして越えるか。人間・ロボット・義体との間における違和感の描き方が難しく、それがない雰囲気にしなければいけませんでした。3つ目は、身体の拡張を体の外見だけじゃなくて内側、臓器にも目を向けること、永遠の若さを保ち続けるための全身義体というものを表現したかったんです。
南澤:
例えば食物を食べるという行為、それ自体は義体にとって特に何の役にも立たないと思うんです。ではなぜ食べるのか、それは自分以外の社会・人間と溶け込むために必要なものだからです。義体は自分自身が人間であり、生きがいを持って生きているという確信を得るために、食物を食べたり、恋愛をしたり、結婚したりすると思うんです。医学の発達などで今後寿命が伸びていくであろう世界において、長く生きていく意義をどうやって見出すのかって考えると、食べたり恋愛したりっていう要素が必要になってくるのでしょう。つまり、恋愛や食事は人と繋がるための行為なんですよね。

■電脳・人工知能

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主人公・草薙素子の電脳世界イメージ

稲見:
これらに関しては、まだ不気味の谷は越えられません。可能性があるとすれば、例えばテレビなど解像度を上げたり、ロボットの見た目をより人間に近づけたりするよりも、コミュニケーションによってリアリティを高めることでしょう。

理化学研究所の藤井先生が研究する、現在と過去を行ったり来たりできるシステム・サボスティテューショナルリアリティというものがあります。それは、頭にヘッドディスプレイをかぶり、過去と今の全方向映像とを交互に切り替えながら映していくという仕組みになっています。もちろん最初ははっきりと違いが分かるんですが、過去に撮影した人と今目の前にいる人が交代交代で話しかけてくる内に、どちらが現実なのか分からなくなってきます。この電脳や人工知能の世界は、もしかすると現実の世界と電脳の世界を途中で切り替えたりしながらその中で会話がなされていると、いつの間にかどっちか分からなくなるかもしれない、というのが背景にあるんです。

現実とそうでないものを上手く混ぜてあげること、その中でコミュニケーションを取り続けることによって、実質的に不気味の谷をスキップすることが出来るかもしれないですね。つまり、人間と電脳・人工知能とを媒介する物としてコミュニケーションを持ってくることによって、今まで感じていた違和感が現実世界に溶け込んでくるイメージです。ただし、目の前にいる人が本当にいる人なのかも分からなくなってしまう可能性もあるので、実はちょっと危険かもしれない方法でもあります。
サボスティテューショナルリアリティの実験

■スマートシティ

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神山:
自動車に関しては、「攻殻機動隊ARIZE」ではまだガソリン車が残っているだろうということを想定して意図的に描いていましたが、想像よりはるかに速い速度で進化が始まっていますね。いま自動車はデザインも含め、所有する価値観で作られていると思うんですけど、もし自動運転技術が進んでいくと所有する必要性が無くなるかもしれません。そうなると、駐車場などの空間の使い方も含めて街のデザインも少しずつ変わってくるのではないでしょうか。

ドローンはいますごく話題になっていますよね。僕らのようなSFを作っている人間からすると、ドローンを始めとした無人偵察機や戦闘機はSFの中でどんどん描かれていましたが、まさかそれが民間のドローンという形でこれだけあっという間に普及するっていうのは驚きでした。
冲方:
でもドローンを作中に出すと、何か古くて何が新しいのか分からなくなってしまう。SF的には、むしろあれは古いガジェットだったんですよ。

--エネルギーはどうなっていくと思いますか?

神山:
エネルギーは、実は逃げたいテーマなんです。(笑)
稲見:
未来における都市というのは我々が想像しているような見た目が格好いい都市ではなくて、情報と情報を処理するエネルギー源が一体化した、物理的に考える未来都市とは全然違った姿になっているかも知れません。
神山:
その時にエネルギーはどうなっていくのでしょう。
南澤:
先日、テスラが家庭用の充電池を発売しました。そのように、ある一箇所が巨大なシステムを持つのではなく、それぞれのところで分散的に小さく賄っていくエネルギーの形が増えていき、それがネットワークに繋がるっていうとことがこれからのトレンドになっていくのではないかと思います。
神山:
そうなった時に、そのエネルギーを全人類が平等に使用できるかというのが、次に人間に課せられた課題になるのでしょうね。
冲方:
あと作中で議論されたのは、なぜ義体は重いのかということ。多分バッテリーではないかと。そうなると、エレベーターはサイボーグ用じゃないとのぼれないではないかとか、詳細にやっていけばやるほど映画的には煩わしくなっていくのでかなり割愛しましたが、裏テーマとして。
神山:
スマホですら1日1回は充電しないとダメですから、義体はどのくらいもつのかっていうのはあるね。じつは食べているものからエネルギーを得ているんだ、とか色々考えますよね。
稲見:
なかなかそう簡単には成功しないというのが正直な所。もしやるのなら、今だったらワイヤレス給電みたいな感じで、エレベーターは充電専用かもしれないし、レーザーや収束したマイクロ波で充電する充電用のドローンとかもあるかも知れないですね。

まるでアニメ中のフィクションに終始しているようだが、紛れも無くこれは現実世界に起こりうる可能性を秘めた話である。2045年にシンギュラリティを迎えると言われている現在において、攻殻機動隊の世界が着々と現実に近づいているのはほぼ間違いないという。攻殻機動隊の世界観は、我々人間の生活をどのように豊かにするのだろうか。

もしかすると、人間と義体・サイボーグは不気味の谷を完全に越えて、存在が互いに溶け込み、「人間」という概念が無くなる未来がくるかもしれない。それが恐ろしいことなのか良いことなのかはまだ分からないが、そんな妄想を膨らませながら、これから出てくる新しいテクノロジーの可能性に心を踊らせ続けたいと思う。


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取材・文:石原龍太郎(いしはら りゅうたろう)


ライター・編集者。 テクノロジー・ファッション・グルメを中心に、雑誌やウェブにて執筆。本と音楽とインターネットが好き。@RtIs09

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