コーディネートから流行予測まで?人工知能でファッションを研究 シモセラ・エドガー

2016.05.30 15:30

人工知能が小説を書いたり、絵画を描いたりと、近年ますます進化する人工知能。17世紀の画家、レンブラントの新作を人工知能が機械学習によって生み出したことも記憶に新しい。 早稲田大学で研究院助教を務める、シモセラ・エドガー氏が取り組んだのは人工知能による「ファッション性の研究」だ。人工知能がファッションに及ぼす可能性とは?そして海外から見た日本の人工知能研究、STEM人材についてお話を伺った。

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シモセラ・エドガー氏。アメリカ生まれ。2011年BarcelonaTech 工科大学卒業。2015年 Francesc Moreno-Noguer、Carme Torrasの下、Ph.D.を習得。現在、早稲田大学大学院基幹理工学研究科において研究院助教として機械学習 の研究に従事。

■人工知能によりファッションの最適な提案を

--エドガー先生が行われた「ファッション性の研究」とはどのような内容なのでしょうか?

エドガー:
2015年に「ファッションにおける神経美学」という論文を発表しました。この中で目指したのはファッション性の知覚をモデル化することです。つまりユーザー自身の写真を人工知能に評価させ、ファッション性の高い・低いを、スコアとして表示できます。そしてどのアイテムを変更すればファッション性が高くなるかを推定することも可能にしました。
ファッション性を推定できるようになれば、世界各国のファッションの特性を浮かび上がらせることもできるようになります。
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Neuroaesthetics in Fashion: Modeling the Perception of Fashionability Edgar Simo-Serra, Sanja Fidler, Francesc Moreno-Noguer, Raquel Urtasun Conference in Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), 2015

ファッションのトレンドを学習した人工知能は、最適なコーディネートの組み合わせも提案してくれる。

--「ファッション性」とは曖昧になりがちなものだと感じるのですが、どういった要素から構成されているのでしょうか?

エドガー:
確かに真の意味でのファッション性というものはなかなか定義できません。そこで、利用したのが既存のファッション投稿サイトです。欧米では有名なchictopia.comというファッション投稿サイト上の約14万件のコーディネートを人工知能に学習させました。学習させる際、ファッション性の評価基準をサイト上のいいね!やコメントなどのコンバージョン数を一つの指針とすることでファッション性の判別を可能にしました。

--この研究では人工知能がWebサイトのコンバージョンからファッション性を評価しています。実世界の人間も、SNSなどから何らかのファッションの影響を受けていると考えられますか?

エドガー:
人工知能と人間が全く同じ反応をするとは一概には言えないのですが、おそらくは関係があると感じております。
現行の研究ではインフルエンサーなど影響力のある方のコーディネートのファッション性が高く評価する傾向が出るなど、実世界にも当てはまる結果が出ています。一般ユーザーの不確定な情報を人工知能に学習させており、いわば"ノイズ"を多く含んでしまうため、人工知能にファッションの特徴抽出を可能にする論文を発表しました。現在は、顔の表情や、服のしわ、天候も認識し、そう言ったノイズを取り除いてファッション性を識別できるようになっています。
その結果、経済発展や収入レベル、GDPなどとファッション性は相関関係を持っており、年齢は若く、黒い服装がファッション性を押し上げるという結果が産出されています。実世界でも当てはまると考え、精度が向上しつつあります。
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Neuroaesthetics in Fashion: Modeling the Perception of Fashionability Edgar Simo-Serra, Sanja Fidler, Francesc Moreno-Noguer, Raquel Urtasun Conference in Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), 2015

ファッション性はGDPなど経済指標と相関関係にあり、高ければ高いほどファッション性も高くなる傾向にあるようだ。

■流行の想定も可能?人工知能の可能性を拡張する研究

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--流行というものも今後、人工知能の機械学習で予測できるようになるのでしょうか?

エドガー:
現段階ではできませんが、可能性は十分にあると考えています。今人工知能が学習しているファッションのデータというものが過去5年間のものなので、現段階では予測するというのは難しいと思います。例えば過去100年間のファッションのデータをすべて人工知能に学習させれば、予測することも可能になるかと思いますが、当時はSNSのいいね!など、単純な指標があまりないので難しいなと感じます。
この研究の最後にトレンドの項目もあるのですが、やはりデータの総量が圧倒的に少ないため、正確な数値は産出されませんでした。

■海外出身の研究者から見た、日本の人工知能研究 今後の課題とは?

--現在の「ファッション性」の研究を行うようになった過程を教えてください。

エドガー:
研究員としてトロント大学在籍時、他の研究者が衣服画像の領域分割をやっており、その研究に感化されたのがきっかけです。
自分の中で何かしら面白い、独自な研究をしようと思い、こうしたファッション性の研究をすることにしました。日本の伝統文化やサブカルチャーが好きで、今でも趣味が陶芸なんです。ちょうど今在籍しているところにご縁があり来日しました。

--海外と比較して日本の人工知能研究はどのように映っていますか?

エドガー:
人口知能研究は世界中で大変なことになっています。爆発的に盛り上がっており、学会も毎年大きくなっています。
問題は技術的には20年前からあまり変わっていないことです。パソコンの性能が上がり、データセットの容量が上がったため、現在の機械学習のブレークスルーは研究方法というより、データセットによるものがほとんどです。
しかし、日本は結構遅れていますね。原因の一つとして考えられるのは、日本の場合博士号をとった瞬間に企業に移ってしまうのでなかなか優秀な研究者が残らない問題があります。
海外ではそれでも人工知能研究に莫大なデータセットを持つ、多くの企業が多額の援助をしていますが、日本では制度が未開拓です。

--日本の理系、STEM人材についてはどう映られましたか?

エドガー:
日本人は論理が好きで、非常に強いという印象を受けます。しかし、本当の問題に使うには遅れています。世の中複雑な事象を解決するには理論だけではない部分もあります。
また、海外へ飛び出す人材が少ないのも問題です。欧米の有名大学では博士課程に在籍する研究者の卵はほとんど中国人とインド人なんです。そういった部分はこれから改革の余地があるなと感じています。
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--今後の研究が、民間でサービス化される可能性はありますか?

エドガー:
多くの人に喜んでもらえるようなサービスにするためにはまだまだデータ量や研究のブラッシュアップが足りませんので、改善していきたいと考えています。今後精度が上がればファッションの改善点など、毎朝自分の予定に合わせて最適なファッションを提案してくれるようなサービスも考えられますし、このモデルも常に更新できるので、今何がトレンドなのか敏感に反応し、最適な提案が可能です。また面接を受けに行けば、どう言った服装が適しているのか、場所によって六本木ではどの格好が適しているのかなど、TPOに合わせた提案もできます。そのためにもより精度の高い研究に従事していきたいです。

Googleの子会社、Deep Blueが出した『α碁』が囲碁の世界チャンピオン「イ・セドル」に勝利するという歴史的大事件が巷を賑わせて記憶に新しい。なぜ勝てたのか。簡潔に言うと、人工知能に多くの情報を"学習"させることで詳しく、強くしたということだった。
囲碁という勝ち負けがはっきりとしたゲームと違い、ファッションには勝ち負けがない。しかし前述の研究は我々がファッションを学ぶ要領に非常に似通っている。今回の研究は今後ファッションを生み出すという文脈に人工知能が介入する可能性を秘めているということを予感させた。それまで人間の効率化や生産性の向上のための道具だった機械が、流行を生み出す側につくこともあるかもしれない。

文:岡本孔佑

フリーライター。慶應義塾大学文学部4年在籍。編集者を志し、複数の媒体で執筆、編集を経験。「ファッション」、「テクノロジー」にアンテナを張っています。
Facebook:www.facebook.com/kohsuke.okamot

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