「タダでもいらないと言われた会社だった」
ビジネスモデルなしでユーザーを味方につけたイラストSNS【pixiv】。その成立ちを副社長・永田寛哲に直接聞いてみた!

2015.03.04 17:00

【pixiv】といえばご存知の方も多い、イラストの投稿に特化したSNSだ。その規模はユーザー数1,000万人を超え、留まることを知らない。だが、そんな【pixiv】がどのようにサービスに対しどのように考え、現在の形になってきたのか知っている人は少ないだろう。【pixiv】がいかにどのようにして立ち上がり、今までどんな道を歩んできたのか、副社長である永田寛哲氏に直接話を聞くことにした。


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■「本来の意味での仕事ができていない」と感じ、今の会社に一人飛び込んだ。


永田:出版やコンテンツ制作に興味があってウェブ業界に入りました。自分で会社を作って、クライアントからお仕事をもらって大きな仕事を与えてもらえて楽しかったという想いはありましたが、その当時心にあったのは本来の意味での仕事ができていないという事でした。


永田:例えばなにかの企画が失敗に終わってしまった時に、僕に決定権があれば失敗しなかったのにと思う事が多かった。でも末端にいた僕には意見をする事も、働きかけることも出来なかった。それが本当に悔しくて。僕は100%自分が責任をもって、コントロールできる仕事がしたいって強く思いましたね。そして、そういった想いを持っていた人は僕の他にもいて。
それが片桐(pixiv株式会社 代表取締役社長 片桐孝憲)でした。


■自分たちの未来が見えなかった。だから、一緒にやることになった。


永田:ある日、片桐が近くに会社を開いたというのをmixiで知ったんです。それで連絡を取り合って再会する事になりました。当時の片桐の会社はホームページ制作やシステム開発などの受注をしている会社でした。ですから、僕とは作っているものは違いますがクライアントから依頼を受けて、という境遇は似ていたんです。だから再会した時に「僕たちには未来が無いね」って話したのを覚えています。


永田:未来がないなら作ろうと思って。片桐の会社だったらシステムやプログラミングなどのいわゆるサービスの外側を作る事ができます。僕の会社だったらサービスの中身であるコンテンツを制作する事ができる。二人で一緒にやれば、100%自分たちで責任を持ってコントロールする仕事を作れると思って。それで僕は単身、片桐の会社に飛び込みました。


■今とは違う昔のウェブ業界で生まれたpixiv


永田と片桐がタッグを組み始めた2006年のIT業界は、2015年現在の状況とは大きく違っていた。当時は「mixi」が台頭していた時代。twitter や facebook はまだ日本上陸に至っていなかった。ニコニコ動画がこの年末にローンチ、YouTube も日本語対応していない時期。ユーザーもサービス提供者も、今では当たり前のソーシャルコミュニケーションや動画といったリッチコンテンツが共有される状況を知らなかった。その中での手探りで【pixiv】は産声を上げる。


永田:2006年から一緒にやりはじめてからは色々なサービスを立ち上げました。当時は、今みたいにワンプロダクトで会社を立ち上げるって感じではなくて、受託の仕事を受けながら色々サービスを回していくというのが主流でした。だからいきなりイラストの投稿サイトを立ち上げよう!という話ではなかったんですよね。


永田: 【pixivの始まりはフリーのエンジニアだった上谷(pixiv創設者・上谷隆宏)が持っていたイラストへの想いなんですよ。彼の好きという気持ちで動いたんです。趣味に近い形でしたので、僕たちの会社は上谷だけでは手の回らないサーバー周りなどを手伝っていました。当時の僕たちは色々な可能性を模索していた時で、これも経験かなという感じで。まさかここまでのサービスになるとは想像していませんでした。


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■「好き」という気持ちから始まったpixivに、ユーザーの反応は予想以上だった。

だが、ビジネスモデルはなかった。


永田:pixivはリリースするとしてすぐに話題になって、たちまち僕たちの手では負えなくなってしまいました。それで、他社に運営してもらおうとしたのですが、ほとんど趣味でやり始めたようなサービスだったのでビジネスモデルもなくて、誰も受け取ろうとしてくれませんでした。当時だったらタダで譲っていたと思います(笑)。


永田:結果としては自分たちで運営する事になりました。pixivを会社にして、フリーのエンジニアだった上谷も正社員にして。しかし、僕も片桐も普通の会社に勤めた経験がない。だからビジネスモデルを考えるのはあまり得意ではありません。でも、pixivとしてのコンセプトやブランディングのモデルは当時からしっかりと考えていました。そこは今でも絶対にブレないようにしています。


誰もが予想していなかったユーザーからの大きなリアクション。「好き」という気持ちが多くの人を同調させpixivは世の中に生まれた。だが、ビジネスモデルがないままにサービスを続ける事はできない。だがそれを救ってくれたのもユーザーだった。常にpixivがユーザーに寄り添ったことにより、ユーザーもpixivに寄り添ってくれたのだ。


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1. 人気をお金に変える事は出来るが、お金を人気に変える事は出来ない。


永田:ビジネスモデルがないサービスを運営するということってきっと驚かれる方も多いと思います。普通は会社を作ったらとにかく大きくしようと考えますから。そしてそれが絶対的に正しい事と思われている。でも、僕はそうじゃないんです。


永田:法人は個人の延長線上にあると考えています。個人は人格も性格も自由です。それと同じで、法人になったからといって儲けることや大きくなる事だけを考える必要はありません。だから、pixivは上場もしないし出資も受けませんでした。


永田:
pixivとしては第一にユーザーを第一に考えて、ユーザーにとって一番良い形でいたいと思っています。マネタイズやビジネスモデルを考えずにサービスを動かす事に対して不安に感じる人もきっと多いと思います。でも、実際にお金儲けを一番に考えなかった事でpixivには人が集まってくれました。pixivを立ち上げた時「投稿されているイラストの権利をすべて持っているのか」「イラストを勝手に利用してグッズにして売れば良いのに」と言われた事があります。そうすることでお金は儲けられる可能性はありますが、そんなことしたらユーザーは一人も投稿してくれません。そんなサービスは長く続かないんです。


永田:
片桐ともよく話している事ですが、人気をお金に変える事は出来ますが、お金を人気に変える事は出来ません。まずはユーザーに来てもらう事が大切なんです。ビジネスモデルがないからこそ、ユーザーに寄り添ってきました。安心して投稿できる事、僕がユーザーだったら【pixiv】にってこうあってほしいと思う事、それが【pixiv】をここまで成長させてくれました。


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2. 【pixiv】の『ユーザー至上主義』は、「ネット上から良い事があったという経験を得て欲しい」という思い。


pixivでは現在『公式企画』というコンテストを行っている。

コンテストには出版社や映画の配給会社などのコラボレーションが多く、ここからプロのイラストレーターへの出発をするユーザーも少なくない。受賞すると賞金がもらえる他、展示イベントや販売物への使用など、これからプロを目指すユーザーにとって抜群のプロモーションの場になっている。


永田:最終的にユーザーがイラストのことなら100%pixivを使うという風になってほしいです。それがpixivのコンセプトです。その為には気軽さを大事にするし、ユーザーに対する負荷を極力軽減します。あとは、ユーザーにとって良い事がpixivを通して起こるという風にしたいですね。


永田:ユーザーにとっての良い事を起こしたいという気持ちから、今pixivでは出版社などと協力して色々なコンテスト企画を開催しています。コンテストはなんでもいいという訳ではなくて、受賞した後や応募した後にちゃんとユーザーにとってプラスになるかという事をしっかり審査してから企画を作っています。僕は元々mixiがなければ今の場所に立っていませんし、ネットから良い事が起こった経験を持っているんです。だから少しでも多くの人にその経験を味わってほしいと思っています。それが僕の力の源ですね。


現在のpixivはシンプルなイラスト投稿サイトという形から、次世代のプロ発掘の場に変わってきている。それはpixivのポリシーでもある『ユーザー至上主義』があったからこそできた事なのかも知れない。サービス自体がユーザーを一番に考える事で、クリエイティブに対しての弊害をすべて解消している。こうした積み重ねがユーザーにとっての安心感になっているのだろう。pixivを舞台に新たなクリエイターが今後たくさん生まれてくる予感が永田さんの話から感じる事ができた。


(取材:おいかわのりこ)

おいかわのりこ: 2011年より、しんどうこうすけ氏とROISSY(ロワシー)というユニットを組みクリエイターとして活動中。2014年は堀江貴文氏のアプリ「TERIYAKI」の監修や、12月にボードゲーム「どうぶつサッカー」を幻冬舎エデュケーションより発売。


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