スカウティングの進化を逆手にとり直前に背番号変更?〜変化する「スポーツとテクノロジー」の関係

2016.03.16 18:00

2月26日、虎ノ門ヒルズにて開催された「SENSORS IGNITION」内トークセッション「テクノロジーが切り開くスポーツの未来」。「スポーツの世界に今、すごいことが起こっているんです。」という言葉からスタートした本セッション。スポーツとテクノロジーの関係について、官庁・アナリスト・アスリートといった様々な立場の言葉から、その進化の今を探る。

当セッションの登壇者は、由良英雄氏 (スポーツ庁 参事官)、尾関亮一氏(データスタジアム株式会社)、杉山祥子氏 (元女子バレーボール日本代表)、モデレーターは佐野徹(日本テレビ放送網株式会社 スポーツ局スポーツ事業推進部担当部次長)。

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左から佐野徹、由良英雄氏、杉山祥子氏、尾関亮一氏

■元YouTubeの最高財務責任者が、NFLのチームへ

佐野:
スポーツの世界は今、非常に短いスパンでテクノロジー化、IT化が進んでいます。そして、スポーツは2020年の東京オリンピック開催を含め、ビックビジネスの可能性をはらんでいます。
例えば今テクノロジーの最先端を行くシリコンバレーではスポーツの視点から大変革が起きているんです。YouTubeの最高財務責任者(CFO)を務めていたギデオン・ユー氏。彼は2007年、赤字続きだったYouTubeをGoogleに約1.65billion(約2000億円)で売却したことで一躍有名になり、その後Sequoia Capitalパートナー、FacebookのCFOを歴任した方です。今やIT業界では知らない人がいない存在の彼が近年、驚くべき行動をとりました。アメリカンフットボール・NFLのプロチームSan Francisco 49ersに転職したんです。そこで新スタジアムの建設統括になった彼はさらに驚くべき変革をスタジアムにもたらしました。彼が世に出したリーバイススタジアム、彼の「ハードではなくソフト、OSを作る」という持論に基づいて作られており、新しいイノベーションが詰まっているんです。このリーバイススタジアムでつい先月第50回スーパーボウルが開催されましたが、実は私は中継のプロデューサーとして現地入りし、数日かけてスィートルームから全客席、フィールドからスタジアム専用アプリまで全てを体感して参りました。まさに「OSだな」と実感しました。
このユー氏の様にNFLを筆頭としたアメリカのスポーツ産業には、IT業界で成功した人間の頭脳や、巨額の資金が近年益々投入されており、ビッグビジネスとして拡大を続けているのです。
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シリコンバレーにあるリーバイススタジアム

佐野 :
対して、日本のスポーツ産業はまだまだ小さいんです。スポーツ産業のGDPはアメリカが約48.9兆円に対して日本が約5.5兆円。圧倒的に差をつけられているんですが、むしろ伸び代があるなと感じます。
そこで今日は、現状分析やテクノロジーを使って選手同士の戦い方はどうなるのか?スポーツの観戦者側の変化はどうなるのか?をお話ししていただければと思います。ではスポーツ庁から見た現状の分析について由良さん、お願いいたします。
由良:
スポーツ庁参事官の由良と申します。スポーツ庁は文部科学省の中にありまして、古いスポーツの世界を変えるには何が必要かということ日夜考えております。
まず、テクノロジーに非常に相関関係の強い部分ですと、スポーツ庁ではテクノロジーを用いて国際競技力の向上、すなわちテクノロジーでいかにスポーツを強くするかということをやっています。東京都北区の西が丘にありますナショナルオリンピックセンターでは様々な技術を使ってアスリートの強化を手伝っているチームがあります。そのチームの成果は今年開催されるリオオリンピック後発表できると思いますし、そこで使っていた様々な技術や仕組みを民間のビジネスにも応用できるんじゃないかと考えております。
もう一つは、スポーツで稼いでその収益をスポーツに還元する、スポーツで稼ぎましょうということを国として推し進めていきたいと考えております。現在、日本のスポーツ市場は約5.5兆円と試算されておりまして、目標としてこれを3倍にしたいと思っております。
スポーツ庁の長官である鈴木大地は世界各地を視察させていただいているのですが、スタンフォード大学を視察した際、スポーツビジネス分野の研究の盛んさに驚いたそうです。
スポーツがベンチャー企業やアカデミズムの方々など今までとは違ったジャンルの方々から注目していただいている状況の中で、アスリートやスポーツ団体の方も自分たちから変わっていかないといけないなと思っております。以前は両者がうまく繋がる機会がなかったように思い、私も今後は人をつなげるということもやっていければなと考えております。
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佐野:
ありがとうございました。スポーツ産業を盛り上げるというミッションを持った省庁の方から「人をつなぎたい」という旨が聞けて非常に興味深いお話でした。具体的にそこでどのような人々が集まっていくのか、例えばVRなども十分スポーツ産業でして、様々な領域の垣根を超えて、シームレスな関係構築が求められているように思います。
では続いて、次は「テクノロジーでスポーツを変える」についてお話していきます。スポーツはルールの下に冷酷までに勝敗が決するもので、じゃあどの練習をしたら勝てるのか、練習したら勝てるとも限らない、そこで非常に悩みます。そういった側面は非常に経営にもリンク部分だと感じております。そこでデータで勝つ確率を高めようという動きがあります。データでスポーツはどう変わるのか?データスタジアムの尾関さんにお願いいたします。
尾関:
データスタジアム株式会社の尾関です。よろしくお願いいたします。弊社のサービスで皆さんに馴染み深いところですと、プロ野球の「一球速報」です。ご利用の野球好きの方も多いかと思います。もともと弊社でとっていたデータというものが、ボールに関するプレーのデータです。一球ごとのコースだとか球種、球速を記録していき、打った時にはどこに飛んだのか・ゴロなのか・フライなのか...そういったデータを一試合当たり約3000データ、1シーズンで約25万球分のデータを記録しておりました。
しかしこれが最近、"究極のデータ"ではなくなってきているんです。「トラッキングシステム」と呼ばれる、画像認識の技術を利用して、バッテリー間のボールの軌道を複数のカメラの画像を合成して立体的にデータを入手することが可能なシステムが登場しました。すでにメジャーリーグでは導入されておりまして、日本では昨年の日本シリーズとクライマックスシリーズでは導入されました。そのデータをメジャーリーグではどのように活用しているかと言いますと、それを元に、変化球の変化量まで算出できますので、投手の今日の調子の良し悪しや、リリースポイントまで取れるようにもなっており、それを現場では活用しています。
また、違った視点では審判の判断精度の向上にも一躍買っているようです。しかし、これをどう現場で活かすだとか、どうテレビの映像に乗せたら面白いのかというのはまだまだこれからですので、広がりつつあるデータの領域をどう料理していくのかが今後の課題だと認識しております。
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佐野:
ありがとうございました。尾関さんがお話しされたようにスポーツとデータの世界は近年より近づきつつあります。では続いて杉山さんにお話を伺いたいのですが、データがスポーツを強くしているんです。その最も良い例が、女子バレーボール日本代表チームのデータ活用です。女子バレーボール日本代表の眞鍋政義監督は手元で何か持っておられますよね?
杉山:
ここには選手個人個人の成績表がありまして、縦軸は選手個人、横軸は、アタック、サーブレシーブ、サーブ、ブロック、スパイクレシーブ、など様々なプレーの成績を定量的に評価しています。アタックの中でも細かく数値を割り出されており、これを見るだけで、自分の課題が一目瞭然でわかります。
佐野:
眞鍋監督はこのデータを片手に何かしら戦略の意思決定を行われていると思うのですが、このデータをどのように戦略に落とし込んでおられるのですか?
杉山:
注目するのはアタックの決定率と効果率という項目があるのですが、決定率は何本打って何本決まったかという数値ですが、効果率は何本打って何本決まって、何本ミスしたかというところが加わる数値です。例えば、これがマイナスの値を示すと、コートに立っているだけで、チームにとってはマイナスであるということになり、交代の一つの指標になります。
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佐野:
非常に恐ろしい数値ですね。これをリアルタイムに表示しているんですよね?
杉山:
そうです。他には各チームの選手個人個人のスパイクの細かなデータを取っています。これをインプットし、事前にレシーブに入るコースやブロックに入るコースまで話し合って、戦略を練っていきます。
様々なスポーツの中でもバレーボールは世界中でデータ導入が進んでおり、コート外でのデータに関する戦いもあります。例えば、相手チームがすべてのデータを把握しているというのを逆手にとって2012年のロンドンオリンピックではオリンピックの直前に選手の背番号を変えました。データを撹乱するためなのですが、それがチームの銅メダル獲得に大きく貢献しました。
佐野:
バレーボールには物凄くIT化が進んでいますね。まるで選手、監督の次にアナリストという第三のプレーヤーがいるイメージです。
杉山:
はい。今やバレーボールというスポーツはアナリストの分析が大変重要になってきておりますので、データがないというのは考えられなくなってきています。
佐野:
ありがとうございます。どうやら1プレー1プレーが止まり、プレー間のインターバルも分析に回せるという点で非常にバレーボールはデータ導入に向いているスポーツのようです。来年のグランドチャンピオンズバレーでも違った見方でバレーボールを楽しめるのではないでしょうか?

今はシリコンバレーでも、マサチューセッツ工科大学でスポーツアナリティクスカンファレンスが開催されており、 IT業界の方が積極的にスポーツ業界に迫っている状況があります。日本でもオリンピックを転機に今後ますますこの動きが加速していくように思います。

筆者も含め一般の方にとってはスポーツ=部活=気合という図式が不思議とが浮かび上がる方も多いのではないだろうか?しかしこれからは、スポーツ×テクノロジーの融合が進み、プロスポーツはもちろん部活動の現場へのテクノロジー導入という光景は必然的に起こり得るし、「アナリスト」として入部するような人も出てくるかもしれない。さらにはファンにとっても、スポーツの様々な楽しみ方が広がるはずだ。

取材:岡本孔佑

フリーライター。慶應義塾大学文学部3年在籍。編集者を志し、複数の媒体で執筆、編集を経験。「KEIO CREATORS MAGAZINE」の編集長兼エンジニアも務める。
Facebook:www.facebook.com/kohsuke.okamot

写真:延原優樹

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