映画『サマーウォーズ』から考える、クリエイティブテクノロジーの今とこれから

2017.08.17 15:00

8月18日よる9時〜、日本テレビ「金曜ロードSHOW!」にて細田守監督作品『サマーウォーズ』が放送されます。

映画が公開されてから8年。世界中の人々がアバターとなり集うインターネット上の仮想世界「OZ」をはじめ、作品が呈示した世界観には、2017年の今振り返ると時代を先取りしていた側面が数多くあります。

この度日本テレビで開催されたトークイベントに、同映画を手がけた齋藤優一郎氏(スタジオ地図 プロデューサー/代表取締役)、高橋望(日本テレビ 事業局映画事業部)、同映画に影響を受けたというお二方、"PlayStation VR"のソフト開発に携わる秋山賢成氏(ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア ソフトウェアビジネス部 次長)と天野清之氏(面白法人カヤック クリエイティブ・ディレクター)が登壇、モデレーターは森永真弓氏(博報堂DYメディアパートナーズ)が務めました。

VR、AI、IoTなどのテクノロジーが注目を浴びる今、改めて『サマーウォーズ』からクリエイティブテクノロジーの現在と未来を再考していきます。

■10億人が使う仮想世界「OZ」はなぜ白いのか

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高橋望
(以下、高橋):
映画の予告編を作るにあたり一番議論になったのが、仮想世界「OZ」のことを入れるかどうかでした。結果的には、「OZ」のオの字も言っていません。仮想世界の中で事件が起こる設定自体が、当時のお客さんにはピンと来ないのではないかと思ったからです。なので、観た方はビックリしたのではないでしょうか。田舎で事件が起こって大騒ぎかと思いきや、事件のほとんどはインターネットの中で起こる。
森永真弓
(以下、森永):
たしかに最近SF作家さんとお話をすると、「年々、文章を書くのが楽になっている」とおっしゃいます。昔であれば、「AI(人工知能)」にしてもさりげなく用語説明を盛り込まなければ小説が成り立たなかったそうなんです。今では多くの人が概念を分かっているので、サクサクと物語を進めることができるようになった。
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インターネット上の仮想世界「OZ」

森永:
「OZ」のバーチャル世界が画期的なのは、色が白だということですよね。基本的に「バーチャル」と聞くと、黒を想起することが多いですから。
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(左から)森永真弓氏、齋藤優一郎氏、高橋望

齋藤優一郎
(以下、齋藤):
まず「OZ」は全世界10億人以上がアカウントを持っているという設定でした。当時、マイスペースが約2億人の登録者数と言われていましたから、その5倍以上というのはもの凄い規模感です。細田監督は10億人が使う規模になるためには、子どもや女性、お年寄りまでもが垣根なく参加できるような世界でないと、この数字は実現出来ないと思っていました。それまでのデジタル世界って、どうしても黒や緑色のようなサイバー的な世界が多かったと思うんです。でももっとPOPで明るく敷居がグッと低くならないと、子どもや女性は参加してこないのではないかと思った。そのような考えから、白色の世界が生み出されたんです。
高橋:
「OZ」はすべてCGですか?
齋藤:
健二や夏希、大家族たちのアバターはセルですが、巨大ラブマシーンやそこに吸収されてしまった多くのアバター達、また背景はCGです。全編114分のうち約30分くらいが、仮想世界「OZ」の出来事を描いています。

■クリエイターが絵画的解釈でみる、「OZ」の世界観

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天野清之氏

天野清之
(以下、天野):
「『バケモノの子』展」などに関わらせていただき、様々な資料を見せていただきました。そのときに細田監督が使われているテクニックを知ることになったのですが、その中で好きなものの一つが、主線を変えることでキャラクターの雰囲気や存在感を変えることです。

例えば『サマーウォーズ』における「OZ」では黒い線を朱色にすることで、デジタル的なキャラクターの雰囲気に馴染んでいます。たった一つの線の色を変えるだけかもしれませんが、クリエイティブの観点からは凄さを感じますね。
齋藤:
グラフィカルな世界の中にワンポイントを置くことで、現実とは違う世界が表現されていますよね。
高橋:
なぜなんですか?
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齋藤:
例えば、日本絵画の観点からみると、その理由がみえてくるかもしれません。仏画を思いだして頂ければと思うんですが、仏や神々の輪郭線は朱色であることに気づかれるかと思います。これは神々しく敬うべき対象、そして世界が変わったということを表す記号になっている。これは『サマーウォーズ』に限らずですが、細田監督作品では現実ともう一つの世界を区別するときによく使われる表現で、そのような絵画的な解釈もできると思います。

■世界で初めてiPhoneが登場するエンタメ作品?

森永:
主線の話に加え、天野さんがもう一つ指摘されているのが「標識」の話。まさに2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた共通記号作りは急務だと思います。「OZ」の中に出てくる無数の標識は、どのような考えに基づいてデザインされたんですか?
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グラフィカルデザインは博報堂のクリエイティブ・ディレクター 鈴木克彦氏が務めた

齋藤:
「OZ」には架空のグローバル企業に限らず、さまざまな企業ロゴや標識などが存在します。「OZ」ってインターネットの世界と言うよりはグローバルな世界、だからこそ、世界中の人と共有しあえるユニバーサルな美意識が必要だったんだと思います。
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森永:
自治体が作るパンフレットのような色合いをしていて、現実味をとても感じます。天野さんはどの辺りに良さを感じましたか?
天野:
8年前といえば、iPhoneを持つ人が増加していた時期です。その頃のユーザーインターフェースは、アイコンを丸っぽく少し膨らませたデザインが流行っていました。その後、フラットデザインが流行するのですが、「OZ」はそれを先取りし、すべてフラットで統一されています。現時点から振り返ると、そこに凄さをまず感じますね。
森永:
実は『サマーウォーズ』は、世界のアニメの中で初めてiPhoneが登場するエンタメコンテンツかもしれないですよね?
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iPhone登場シーン

齋藤:
その時代の一番新しいものを積極的に取り入れようという意識が細田監督の中にあったのだと思います。映画に時代を特定するモノは出さないという考え方もあるのですが、iPhoneはあえて象徴的に出した。その時代そのものを引き受けようという気持ちもあったんだと思います。
高橋:
そうでしたね。家族はまだみんなガラケーを使っているのですが、アメリカ帰りの侘助だけがiPhoneを使っていたという設定でしたね。

■テクノロジーをモチーフにした、新たなアクション映画を作りたかった

森永:
もう一つ聞いてみたいのが、親戚一同が勢揃いで「OZ」にアクセスしているシーンについて。今のVRはヘッドマウントディスプレイをかぶって仮想世界を体験するじゃないですか。一方で、あのシーンではニンテンドーDSやガラケーなど、各々がそれぞれのデバイスで「OZ」に接続しています。たしかに10億人が使うことを想定すると、あらゆる端末のインターフェースから使用可能にすることが必要だったのかもしれません。この辺りは、実際どのようなことを考えられていたんですか?
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親戚一同で「OZ」にアクセスしているシーン

齋藤:
そもそも、なぜ細田監督が『サマーウォーズ』を作ることにしたのか?それは前作『時をかける少女』の反動もあると思うのですが、「スカッとしたアクション映画を作りたい」と思ったことが始まりなんです。しかも、ヒーロー然とした特別な存在ではなく、普通の家族や親戚が主人公だったら?そこで、普通の人でも活躍が出来る世界を考えたとき、インターネットの世界というのはあるんじゃないか?既に家族の中にも携帯電話やメールが浸透していましたから、それを使えば普通の人でも特別な存在になれて、しかも現代の日本を舞台にしたアクション映画が出来るんじゃないかと思ったんです。
天野:
後ろにスーパーコンピュータが置かれているこのシチュエーションをよく見ると、マルチデバイスがそれぞれローカルネットワークによって線で繋がれているんです。「OZ」のネットワークがハッキングされることを防ぐため、あえて有線になっているんですね。この辺りの緻密さには、エンジニア視点からも面白かったです。そして液晶の方に見ているのは、おそらく3D空間。この辺りでおそらく何らかのアクション仕掛けを見せようとしているんですかね。
森永:
その意味で"PlayStation VR"のソフト開発に携わっている秋山さんに聞いてみたいのは、VR体験を深くするためにヘッドマウントディスプレイにこだわるのか、利用者を増やすために「OZ」のようなアプローチを取るのか。世界観の設計に関しては、どのようなことを考えられているのでしょうか?
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秋山賢成氏

秋山賢成
(以下、秋山):
身近にあるガラケーやテレビなど色々なものを使い、その世界に干渉する演出は凄いと思いました。没入感を高めるためにヘッドマウントディスプレイをかぶるだけではなく、こうした体験のし方を模索することもアリなのかもしれません。いくらこちらが「すごい体験だよ」と言っても、まだまだヘッドマウントディスプレイをかぶることへの抵抗がある方はいらっしゃいます。その意味でも、「OZ」のようなアプローチから世界にリンクするやり方には可能性があると思いました。
高橋:
ただ、よく考えると辻褄は合っていないんですよ。「OZ」にアクセスするデバイスはほとんど現代に実在するものなのですが、「OZ」そのものは奇形的にオーバーテクノロジーになっている。このギャップが不思議な世界観を表現していますが、この辺りは細田監督の演出力でしょう。

■多様なアバターが融合する世界観が成立できたワケ

森永:
先ほど秋山さんが没入感について触れられていますが、アバターについてもお話を聞いてみたいと思います。
秋山:
ゲームを作る側の人間からすると、多様性に富んだアバターを同時に実在させるのは難しいんですよ。普通は10頭身のキャラクターと2頭身のキャラクターを、同じ世界に混在させると違和感を拭えない。「OZ」の世界観ではそうした融合が成立しています。しかもそれが今の時代にちゃんと通じているのがすごいですよね。
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(米国で使用されたポスタービジュアル)
仮ケンジや女性たちのアバターは岡崎みな氏、キング・カズマは『アフロサムライ』の原作者でもある岡崎能士氏、子供のアバターは浜田勝氏がそれぞれデザインを手がけたという。

森永:
アバターの設計で何か心掛けられたことはありますか?
齋藤:
記憶を辿ってみると、当時mixiで、みんな自分のアイコンを設定していて、それが動いたら、もうそれがアバターなんじゃないかということを細田監督は話していたように思います。しかも「OZ」はグローバルな世界でしょ、グローバルな世界で沢山の人たちと共有できる普遍的な美意識というのは、POPで平面的なものではないかとも思ったんだと思います。
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秋山:
「デジタル」という言葉から想起するのは、0と1で構成される冷たさといいますか、希薄な人間性です。しかし、『サマーウォーズ』の世界観からは、デジタルのアバターを通じて、縁が紡がれているのを感じました。オンラインでコミュニケーションを取る上で、こうした感覚はとても重要なことなのではないでしょうか。
森永:
VRにとって「アバター」はどのような存在でしょうか?
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秋山:
世界観に拠りますね。自分じゃない誰かになる場合には、アバターが絶対的に活きます。例えば有名人になるような疑似体験。分身という意味でのアバターはとても重要です。
齋藤:
現代は日常生活の中にデジタルデバイスが当たり前にある時代です。枕元に携帯やニンテンドーDSが置いてあるのも至極日常的だと思うし、デジタルが人間のリアルな生活に染み出してきている。だからといって家族の有り様がそんなに変わったことはないと思うんですね。その家族のやり取りがネットや携帯になっているのが当たり前だからこそ、そこで起こっている家族の面白さや楽しさなどを細田監督は描きたかったんじゃないかと思います。
高橋:
秋山さんがおっしゃられたように、バーチャル世界の中に入ることは自分じゃない存在になれるのが魅力。しかしながら、『サマーウォーズ』にはそうした世界観は存在しないですよね。
齋藤:
『サマーウォーズ』はデジタルと家族を対比させて、どちらが良いか悪いかを描いているのではなく、どちらも必要なものとして、一緒にあって価値あるものとして描かれていると思う。善悪の二項対立的なものじゃなくて、もっとみんなが心で感じているものを、実感しているものを描いたんじゃないかと思うんです。

■実現の可能性がある近未来としての『サマーウォーズ』の世界

森永:
バーチャル世界やコミュニティを設計する上で、具体的に「OZ」の世界観に影響を受けていると感じている部分はありますか?
秋山:
「マルチプレイのオンラインゲームを作りたい」と相談を受けることがよくあります。設計をするときにまず思い浮かべるのがアバターで、アバターを世界観に合わせてデザインすることがクオリティの高い作品を作る肝。そんな時に誰もが参考例として最初に想起するのが『サマーウォーズ』なんです。

『サマーウォーズ』で描かれている世界は、すでにオーバーテクノロジーではなく、"実現の可能性がある近未来の世界"として現実味を帯びてきているので、クリエイターたちが『サマーウォーズ』の世界観を再現しようとしているのを感じています。
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齋藤:
ここ2年くらいでしょうか?A.Iにロボット、そしてVRといった分野の方々から「何か一緒にやりませんか?」ってスタジオ地図によくお声がけを頂くんです。他にも、そういった分野を特集される社会情報番組のディレクターさんなどからも。そう、そのきっかけの全ては『サマーウォーズ』なんです。公開から8年経って、この2年間で急激にですよ。これってどういったことなのか?本当に面白いなぁって思うんです。
秋山:
『サマーウォーズ』がクリエイターたちのインスピレーションの源になっているのは間違いありません。「OZ」の世界観を踏襲した作品を作りたいと思っている人も少なくないでしょうから、老若男女問わず参加できるマルチプレイゲームを志向する機運があります。

ただ、実現するのは簡単なことではありません。おじいちゃんやおばあちゃんが実際にヘッドマウントディスプレイを頭に装着してゲームをしている姿はなかなかイメージできないですよね。
高橋:
将来は、技術的にヘッドマウントディスプレイを装着せずとも仮想世界でゲームができる日がくるのでしょうか?
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秋山:
先のことにはなりますが、実現できると思います。技術の発達に伴いデバイスが形を変えていくのは間違いないでしょう。
天野:
技術的な壁もありますが、インフラを整えることも難題の一つ。例えば、電子マネーは、日本に普及する随分前から海外では一般的になっていました。そうした背景を鑑みると、新しい技術が普及するスピードが遅いのは日本的でもあるので、デバイスが民主化されるまで時間を要するかもしれません。
高橋:
その点『サマーウォーズ』は面白くて、一見先進的な雰囲気を漂わせながら、描かれている世界そのものは保守的なんです。登場人物の生活や人間関係は至極日本的でしたよね。仮に誰もがインターネットに常時接続するようになり、仮想世界と現実世界をシームレスに移動する時代になれば、家族の在り方も生活様式も変わると思うんです。

つまり、『サマーウォーズ』が描きたかった本質がその矛盾にあるのではないかと。細田監督は"家族の本質的なあり方"を問うているように感じるんです。
森永:
一度作品を観た人も、改めて作品が問いたかった世界観を探ってみると面白そうですね。また、若い世代の方は私たちとはまた違った感性を持っているでしょうから、本日の話を踏まえた上で作品を観るとより楽しめるのではないでしょうか。

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取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。リクルートホールディングスを経て、独立。複数媒体で編集・ライティング、構成、企画、メディアプロデュースなど。『木曜解放区』レギュラー出演中。夢は馬主になることです。

Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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